【2016年3月号】 できるビジネスマンはここが違う!「すぐできる」脳にする10の習慣

部下のやる気は、上司のちょっとした言葉に左右されるものです。
そこで今回はどういう言い方をすれば、
部下は気持ち良く行動できるように変わるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

事務女性に「お茶出し」を頼むとき

 来客時に事務女性にお茶を頼むことは日常茶飯事のことと思います。
 「小林さん、A会議室のお客さんにお茶を出しておいて」なんて言ってないでしょうか。こう言うのは部下を駒のように思っているのかもしれません。上司と部下は上下関係ではなく、役割が違うだけ。そこを勘違いしていると、部下はそのうち、やる気がなくなり、最低限の仕事をこなしていればいいやと、質の低い仕事しかしなくなります。「私だって忙しいのに……」なのです。
 「お茶出し」は雑務ではありません。大事な商談なら、好印象を与える大切な機会にもなり、今でもそうした対応にうるさい人はいるものです。
「小林さん。大切な商談なので、小林さんにお願いしたいんだ」
「小林さん。いつもありがとう。前回の対応が良かったと先方がおっしゃっていたから、小林さんなら安心だ」
 「小林さんだから頼みたいんだ」というのがポイント。そしてお茶出し一つにしてもねぎらいの言葉があれば、本人もやる気を出すこと請け合いです。
 ただここで注意してほしいのは、小林さんばかりに偏らないようにしましょう。私は頼んだ仕事だけでなく、食事や飲み会など、部下ごとの回数を記録しておきました。「なぜ、小林さんばかり」といったジェラシーはチームワークにはよくありません。

 

急ぎの仕事を頼むとき
 急な仕事が入ってきてどうしても部下に頼まなくてはならないこともよくあるでしょう。
 「急ぎの仕事なんだけれど、頼んだぞ」という命令口調的な言い方だと、「なぜ私なんだ?」「空いている人なら誰でもいいのか?」「この仕事を急いでやることにどんな意味があるのだ?」と反発するかもしれません。
 まず模範例を示すとしたら、
「急ぎの仕事が入ってきたんだけれど、時間がないので一緒にやってもらえないかな」
 「一緒にやってほしい」と頼まれると「丸投げ感」「やらされ感」は出ません。逆に上司を「助けている感」が出て、躊躇することなく動いてくれるのではないでしょうか。
 急ぎの理由を明確に伝えるのも大切です。優先してやるにはそれ相当の理由がないと人は動きません。「もし決まれば大きな取引となり、その決定会議が来週にせまっているから」というのであれば、部下も優先して動いてくれるでしょう。「なる早」ではダメです。
 さらにここで重要なのはなぜその人に頼むのか、という理由です。「いいから手伝ってくれ」では、私でなくてもいいのでは? と積極的にはなれません。「君は正確だから」「君の発想力が頼りなんだ」と、相手の自尊心をくすぐるのがポイントです。

 

プロジェクトを特命したいとき

 特定の部下にプロジェクトを任せたいときは、前述の理由のように、なぜ君に任せたいのかを明確に伝える必要があります。
 ただ、プロジェクトとなると仕事としては大きいので、単に自尊心を満たすだけではなく、いろんなアレンジが必要です。いくつかのタイプにわけて考えてみましょう。
■キャリアップ志向の部下
 昇進・昇級を重視するタイプなら、「ポジションが上がる可能性もあり、他の人には任せられない」と言えば、俄然やる気が出てくるはず。
 また、チャレンジ精神旺盛な部下なら「業界初」「難関」といった刺激的な言葉を選んで、まだ誰もやったことのない感を投げかけると元気に取り組んでくれるでしょう。
■リスク回避志向の部下
 安定を求め、リスクを避け、失敗するのは嫌だという部下。このタイプはプロジェクトを受けた後のリスクを考えますので、リスクが小さいことの安心材料を提示してあげましょう。「関連部署への根回しはしてあるから」「以前経験したメンバーにも入ってもらうよう声を掛けてあるから」とか。
 そして、「何かあっても私も責任を負うから」と、部下だけが責任を負うのではないことを伝えて安心感を与えるのです。
■自由志向の部下
 束縛を嫌う部下もいると思います。そういうタイプの場合、自分の裁量でできるかどうかでやる気が変わってきます。ですから、本人が思うように仕事を進められるようにしてあげることがポイントです。ただし、自由にさせてとんでもない方向に行かないよう「これとこのポイントは押さえてくれたら、あとは君の自由な発想でやってほしい」と言えば、張り切ってやってくれることでしょう。

 

成績の悪い部下を変える言葉

 ここまではさまざまな仕事を任せる時のケースを見てきました。次は仕事を任せた後を見てみましょう。
 まずは成績がよくないケースです。
 「やる気あんのか?」「いつになったらよくなるんだ?」はNGです。成績がふるわない時はつい注意してしまいがち。部下も上司に近づきたくありません。成績が悪いときは報連相も途絶えがちなので、部下が相談しやすい雰囲気をつくることが必要です。
 部下と相対したとき、まずは少しでもいいところを探す。つまりなんでもいいので褒めます。
「君はいつも期日どおりに報告書を出すよね」
「君の提案書はわかりやすくていいよ」
「この前、同行したときのことだけど、導入部分は丁寧で良かったよ。後はクロージングだね」
 実はいい部分を探すのって結構大変です。私が指導する研修やセミナーで、部下の欠点をあげてもらうとスラスラ出てくるのですが、長所はというと、なかなか出てきません。部下のことをよく観察して、知ることが大切です。
 そして、前回のことは言わないようにしましょう。成績の悪いのを指摘したりすると、つい前回のことを持ち出して言ってしまいがち。「あのときもそうだった」「この前と同じミスじゃないか。この前は……」と。
 成績が上がらないのは原因があるからで、それを追求することです。「何故」ではなく、「何が」のほうがいいでしょう。「何故」になると自分に原因があると考えてしまい、「何が」だと事柄を追求していくことになるので客観的に原因をつかめます。
上司「お疲れ様。小林君の提案書、わかりやすくてよかったよ」(まずは褒めてリラックスさせる)
部下「ありがとうございます」
上司「さて、来月で今期も終わるけど、数字的には厳しそうだね」(事実を話す)
部下「はい。申し訳ありません」
上司「謝らなくていいんだよ。頑張っているのはわかっているから」(信頼していること、きちんと見ていることを伝える。もしサボっているのならその部下はここで反省するはず)
部下「はい」
上司「営業活動の中で何か困ったことはある?」(成績を責めるのではなく、原因を探ろうとしている)
部下「新規契約がなかなかとれません。訪問はできるようになったのですが、クロージングには至らないんです」
上司「訪問できるようになったんだ。それは良かった。どんなふうに話を進めているのかな? 話の進め方とか提案の仕方を一緒に考えてみようか」(成長を認める)
 まずは褒めて、リラックスさせれば、相談しやすい雰囲気ができます。やみくもに叱っても逆効果。成績の上がらない原因や問題点を見つけて解決を図るのが理想的です。

 

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期日までに仕上げられない部下

 「今朝までに」と頼んでいた仕事が仕上がってない。よくあることだと思います。イライラしてつい「なんで、間に合わないんだ!」とか、「君はいつもだな!この前も遅れたよな。いい加減にしろ!」と怒鳴ってしまう。部下は「すみません」と繰り返すばかり……。その場で否定するのは絶対にNG。必ず遅れた理由があるはずです。
 よく遅れる部下は、往々にしてスタートが悪いようです。月曜日に「今週の金曜日15時には欲しいんだ」と頼んだら、期日の金曜日の朝からやり始めたりします。上司は、任せる仕事がどのくらいの時間で処理できるのか見積もって、時間配分をアドバイスしたり、進捗状況をチェックしたりする必要があるでしょう。
 また、上司が例えば4時間と見積もったけれど、部下はその作成ソフトに慣れてなくて8時間かかることだってあります。さらに別件の仕事を抱えているのかもしれません。
 ではこの場合、どのように話をもっていけばいいのか。好例を紹介しましょう。
部下「まだ、できていません」
上司「遅れている要因は何かな?」(「何」に焦点を置いているので本人への責任追及とは感じさせない)
部下「あれから見積り作成の依頼が2件も入ってきたものですから」
上司「そういうときはすぐに報告してよ。対応を考えるから」(部下の言い分を受け止める)
部下「わかりました。次回からそうします」
上司「では、いつ仕上がりそうかな?まだ他に急ぎの案件はある?」(他に抱えている仕事の確認)
部下「正午までに資料リストの作成が1件あります」
上司「では、明日の正午までで大丈夫かな?この件でわからないこととかあるかな?」(段取りの確認)
部下「はい、大丈夫です。疑問点もありません」

 

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口先ばかりで動かない部下

 意見はいいことを言うけれど、いざ、頼むと尻込みし、引き受けようとしない部下。いわゆる行動が伴わない部下も、やっかいです。「口だけでなく行動してもらわないと困るよ」と言ってしまうと、それは押しつけになり、部下は言い訳をして逃げようとするでしょう。
口先だけの部下には、なんとか行動する大切さを学ばせたいものです。まずは心理的に考えると、おそらく「自信がない」のでしょう。また、その仕事分野が苦手なのか、ミスをおかしたくないのか、責任を負いたくないのだと思われます。
 そんな部下なら、こう言うのはどうでしょうか。「小林君がいい意見を出してくれたので、小林君中心に一緒にやってみようよ」と。この「一緒に」がポイントです。上司も一緒に責任を負ってくれる、フォローしてくれる、と安心感を与えることです。行動の一歩が踏み出せないタイプならなおさらこの「一緒に」と言われると、「やってみよう」と動き出すと思います。
※会話文の例は、吉田幸弘氏著『部下のやる気を引き出す上 司のちょっとした言い回し』(ダイヤモンド社)より抜粋・編 集しています

 

【2016年1・2月号】 できるビジネスマンはここが違う!「すぐできる」脳にする10の習慣

ビジネスの現場は、セオリーどおりにはいかない事の連続です。
予想外の出来事が起きても素早く対応できる、
いわゆる「頭の切り替えが早い」脳にするためには、
普段からどんな習慣を心掛けていればいいのでしょうか。
神経内科の医師であり、テレビや多数の著書でおなじみの
米山公啓医学博士に寄稿いただきました。

 

 私たちの脳はどうも同じことを好むようで、日常を考えても同じ時間に起き、駅のホームの同じ場所に立って、同じ電車に乗っています。しかし、仕事で要求されるのは、オリジナリティであり、大きな変革と素早い判断です。
 となってくれば、日常生活の中で脳の切り替えを早くしたり、いわゆるできる脳にしておくために、努力する必要があります。 

 

①だれよりも新しい物を早く手に入れる

 ネット通販が主流になってきても、限定商品などは、ショップに行かないと手に入らなかったり、実際に並ばないと購入できないこともあります。
 欲しいと思ったとき、それを迷わず買ってしまう習慣と判断力をつけておくことが重要です。お金を支払うというリスクに対して、迷わず行動できることは、自分の判断に自信がないとできないものです。無駄な物だから買うのをためらうとか、実際に物を見てからにしようでは遅いのです。新しい物の情報を手にしたら、その情報だけで購入する判断力は、仕事にきっと役立ちます。
 そのためにも、やはり実際に購入する努力をすべきです。

 

②短い時間の気分転換テクニックを持つ

気分転換テクニックを持つ
 脳はずっと考え続けることはできません。どこかで休ませる必要があります。そのためには、3分でも5分でも短い気分転換を、自分なりの方法を持つことが重要です。
 机から立ち上がり、コーヒーを飲むというのも無意識に行っている気分転換ですし、ちょっとチョコレートを食べるということでもいいでしょう。
 もう少しで終わるから頑張ろうではなく、思い切って休憩を取ることが、脳を常に活性化させておく秘訣です。
同じ刺激には次第に反応しなくなってくるのが脳の基本的な反応です。
 休む時にはできるだけまったく関係のないことを考えたり、行動すべきです。
 席を立って、気分転換できる環境にいないなら、iPadにペン入力で絵を描いてみるなど、右脳的な刺激のほうがいいでしょう。

 

③すぐに目の前の仕事を辞める勇気を持つ

目の前に仕事があれば、これをやらなくては帰れないとか、午後7時から宴会があるのに、あと30分頑張れば終わると言って、結局仲間との宴会に間に合わない、ということになります。
 そういうタイプの人は常に時間に遅れてしまうものです。その時間に遅れるということが、仕事の約束にも出てしまうことがあります。自分の時間コントロールができなければ、脳の切り替えもうまくいかないでしょう。
 そのためにはまず、時間前にさっと仕事を中断できる勇気が必要です。あとからその仕事をしても、最後までやれるという自信が必要です。
 目の前の仕事を中断しても、なんとも思わないということは、自分の仕事能力に自信がある人です。
 最後までやりきらないと落ち着かないでは、脳の切り替えはできません。
 1分前まで仕事に追われていても、1分後には、カラオケで大声で歌える脳の切り替えの素早さこそ、能力のある証拠です。
 いまにこだわらず、先のことを優先できる勇気を持ちましょう。

 

④とにかく歩いてくる

 イライラしたり、仕事がうまくいかない、アイデアが出てこないとき、机の前で悩むのではなく、思い切って外に出て歩いてみましょう。
 歩くことで、実際に記憶力もアップしますし、脳を前向きにする脳内物質であるセロトニンの分泌も高まります。
 仕事に行き詰まったと感じたら、外を歩いてみましょう。脳のリセットにもなりますし、全く別な外の風景を見ている間に、思わぬアイデアが生まれることも多いものです。
 同じ思考回路に陥ってしまえば、そうそういい考えは出てきません。
 迷うことなく、外を10分でもいいので歩いてみましょう。

 

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⑤新幹線の中で読書に集中する

 集中力がもっとあればと思うことが多いかもしれません。しかし、人間の集中力はそうそう持続しないのが普通です。
 スポーツではゾーンに入るという言い方があります。ほとんど無意識で最高のパフォーマンスができる状態です。ビジネスマンであれば、最高に集中している状態と同じでしょう。
 その最高に集中した時間を経験すると、その快感が忘れられなくなり、集中することが楽しくなってくるものです。
 集中するためには、どこか不便で限られた空間がいいのです。それには新幹線のような列車の空間と、移動する2時間はそこから逃れようがないという設定も重要です。
 まったく自由な空間で時間もたっぷりあるという環境では集中力は上がってこないものです。
 新幹線に乗るときは、本でも雑誌でも少し高度な一冊を持って、完全に読み切る努力をしましょう。時間を有効に使えたという喜びと、何かを学んだという気持ちが、集中力の意味を実感できるはずです。時間を忘れてしまった、それこそが集中できた結果です。

 

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⑥持論を語れる相手を持つ

 脳の中で考えていることと、自分が口にすることではまったく意味が違ってきます。言ったことには責任が生じてきますし、他人への影響力を持ってきます。そこが重要です。自分の考えを人に語ることで責任感を感じるようになり、行動にも変化が起こるからです。語ることで、判断の素早さ、結論を出す勇気なども生まれ、素早い思考回路を作れるようになるからです。
 悩んでいるだけでは駄目です。それを誰かに語ることが大切です。そのためには利害関係のない友人がいるかどうかでしょう。

 

⑦迷ったら寝る

 睡眠は脳を休ませるのではなく、脳を非常に活性化します。寝て起きたらいい考えが浮かぶというのは、寝る前の様々な情報の整理を行った結果なのです。
 日中は長く寝るわけにはいかないかもしれませんが、10分でもいいので、ちょっと寝てみましょう。寝ている間に脳内の血流量と脳を刺激する神経栄養因子も増えます。
 バラバラになっていた情報の整理ができて、想像もしていなかった結果を出すかもしれないのです。
 重要なところは、考えながら寝ていくことです。休むのではなく、悩みながら寝ることで起きたときに解決案が思い浮かぶのです。
 決断ができないとき、思い切って寝てしまいましょう。

 

⑧1知って10の結果を予測する

 情報がとにかく多い時代です。ネットで調べればかなりの情報が手に入ります。しかし、情報が多いから素早い判断ができるわけではありません。むしろ情報が多いために、迷いも増えてしまいます。
 少ない情報から、相手を読んだり、直感的な決断をしてしまうということは重要でしょう。直感的な判断はいい加減ではなく、たぶんそれが正しいことが多いのです。それは訓練をされた脳であればあるほど、正しい決断のことが多いものです。
 仕事ができる人は、多くの情報を得なくとも、自分の予測や想像力で正しい判断を下していきます。少ない情報で結論を出す訓練は直感的な判断力をもたらしてくれます。

 

⑨食事は抜かない

 脳のエネルギーは基本的にはブドウ糖だけです。ブドウ糖の元は炭水化物、つまりご飯、麺類、パンなどの主食から、からだの中で作られます。
 ブドウ糖はからだの中に貯蔵しておける量はわずかなので、補充していく必要があります。朝食を抜くことは、やはり脳へのブドウ糖供給が減ることになるので、きちんと朝食を食べるのは、ビジネスマンの基本です。
 もちろん昼食、さらには午後2時か3時のおやつ、夕食なども、時間通りに摂っていきましょう。
 脳へのエネルギー補給は基本中の基本です。

 

⑩瞑想する時間を持つ

 とにかく日中は様々な情報が脳に入ってきて、むしろ判断力を鈍らせてしまいます。もちろん夜寝ることでリセットはできますが、日中でも一度、脳のリセットをする必要があります。 
 できる限り五感を刺激しない状態が大切です。つまり目をつむり、力を抜いて楽に椅子に座って、頭の前に温かい太陽のような丸いものをイメージします。
 そんな時間を5分でもいいので作ってみましょう。リセットされた脳は再び活気を取り戻すはずです。素早い判断能力もよみがえってきます。

 脳を刺激したり、休ませたりする日常での工夫は、慣れてくれば意識しないでできるようになるはずです。そうなれば、素早い判断力が身についた証拠です。

 

【2015年12月号】 中小企業は、 ニッチで差別化! ニッチに多角化!「ドラッカーの ニッチ戦略」

中小企業や零細企業にも生き残り方、戦い方がある――。
ドラッカー理論を活かして、 大企業にも手の出せない
「ニッチ」を考えることだと話す、藤屋伸二さんにうかがいました。

 

ニッチ戦略という発想

 中小企業が、勝ち残っていくには「ニッチ」がキーワードになります。ニッチで差別化を図り、ニッチで黒字化を図るのですが、それには限定的なニッチ市場でNo.1になり、儲かる複数のニッチ事業を持つ多角化が勝ち抜いていく戦略となります。
 戦略を立てるには「細分化」と「位置づけ」を行うこと。つまり、戦う場所を決めるのです。そして何で戦うのか、自分たちのセールスポイント、武器を見定めること。勝てる市場で勝てる武器で戦う。ドラッカーのニッチ戦略は実にシンプルです

 

競合の少ない市場を狙え

 ドラッカーはニッチを「Ecological niche=生態学的ニッチ」だと言っています。つまり棲み分けること。例えばナマケモノという動物。動きは遅く、力もなく弱いですが、木の上なら食べる物もあってしっかりと生きていけます。それと同じです。
 ニッチというと隙間とか、小さく閉じたイメージがありますが、そうではありません。フェラーリ社は、年間7千台造って年商は3千億円。1台当たりの営業利益は5百万円を超えており、ベンツで80万円、トヨタでも20数万円。最近、ニューヨーク市場に上場した際の時価総額は1兆2千億円。年間僅か7千台しか造らないのに。これがニッチなんです。競争しない市場だから儲かるのです。中小企業のお手本といえます。

 

ニッチ戦略の極意の一つ、それは「競合しない」こと

 日本でも例があります。[図❶]の5位ワッツという100円ショップ企業の戦略が面白いのです。
 アクセスのよくないスーパーなどの一角に居抜き出店というスタイル。小規模、内装にも金をかけません。毎年100店出しても、半分は閉店します。いつでも速やかに退店できるようにしており、敷金の返還も家主ときちんと取り決めているそうです。
 なぜそんなことをするのかというと、ダイソーが来たらすぐに逃げるため。競合しても勝てないのはわかっています。逃げるが勝ち。さっさと逃げて、別の街に新しい店舗を探す。それでいて上場もしていますし、400億円を超える年商がある。これも優れたニッチ戦略といえます。

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そのニッチ市場とは

■強者の既存の利益に反する市場
 ビール業界の歴史を見ると、キリンはラガーで黄金期を築きましたが、アサヒがスーパードライで逆転しました。悔しくてもキリンはラガーの熱処理型で、スーパードライの非熱処理型には挑めません。コンセプトが違うので、ラガーの存在を否定することになるからです。それでスーパードライは一人勝ちとなった。そして今度は発泡酒が出てきて、キリンは淡麗で勝ちました。熱処理、非熱処理、発泡酒と、ビール業界は、既存市場の強者に反する戦略で挑むモノがNo.1を勝ち取っている歴史があるのです。
■差別化できるまで絞り込んだ市場
 スマホは、たくさんの機能を揃えた総合化という流れの中で、シニア向けのボタンは3つだけのシンプルなもの。あれだけ絞り込むと、市場が小さ過ぎて総合化の市場は参入できません。実は60代、70代の人たちは子どもや孫とコミュニケーションができるからメールが大好きです。電話や訪問だけでないコミュニケーション手段としてのメール。これに特化して成功している企業もあり、まさにニッチ戦略です。
■今までのやり方では儲かりそうにない市場
 「俺のイタリアン」なんてまさにこれ。立ち食いさせて、飲み物で稼ぐわけです。高級レストランでは単価を下げなくてはいけないので絶対真似はできません。強者が入って行けないのがニッチ市場なのです。
■手間がかかる面倒くさい市場
 利益を上げるため効率を求めるのではなく、逆にこだわりを徹底的にやると顧客満足が高まってそれが付加価値になります。付加価値には値段が付きます。高額商品を扱っていても成功しているところはあります。
■技術力を要するなど敷居が高い市場
 大企業がやっても採算に合わない市場。10億円や20億円なんて市場は、大手は相手にしません。そういう市場こそ中小企業の土俵、ニッチ市場といえます。

 

『ここ勝つシート』活用法[図❷(次頁)]

 ニッチ市場を見出し、どうやって戦略を打ち立てていくのか私が考案したシートで見て行きましょう。
■対象事業を書く
 誰に何を提供する会社なのか。それを明確にしなくては話になりません。「うちは建材業です」ではだめです。もっと絞り込みましょう。市場に提供すべき満足や差別化の領域を決めるのが事業の定義。さらにドラッカーは規模に関するものが事業定義の最終結論だとも言っています。つまり、大規模になろうと努めるのか、小規模に留まるのか、です。
■事業目的を決める良い例
 良い例として「顧客の事務管理部門に対し、近代的オフィスに必要な機器や消耗品を供給する」という事業目的。これだと誰に何を提供するのかよくわかります。電卓からパソコンに変わっても対応できますし、パソコンからクラウドになっても対応できます。少々経営環境が変わっても、事業の目標定義を変える必要はありません。
 もう一つの好例は「当社の事業は、商品のなかに食品店と主婦の労力と技術を組み込むことである」。これだと惣菜でもレトルトでもカット野菜でも対応できますよね。外食か自宅で作る以外は対応できるということです。
■事業目的を決める悪い例
 悪い例としては「当社の事業はテレビ受像機である」。これだとテレビがなくなってしまえば終わりです。事業目的が狭すぎます。
 逆に「当社の事業は娯楽である」では広すぎます。事業展開の意志決定ができません。娯楽ならなんでもいいわけで、やる・やらないの判断が難しくなります。それでは事業目的としてふさわしくありません。
■自社の本当の強みを確認する
 「自社の強み」はじっくり考えなければなりません。私のところの塾生でクリーニング店を多数出店されている方に「強みは?」と聞くと、「地元のスーパーに入っていることです」と答えました。でもそれは結果であって、よくよく聞くと、「丁寧で確実でクレームも少ない対応」ということがわかってきました。これこそ強み。しっかり考えてください。
■対象市場を決める・事例①
 私はよく「中間サイズの金属加工」を例に出しますが、これも塾生の話です。
 小さな町工場では時間あたりの加工単価は4千円ほどだといいます。何トン、十何トンの加工をする大手では時間単価は7〜8千円です。それで、小さい工場では造れない物件を、塾生の工場では対応できるのですが決して規模は大きくなく、中間の工場といったところ。なのに大手と同じ7千円ぐらいは取るのだそうです。時間単価3千円〜7千円の仕事をこなし、旋盤もフライス盤もできる。こんな工場は少ないそうです。これがニッチなんです。今も相当忙しいと言っていました。
■対象市場を決める・事例②
 すごく腕のいい整骨院さんとコラボして機能回復型デイサービスを展開する「きたえるーむ」。機能回復プログラムだけでなくマッサージもしています。さらにお茶などでおしゃべりの時間も取り入れているとか。年配の方に不足しているのは会話です。気持ち良くなれて、おしゃべりも楽しめるから元気になって帰ってきます。すごく人気だそうです。
 全国にFC展開をして今80店舗位ですが、1店舗あたりの営業利益が1650万円、営業利益率は29.5%。500店舗を目指しているとか。こんなリハビリにマッサージを取り入れているところなんてありません。まさにニッチです。
■戦略目標を決める
 「○○分野で東北No.1になる!」「3年後に△△で□□を達成!」という具体的な目標は足並みを揃える意味でも大切です。いつまで、どのレベルにまでという目標の方向が明確であれば、従業員も一生懸命に頑張るものです。
■キャッチコピーを決める
 これは絶対に必要です。「あったらいいな! を形にする」「お、値段以上 ニトリ」「お口の恋人ロッテ」等々。
 そして今回のテーマをキャッチコピーにするのなら「中小企業は、ニッチで差別化! ニッチに多角化!」ではないでしょうか。多角化は、一つの事業を広げるという意味ではなく、ニッチで得た差別化のノウハウで、別のニッチに取り組むということです。
■ペルソナを設定する
 ペルソナとは「象徴的な顧客像」のこと。自社商品のセールスポイントの価値を認め、買ってくれるだろうと思われる会社像・個人像です。例えばカルビーのジャガビーのペルソナは「27歳、独身女性、文京区在住、ヨガや水泳に凝っている」としました。CMにはそんな顧客像が読むであろう雑誌のモデルを使い、好むであろうデザインでパッケージを作成して大ヒット。
 会社なら、社名、設立年月日、沿革、理念・価値観、住所、従業員数、業種・業態、主な取扱商品、主な取引先、売上高、営業エリア、流通ルート、取引銀行などから企業像を設定しましょう。
■セールスポイントを決める
 ペルソナで企業像・顧客像が絞り込まれれば次はセールスポイントです。
◉うまい、はやい、やすい(吉野家)
◉うまい、やすい、ごゆっくり(吉野家)
◉ハイセンス、ハイクオリティ、ロープライス(クー レンズ)
 既存のセールスポイントは、いいお手本がたくさんあります。
■日常業務に落とし込み、スケジュール化する
 セールスポイントを実現するために、業務を体系化することです。例えば、[図❸]を見てください。「うまい」を実現するにはどうしたらいいのか。「見た目が美味しそう」「香りが良い」「味付けが良い」という日常業務に落とし込んでスケジュール化[図❹]します。ここまでやってはじめてこのニッチ戦略は機能するのです。
 

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【2015年11月号】 準備はできていますか?ストレスチェック制度が スタート!

今年12月1日より、「ストレスチェック制度」が義務づけられます。
50人以上の労働者がいる事業場が対象で、
年1回のストレスチェックを実施しなければなりません。
どのような制度で、そして、企業等はどう対応しなくてはいけないのか――。
その概略を紹介しましよう。

 

労働者のメンタルヘルスは今や重要課題の一つ

 改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度は、厚生労働省によると「定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげる取組」とあります。また、同省導入マニュアルには「〈うつ〉などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組み」とも書かれています。
 この制度を導入する背景は、近年、うつなどの精神疾患で悩む労働者の急増があり、精神的な不調は休職や自殺の引き金になるばかりでなく、生産性を低下させ、企業等にとっても無視はできません。
 同省の統計データによると、うつ病と診断された人は2008年に100万人を突破。うつ病や統合失調症、不安障害等を含めた精神疾患の患者数は2011年で320万人を超えているのです。職場に1人のうつ病の人がいるとその職場には7人の予備軍がいるといわれています。メンタルヘルスへの対応は労働環境の大きな課題といえるでしょう。

 

ストレスチェック制度とは

 この制度の概要を整理しておきましょう。
◉「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票
(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる検査のこと。
◉2015年12月から、毎年1回、労働者が50人以
上いる事業場での検査実施が義務づけられる。(2015年12月1日から2016年11月30日までの間で1回目を実施すること)
◉対象となる労働者は一般定期健康診断の対象者と
同様。ただし、労働者にはストレスチェックの検査を受ける義務はない。※契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は努力義務。
◉ストレスチェックの結果は実施者(医師等)から直
接本人に通知される。
◉高ストレスとの結果が出た労働者が面接指導を
希望した場合、医師による面接指導を実施すること。
 さて、どのように実施していけばいいのかは、厚生労働省がホームページで掲載している「ストレスチェック制度 簡単! 導入マニュアル〈実施手順〉」(図①)をもとに、主な留意点を見ていきましょう。

 

ますますやる気が出る「レッテル褒め」

 部下に自信をつけさせ、部下の実績や能力に気付いていることを伝えるのが「レッテル褒め」です。
 以前、私が勤めていた旅行会社で「リゾートのことなら吉田に聞け」と言われたことがありました。たまたまリゾートホテルで過ごす企画が受注になっただけで、リゾートに詳しい人は他にもっといるはずと思いました。でも、これからさらに頑張らないといけないとプレッシャーを感じましたが、認めてもらえた喜びもありました。
 「この企画ならA君だ」
 「この業務ならBさんだ」
 と、オーソライズ(権威づけ)すると、部下もその分野のスキルをより磨こうとします。
 それからミーティングなどで、レッテルを貼った分野についての「講師」をさせてみましょう。これは社歴の浅い、若年層の部下に自信をつけさせるにはもってこいの方法。もちろん自信をつけるという意味では、ベテランでも、昇進が遅れている人や自信を失くしている人などにも「レッテル褒め」と「講師」は効果的です。
 といっても赴任したばかりでしたら、まだわからないので、部下をよく観察することです。それも、「彼のストロングポイントはなんだろう?」と強みをまず見つけることで、その次に弱みを見つければいいのです。弱みはすぐに見つかるものですが、強みはなかなか見つけにくいもの。それが、この「レッテル褒め」をしていると、部下の強みを見つけるのがうまくなるものなのです。

 

実施前の準備段階

□ストレスチェック制度を実施する旨を発表して おく
労働者自身によるセルフケアや職場環境改善を通じてメンタルヘルスの不調を未然に防ぐのが目的です。不調者の発見だけが目的ではないと法令で明示されていると伝えましょう。
□事業所の衛生委員会で、ストレスチェック制度の 実施方法などを話し合う
誰に・いつ実施するのか、どんな質問票を使うのか、どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか、面接指導はどの医師に依頼するのか、結果は誰が、どこに保存するのか等を話し合っておきます。
□決まったことは社内規程として明文化しておく
□実施者は職場の上司などではない
ストレスチェックを実施する者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から事業者が選ぶこと。外部委託は可能。※産業医でも、自身の人事権が及ぶ部下にはストレスチェックはできません。つまり、対象となる労働者の人事権を持っている人は実施者になれません。
□実施者をサポートする実施事務従事者を置く
実施者の補助をする実施事務従事者を社内に置くといいでしょう。質問票の回収、データ入力、結果送付など、個人情報を取り扱う業務を担当。実施者同様、人事権を持つ人はなれません。外部委託は可能。
□面接指導を担当する医師を決めておく

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ストレスチェックの実施

□質問票に記入してもらう
質問票の指定はありませんが、厚生労働省の「国が推奨する57項目の質問票」(次ページ・図②)があるのでそれを使えばいいでしょう。ITシステムを使ってオンラインで行っても構いません。
□記入後の質問票は医師などの実施者が回収する
第三者や人事権を持つ職員が、記入・入力の終わった質問票の内容を閲覧できません。
□回収した質問票をもとに実施者が、高ストレス で医師の面接指導が必要な者を選ぶ
高ストレスとは、自覚症状が高い者や自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い人のこと。
□結果は、実施者から直接本人に通知する
結果は事業者(企業等)には返ってきません。結果を入手するには、本人の同意が必要です。
□結果は、医師などの実施者や実施事務従事者が 保存する
結果を事業場内の鍵のかかるキャビネットやサーバー内に保管するのも可能ですが、第三者に閲覧されないよう、実施者や実施事務従事者は鍵やパスワードの管理をすること。保存期間は5年間。

 

面接指導の実施

□「医師による面接指導が必要」と通知された労
働者から申出があった場合は、医師に依頼して面接指導を実施すること
高ストレスと評価された労働者本人が面接指導を希望した場合、通知されてから1カ月以内に事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。
□就業上の措置について
面接指導を受けた労働者の就業上の措置は、面接指導を実施した医師から1カ月以内に意見を聴き、それを踏まえて労働時間の短縮などの必要な措置を実施しましょう。
□面接指導の結果は事業場で5年間保存する

 

職場分析と職場環境の改善

□ストレスチェック結果を、実施者に一定規模の集団
(部、課、グループ等)ごとに集計・分析してもらう
集団ごとに、質問票の項目ごとの平均値などを求めて、比較する等の方法で、どの集団が、どういったストレスの状況なのかを調べます。
※この場合、集団規模が10人未満の場合は、個人特定されるかもしれないので、全員の同意がないと、結果の提供は受けられません。原則10人以上の集団が集計の対象。
□集計・分析結果を踏まえて、職場環境の改善を行う

 

行政への報告

□労働基準監督署に報告する必要あり
労働安全衛生法第100条に基づく報告の違反の場合には罰則があります。

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【2015年10月号】 その「常識」が、 成長を阻む壁になっている part2【マネージャー編】

ビジネスの世界にも「マネジメントはこうあるべきだ」という「常識」があります。
実はその「常識」の多くが単なる思い込みや錯覚にしか過ぎず、
事業運営に悪影響を与えていると経営コンサルタントの大庭真一郎氏は指摘します。
今回は弊害を生み出しているマネジャーが思い込んでいる「常識」を取り上げ、
事業運営上の壁となるものを探ってみましょう。

 

マネジメントに関する常識の壁

マネジャーの役割

 マネジャーとは、チームを率いる管理職者です。社長の下した方針に則ってチームを牽引しながら社長に現場の正確な情報を報告したり、チームのスタッフを、希望を持って働こうという気にさせて、持てる能力を存分に発揮できるようにしたりすることが役割といえます。 
 そんなマネジャーに対して社長は、スタッフを成長させチームの成績が上がるようなマネジメントをしてもらいたいという期待と、社長の考えや社長が思い描く会社の方向性をスタッフに正しく伝えてもらいたいという期待を持っています。
 ですから、単に長く勤めた結果、地位が上がってマネジャーになったのだという意識であれば、会社に危機をもたらしかねません。それほどマネジャーというのは重要な役割を担っているのです。

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「マネジメント=管理」という思い込み

 マネジメント=管理という感覚が、多くのマネジャーの意識にはびこっているようです。
 管理とは、業務管理や勤怠管理など決められたルールに則って一定の物事を取り仕切ることですが、それは、マネジメントのほんの一部にしかすぎません。
 マネジャーが行うマネジメントは、本質的には社長が行うマネジメントと変わらないのです。チームの目標を立てて、スタッフや取引先、情報といったチーム内に存在する資源を上手に活用しながら、求められた結果を実現します。チームの目標を立てるときには、社長の承認を得た上で、スタッフにも理解させます。
 そのような役割を担う中で、日々の業務管理やスタッフの勤怠管理などが発生するのです。
 マネジメントと管理が異質なものだということを理解しないままマネジャーとしての立場に就くということは、マネジャーとしての仕事を放棄しており、その資質はないに等しいと私は思っています。

 

「社長の作った数字が絶対」という思い込み

 マネジャーは、チームの目標を立てますが、このときにも大きな常識の壁があります。「社長が作った数字が絶対だ」という思い込みから、社長から示された数字を丸呑みしてチームの目標にしてしまうことです。
 社長は、会社全体でこのような数字を実現したい、ならば各チームにこれくらいの数字は達成してもらいたいという試算をしているだけなのです。
 社長がすべての現場をマネジメントできないので、マネジャーという役割があるのです。正しくは現場を良く知るマネジャーが実現できそうだと思える数字を作り、その内容を社長と共に検証し、互いに納得した上で、会社全体とチームの目標数値が確定されることが本筋といえます。
 実態にそぐわない数字がチームの目標として立てられ、ふたを開けてみると実態に即した数字しか達成できず、それが会社全体の目標とのギャップとして表れ、会社が苦境に陥る場面は実によく見られます。今年、某大手総合電機メーカーで、現場を無視した目標を押し付けられたマネジャーが、社長には逆らえないからと粉飾めいた対応を行ったことは、記憶に新しいところです。

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「プレイした上でマネジメントを行えばよい」という思い込み

 多くのマネジャーは、自分自身の日常業務をこなしながらマネジメントを行うことになります。その過程で、大きな錯覚が生じます。それは自分の日常業務をやり終えた上で、余力の範疇でマネジメントを行えばよいという思い込みです。
 マネジメントは、片手間でやれるレベルのものではありません。成果を実現するために、現場で使える資源を上手に活用し、進捗管理も行う。つまり、マネジメント自体、常に行わなければならないものなのです。人一倍働いているのにチームの成績が振るわないからと社長に叱責されるその原因は、マネジャーが自分の業務のことばかりに目がいってしまい、チームのマネジメントが疎かになっているからでしょう。
 自分の日常業務とマネジメントとの間に優先順位はありません。日常業務をやりながら、同時並行でマネジメントを行うしか方法はないのです。
 その方法とは、マネジャー自身が自分の日常業務のやり方を改善し、担当業務の一部を他のスタッフに移管して身軽になるなど、マネジメントを行える環境を整えるための工夫を凝らすことです。

 

「部下にはっぱをかける=マネジャーとしての仕事をしている」という思い込み

 マネジャーには、スタッフを鼓舞しフォローしながらチームとしての成果を追い求めていく役割があります。ところが、そこにも常識の壁が存在するのです。それはスタッフにはっぱをかけることでマネジャーとしての責任を果たしたのだと錯覚してしまうことです。
 はっぱをかけなければならないのは、スタッフの仕事の結果が思わしくない状態にあるからです。しかしそれは、スタッフの頑張りが足りないからなのではありません。スタッフはすでに頑張っているのですが、結果を出すためのやり方がわからないのです。
 そんなスタッフのことを精神的に追い詰めると、壊してしまうことにつながりかねません。結果を出せないスタッフに対して、「頑張れ!」の一言で終わらせてしまっているとしたならば、マネジャー失格です。
 マネジャーには、スタッフが結果を出すためになにが必要なのか、どのようなプロセスが必要なのかを判断し、指導することが求められます。そのために、常にスタッフの行動に目を光らせ、スタッフの話にじっくり耳を傾ける姿勢が必要なのです。

 

部下の育成に関する常識の壁

「今の若いヤツは○○だから」という思い込み

「今の若いヤツは○○だから」というのはいつの時代もよく聞かされるセリフです。
 世代が異なれば時代背景や生活環境も異なり、ものの考え方や価値観、嗜好などが異なることが多いため、このようなセリフが生まれるのは当たり前。その当たり前がマネジャーの常識の壁となって、部下の育成がスムーズに進まない原因を作っていることが多いのです。
 組織に属する人間として、組織の方向性に基づいて個人としての能力を高めていくことが育成であり、そこに世代による考え方の違いに左右される余地はありません。
 部下の育成の場面で「今の若いヤツは○○だから」というセリフが出てくるのは、マネジャー自身が最初からコミュニケーション・ギャップがあるものと思い込み、壁を作っているからです。加えて、部下が育たないことへの理由にもしています。
 呑ミュニケーションとか、打たれながら伸びるといった昔のやり方が通用しないという声もありますが、それらは接するときの手段の問題です。マネジャーとして教えられることや部下自身が成長することを受け入れようとする姿勢は、今も昔も変わりません。
 「今の若いヤツは○○だから」という言葉を口にした時点で、自分のほうから壁を作っていることをマネジャーは気付く必要があるでしょう。

 

「伸びるヤツは放っておいても伸びる」という思い込み

 人には、のみ込みの早いタイプとそうでないタイプがいます。のみ込みが早いタイプの人は、一見して、手取り足取りのような教育をしなくても自然に育つ、という錯覚に陥ることが多いようです。
 多忙なマネジャーにとって、部下の育成は、手を抜きやすい分野でもあります。そのため、のみ込みの早い部下には、「彼は、手取り足取り教えなくても成長するだろう」という感覚で手を抜いてしまうのです。
 これは大きな間違い。のみ込みが早い人間であっても、頭の中で理解したことを生かす場を与えなければ育ちません。知識を習得した部下に、それを生かせる仕事を与えることで、部下は成長するのです。
 反面、生かす場を与えずに放置した場合、部下はこの会社にいたのでは自分は成長できないと思ってしまい、士気は低下し、成長の芽を摘んでしまうことになってしまいます。
 部下の育成に関して、部下の資質の程度に関係なく、一定の知識を習得させた上で生かす場を与えるというのもマネジャーの仕事です。

 

「育成とは業務スキルを高めること」という思い込み

 「部下を育成する目的は?」という問い掛けに多くのマネジャーが、「業務スキルを高めること」と答えます。間違いではありませんが、マネジャーの視点としては物足りません。
 チーム全体のキャパシティーが拡大することで生産性が高まり、会社の収益も上がるのです。よって、マネジャーであるならば部下のキャパシティーが拡大することで自分自身のキャパシティーも拡大し、それによりマネジメントできる範囲が広がり、チームも強くなれるという発想を持って、部下の育成を行ってほしいものです。
 それであれば、部下も成長した自分が会社やチームに貢献する姿にリアリティのあるイメージを持つことができ、がぜんヤル気が出てくるでしょう。
 反面、マネジャーにそのような発想がなければ、単なる習熟度の向上というイメージしか持てず、部下の視野も広がりません。
 マネジャーとしての役割を果たすためにも、先程も述べた、日常業務をやりながら同時並行でマネジメントを行うための方法としてマネジャー自身の業務をスタッフに移管することと、部下の育成とをリンクさせて行動するのが効果的だと思います。

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「教えるよりも自分でやった方が早い」という思い込み

 部下の育成に関しては、業務を行う中で教えることが多いと思います。習熟度が低いと、何度も失敗します。その場合、失敗したことを糧にして、同じ失敗を繰り返さないために何が必要なのかを教えるのが教育ですが、この場面でマネジャーの錯覚が生じることが多いのです。
 それは、業務を通じて部下を成長させることを目的としてやっていることが、いつしか業務自体をつつがなく終わらせることが目的となってしまうのです。そのことで、教えるよりも自分でやったほうが早いという気持ちが生まれ、部下の育成の部分がおざなりになってしまいます。
 そうなると部下が育たないのはもちろんのこと、チームの生産性も上がらず、そして部下が育たないことにマネジャーがストレスを感じるという悪循環に陥ってしまいます。
 そのためにも業務をつつがなく終わらせなければならないという課題と、部下を育成するという課題は切り離す必要があります。つまり、業務を通じて行う育成の場合は、その業務に関しては、日々の業務計画の中とは別にしておきましょう。
 そして部下を育てたいのなら失敗させることです。失敗の中に、成長するためのヒントが隠されています。それなのにマネジャーが代わりにやってしまえば、部下の成長機会を奪ってしまうことになるのです。
 いかがですか。チームの成果がかんばしくない、部下がうまく育たない、といった場合、こうした「常識にとらわれていないか」と考えてみるのも、対策を講じるうえでのいいヒントになるのではないでしょうか。

 

【2015年9月号】 当たり前だと思っているその「常識」が、成長を阻む壁になっている

ビジネスの世界にも「経営とはこうあるべきだ」という「常識」があります。実はその「常識」の多くが単なる思い込みや錯覚にしか過ぎないものと経営コンサルタントの大庭真一郎氏は指摘します。そんな常識が「壁」となって会社の成長を阻むこともあるとか。今回は弊害を生み出している会社の社長が思い込んでいる「常識」を取り上げ、経営上の壁となるものを探ってみましょう。

 

経営全般に関する常識の壁

「社長の苦しみは社長にしかわからない」という思い込み

最近の経営者は真面目な方が多く、それ故に「経営とはこういうものだ」という思い込みが激しい一面があります。そうした当たり前、思い込みがいつしか「常識の壁」となって、企業の成長を邪魔していることが多々あるように見受けられます。

中でも特に社長自身を苦しめているものが「社長という仕事は孤独だ」と思い込んでいる常識の壁です。

社長には、日々重い決断を下さなければならないというプレッシャーがあります。最終決定者としての責任があり、もし間違えたら従業員の生活や取引先にも影響を与えてしまうことに…。そんな気持ちや苦しみは、同じ状況に置かれている人にしかわからないと思い込んでいませんか?

そのような思いを持ち続けていると、社長が何もかも重荷を抱えて、社長自身のパワーを減退させてしまいます。

そのこと以上に大きな問題は、社長の「しょせん、従業員に私の気持ちなどわかるはずがない」という心の持ちようが、社長自身が従業員の気持ちをわかろうとしなくなることです。従業員の気持ちがわからないことに悩む社長は多いのですが、社長自らがわからなくする壁を作っていることになります。

すべてでなくても、一部だけでもわかってもらえればいいのです。会議のときに「ここは悩んだよ。寝ずに考えた」と言えば勘のいい従業員は察してくれますし、従業員が社長目線で物事を考えてくれるかもしれません。ただし、お酒の席で言うのは避けましょう。ただの愚痴に聞こえてしまいますから。

「計画のゴールは数値目標」という思い込み

会社全体の計画を作るのは社長の仕事であり、現在の会社の状況や今後の方向性、戦略、将来のゴールイメージなどを可視化した計画を考えます。これは社長自身の考えを整理するためにも必要ですし、周囲の人間に社長自身の考えを伝えるためにも必要です。

そのことに関して計画書には、計画を見る側もゴール地点の数字に着目するはずだという意識に基づいて、数字を置くことに全力を注ごうとする「常識の壁」が生まれてしまうことがあります。ゴールの数字を書き込んで満足してしまうのです。

計画書の数字は、筋書き通りに事が運んだときに予測(期待)できる数値結果を表しただけ。筋書き通りに事を運ぶための根拠、プロセスがしっかりしていないと、単なる希望的観測で終わってしまいます。計画はプロセスありきで、「そのためにどうするのか」が一番重要なのです。極端な話、目標の数値はなくてもいい。大手企業でも計画がうまくいかない原因がこの常識の壁であることが多いようです。プロセスに整合性がないのです。

「今までの尺度で物事を考えてみる」という思い込み

社長は、常にもっと受注を増やすためにはどうすればよいのか、新しい取引先を作るためにはどうすればよいのかを考え、行動しています。しかし、ここでも「常識の壁」、思い込みが結果を阻んでいることがあります。その「常識の壁」とは、今までの取引の形イコール今後の取引の形だと思い込んでいることです。

今までのような形でモノやサービスをお客様に提供してきた、だから今後も今までの取引の形を前提に考えるべきだという思い込みが生まれます。

これまでの取引の形は今までの環境が生み出した形態であり、今後の取引の形は今後の環境にマッチしたものがベストという認識が大切です。

従来の取引の形に固執したままだと、環境の変化についていけなくなり、世の中のニーズにマッチしたモノやサービスをたとえ持っていたとしても、必要としている人のもとに届けることができなくなってしまいます。今までのことは今までのこと、今後のことは今後のこととして、頭の中を常にクリアーにして考えることが必要でしょう。

「組織や肩書は必要」という思い込み

多くの方が「組織と肩書きはいらない」と聞くと驚かれますが、これも弊害を生み出すことがあるのです。

まず組織の弊害とは、ヒトに仕事を付けることから生まれます。いわゆるAさんがいないと仕事が回らないという状況です。Aさんは自分しかいないから休みたくても休めないし、もしAさんが辞めたら全体の業務がガタガタになります。そうした状況が無理をすることにつながっていくわけです。

大切なのは仕事にヒトを付けること。すなわち誰もがその仕事をできるような状態にすることです。今必要な仕事に全員が集中して取り掛かれることにより、生産性が高まります。そうなれば休むことに気を使うこともなくなり、退職者が出たときの引き継ぎもスムーズに運ぶはずです。

次に肩書きについてですが、役割と権限を明らかにするという意味では必要な面もありますが、組織を硬直化する弊害があります。肩書きがあるがゆえに、情報の伝達や物事を決めるのに時間がかかってしまうことです。

例えば決済をもらうのに何人もの承認が必要となれば、それに時間がかかり、後手を踏み、タイミングを逸してしまい、ライバル社に一歩先んじられてしまうことにもなりかねません。中小企業の強みはスピーディーな意志決定にあります。

規模の小さな会社の場合は、組織や肩書ありきの発想から抜け出してみてもよいのではないでしょうか。

 

取引に関する常識の壁

「営業を強化すればモノは売れる」という思い込み

経験豊富な営業マンを採用したのに期待外れだった…。という声をよく耳にします。「営業を強化すればモノは売れるはずだ」というのもよくある常識の壁です。

自社でしかそのモノやサービスを提供していないのであれば、営業の人員を増やせば売れますが、現実は、競争相手はたくさんいます。買う側にしても、比較した上で、一番満足のいくモノを買います。

つまり、営業の頭数を増やすことが売上を増やすことに直結しないのです。大切なのは営業の頭数にこだわる前に、自社のモノやサービスの中身にこだわることです。競争相手と比較して、特徴や優れている部分がはっきりしているのか。その特徴がフィットするお客様の層をきちんと摑んでいるのか。こうしたことに注力すべきなのです。

また、営業トークの上手な営業マンを増やせば売上の増加が見込めるというのも同じ。魅力的な商品やサービスがあり、魅力を魅力だと感じてくれる相手がはっきりしている状態なら、コミュニケーション能力の高い営業マンが、お客様に求めていたモノだと気づいてもらえる営業を行えば、売上が上がるのです。

「取引してもらっている側が弱い立場なのは当たり前」という思い込み

景気は回復傾向にあるのに、取引の現場では先方からの値下げ要求が相変わらず日常茶飯事のようにあります。価格以外にも、納期を早めろとか、+αで何かサービスしろとか、取引先はいろんな要求を突き付けてきて、徐々にエスカレートしていきます。そしてその都度、先方の顔色を覗い、無理難題に頭を悩ませ、挙句の果てに「やむを得ない」の一言で要求を飲んでしまう…。この姿にも、常識の壁である「取引してもらっている側が弱い立場なのだ」という思い込みが立ちはだかっているのです。

本来、取引に強い弱いはありません。求められるモノやサービスを提供する側があり、求める側が決められた対価を支払って手に入れることが取引です。そこには相互が対等な立場で補完しあっているという図式しかありません。

しかし現実は、競争相手がたくさんいる土俵の上で頭を下げまくり、こびへつらいながら買ってもらっている。こんなスタイルをとっている限り、取引してもらっている側が弱い立場だという感覚から抜け出すことはできません。

この悪循環から抜け出すためには、競争相手が少ない土俵はどこなのかを見つけることと、求める側が真に満足するモノは何なのかということを常に探究することです。

 

ヒトに関する常識の壁

「人事はカネを生まない」という思い込み

一般の中小企業には、単独の部署としての人事部はめったに存在しません。人事という仕事は、カネを生まないからヒトを配置するなんてもったいない。そんなところに配置できるヒトがいるのであれば営業や現場に回すべきだという考え方が常識の壁といえます。

人事は、手続き仕事だけを行う分にはカネは生みませんが、それは人事の仕事の一部にしか過ぎません。本来の人事の仕事は、人材の確保、底上げ、定着を図ることにあります。

これを軽く見ていると、費用をかけて確保した人材が、能力を発揮しきれないまま居続けることで固定的な人件費が増え続け、希望を失った人材は退職し、再び費用をかけて人材を確保するものの、生かし切れず、人材が入れ替わるという悪循環が生じてしまいます。

この悪循環がなくなれば、カネを生まない人材に払う人件費や繰り返し生じる募集・採用の費用が発生しなくなるという意味でカネを生み出します。そして生産性が高まることにより売上や利益が増えるという意味でもカネを生み出すことにつながるといえるでしょう。

専従者を置くのかどうかは別にして、限られた人数で事業を行う中小企業こそ、人材の確保、底上げ、定着を徹底することに時間を割くべきなのです。

「残業があるのは当たり前」という思い込み

残業についてですが、従業員が残業するのは当たり前だという常識があります。このような常識のもとで残業をしている従業員は仕事ができる、ヤル気があると錯覚しているのです。

残業はすればするほど収益性が低下します。人件費が割高になるからです。しかも長時間労働になるほど能率が下がり、慢性的な長時間労働は疲弊を生み、生産性や士気の低下という結果をもたらします。ビジネスマンがアフターファイブを楽しめない状況は、会社の成長を阻んでいるともいえるわけです。

全員が仕事の無駄を省き、効率よく仕事を進め、それでも定時を過ぎてもその日のうちに必ずやらなければならない仕事が存在するのであれば、会社は儲かっていることになります。ならば社長は従業員の負担を減らすためにヒトの補充を考えるべきです。

習慣的に残業をしているのであれば、仕事に関する無駄の排除や効率性、優先順位などを徹底する必要があるでしょう。

「頑張っているヤツを評価すべし」という思い込み

やってもやらなくても一緒では従業員の士気が下がるので、人事評価は必要です。そんな中、頑張っている人を無意識のうちに高く評価してしまうという常識の壁を作ってしまいがちになります。

給料を貰いながら働いているのであれば、頑張るのは当たり前。大切なのはそこから先で、評価するのはいかに結果を生み出せたのか、いかに能力を高められたのか、創意工夫した跡がどの程度見られるのか、という部分です。

そこをおざなりにしてしまうと、結果に関係なく毎晩遅くまで勤務している人が頑張っているように見えて高く評価されてしまいます。そうなると、評価に対する公平性が失われ、頑張り続ける従業員が結果を出せないまま疲弊し離脱することにもつながります。頑張っている従業員が結果を出せるようにアシストしてあげることも重要なのです。

「教育機会を与えればヒトは成長する」という思い込み

一般の中小企業における社長の従業員への教育に対する意識は高いです。反面、費用をかけて教育したのに、特に何かが変わったわけではないという声が多く聞かれます。これは、教育機会を与えればヒトは成長するはずだという思い込みが原因です。

時間を割いて教え込んだら、あるいは著名な講師の話を聞く機会を与えれば、たちまちのうちに従業員の行動が変わってくるのではないかという期待と錯覚があるのです。

教育を受けたことにより頭の中の発想は広がったかもしれませんが、そのことと仕事をする上で行動を変えられることとは次元が異なります。新しく得た知識やノウハウをどのように行動に生かせばよいのかがわからずにいる従業員が大半なのです。

教育を受けさせた後に、日常の仕事で教育の成果をどのように生かしていくか、ということをきちんと考えた上で教育機会を与えることが必要です。

 

金銭に関する常識の壁

「借入金があるのが当たり前」という思い込み

借入金というと暗いイメージが付きまといますが、個人的な借金とは意味合いの異なる部分もあります。

新しい取引を始めるときや投資をするときなど、手持ちの資金では全額賄えないけれども、近い将来、投入する資金を上回るお金が回収できると判断した場合に、手持ち資金の不足する部分を借りるのは、前向きな対応といえます。

ところが現実は、銀行からの資金調達と返済が日常的になることで、常に借入金の残高が存在している状態に置かれてしまい、借入金があるのが当たり前という感覚に陥ってしまうケースが多いのです。「お金が足りなくなるから」という理由だけで安易に借り入れしてしまうことも多いようです。

事業で生み出した利益を今後に向けて投資し、それにより次の利益を生み出すという本来の経営の姿に近づくためにも、借入金があるのが当たり前という感覚から脱することが必要。それには借り入れる前に将来に向けた資金計画というものをしっかりと考えておくことが必要です。

「決算書は従業員に見せるものではない」という思い込み

一般的に、社長は、従業員に決算書を見せることを嫌い、隠そうとします。それは、役員報酬の金額を知られることで従業員の間に不満が生じるのではないか、損失金額や借入金残高が大きいことを知られることで従業員の間に不安が生じるのではないかが理由として考えられるでしょう。

しかし、隠すことで、かえって従業員はマイナスの方向に推測してしまいます。会社が儲かっているときであれば、社長を中心とした一部の人たちだけが美味しい思いをしているのではないか。また、会社が苦しいときであれば、うちの会社はもうじき潰れてしまうのではないか、そのことが原因で会社に対する不信感や士気の低下を招いてしまうこともあるのです。

情報は極力オープンにして従業員との間で共有したほうが上手くいくもの。儲けが出たのであれば、儲けの使い道を説明し、社長が多く取るのは私利私欲ではなく、銀行からの信用を高めるためなのだと説明すればいいのです。会社が苦しいときも、やれるのだと自信を持って口にし、改善していくための考え方を説明しましょう。

透明性を高めることで、従業員の発想もポジティブなものへと変わっていきます。従業員との間で会社の状況を認識しあった上で、今後の方向性について理解しあうための手段として「決算書を見せる」と考えてもよいのではないでしょうか。

【2015年7・8月号】 部下がやる気を出す! 魔法の言葉 part3 【褒め方編】

部下のやる気は、上司のちょっとした言葉に左右されるものです。
そこで今回は「褒め方」を取り上げてみました。
どんな褒め方をすれば、よりやる気が出るようになるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

質問しながら褒める「質問話法」

 褒める場合、以前よりも変わったところ、変化した点を褒めるのが前提です。でも、闇雲に「君は変わったね」と言えばいいというものではありません。年上の部下だったり、自信に溢れている部下だったりすると、褒めても【いまさら褒めるの?】と素直に聞けない人もいて、却って関係を悪くしてしまうこともあります。
 特にあなたが他の部署から異動してきたばかりで、すでにその部署やチームにエース級の部下がいる場合など、その部下を褒めても【移ってきたばかりのあなたに何が分かるんだ?】と逆効果になってしまいます。
 この場合は上から目線にならないように、一目置くように「教えてもらいたい」ことが伝わるように言ってみましょう。
 私の実体験ですが、年上の部下にプレゼン資料を作るのがうまい人がいました。「資料を作るのがうまいですね」と褒めても「そうですか・・・」のひと言だけで、そこから会話は続きませんでした。そこで「どうしたらあなたのようにうまくまとめることができるのか教えてもらえませんか?」と訊くと、私はこのようにやっているのですが…とアドバイスを話し始めたのです。私はその時「これだ!」と気付きました。
 「どうしたら・・・教えてください」と質問しながら褒める「質問話法」は、相手も【自分のことを認めてもらえている】と感じ、褒められて「そんなことはないです」と謙遜する人でも何らかの答えを出そうとして会話が続きます。
 また、同行営業の後にでも「あのように話をするといいですね。勉強になりました」と言えば、部下は「褒められた」と素直にうれしく思うのではないでしょうか。
 こうした「褒める」には2つの目的があります。
 1つは部下のプライドをくすぐりやる気を引き出すためです。「君のことを認めていますよ」と、上司としての意志表示となります。
 2つ目は、その部下が持つスキルを部署やチームのメンバーで共有するためです。「教えてください」とミーティング時にレクチャーしてもらうといいでしょう。教えることで、部下のリーダーシップ力を育てることにもつながり、上司の後継者を育てるという意味合いも出てきます。

 

褒めるなら人前で褒める

 「他の人の前で褒める」というのも効果的です。これは対外的というか部下を第三者に紹介するタイミングで、特に新しく担当する部下を連れてクライアントに出向いた際に使うといいでしょう。 例えば、
「この吉田は、パソコンやネット環境に詳しくて、私もよく教えてもらうんですよ」
 「この吉田は、弊社でも3本の指に入る営業マンです。安心してお任せください」
 後者は実際に私が言われたことがある言葉でした。内心は【えっ? 自分は3本の指には入らないと思うけど…】とビックリ。当時の私はたぶん7位か8位あたりだったので、上司はかなり盛って私を紹介したのですが、「本当に3位に入らないといけないかも」と奮起したものです。
 もし実績が何も無い場合は「吉田は対応が迅速で、しかも丁寧だとクライアントの皆様からよくお褒めの言葉をいただいております」と言うのもいいでしょう。
 逆に気を付けていただきたいのは、上司が謙遜し過ぎて「吉田はまだまだ未熟なもので…」とつい言ってしまいがちですがこれはダメです。部下は自尊心を傷つけられ、クライアントも【未熟な人に任せるのかよ】と不安になります。
 さらに「何かあったら私がフォローしますので」もNG。【だったら最初からあんたがやってくれよ】とクライアントは思うでしょうし、部下は信頼されていないとやる気を失くしてしまうかもしれません。特に女性はこの言葉に反感を持つ場合が多いようなので気を付けたいです。また、成長意欲の低い部下なら【上司が助けてくれるのなら、自分は言われたことだけにしよう】となり、やる気なんて出てきません。フォローは黙ってするものなので、「何かあったら私が…」は口にしないほうがいいでしょう。

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ますますやる気が出る「レッテル褒め」

 部下に自信をつけさせ、部下の実績や能力に気付いていることを伝えるのが「レッテル褒め」です。
 以前、私が勤めていた旅行会社で「リゾートのことなら吉田に聞け」と言われたことがありました。たまたまリゾートホテルで過ごす企画が受注になっただけで、リゾートに詳しい人は他にもっといるはずと思いました。でも、これからさらに頑張らないといけないとプレッシャーを感じましたが、認めてもらえた喜びもありました。
 「この企画ならA君だ」
 「この業務ならBさんだ」
 と、オーソライズ(権威づけ)すると、部下もその分野のスキルをより磨こうとします。
 それからミーティングなどで、レッテルを貼った分野についての「講師」をさせてみましょう。これは社歴の浅い、若年層の部下に自信をつけさせるにはもってこいの方法。もちろん自信をつけるという意味では、ベテランでも、昇進が遅れている人や自信を失くしている人などにも「レッテル褒め」と「講師」は効果的です。
 といっても赴任したばかりでしたら、まだわからないので、部下をよく観察することです。それも、「彼のストロングポイントはなんだろう?」と強みをまず見つけることで、その次に弱みを見つければいいのです。弱みはすぐに見つかるものですが、強みはなかなか見つけにくいもの。それが、この「レッテル褒め」をしていると、部下の強みを見つけるのがうまくなるものなのです。

 

第三者を使った「トライアングル褒め」

 「トライアングル褒め」の2つ目の使い方として、「その場に居ない人を褒める」のもいいでしょう。特に褒めるのが苦手な上司は、褒める対象の部下がその場に居ないので、照れずに言えるはずです。
 普通、「その場に居ない人」というのは悪口の対象になるものです。私が見てきた業績が悪いチームでは常に誰かが誰かの悪口を言っています。悪者がいるんです。
 私はそうならないためにも意識して居ない人を褒めるようにしました。すると必ず誰かが居なかった人に「君、褒められていたよ」と伝えてくれて、これはいい効果を発揮しました。
 直接業績には関わらない事務員だとか業務を評価しにくい部署の人、アシスタント的な仕事をしている人、契約や派遣社員に使うといいようです。こういう人たちはやって当たり前と思われているので、失敗すれば注意されても、やって当たり前なので褒められることが少ないからです。
 例えば「営業のBさんが急いで資料を作ってくれて助かったと言っていたよ」「君の電話応対がとても爽やかでお客さんに評判だと聞いたよ」とか、当たり前のことを「トライアングル褒め」を使えば、モチベーションも上がることでしょう。

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その場に居ない人を褒めるのも「トライアングル褒め」

 叱っても叱っても変わらない部下がいます。「この前も言ったじゃないか」はNGです。結局変わらないのは得てしてやり方がわからないことが多いようです。
 こんな時に、よく「自分で考えろ」と言ったりしそうですが、これは上司の勝手な言い草です。上司にすれば、自分で考えて答えを見つけたほうが早く成長すると思うでしょう。けれど、自分で考えてできるのなら、叱られることもなく、とっくにいい結果を出しているはずですから。
 そんな時は、「具体的に何をやったらいいと思う?」と質問してみましょう。これで何か方策があるのかないのかがわかります。部下に方策が無ければ、具体的なアドバイスや指示をすればいいのです。
 また、例えば提案書を持ってきたとします。前回と何も変わっていなかったり、前回と同じところが間違っていたとしても、どこか前回と違う点はないか、良くなっているところはないかを探しましょう。
 同じミスを繰り返すのなら解決策を「一緒に考えよう」と言えば、部下は安心します。どの段階でミスが起きたのか、時系列でたどったり、チャート図にしてみたり。指示待ちタイプの部下なら、2〜3の改善案を提示して、どれを選ぶかを考えさせるのです。

 

若い部下や落ち込みやすい部下には、やる気を出す「サ行のつぶやき褒め」

 昔、「さすが」とか「すごい」が口癖の上司がいました。思わず口から出てしまったという「つぶやき」のような感じなので、私はわざとらしいとは思わず、素直にうれしかったものです。
 部下を持つようになった私はこれを「つぶやき褒め」と称して真似て、経験の浅い人や、落ち込みやすいけれど褒められると勢いがつくムードメーカータイプには意識して使うようにしました。
 さらに他のつぶやきを追加し、「サ行のつぶやき褒め」として改良したのです。
 「さすが」⇒成績のいい部下に使います。あまり成績のよくない部下には皮肉に聞こえてしまいます。
 「知らなかった」⇒知らないことは上司として恥ずかしいことではありません。知らなかったと言えば、部下はさらにより詳しく報告するものです。
 「すごい」⇒頑張ったことが成果に出た時が効果的。以前、営業不振の部下が、連続して契約を取ってきた時に、「すごい」と言ったらさらにやる気を出して成績を伸ばしたことがありました。
 「せっかくだから教えて」⇒部下の意見や提案に興味をもった場合はもちろん、わかりづらい時にも使ってみましょう。結局その提案が採用されなくても部下は納得し、次も提案してみようと思います。
 「そうくるか」⇒上司が思っていた事と反対の事を言われると、つい「でも」「だけどさ」「そんなはずはないだろう」と言ってしまいそうですがこれはNG。そう否定されると次の機会に部下は【どうせ言ってもな…】と何も言わなくなってしまいます。その時は「そうくるか」「そうきたか」とまずは否定せずに受け止めるつぶやきを使いましょう。また、サ行ではありませんが「確かにね」もいいでしょう。

 

【2015年6月号】 元気な企業は、 こんなことを している!

~時代適応力~
「時代を見抜く」ことは経営に必須の条件だが、これが簡単ではない。今回紹介する3社は私が最近取材した中でも「時代適応力」に秀でている企業である。

 

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消費者の「本物志向」に応える

私が住む横浜の住宅街。
街道筋から一本折れた小道に「その店」はある。駐車場スペースはかなり広く、車の出入りも多い。店の中に入ると商品を専用カゴに入れた人がレジ前に列を作っている。

お菓子屋のレジに行列?
この人気店こそ「シャトレーゼ」だ。「郊外のロードサイド立地がうちの基本です。店舗数は現在457店。北は北海道から南は鹿児島まで、地方店舗が多く、山手線内には出店していません」

齊藤誠社長はこう説明する。
「シャトレーゼ」は山梨県に本社を置く菓子の製造小売業である。

 

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「ナマのケーキにバウムクーヘンといった洋菓子、大福に饅頭、せんべいなどの和菓子、アイスクリームにパンまで自ら製造して販売しています」(齊藤社長)

店内を見ると確かにさまざまな菓子が並ぶ。和洋菓子を折衷で並べているから客層も多彩だ。

人気の一つに価格の安さがある。ショートケーキで280円、どらやきなら1個108円だ。

「卵や牛乳などを契約農家から直接仕入れ、自社工場で製品化、卸を介さない販売の結果です。東京に本社を置く会社が銀座の価格帯で全国販売するのとは違い、ふだんから親しんでいただける価格帯で販売しています」(齊藤誠社長)

齊藤社長には今日の経営の原点になった「ある経験」がある。

「30年ほど前、週末にロールケーキの増産に追われました。それまで冷凍の液卵を仕入れて使用していましたが、間に合わず近くの市場から卵を購入して手作業で割ってスポンジケーキを作ったのです。すると、いつもとスポンジのふくらみ方が全く違う。食べてみるといつものケーキより明らかにおいしい、と感じました。新鮮な卵を使うと安定剤や添加物を加えなくても味がいいし、口どけが違うことを実感しました。以来契約農場から仕入れた卵を自社工場内で割って使用しています」

この「卵の経験」がきっかけとなり、同社では素材を直接契約農家などから仕入れる体制つくりが始まった。

「清里高原でストレスのない育て方をしている牧場にこだわって搾乳をお願いしています。ここの牛乳は乳脂肪率が高く菓子つくりに最適です。小豆やイチゴなどあらゆる素材をこうした観点で仕入れています」

最大のこだわりは「水」と齊藤社長は言う。

「白州の名水を求めこの地に工場を建てました。ここの水は軟水で雑味がなく素材の味を引き立てますし、小豆を炊き上げても型崩れせずふっくらと炊き上がります。アイスクリームやゼリー、羊羹などにとって透明感のあるおいしい水は最高の素材です」

「山梨のシャトレーゼ」だからこそ菓子つくりの原料を地元で調達できるという最高の経営条件を持つ。山梨県の3カ所の工場で1500人が働く。

地元の農産物を素材に本物志向の消費者の評価に耐えうる品質をめざし、大きな雇用も生み出す。

地方発、日本の新産業のヒントが見えてくる。

 

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本物はいつも新しい

東京芝大門にある「大島椿」の本社で歓喜の声が上がった。

女性に大きな影響力を持つ化粧品美容のポータルサイト「アットコスメ(@cosme)」で2014年にもっともクチコミが多いと表彰が決まった瞬間だった。同時にフリーペーパー、シティリビング編集部が選ぶヘアケア部門のベストコスメにも同社のヘアオイル「大島椿」が選ばれた。

「化粧品会社にとって大変嬉しいことです。二つの受賞とも20代から40代を中心にした若い女性の評価によるものです。販売90年のロングセラー商品にこうした年齢の女性が興味を持ってくださるのはサイトの口コミによるものです。椿油という天然素材の商品を自分に合った使い方をしているという情報を広げていただいています」と岡田一郎社長。

「ヤブツバキという木の種を工場で圧搾して油を抽出しますが、1本の木から60mlの製品が1本か2本しかできません。しかし椿油はヒトの皮脂と同じ成分を多く含むため肌になじみやすく刺激が少ないことが評価されています」(岡田社長)

 

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昭和2年。岡田社長の祖父で創業者の岡田春一氏は、大学の卒論のテーマを探そうと全国を旅した。たまたま訪れた伊豆大島で女性の髪が一様につややかなことに気が付く。島民が地元の椿の種から採れる油を髪につけていることを知り、これを全国に販売しようと会社を設立した。まだテレビもない時代に「あんこさん」のキャラバン隊を組み、全国に大島の椿油をピーアールして歩いた。

「あんことは地元の言葉であねこ(姐こ)さん、女性の敬称です。絣の着物に帯の代わりの前垂れ、そして頭には手拭いを独特の形に巻いた女性たちは全国に知られるようになりました」(岡田社長)

こうして伊豆大島の椿油とともに「大島椿」は全国に知れ渡る。その後髪油だけでなくシャンプーやヘアケア用品、スキンケア用品など商品アイテムを増やしていくが、いずれも椿油を原料にしてきた。現在は東京八王子に新設した最新鋭の工場で生産しているが、天然の椿油を原料にしていることは昔と変わらない。

岡田社長はいま新しい事業展開に乗り出そうとしている。

それは食用油としての椿油の販売だ。

「これまで食用に使われてこなかったのは、一般の天ぷら油との間に大きな価格差があったからです。椿油はざっと10倍近い価格なんです」

しかし、それでもプロの料理人は椿油で天ぷらを揚げるとカラッとしておいしいと評価する。

「今年はイタリアでミラノ万博があります。日本館のレストランの天ぷらを私たちの会社の『椿てんぷら油』で揚げる話が決まりました。一般への普及はともかく超一流と言われるプロが椿油を選んでくれることがまず大切です」(岡田社長)

日本食が海外で注目される中、椿油がどう評価されるか注目したい。

 

時代の流れに先回りする

タキシードや礼服のメーカーとして知られる「カインドウェア」は明治27年創業、2014年で120周年となった。

「創業者は秋田藩の御典医でしたが東京に出てきて古着商を始めました。古着といっても着古した中古品ではなく既製服のなかった当時は、上流階級が着用した衣料品が民間に払い下げられていました。これからは洋服の時代と考え、その先駆けをなしたのです」

こう語るのは創業家4代目の渡邊喜雄会長だ。

「3代目は戦後、これからは庶民も礼節を重んじる必要があると略礼服を世界に先駆けて開発しました」(渡邊会長)

結婚式にも葬式にもネクタイを替えるだけで来ていける紳士用のダブルの略礼服は一世を風靡する。

 

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「ベビーブーム世代の結婚ラッシュ、その時必要なものとしてフォーマルウェアが大ヒットしたのです。テレビCMにこの世代に大人気だった田中邦衛さんを起用、大きな話題となりました」(渡邊会長)

いまこの世代が中高年となり同社はクルーズ用のタキシードやドレスアップスーツを提案している。

ところで「カインドウェア」には、もう一つの顔がある。

「それは介護用品です。現在は年商の20%くらいですが、5年以内に被服部門の売り上げを上回ることを目標にしています」と渡邊会長。

「創業95周年の時から5年かけて次の100年をどんな会社にするかと、グランドデザインを社内で考えました。いくつかの事業目標が上がりましたが、その中で焦点を絞ったのが『シルバー』でした。当時私自身が親の介護をしていましたが、介護用品に魅力的なものが少ない。早く高齢者になってあんな素敵なものを使ってみたいと思ってくれるような魅力的な介護用品の先駆者になろうと決めました」

 

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中でも主力商品はステッキだ。カラフルな柄物や折りたたみ式など豊富な品ぞろえを誇る。そしてボタン一つで折りたためるステッキも開発中だ。

「高齢者だけでなく、2020年パラリンピックまでに整備される情報インフラを取り込み、IT技術を込めたモバイルメディアステッキの開発を目指します」(渡邊会長)

藩の医者から洋服を先取り、礼服やクルーズ用ウエアを提案、そして介護用品……。

時代に合わせて本業さえ変えていく、その柔軟発想を見習いたい。

【2015年5号】 女性を活躍させるための メンタルケアのポイント!

アベノミクスの成長戦略の一つとして掲げられている「女性の活用」。
読者の職場でも女性ならではの感性や能力、特性を
活かすことを考えていらっしゃることでしょう。
ところが女性をどう扱っていいのか分からないという声もよく耳にします。
そこで、メンタルな部分でどのような点に注意していけばいいのか。
ビジネスマン向けのメンタルケア、メンタルヘルスのコンサルティングで
多くの実績を持つ田村綾子氏にうかがいました。

 

「女性の活用」って本気ですか?

 かつては女性社員というと、高校や短大を出て「入社して数年したら寿退社する」ことが一般的で、多くの人が望む幸せの形でもありました。
 それが、女性の大学への進学率が上がり、1986年に男女雇用機会均等法が施行されてからは、女性も男性と同じように総合職や専門職を選択できるようになりました。
 そしてここ数年では、女性の管理職への登用が注目されています。「能力とやる気さえあれば、女性も男性と同じように昇進させるべきだ」「女性を活用できない企業は繁栄しない」といった類の言葉を日常的に耳にするようにもなりました。しかし、これら言葉は必ずしも事実とは言えない気がします。
 私は以前、講演先の大手企業に勤める女性たちから、こんな本音を聞きました。「産休を取って復帰しても居場所がない」「産休をフルに取ったら、今の自分の席がなくなる」と。実はこのような話は、いろいろな企業で聞きます。出産休暇や育児休暇が制度としてあっても、実際には女性が望むような機能は果たしていないのが現状のようです。
 「女性の管理職者はお飾りに過ぎない」という考えや言葉は好きではないのですが、現状がそのような状況であることは否めません。ある勉強会でお会いした女性から、「私はこれ以上、出世できないんです」と聞かされたことがあります。その方は大手企業で一つの部門の長をされている方でした。すぐに役員にもなりそうな方だったので「なぜですか?」と尋ねると、「未婚で子供のいない女性が役員になっても、会社のイメージにはつながりませんから」とおっしゃいました。食事の席でしたので、すべてが真実ではないと思います。ただ、ニュースなどでも働く女性がクローズアップされる場合、家庭と仕事の両立が謳われていたり、またはシングルマザーで頑張っているなど、「家庭のある人」が少なからず条件のような感じがします。
 管理職になったとしても、部長職以上になる女性は少ないように感じます。また、営業部などの最前線の部門での管理職の登用はあまり聞きません。管理部門での登用というと一見聞こえはいいですが、経営に対する影響力はさほど大きくないように感じます。
 このような状況を見ていると、「本気で女性を出世させようと思っている経営者がどのくらいいるのでしょうか?」と問い掛けたくなるのです。

 

リーダーを望まない女性たち上司も女性も「覚悟」が必要

 一方、女性側はどうなのでしょうか。
 接客業などに代表されるサービス業など、女性の活躍なしでは語れない仕事はもちろんのこと、今やあらゆる職場で収益を上げるには女性の活用は無視できません。
 そこで本気で女性の活用を考え、環境を整えることに力を注いでいる方もいらっしゃいます。しかし私の元には「女性を活用したいのはやまやまだけど、当の女性たちが出世を望んでいない」という声がたくさん届いていることも事実。現状に不満はなく、リーダーになってしんどい思いをするのは避けたいのです。仮に女の子的な扱いであってもそれに満足してしまっています。
 さらに女性のメンタリティにも問題があるような気がします。「仕事へのやる気は男性に負けません」という思いが強いがために、自分が果たすべき仕事以外まで率先して引き受け過ぎて体を壊してしまったり、「なぜ、こんなに頑張っているのに評価されないのだろう?」と悩んだり。
 さらに女性の中には、「上司といえども、納得がいかない指示には従いません」と公言するなど、「組織で働く」ということを理解していない人もいるようです。これは女性に限ったことではありませんが、男性に比べて、やはり女性が圧倒的に多いように思えます。
 古来、男性の活躍の場であった「職場」へ女性が参画することは容易なことではありません。まして、そこで活躍をしよう、活躍をさせようと思うのなら、男女双方にやはり覚悟が必要です。そこで、せっかく「女性の活用」をするならば、少しでも良い環境になるように、これから述べるポイントは押さえておきましょう。

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指示へのリアクションで、反論し続けることが多い女性
 男性の管理者から、「男性の部下は問題はないけれど、女性の部下は苦手なんです」という相談を受けることが多々あります。女性の部下を男性の部下と同じように扱うのが「平等」だと考える上司がいれば、その方は、間違いなく苦労されるでしょう。
 男性が、女性の部下を苦手だと思う理由はさまざまですが、よく耳にするのが、指示に対する反応の違いです。上司からの指示が自分の考えと異なった場合、男性の部下も女性の部下も自分の意見は上司へ伝えます。ただ、すでに上司が決断したことに対しては男性の部下は黙って従います。悔しい気持ちがあっても、「決断に至っては自分に開示されていない情報もあるのだろう。まあ、仕方ないか」とあきらめ、必要以上に傷ついたりはしません。
 女性の部下の場合、特に仕事ができる女性は「それはおかしい!」と反論意見を述べ続ける場面が多いようです。またその意見が正しいものだから、なおややこしい! 
 つまり正論をぶつけてくるのです。そして引き下がらない。これには男性の上司は面食らってしまうでしょう。それも次の理由を知れば納得できるはずです。

 

幼い頃からチームプレーに慣れていない女性

 男性と女性の反応や感性の違いは、子どもの頃の遊びの習慣の違いが原因の一つといわれています。男性は子どもの頃から野球やサッカーなど、チームプレーに慣れています。例えばサッカーの場合、いくら優れたストライカーであっても、監督の指示に従わなければレギュラーではいられません。監督の考えが正しいからとか、尊敬しているから従うのではなく、そういう仕組みだから従うということに慣れています。
 しかし、女性はチームプレーに慣れている人は多くありません。そのため、理不尽だと思う指示にはつい口をとがらせ反論をしたり、時に自分の意見が採用されなかったと、ひどく傷ついたりしてしまうことがあります。
 子どもの頃の遊びの違いは、他の場面でも見られます。昇進したての真面目な女性に多いケースですが、本来、自分が果たすべき仕事以外のことに手を出し、オーバーワークから体を壊すことがあります。役割以外の雑務を率先して引き受けることが職場への貢献だと感じているのでしょう。
 また、「こんなに頑張っているのだから、必ず評価されるだろう」と期待を持つものの思うような評価がもらえない場合、ひどく傷つきます。チームプレーに慣れている男性はそんなことはありません。例えば野球の場合、一番バッターの役割は出塁することであり、ホームランを狙うのではないことを知っています。ソロホームランを一本打ったところで、後に続かないのであれば、一番バッターとして評価はされません。
 さらに、男性から「女性の部下はすぐ感情的になるから苦手」と言うぼやきを聞きますが、これは単にその女性が組織で働く(=チームプレー)の意味を理解していないことが原因のように思います。感情的になる女性が苦手という男性は、まず女性の部下には「組織の仕組み」を伝えることから始めてはいかがでしょうか。

 

女性リーダーは徐々に育てることがポイント

 男性の場合はいきなり「今日から君がマネジャーだ」と伝えれば、多くの男性は喜び勇んで行動します。普段からそばで見ている上司を手本に、自分なりにリーダーとして取り組み始めるでしょう。
 ところが、女性はリーダーとしての素質があるものの、それを望んでいない場合が多いことは先ほども触れました。いきなり「今日から君だ」と言われても対応できません。AKB48の元メンバーで〝絶対的エース〟と呼ばれた前田敦子さんですら、プロデューサーに指名をされてセンターに抜擢された時は、一人だけ目立つのは嫌だと言って大泣きしたそうです。
 女性リーダーを育てる場合のポイントは「徐々に」がおすすめです。
 最初は、限定的なマネジメント業務を任せます。例えば、1人か2人のスタッフの指導を頼みます。その場合は「君がリーダーだ」とは言わずに「ちょっとお願いね」と。そしてうまくできたのなら人数を徐々に増やし、それもうまくこなせるようになって初めて「今日から正式にリーダーをお願いするよ」と伝えるのが効果的です

 

女性は「いつまでもあると思うな、温かい言葉と期待」を覚悟せよ

 企業で働く男性と女性の関係を私はよく日本人と外国人の関係に例えます。日本へ旅行で訪れた外国人に対しては、たいていの日本人は親切です。しかし、住むとなったら話は別。住居や職業の規制から始まり、目に見えない習慣まで日本のルールをかなり一方的に押し付けます。つまり、女性は昇進争いや決定権を持たない立場の時は優しくされますが、そうでなくなった時点で周りの態度は一変するという覚悟を持つ必要があります。
 もちろん、昇進直後は、「頑張れよ」「期待しているよ」「これからは女性の時代だからな」など、温かい言葉を掛けてもらえるでしょうが、いつまでもそのような状況は続きません。これは、レギュラー争いをしているライバルのチームメートにいつまでも「頑張れ」と応援する選手がいないのと同じことです。
 周りにいつまでも優しく接してもらいたいと思う女性は、レギュラー争いに参加せず、チアリーダーでいたらいいと思います。ただ、チアリーダーとして需要のある年数は、そう長くはありません。だからといって男性は、若くないチアリーダーに心無い言葉を掛けたら、即退場となります。レッドカードと違って、一試合休めばいい程度のペナルティーにはならないので、ビジネスパーソンは周囲への配慮と品格を常に保ちたいものです。

 

女性管理職者は意外、服装で悩む!?

 組織の仕組みなど、とうに理解し、上手く立ち回り、活躍をしている女性を目にする機会も増えてきました。年下の男性部下がいるという女性管理職者も増えてきたことでしょう。
 昨今は、再雇用制度の充実もあり、親子ほど年が離れた男性部下を持つ女性管理職者も私の周りにはたくさんいます。また、60歳を過ぎても会社から必要とされる有能な男性社員もたくさん知っています。女性の管理職者と年上の男性部下という関係は、周囲からするといびつに見えるようで、当事者たちはよく「苦労しないか?」と心配されるそうです。私も最初はそう思いましたが、杞憂に終わりました。考えてみれば、つまらない見栄や意地がある人は管理職者に抜擢されませんし、再雇用もされませんので、問題はないようです。
 ただ、女性が昇進すると、服装に困るようで、よく相談を受けます。どのような服装が好ましいかは、職種や環境にもよりますが、共通のルールはあります。いかにも女の子気分の服装では馬鹿にされてしまいますし、だからと言って男性のようなダークスーツで、化粧も施していない女性の意見は男性社会では積極的には取り入れてもらえないでしょう。
 あまり難しく考えず、服装は信頼できるお店のスタッフに選んでもらうことをお勧めいたします。よほどセンスに自信のある人は別ですが、お店のスタッフは流行だけではなく、働く女性の好ましい服装をよく心得ています。同様に、お化粧も自己流でなく、定期的に百貨店の美容カウンターに通い、アドバイスを受けながら決めると外れがありません。どちらも無料で行えるものなので、ぜひ試していただきたいです。

 

女性の隠れた才能を見出すには

 ビジネスの中心は男性ですが、消費者の中心は女性です。旦那様の収入額にかかわらず、財布を握っているのは奥様というご家庭は珍しくありません。旦那様が運転する車を購入する場合でも、奥様の意見が反映されないケースは稀だと思います。自宅や別荘、ゴルフ会員権に至るまで、奥様の意向を完全に無視して購入できるものは意外と少ないのではないでしょうか。
 自社内の女性の意見を聞くということは、「お金を使うプロ」の意見を聞くことと同じことだと考えてください。自社内の女性の意見をうまく吸い上げ、取り入れることができれば、企業の繁栄にもつながります。もちろん、始めのうちはうまくいかないことも多いかと思います。女性社員に意見を聞いたものの、「感性でモノを言われてもなぁ」とか、「それだと利益が出ないんだよなぁ」など、すんなり意見は採用できないかもしれません。
 女性側も、いきなり「女性の意見を聞きたい」と言われても、戸惑う女性社員は多いはずです。まずは、ブレーンストーミングのように、話がまとまることを求めずに意見を言ってもらう場を作ることから始めてみましょう。女性社員を「女の子」扱いしていては、その女性はいつまでも「女の子気分」が抜けませんが、「信頼できる社員」として接すれば、その女性は必ず期待に応えてくれるはずです。

 

【2015年4月号】 部下がやる気を出す! 魔法の言葉 part2 【しかり方編】

部下のやる気は、上司のちょっとした言葉に左右されるものです。
特に「叱り方」は上司のリーダーとしての資質さえ問われることも。
どんな叱り方をすれば、前向きに行動できるようになるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。

 

まずは最初の声の掛け方が大切「クッションフレーズ」を使おう

Part1でも触れましたが、叱る前にはイライラしないよう自分の心の感情をコントロールしようと意識しましょう。それには、部下の長所を思い浮かべたり、過去のいい成績を思い出したりすると、感情的になるのを抑えるのに役立ちます。また、感情的になりやすい時間帯は避けるようにしましょう。例えば昼前はお腹が空いて怒りやすくなるとか、上司はそういう自分のクセや傾向も考慮しておくことです。
 そうして部下に声を掛けるわけですが、「ちょっと、いいか」とか「話があるんだ」とかは唐突過ぎて、「ちょっとってなんだろう?」「話ってなんだ?」と部下は緊張し、妄想的にいろんなことを拡大解釈して強いストレスを感じます。そこで「クッションフレーズ」という部下にも心の準備ができる言い方を使ってみましょう。例えば、
 「ちょっと嫌なことを話すけどいいかな?」
 「話しにくいことなんだけど、聞いてくれる?」
 これだと部下も「あまりいい話ではないな」と心の準備ができます。敏感な部下なら上司も言いにくいんだなと、上司の気配りを感じてくれることでしょう。

 

「クッションフレーズ」で叱る点をはっきりと告げる

 「クッションフレーズ」は、叱る点を明確にするとさらに効果的です。例えば「この前のミスで、あそこを直せば良くなることに気付いたんだけれどいいかな?」。こう言われれば部下も前向きに訊こうと思うはずです。
 また、以前と同じようなミスをして、前にも叱ったかもしれない場合、つい「たしか、この前も言ったよな!」と言ってしまいがちですがこれはNGです。もし実際は伝えていなかったとしたら部下は今初めて訊くことになり、「なんだこの上司は。自分が誰に話したかということも覚えていないのか」と上司としての資質を疑うのはもちろん、モチベーションも下がります。こんな場合は「私の記憶違いかもしれないけれど」とか「私の伝え方がうまくいかなかったかもしれないから、もう一度言うね」がいいでしょう。
 「前から気になっていたんだけど」もNGです。気になったという時間はなるべく短いほうがよく、「ふと思ったんだけど」「今、思った事だけれど」と言いたいですね。気になった時間が長いと「なんで今まで指摘しなかったのだろう?」と変に拡大解釈してしまい、不安感を増長させてしまいます。すると「早く終わんないかな」「嫌だな」となり、その感情が態度に出てしまいます。それを見て取った上司は「お前、人の話を訊いていないだろ!」と、ついに怒ってしまうことになりかねません。

 

褒め言葉を挟む叱り方褒める+叱る+褒める
 叱ることの目的は、次のアクションにやる気を出して取り組んでもらうことです。指摘して終わりではありません。
 例えば、営業成績はいいのに、書類に間違いがよくあるとか、提出が遅いとか、多部署からのクレームが頻繁にあるという部下は、叱っても内心は「売上をあげているのになんで叱られるんだ?」と思うものです。そこで効果的なのが、叱る事案の前後に「褒め言葉」を挟む叱り方です。
×【良くない例】
上司「小林君。君ね、書類を出すのがいつも遅いんだよ」(いきなり叱る)
小林「すみません(成績がいい分、帰りが遅くなるから仕方ないだろ)」(納得していない)
上司「きちんと守れよ。いくら成績がよくたってこんなことじゃチーフになれないよ」
小林「わかりました」(急速にやる気がしぼむ)
 叱って終わるよりは、褒める言葉や期待する言い回しで締めくくるほうが、部下のモチベーションも上がるはずです。
 【おすすめ例】
上司「小林君、今月も順調に売上をあげているね」(まず褒める)
小林「ありがとうございます」
上司「ところで、1つ気になる点があるんだ。書類の提出が遅れ気味なんできちんと守ってほしいんだよ」(改善すべきところを指摘)
小林「あっ、すみません」(素直に謝罪)
上司「ここのところずっと成績が良くて、昇格も見えてきているんだからもったいないよ。君には期待しているんだから、引き続きがんばって」(未来への期待感でモチベーションを上げる)
小林「はい、わかりました。申し訳ありませんでした」(さらなるやる気が出てくると共に深く反省)
 せっかく褒めてもらっているのに、上司に悪いことをしてしまったと反省すれば、その部下は一段とがんばって成績をあげることでしょう。
 さらに、その部下が優秀だったり、社内のトップセールスマンだった場合は、褒めるよりも「いつも助かっているよ」とか、「ねぎらいの言葉」がいいですね。

 

反発する部下にはオウム返しで
 先ほどの営業成績がいいのに叱られたりすると、「どうしてですか」「そんなのできないですよ」と反発される場合も想定しておきましょう。
 そんな時、つい「ちょっと黙って!」とか「なんか文句あるのか!」とか「口答えするな!」と怒鳴ってしまいがちです。もちろんこれはNG。そんな言葉を発したら上司自身の感情が突っ走ってしまいます。怒鳴った自分の声が意外と大きくて、怒鳴った自分が驚いて興奮してしまうからです。そんな場合、「納得できないようだね。君の意見を訊かせてくれないか」が無難でしょう。
 また、「〜と君は思うんだね」「〜と君は考えているんだね」というようなオウム返しも、部下は自分の意見を訊いてくれた、わかってくれたんだと満足し、そして「たしかにそうかもしれないけれど、私はこう思うんだ」と言えば、反発心を和らげて上司の言葉を訊くはずです。
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叱っても変わらないのは、やり方がわからないことが多い

 叱っても叱っても変わらない部下がいます。「この前も言ったじゃないか」はNGです。結局変わらないのは得てしてやり方がわからないことが多いようです。
 こんな時に、よく「自分で考えろ」と言ったりしそうですが、これは上司の勝手な言い草です。上司にすれば、自分で考えて答えを見つけたほうが早く成長すると思うでしょう。けれど、自分で考えてできるのなら、叱られることもなく、とっくにいい結果を出しているはずですから。
 そんな時は、「具体的に何をやったらいいと思う?」と質問してみましょう。これで何か方策があるのかないのかがわかります。部下に方策が無ければ、具体的なアドバイスや指示をすればいいのです。
 また、例えば提案書を持ってきたとします。前回と何も変わっていなかったり、前回と同じところが間違っていたとしても、どこか前回と違う点はないか、良くなっているところはないかを探しましょう。
 同じミスを繰り返すのなら解決策を「一緒に考えよう」と言えば、部下は安心します。どの段階でミスが起きたのか、時系列でたどったり、チャート図にしてみたり。指示待ちタイプの部下なら、2〜3の改善案を提示して、どれを選ぶかを考えさせるのです。

 

落ち込みやすい部下への叱り方

 最近の若者、ゆとり世代と呼ばれる若者たちの特徴として「打たれ弱い」とよく耳にします。そんなにきつく叱ったつもりはなくとも、酷く落ち込んでしまうのです。そういう落ち込みやすいタイプへの叱り方は前回も取り上げましたが、セミナーでも本当によく相談を受けます。
 まず「叱る時は、1つのことだけにする」ことです。誰でもそうですが、2つも3つも言われると、どうしたらいいのか混乱してしまいます。1つだけならその事に集中して取り組めるので、早く改善できることでしょう。
 次は前回もお話した「アメとムシ(無視)」です。「昨日の報告書だけど、累計数だけ直しておいて。随分良くなったよ」と褒めてアメを与え、小さなミスや一過性のミスはスルーします。あまり重要でない細かいミスばかりに目を向けていると、部下も何度も叱られるのは嫌なので、無難なことしかしなくなります。重要なことだけ叱るようにしたいものです。
 さらに「叱る基準を明確に」しておきましょう。打たれ弱い人は叱られることにいつも怯えています。どのようなことをしたら叱られるかをはっきりさせておくのです。少々のミスはスルーするけれど、それを隠すと叱るというようにです。

 

繰り返すミスにはアメとムシ(無視)

 誰もが経験していると思いますが、ミスを繰り返してしまう場合があります。そういう時は、常にミスを犯しているのではないだろうかと不安が心を支配してしまいます。気持ちはそこばかりに向いてしまって、本来の仕事に集中できません。そんな時は「そこは俺が見るから」と手離れさせてあげましょう。
 また、ミスを繰り返して萎縮していると、また同じところでミスをしてしまうもの。「また間違っているだろ!」と怒鳴るとさらに落ち込んで、またミスをしてしまい、どんどんぬかるみにはまってしまいます。ミスは同じ事案で繰り返すことが多いですから、その悪循環を断ち切るためにも時には「ここは直しておいたから」とか「この部分はB君に回したから」とアメを与え、小さいミスはムシ(無視)をする。まさにアメとムシです。
 そうすると甘やかして成長しないのではと思われそうですが、やがて責任ある立場になった時には自覚するようになります。長い目で育成することが肝心。欠点を打ち消すことで長所まで一緒に打ち消さないことです。

 

叱り過ぎてしまった場合

 打たれ弱い部下を叱った後、うなだれている姿を見て「さっきはすまなかった」などとは決して言ってはいけません。相手の反応からちょっと叱り過ぎたかなと感じても、謝ってしまうと叱った内容を否定してしまうことになります。部下も「なんだ。それほど深刻に受け止める必要はなかったのか」と勝手に解釈をしてしまいます。
 叱り過ぎたかなと感じた場合、「少し感情的になり過ぎたけれど」「言葉が足りなかったかもしれないね。納得できない部分があったかな?」と言うのはOKです。叱ったことを取り消すのではなく、感情的になったことを詫びるのは構いません。
 ただ、叱った後に気をそらすために家族や趣味の話をするのは無理矢理感がありますし、「一杯呑みに行こうか」も、いかがなものでしょうか。部下はしばらく上司と距離を置きたいでしょうし、呑み屋の席でまた叱られるのではないかと、ただストレスに感じるだけです。
 この場合、叱られて落ち込む部下の気持ちを楽にしてあげるコツとして私の経験では、叱った後はまったく別の仕事の話をするのです。「ところで、今度の展示会の打ち合わせだけど、いつにする?」とか、「そういえばB社への納品だけど手配は済んでいる?」とか。叱った話の仕事とは関係のない、まったく違う仕事の話をされると「まだ自分は必要とされている」「次はミスをしないようがんばろう」と思うものなのです。
 これらの言葉や言い方は部下だけでなく、同僚やクライアント、家族にも使えます。相手が気持ち良くなる言葉でコミュニケーションがうまくいけば、成果や信頼関係となっていいものがたくさん生まれてくるはず。まずは実践してみてください。