「部下が動いてくれない」の原因は実はリーダーがつくっていた
「そこまで言わなくても分かっているはず」とリーダーはとかく話を省略してしまいがちです。口頭で話されても書類や図版もなければ、指示内容は頭になかなか入ってこないものです。
次のような事例はよくあることでしょう。
吉田部長は、部門会議で提出する受注見込みのリスト作成をいつものように小林君に頼みました。小林君は確実に受注できそうなAランクとBランクの見込み客をリストにして部長に提出。それを見るなり部長が声を荒げました。
部長「小林君! 見込み客はたったの6件しかないのか? 新規を獲得する気持ちはないのかい?」
小林「そんなことはありません。新規先にも積極的にアプローチしています(急に何だ?)」
部長「どうして6件だけなんだ!(語気鋭く)」
小林「確実な見込み客だけをリストに入れました。Cランクを入れていないだけです」
部長「CランクやDランクも入れるんだよ!」
小林「えっ? いつもAランクとBランクだけでいいとおっしゃっているじゃないですか」
部長「部門会議だぞ。数がいるんだよ。新規にもアプローチしていることもチェックされるんだ。そんなことくらい空気を読んで判断できるだろ?」
いつもの会議資料では小林君は確実に受注が見込まれるAランクとBランクだけのリストを作成していたのです。しかし部長は、今度の部門会議には専務が出席するので、できるだけたくさんの見込み客数をあげて、アピールしておきたかったのです。
それを「空気を読め」と言われても小林君は困ります。部下が動いてくれない、という原因は実はリーダーがつくっているのです。
「分かっているはずだ」と伝える話を省略せず、全体像もきちんと伝える
こうしたことが起きないよう、前回も紹介しました「5W2H」を使って、漏れがないようにするのがいいでしょう。先ほどの正しい伝え方の例です。
「来週3月2日の木曜日(いつ)までに、営業本部の部門会議で(どこで)、専務を含めた参加者全員へ(誰に)報告するために(なぜ)、Cランク以上もリストアップした(どのようにして)見込み客リストを(何を)30部(数量)作成してほしいんだ」
また、慣れた頃合いを見計らって、わざと「How(手段)」を省いて伝えてみましょう。「どうやってやるかは任せるよ」と。部下は自分で考えて取り組むので勉強になりますし、「任せてもらえた」と励みになり、成長にもつながります。
そして、吉田部長が求める「空気を読んでほしい」のなら「全体像」をしっかりと伝えておきましょう。それには指示書が有効です。「5W2H」の「誰に見せるのか」「どんなシーンで使うのか」だけ書いても立派な指示書になります。
全体像は口頭だけではなかなか理解しづらいもので、指示書があると全体像が見えてきます。もちろん指示書は事前にリーダーが用意しておきましょう。指示書を見せながら部下に指示をしている最中に、一人で作成しているときは気付かなかったことがひらめくこともあるのです。
依頼した仕事の完成形を明確にしておく
部下が分かって引き受けたと思っていたのに、違うモノがあがってきたとき、失望や怒り、とまどいはリーダーなら経験はあるでしょう。出来上がってきてからでは、ときすでに遅し。間に合わないこともあります。しかしそれは部下のせいではなく、リーダーの伝え方に問題があるのです。
そうならないためにも、どういう形で仕上げてほしいのかまず「完成形」を伝えておきましょう。資料作成なら、ソフトはパワーポイント、エクセル、またワードがいいのか、サイズはA4でいいのか、縦か横か、ページ数は何ページくらいで、どんな図表や写真を入れるのかなど。依頼時にアウトプットの形をリーダーが決めておきましょう。
優先順位よりも「劣後順位」のほうが大切
部下にいくつもの指示を出すことはよくあることです。それが3つや4つになると、部下はリーダーに言われたことはどれもが優先順位だと思い込んでしまい、どれを先にやればいいのか混乱してしまいます。
こういうときは決まってリーダーは「なるべく早くやっておいて」とか「空いた時間にやっておいて」と言っているものです。これはNGです。
優先順位を付けて指示するのは当たり前ですが、今やらなくてもいい劣後順位の指示のほうが実は大切なのです。
「木曜日アップで頼んでいた会議の報告書は来週の月曜日でいいから、この資料のまとめのほうを先にやってほしいんだ」と。優先順位の高い仕事を1つ頼んだら、劣後順位の高い仕事も1つ作る。複数頼んだ仕事を確実に仕上げたいのなら、劣後順位が大切です。
「分かりました」はあてにならない
部下の「分かりました」はあてにしないことです。部下にすると、リーダーの話で「ここが分かりません」とは言いづらいもの。分からないままでやってしまうと当然指示したものとは違うものがあがってきます。そこで怒鳴ったところで時間もないのでリーダーが自分でやることに。そうなるといつまでたっても部下に任せられないので、部下の成長も止まってしまいます。
大切なのは確認すること。いくら5W2Hや指示書で説明しても部下が分かっていなければなんにもなりません。分かったかどうか、次のようなやり方で確認してみましょう。
◆復唱してもらう
単に「今、伝えたことを復唱して」なら、信用されてないのか、と部下は思ってしまいます。そこで「間違って伝えたかもしれないから復唱してもらえないかな」と言ってみましょう。部下も納得してくれるはずです。
◆こちらから質問する
部下が間違いそうなこと、判断に迷いそうなことはこちらから質問してみましょう。例えば「製造課のG部長がいなかったらどうする?」「横浜エリアの会議室が押さえられなかったらどうする?」とか。
◆まとめてもらう
「今、伝えたことをまとめてくれるかな。10分ほどで戻ってくるから」と、リーダーは一旦席を外すのもいい方法です。これだと、部下はまとめながら質問や分からない点もまとめることができます。
「スモールゴール(中間目標)」「確認時期」「場」を設ける
スパンの長い仕事を部下に頼む場合、ゴールまでモチベーションを保つのは難しいのは当たり前です。そこで、通過点である「スモールゴール(中間目標)」と、進捗に対しての「確認時期」「場」を設定しておくとよいでしょう。
◆スモールゴール(中間目標)の設定方法
例えばある報告書を作成する仕事ならば、第1段階として資料を集める、第2段階は報告書の最初の1章を作成してみる、という感じです。
もう少し具体的な設定例を見てみましょう。
【最終ゴール】 沿線のPR冊子を新しく企画。発行までの3カ月間に30件の協賛広告主を集める。6人チームなので1人5件が目標。
◎スモールゴールの第1段階⇒最初の1週間で各々が50件にアプローチ(電話営業)をする
◎スモールゴールの第2段階⇒2週目は5件の見込み客を訪問する
◎スモールゴールの第3段階⇒3週目は累計10件 の見込み客を訪問し、協賛広告主を1件受注する
◎スモールゴールの第4段階⇒4週目で累計15件の 見込み客を訪問し、協賛広告主を2件受注する
スモールゴールを定めると途中の過程で達成感を味わうことができ、だらけてしまったり、モチベーションの低下を防ぐことができます。
◆確認の時期と場の設定方法
部下にうまく伝えても「確認」を怠ると失敗する可能性が高まります。1週間過ぎても何もやっていなかったとしても、途中の確認があればリカバリーできますし、方向性が違っていれば修正して、目標達成できるよう指導ができます。
また、リーダー自身もその案件が初めてならなおさら確認は大切でしょう。何かトラブルがあってもすぐに対応できます。
「確認時期」と「場」は、例えば毎週水曜日午後 13時からミーティングを開くときちんと決めておきます。そして、困った事、失敗した事を報告してもそれだけでは評価は下げないことをはっきりと言っておきましょう。逆にトラブルやリスクが起きている事を隠すほうが評価は下がると。
また、朝礼の後などに個別に報告してもらう場を設けるのもいいでしょう。メンバーの前で失敗事を話すのは恥ずかしくて報告をためらうことも防げます。
メールで伝えるには注意が必要
メールで部下に仕事を依頼したり、指示したりすることもあるでしょう。メールは便利ですが、デメリットもあるので注意が必要です。
◆件名は見てすぐにわかるように書く
◆本文は5W2Hを意識して簡潔に書く
◆曖昧な言葉や形容詞は使わない
◆CCの人たちはほとんど見ない、と考えておく
◆叱るときには使わない
◆急ぐとき、複雑な案件は送信後に必ず電話か、直接話すようにする
他、たくさんの商品を扱う会社でよくあるのが、生産中止になったり、価格が変更になったりした商品情報を従業員に一斉メールしますが、これは危険です。そもそも相手が読んだことを前提にするのは危ないことなのです。そういう場合は朝礼等で伝えるようにしましょう。
繰り返しますが、叱る内容をメールで送るのは避けましょう。メールは履歴で残りますし、顔が見えないので、言葉は何通りの解釈にもとれます。よけいな想像をしてしまい、部下は多大なストレスを感じるものです。
一方、褒めるのならメールでも問題はなさそうですが、口頭で言われるほうが相手はうれしいものです。リーダーだって気持ちがいいはずですから、せっかくの喜びは共有したいものです。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)
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【2017年1・2月合併号】部下のやる気を引き出す!リーダーに必要な「伝える技術」Part1
部下との人間関係は良好となり、ストレスもなくなり、業績もアップ!
セミナーや研修で相談を受けることで多いのが「部下にこちらの意図がうまく伝わらない」という悩みです。
私もかつて同じ思いを抱いたことがありましたが、私の場合は上司の影響が考えられました。その上司の指示がとても分かりにくかったのです。
A事案の対策をどうするのか終わらないうちにいつの間にかB事案の話になって、あちこちに拡散し、いったい私はどうしたらいいのか分からなくなることがよくありました。
そんな上司の影響をもろに受けて、いつの間にか私は部下に、
「おはよう。ちょっとお願いしたいんだけど、まずA社の見積もりを明日までに作成してよ。それから昨日のミーティングの議事録を部長に見せるから今日中に作成しておいてね。あっ、前回と同じ方向性だからすぐにできるでしょう。それと、店長会議があるから、エリア別の売上表を作っておいて。なる早でお願い」
と、まくしたて、できなければ怒鳴りつける。そうするうち、チームの成績は社内で最下位、退職者が何人も出て、とうとう私は降格・異動となってしまいました。
異動先の上司は伝え方が上手な方でした。そのことに気付いた私は伝え方の勉強をするようになったのです。それからというもの営業成績は常にトップ、課長にも再昇格。いろんな部署からチームマネジメントの相談も受けるようになりました。
つまり「伝え方」に気を付けていれば、部下との人間関係は円滑になり、ストレスもなく、しかも業績もアップと、いいことづくし。私が実体験から学んだ「伝える技術」をご紹介しましょう。
「伝えたつもり」は、ほとんど伝わっていない
「伝える」と「伝わる」は違います。「伝える」に「受け取る」がセットになってはじめて、「伝わる」わけです。
つまり、「部下には、きちんと全て伝えたんだが……」という「伝えたつもり」が、ほとんど伝わっていないのは部下が受け取れていないからです。
ではなぜ部下は受け取れなかったのでしょうか。要因の1つに、知識、経験の差があります。リーダーはこんなことは分かるだろうと一方的に「伝えたつもり」になってしまいます。
私がかつて旅行会社に勤めていた時の新人時代、上司から「エアーのリザーブは済んだか? ホテルのアーリーチェックインは可能か?」と聞かれましたが、チンプンカンプンでした。
新人でも分かるように言うと「航空機(エアー)の予約(リザーブ)は済んだか? ホテルのチェックインを早めること(アーリー)は可能か?」になります。新人は専門用語にはまだ慣れていません。先のは部下への配慮に欠けていたのです。
また、リーダーの中には「同じことを言わすな」的な人がいて、質問しづらい、聞き直してはいけないと部下は思い、分からないままになってしまうこともよくあります。
「伝えた」のなら、部下が「受け取る」確認の時間をつくりましょう。本当に分かったのかどうか確認をするわけです。そこで便利なツールとなるのが5W2Hのシート。「食い違うといけないから念のために書いてもらえるかな」と書いてもらい確認し合えば、はじめて「伝わった」ことになるのです。
「やめてほしい伝えた方」をあなたも思い出して
あなたもかつて指示を受ける立場だった時のことを思い出してみてください。「あの人の指示は分かりにくかったな」と。大切なのは部下の視点を考えることです。「やめてほしい伝え方」をいくつか挙げてみましょう。
・たくさん指示されて、どれから取り組めばいいのか分からない。
・圧迫感があり、質問しにくい雰囲気がある(質問すると「前にも言っただろ」と怒鳴られた)。
・抽象的な内容で、2通り以上の解釈ができてしまう。
これらの場合、次のように心掛けてみましょう。
◎大事なポイントに絞って説明し、優先順位を明確に言う。
◎自分の表情に気を付けて、質疑応答を図る。
◎具体的な言葉を使う。
ここで特に気を付けたいのは、形容詞や副詞をあまり使わないようにすることです。「なる早で」「大至急で」「ざっくりやっといて」「適当にやっておいて」「急ぎの案件じゃないんだけど」「来週ぐらいにやっておいて」などはNGです。
「○日の○時までに仕上げてほしい」と日時をはっきりと伝えましょう。
そして、部下に伝える前にリーダーは時間をつくることです。先の5W2Hシートを使って伝える内容を整理してみましょう。思いつきで伝えることは一番避けたいことです。やめてほしい伝え方というのは思いつきが多いものです。
やるべきことをすべて書き出しておく
思いつきで、あれもこれも指示すると部下は必ず混乱してしまいます。ですから、伝えたいことは予めリストアップしてみましょう。準備する事、調達しておくモノ、誰にやってもらうのか等。そのリストを部下に見せながら他に漏れがないか確かめ合いながら、指示を出すのです。例えば新商品の説明会を行うとすればそのタスク(仕事・課題)は、
・会場の手配
・ホワイトボードやプロジェクター、マーカー等の備品が揃っているかの確認
・商品を並べる台(持ち運びできる場合)
・お茶や水、コーヒーの手配
・配布資料のレジュメの作成
・配布資料の印刷
・当日の講師を企画課の○○さんに依頼する
・招待したいお客様のリストアップ
・招待客への連絡(メール、DM)
・スケジュールの作成
・当日の受付スタッフを確保
こうして漏れがないようにすることが大きなポイントです。漏れがあると一からやり直しになったりしますから。
そして次は、分かりやすい伝え方になるように順番の工夫をします。このタスクは社内の○○課に頼んで、このタスクは社外に発注して、という感じです。これをチャンクアップといいます。チャンクとは「かたまり」という意味で、全体像を把握しておくためにも大切なことです。先のタスクをチャンクアップすると下図のようになります。
次は、イレギュラー、やり直し等も想定しておくことです。
そして、どこで進捗確認するかも決めておきましょう。そのためにもタスクのチェックリストを作成しておきます。
部下は、例えば説明会まで3週間あるとまだ時間があるからいいやと思い、2週間ほど過ぎてからやり出すもの。それだともう間に合わないことだってあります。「今日から水曜日と金曜日にチェックリストに沿って進捗確認をしていくから」と言えば、すぐに取りかかるでしょう。
「これは伝えない」という「引き算」も大切
チャンクアップしたのなら、「これはまだ取り組まなくてもいい」というタスクをリーダーは判断しておきましょう。つまり、大切なことだけをまず伝えるようにして、他は省くのです。これを「引き算の発想」と私は呼んでいます。
例えば先の新商品の発表会の準備タスクなら、A君に「招待したいお客様リストの作成を今週中にやってほしいんだけど、作成が終わった時点で報告してくれるかな」と伝えます。これならA君はリスト作成に集中して取り組めます。リーダーはリスト作成が終わった時点で、次の仕事を指示すればいいのです。それをリスト作成の次はこれ、その次はあれをしてと言ってしまうと、A君はやる前から混乱してしまうでしょう。
言葉を増やせば増やすほど、部下には伝わらなくなるのです。「何を伝えるのか」は大切ですが、「何を伝えないか」というのもとても大切だといえます。
そしてNGは、リーダーの感情・気持ちを言ってしまうのは避けましょう。「専務が早くやってくれって言うんだよ。まいったよ」とか。余計なことは言わないようにしましょう。
◎NGな伝え方
「午前中の会議でね、専務の説教が長くて大変だったんだけど。次長からA君の新規獲得数が少ないと言われたんだ。訪問件数も少ない気がするな。見込みの数はどう? どういう風にトークしているの? 売上も低迷しているしね。新規に力を入れてよ」
◎伝わる伝え方の例
「A君、最近新規の数が減っているようだね。訪問件数を1日1件でもいいから増やしてみようか。やってみて、来週の水曜日のミーティングで状況を報告してくれるかな」
シンプルがいいのです。A君も新規訪問を増やせばいいので、すぐに取り組むことでしょう。
曖昧な言葉は避け、数値化して伝える
あと、伝わっていない要因の一つに、「分かりにくい」というのがあります。先ほど、具体的な言葉を使うことと述べたところで、「なる早で」「大至急で」という形容詞や副詞をあまり使わないようにするのと同じです。
例えば「今週は新規開拓を徹底的に取り組んでほしい」の「徹底的」って、どの程度なのかとても曖昧です。こうした曖昧な言葉は、はっきりと数値化すれば、無理なく動けますし、チームで共有することも簡単です。
——————————————-
【曖昧な言葉】
「営業力をアップしよう」
▼
【伝わる伝え方の例】
「売上を前年同月比で10%アップさせる」
【曖昧な言葉】
「積極的に行動すること」
▼
【伝わる伝え方の例】
「今週中に1人1件の企画案を提出すること」
【曖昧な言葉】
「既存顧客に重点を置く」
▼
【伝わる伝え方の例】
「リピートオーダー率を15%アップさせる」
——————————————-
このように行動レベルを数値化すれば、具体的に行動ができるはずなので、ぜひ試してみてください。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)
【2016年12月号】ドラッカー理論を活かして中小企業が生き抜く作戦は、これ! 「小規模で 面倒くさい独自化戦略」
独自化(ニッチ)戦略の基本とは
ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』で、ニッチ戦略には2つの狙いがあると語っています。1つは小さな領域において、実質的な独占を実現することを狙いとすること。2つ目は競争に免疫になろうとする戦略であり、挑戦を受けることさえないようにすることを狙いとしています。
ニッチというと「すき間」を連想する人が多いと思いますが、「独自化」という言葉に置き換えたほうがわかりやすいので、「独自化戦略」を実現する視点で見ていくことにしましょう。
独自化の基本的な考え方としては、下の表をご覧ください。
■A領域は、追随したいし、追随できる状態にありますが、過当競争の領域です。
■B領域は、追随したいけれど、能力的に追随できないので追随しない領域です。
■C領域は、追随できるけれど、面倒くさいし、儲かりそうにないので追随しません。
■D領域は、追随できないし、面倒くさそうだし、儲かりそうにないので追随しません。
特別な能力を持っていない普通の中小企業は、C領域を目指すのが現実的でしょう。というのは、C領域で小規模事業に留めておけば大企業の追随防止策になり、面倒くさい分野なら中小企業も新規参入をためらい、真似される防止策にもなるからです。これを基本に述べていきましょう。
独自化戦略その①
小さな市場でオンリーワンを目指すこと
独自化と差別化は違います。「差別化は競争を前提」にしているからです。
競争のない未開拓市場「ブルー・オーシャン」を狙えといいますが、そういう魅力的な市場は先のA領域になることが多いので、参入防止策を考えないと独自化戦略にはなりません。
ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中でニッチ戦略を「生態学的地位(エコロジカル・ニッチ)を確保する」という言い方をしています。
いわゆる、動物が天敵から逃れて生き残ることですが、動きの遅いナマケモノが生きながらえているのは、獰猛な動物がやってこない高い樹木の上部にいるからです。これが生態学的にニッチなわけで、こうしたことを意識すると戦略になります。逆に言えば意識しないから儲からないということになります。
例えば小さな制作会社が、いろんなクライアントの社内報をコツコツと作っているとします。社内報って、載せる項目は多いし、こまごまとした取材を毎日のようにしなければならないので面倒くさいですよね。大手の出版社がそれを手がけることはまずないでしょう。そんな領域で、社内報制作のスペシャリストを目指せばいいのです。
つまり、独自化とは小さな市場でオンリーワンになることです。
独自化戦略その②
限定されたニーズに対して自社の強みを活かす
自分たちが目指す理想の企業像を設計してみましょう。大企業になりたいのですか? 規模を広げれば広げるほど競争は激しくなります。そこそこ儲けることができる規模のビジネスモデルを設計することが大事なのではないでしょうか。
独自化戦略その①の小さな市場とは「限定的なニーズ」であり、そこで自社の強みを活かせば、独自化事業となるわけです。
船で例えるとわかりやすいでしょう。石油を運ぶには数十万トンという大きな船が必要ですが、小さな湖なら手こぎボートで十分。どんな小さな企業にも得意な領域があるはずです。よく零細企業の経営者が「うちは大企業ではないので」と言うのを聞きますが、大企業と中小企業を比べても意味はありません。そもそもマンモスタンカーと釣り船では、機能が違うからです。
独自化できる対象市場を絞り込むこと。つまり、大企業と勝負しないですむ小さな市場を、自分たちの舞台とするわけです。
それが独自化戦略であり、独自化ができれば、あらゆる企業にとって目標となる「経常利益率10%」も達成できるはずです。この経常利益率10%はいわば独自化を計る物差しという見方もできます。10%を超えれば設備投資だけでなく、人にも投資ができ、将来に手が打てるようになります。
独自化戦略の事例
①対象市場を徹底的に絞り込む
ここまで述べてきた独自化の考え方を説明するのに、いい事例がありますので紹介しましょう。
陸上競技用品を造る辻谷工業の砲丸は、オリンピックなどの世界の競技大会でトップシェアを誇っています。というのは、辻谷工業が造る砲丸は、重心が完全に球の真ん中にあることから「魔法の砲丸」とまで言われており、真似をしようとしても面倒くさく、しかも市場はとても小さい。誰も追随しようと思わないでしょう。つまり、辻谷工業は独自化ができているんです。
②強者の既存の利益に反することをする
アサヒ飲料の『ワンダーモーニングショット』は朝専用缶コーヒーという独自化で成功しています。缶コーヒーのトップシェアは、コカコーラの『ジョージア』。いつ飲んでもおいしいというのがコンセプト。ところが先の『ワンダーモーニングショット』は朝だけおいしいと言っているので、『ジョージア』は割り込めません。強者の利益に反することで独自化を目指したのです。
マーケティングによると朝コーヒーを飲む人は40%だそうで、『ワンダーモーニングショット』はそこにターゲットを絞ったわけです。先の①にも当てはまります。『エビスビール』にしてもそうでした。以前、価格競争している中で、唯一「ちょっと贅沢なビール」として根強い人気を得ていました。既存の利益に反する独自化の好例です。
③業界では非常識なやり方に取り組む
次は「雨漏り調査」です。業界では普通、無料で雨漏りを調査しますが、雨漏り110番グループは有料で調査(修繕工事は別途提案)をします。もちろん、依頼者のほとんどは5万円~10万円かかると言われると「結構です」と断ります。けれど、中にはそれでも見てほしいと依頼する人もいるのです。それだけの費用をかけるのですから、かなり細密な調査を行います。雨漏りの原因は単純なものではなく、徹底して調査をしないと判明しないそうです。
つまり、お金を払ってでも原因を突き止めてほしい人をターゲットにしているのです。業界から見たらこんな非常識なやり方はありません。けれど他には追随できない独自化で、順調にこの事業を展開しています。
④従来では儲かりそうにない事業に挑む
「俺の株式会社」が展開するのは、腕利きのシェフが作るフレンチやイタリアン等の立ち食い店です。立席にすることで収容人数を高めると同時に回転を速めて低価格を実現。高級料理がリーズナブルな価格で食べられるというコンセプトは、既存の高級料理店は介入できません。ただ、どんどん店を増やしていますから、料理人の確保の問題が出てくるでしょうね。そうなると成長ではなく膨張になります。しかも資金力のあるところが追随してくるかもしれません。冒頭のA領域になれば、新たな舵取りが必要になってくるでしょう。
⑤手間のかかる対応をきっちりする
美容室で使うノンシリコンのオリジナルシャンプーですが、OEM(相手先のブランドを製造)で作るとなると通常のメーカーは3000本以上でないと受けないそうです。ところが名古屋のノースポイントという企業は50本から造ります。わずか50本の製造はとても面倒くさいので、まず大手などのメーカーは参入しないでしょう。ただ、ノンシリコンシャンプーは1本数千円。ですから造る側も面倒くさい分、いい値で受注できるのです。
⑥高度な技術を要する分野に取り組む
東京の岡野工業が開発した痛くない注射針。わずか0.2ミリの高度な金属加工技術は世界屈指のものといいます。当初、この企画を100社以上のメーカーが「できない」と断ったそうで、実現できたのは岡野工業だけでした。市場も小さく、まさに独占ですよね。
こうした事例を組み合わせて取り組んでもいいのです。ドラッカーは、「戦略は組み合わせたほうがいい」と言っています。組み合わせてオリジナル=独自化すればいいのです。
小規模事業で、面倒くさいことで儲けよう
まとめますと、大企業の追随防止策としては、大規模よりも小規模に留めること。広がりだしたら、縮小することです。
一方、同じ中小企業の参入防止・真似の防止策は、ある部分だけは痒い所に手が届くようにする。面倒くさいけれど人の技能・手間をたくさん加えて、機械化させないことです。つまり、中小企業は「手間のかかる面倒くさいことで儲けよう」ということです。
ただ気をつけたいのは、かなりの手間をかけ、他ではやっていないことをやるので、それに見合う料金をもらいましょう。安くすることはありません。下請け根性から抜けだせないところはこうした手間を無料でやってしまうのです。だから儲からない。面倒くさいことに取り組んでいる価値に対する誇りを持ってください。1度値引きをすれば、さらなる値引きを求められます。社長ほど値引きをするものです。下請けではなく、パートナーシップという意識で臨みたいものです。
【2016年11月号】実力を100%出せる認知科学的なイメージトレーニング法
人前であがらない方法はないのだろうか? と思ったことが誰しもあるはず。本番でも実力が出せるという認知科学を活かした今、注目のトレーニング法で指導する山本教夫氏にうかがった。
人工知能の開発分野でもある認知科学を活かしたメソッド
絶対に失敗したくないときに、緊張することなくいつも通り、練習通りの力が出せたらどんなに良い結果が得られるだろうと、誰しも考えたことがあるでしょう。
その解決法のひとつが、認知科学を基にした目標達成メソッドであり、大脳生理学による脳の中で起きている現象と、認知科学の観点からアウェーでもホームのように振る舞えるイメージトレーニング法なのです。
認知科学とは、「心はどのように働くのか」といったように、人間の知覚・記憶・思考・推理などの高度な情報処理機構の解明やコンピューターでこれらの機能を実現する総合科学。例えば、人の心を機械が理解できるようにして人工知能を作ったりする分野です。
以前の心理学などでは心の仕組みの中身はわかりようのないブラック・ボックス(以下B・B)としていました。そのB・Bに、こういう入力(刺激)をすれば、こういう出力(反応)がでる。入口と出口ばかりのデータをとっていたのです。
そのB・Bをしっかり研究していこう、数式化していこうというのが認知科学といえます。今回ご提案するプレゼンテーション(以下プレゼン)であがらないイメージトレーニングは、そうした認知科学の考え方を基にした、どなたでも簡単に取り組めるものです。
アウェーで緊張するのは誰もが本能として持っていること
さて、そもそもなぜ人は、人前に出るとあがるのでしょうか。そこからお話していきましょう。
サッカーの試合でよく使う「ホーム&アウェー」という言葉があります。ホームでは落ち着いて実力を発揮できますが、アウェーでは緊張して思うように働けないということがよくあります。そのことは大昔、狩猟時代にまで遡って、人間の本能に組み込まれてきたことなのです。
狩りに出掛けるときは身体能力を上げなければうまく狩りはできません。いわゆる興奮物質のアドレナリンなどをたくさん出して、視覚を集中させて獲物を見つけ、薮の中から動く音を聞き分ける聴力を研ぎすませる。五感の感度を上げなければ、普段より身体能力を上げて走ったり、打ったり、投げたりできません。
つまり、ホームから、狩りのためにアウェーのフィールドに出れば、五感を鋭くさせるために緊張することは、人の本能に備わっていること。普段と違うところに行けば緊張する。これはごく当たり前のことなのです。
イメージトレーニング①
プレゼンする相手は予定より多く想定する
こうして見てくると緊張というのは、元々生命維持のためのものであって、何も悪いことではありません。それをうまく活かすのが、これからお話するイメージトレーニングなのです。
得意先でプレゼンをするという場合を想定して見ていきましょう。人前で話す時、緊張するかしないかの境目は、「人数」である場合が多いようです。昔は「人と思うな、カボチャだと思え」と言われたりしましたがそんなのは無理な話です。
もし相手が10人ぐらいだというのが分かっていれば、イメージトレーニングとしては30人、40人もいると想定してみましょう。イメージトレーニングはハードルを高くしておくのがポイント。すると、本番では「なんだ、10人しかいないのか。思っていたより少ないから気楽に話せるな」と思えるようにするわけです。
イメージトレーニング②
プレゼン場所を実際に見ておく
先ほど話しました、緊張させる心のB・Bが何でできているかといえば、それはこれまで見聞きして経験した事が溶け合っているというか、絡まり合ったものでできているのです。それが今のあなたの心のB・Bといえます。
そこへ、今まで会ったこともない人の前で、経験した事のないたくさんの人数の前で、プレゼンをやるというのは、そのことに対応できる経験値を持ってないわけですから、あがって当たり前。完全にアウェーです。
ならば、そのB・B内を書き換えればいいのです。B・Bは経験でできていますから、例えば、プレゼンの場所がわかっていれば、可能なら実際にその場所に出向き、見ておくのです。それが一つの経験となってあなたのB・Bに組み込まれます。
イメージトレーニング③
セミナーやミーティングで雰囲気をつかむ
会議室のような場所で行われる数十人程度のセミナーやイベントがあれば、参加してみましょう。どういう雰囲気があるのかを五感で感じ取るのです。部屋の大きさ、明るさ、マイクの響き具合、窓の配置、人の雰囲気といった経験の材料を仕入れるのです。
また、自社の朝礼や会議などでたくさんの人が集まる機会でも構いません。ほんの数秒でいいので、前に出てその場にいるみんなの顔を見ておきます。
先のセミナーならわざと少し遅れて、壇上近くのドアから入ってみてください。一斉にあなたを見るかもしれません。でもそれが、数秒のことでも「人前に出る」という経験の材料になります。
つまり、五感でリアルに感じたことをイメージで再現できる材料をなるべくたくさん仕入れましょう。材料があればそれだけイメージしやすくなります。
イメージトレーニング④
朝起きたところからイメージをスタート
イメージトレーニングを行うには、集中できて、なおかつリラックスできるような場所が望ましいです。ソファやイスなど、ゆったりと腰をかけて、身体がリラックスできる姿勢を作ります。
軽く目を閉じます。そして、朝起きたところからイメージしてみましょう。顔を洗い、美味しい朝食を食べ、勝負服を着て、元気よく出勤します。そして取引先へうかがい、会議室に通されます。そこにはたくさんの人が座っていて、あなたは颯爽と壇上に立ち、考えてきた企画の素晴らしさを淀みなく説明するのです。聴衆の誰もがあなたに関心の目を向けています。想定する質問にも的確に答え、あなたは大きな手応えを得て、壇上を降りていくのです。
こうしたイメージトレーニングを繰り返すことで、B・Bが変わってきます。B・Bを構成する大きな要素の一つが「無意識」と呼ぶ領域なのですが、実は騙されやすいという面もあります。リアルなイメージトレーニングを何度も何度も繰り返すと、実際にそうしてきたんだと勘違いしてしまうのです。イメージトレーニングというのはその勘違いを利用するという側面もあります。
イメージトレーニング⑤
イメージする絵に自分の姿があってはダメ
男女の違いは、これは私の主観ですが、男性のほうがあがりやすいでしょうね。
最初に言いましたように、男性はホームから外へ出て狩りをしに行きましたが、女性はずっとホームにいます。女性は狩りのためにアドレナリンを出す必要がないので、緊張することがあまりなかったでしょうね。
ここで一つ注意点があります。イメージする絵の中にあなた自身がいてはだめです。あなたが壇上でプレゼンしている姿を思い浮かべてはいけません。実際のあなたは鏡でも見ないかぎり、自分の姿は見えませんよね。壇上で話すあなたに見えているのは、あなたのことを見ているたくさんのクライアントたちの顔のはずです。
フィギアスケートで3回転ジャンプのイメージトレーニングでも、自分が回転している姿をイメージするのではなく、自分を中心に周りの景色が回転している絵となるはずです。
ですから、会議室で後ろから見ている光景をイメージするのではなく、壇上から人の顔を見ているという絵にしなければイメージトレーニングになりません。
実際のプレゼンで…①
楽しそうに聞いてくれる人を探す
とはいえ、実際のプレゼンとなると、あんなにイメージトレーニングしてきたのに、現場で予想外のことがあって一気に緊張のスイッチが入ってしまう。当然、そういうこともあるでしょう。
そういうときはよくやってしまうのが、つい面白くなさそうにしている人を見てしまうことです。そうなると意識はその人のことばかりが気になって、「私のプレゼンはつまらないんだ」とネガティブな感情が起こり、あがってしまって、実力が出せないことになってしまいます。
そういう場合は、楽しそうにしている人、聞いてくれそうな人、よく頷いてくれている人を探すのです。そして、意識してその人に向けてプレゼンするといいでしょう。肯定的な雰囲気の中に自分を置くと気分は安らぎ、元気も出てきます。
実際のプレゼンで…②
目的を明確にし、熱意で臨む
そもそもですが、大切なのは、なんのためのプレゼンか、ということです。プレゼンの目的をしっかりととらえておくことが大切です。やらされている感があってはうまくいきません。
何を伝えたいのか。私はこの商品やサービスのこういうところに惚れ込み、これを最大限に活かす素晴らしいアイデアを考えてきた。このアイデアは御社にとって必ず利益をもたらす、という熱意を伝えること。それがプレゼンではなによりも必要となってきます。
目的に向かう熱意がないと、いくら材料を仕入れてきてもうまくいきません。あくまでもプレゼンは目的に近づくための手段の一つ。熱意があれば、プレゼンそのものも変わってきます。イメージトレーニングも熱意があればよりうまくいくでしょう。
【2016年10月号】一流の秘書だからわかる一流のリーダーの条件
日本の秘書のイメージとは違い、ビジネス・パートナーとして扱われてきた能町氏は、「一流」と呼ばれるリーダーたちには共通の考え方や行動、人間性があるという。
日本人では数少ない上級米国秘書検定の合格者でもある能町氏にうかがった。
厳しいミッションを成し遂げるエグゼクティブたちを見てきた
「秘書」というとどんなイメージをお持ちでしょうか。スケジュール管理、来客の接遇、書類整理、そしてお茶汲み、と思われているかもしれませんが、それはほんの一面。実際は上司がいかに業績を上げるかをサポートする強力なアシスタントといえます。
私の上司はどなたも日本が初めてという方ばかりでした。しかもわずか3年で成果を上げて帰国しなければなりません。そんな厳しいミッションを背負うということは、帰国後は本社でトップマネジメントに携わるような優秀なエグゼクティブである証拠です。国際的なビジネスの最前線で活躍してきた彼らの交渉術やプレゼンテーション術、チームのオペレーション術、プランニング力、そして人間性などを間近で見ることができたのはとても幸運でした。どれをとっても「一流」と呼ぶにふさわしい方ばかりだったからです。
また、私はエグゼクティブ・アシスタントとして上司のメールを見ることができるアクセス権を与えられていました。でないと、上司の不在時に取引先から問い合わせがあっても、咄嗟の判断なんてできません。時には上司に経営上の意見も求められます。経営企画室という部署はありますが、違うファンクション(機能)として、彼らの右腕となって動くことができる環境がありました。
「鷹の目より鋭い」と言われた秘書の目
言語の違う国で、わずか3年で成果を上げなければならないことは厳しい条件ですが、できなければ、自分の未来はないことを彼らは知っています。いわば命がけで日本にやって来ているので、そばにいる秘書の私をビジネス・パートナーとして見なさなければやっていけません。私自身もそんな彼らと共に仕事をすることで成長できたと思います。
ある時、「秘書の目は、鷹の目よりも鋭いね」と言われたことがあります。一流のビジネスマンの考え方や哲学、行動に直に触れていますから、物事を見る目も養われていくはずです。そういう秘書の目に、上司は自分のことがどのように映っているのかは、私が寄稿しているWebコラム※の反響でも感じることですが、とても気になるところでしょう。
そこで、今回は、私が「一流」と感じる上司、リーダーたちにはどんな共通項があるのかをお伝えしたいと思います。
※ダイヤモンド社が提供するビジネス情報サイト[diamond on line] の
「秘書だけが知っている仕事ができる人、できない人 能町光香」は何度もアクセスランキング1位となっている人気コラム
一流のリーダーの条件 その1
飛行機やホテルの予約を自分でしないこと
「一流のリーダー」とは、行動や思考が洗練されていて、部下が成長できるように導き、確実に結果を出す人。いわゆる「仕事ができる人」は、新しく赴任して来てもすぐにわかるもの。視野が広いというか、森を見ているような感じです。森の上から全体を見渡して、自分はどのように行動すればいいのかを常に考えています。
ですから、あまり細かい事ばかりを言っている人は一流とはいえません。細かい人というのは、例えば飛行機のチケットやホテルの予約を自分でしてしまうような人。数万人の社員の頂点に立つような人の中にもいるのです。部下は「なんて優しいリーダーなのだろう」と思うでしょうか? 「もっと部下を信頼してほしい」「細かい仕事まで抱え込まずに、部下に任せてほしい」と常識的な感覚を持っている部下ならそう思うはず。一流のリーダーは、そんなことをする時間があるのなら、大事な意志決定の時間にあてたいと思うものです。
ちなみに自分で予約するのは「マイレージを貯めたいから」という理由があるようですが、日本人はそのことを秘書に言うのは恥ずかしいようですね。外国人はそういう点はなんとも思いません。「ありがとう。君がマイレージを貯めていてくれたおかげで家族旅行ができ、とても楽しかったよ」と、上司をはじめ、奥様やお子さんからもお礼のお手紙とお土産をいただいたこともありました。細かい事は気にしない、部下にどんどん任せる度量こそ、一流のリーダーの条件です。
一流のリーダーの条件 その2
誰よりも早く出勤し退社し、背中を見せること
そもそも仕事のできる人は、遅刻はしません。30秒でも遅刻をしたらビジネスを失うと思っています。待ち合わせなら早目に行って近くで待機することが多いです。
毎日の出勤でも誰よりも最初に出勤。だいたい9時から会議があるので、7時半か8時には出勤して準備しています。そして一番早く帰ります。すると部下たちはリーダーの背中を見送ることになります。エグゼクティブ・プログラムなどの研修で「リーダーは行動で示すもの」と教わっているのでしょう。言葉より行動が雄弁に語るのは日本でもよく聞きます。部下は行動するリーダーの背中を見て、その背中に憧れるもの。ですから、定時の5時になれば、いの一番に颯爽と帰っていきます。
部下も夕方5時を過ぎたら決済をもらう上司はいませんから、5時までに必至で仕事を済ませるようになり、全員が朝型になりました。つまり残業はなし。
アフター5で飲みに行くというのも、あまりありません。あったとしても、翌日の仕事に差し支えがないように21時半頃には切り上げます。気持ち良く酌み交わしますが、それでも、泥酔したような姿をこれまでの上司で一人も見たことはありません。
一流のリーダーの条件 その3
誰もが対等、肩書きに左右されないこと
エグゼクティブの人たちはどんな人に対しても対等に接します。トイレ掃除している方にも、きちんと挨拶をします。日本人でもそういう素敵な方はいますよね。共通しています。
つまり、肩書きに左右されません。態度は常に一貫しており、人の肩書きや立場によって態度を変えることはないのです。
しかも、自分の上司にあたる上層部だけを見て仕事をするということはありません。なにしろ、短期間で業績を上げるには一人では絶対に無理です。自分自身に能力があることは分かっていても、周りのサポートがないと達成できないということを彼らは十分知っているのです。
ですから、チームや部署の一員として仕事をするパートや派遣社員の存在も決してないがしろにはしません。とはいえ話をする機会はなかなかとれない。そこである上司は、
クリスマスカードを用意するよう秘書の私に伝え、一人ひとりに今年貢献してくれた感謝の言葉を書いて渡しました。もちろん、私が翻訳して書きます。「あなたが居てくれたおかげで、チームが調和し、目標を達成することができました。ありがとう!」と。自分のことが書かれたカードですから、皆さんとても喜ばれます。
大きなプロジェクトが成功した時は、ケータリングサービスをつかい、社内でパーティーを開くこともあります。その時は自分はホスト役になり、普段時間がなくあまり話せない部下たちへ話をしに行きます。
部下と対等になれる機会を自ら作るのです。皆さんのおかげで自分が居るということを一流のリーダーたちはきちんと認識しているからできる行動といえます。
一流のリーダーの条件 その4
部下を信頼して仕事はどんどん任せること
リーダーの一番の役割は業績を上げることですが、それには部下の適性や強みを見つけることが大切になってきます。一人ひとりの社員の強みを見つけてあげるのも、リーダーの大事な仕事のひとつです。
英語でstretch goal(ストレッチ・ゴール)という言葉があります。達成できるレベルより少し高めの目標、あともう少し無理してでも手を伸ばせば、さらに大きな成果に届くゴールのことです。そのstretch goalを見つけ出して提示することがリーダーの役目です。「どうすれば部下が成長できるのか」を考える際、大切なのは、部下を「コントロールする」のではなく「マネジメントする」こと。部下をコントロールするリーダーは、すべてが自分の思うどおりに進まないと気が済まず、小さなことばかり気にします。そのため、部下を信頼できずに自分で仕事を抱え込んでしまい、どんどん忙しくなっていきます。
その結果、自分の忙しさを部下にも強要するようになり、コミュニケーションも減り、不信感が募っていくという悪循環に陥るのです。
部下を信頼してどんどん成長の機会を与えること。これがマネジメントの基本です。
一流のリーダーの条件 その5
リフレッシュするために休暇は必ず取ること
日本の会社では休暇を取るのを躊躇してしまい、有給休暇もほとんど使ったことがない、という話をいまだによく聞きます。ある程度の期間、バケーションを取ることはリーダーでなくとも全従業員に必要なことです。
以前の私の職場では3週間まとめて休暇を取るのが一般的でした。休み明けの上司は、休暇で新たな着想を得たのか、はつらつとした顔で出社してきます。開口一番、あれを集めて欲しい、これをこうして欲しい、すぐにみんなと話したい、とパワー全開。対応する私たちが大変です(笑)。ですから、部下が「休みます」と言ってきたら「どうぞ、どうぞ」という感じです。リフレッシュすることがいかに大事なのか、リーダー本人が一番分かっていますからね。
一度リーダーに尋ねたことがあるのですが、3週間の内、仕事のことは休暇の終わる最後の2日間の間に考えるのだそうです。それまでは頭の中を空っぽにして、家族との時間を思う存分楽しみます。体力、気力、思考力をすべてリフレッシュさせるためには3週間という時間が必要なのでしょう。そんなリーダーたちを見てきたので、休暇って本当に大切だと感じました。より高いレベルで仕事をするためにも、休暇はしっかりと取ることです。
一流のリーダーの条件 その6
オフィスは考える場ではなく、指示をする場であること
彼らは、重要な案件についてオフィスでは考えません。移動中や家に居る時に考えています。というのは、出社すると実践部隊が待っており、すぐに指示を出さなければならないからです。
オフィスでの彼らを見ていると、考えてきた頭の中にあるプランを、一気に部下に伝え、反応を見ます。そして、実行にうつるのです。部屋に閉じこもっていたり、「○○くんを呼んで」と言って部屋で待ったりするようなことはあまりありません。実践部隊がいる場へ自ら出向いて「○○さん、ちょっと」と声をかけ部屋に呼び、そこで詳しく指示をすることも多くあります。フットワークが軽いんですね。
会議は、原則として30分以内に済ませます。外国人上司は、「なんて会議が多いんだ」と日本の会議事情に驚きます。連絡事項はメールで十分。会議は「報告の場」でなく、「意思決定の場」なのです。
一流のリーダーの条件 その7
部下の都合と予定を優先すること
時間の使い方ですが、彼らは、決して自分の時間を優先しません。意外なことに思われるかもしれませんね。実は、部下の都合や予定を優先しながら日々仕事をしています。
なぜなら、チームのメンバーのサポートがなければ、自分ひとりでは目標は達成できないと知っているからです。部下の都合や予定を優先させれば、部下は気持ちよく仕事を引き受けてくれて協力してくれます。部下のモチベーションも高まります。すると仕事がスムーズに運び、仕事の生産性が高まることを彼らは知っているのです。
つまり、一流のリーダーは、「いかに自分のために部下が時間を使ってくれるか」をよく考えているのです。その時間が多ければ多いほど、その人数が多ければ多いほど、達成する確率は高くなります。そのためには、部下に気持ちよく働いてもらう。部下の予定を優先させる姿勢を持つことが大切です。
究極の言い方をすれば、一流のリーダーは仕事をしません。部下が仕事をしてくれるからです。リーダーは「部下を喜ばすにはどうしたらいい?」 「部下に成長してもらうにはどうすればいい?」と考えているので、部下もリーダーのために頑張るわけです。このように一流のリーダーと部下には常にいい関係があります。ぜひ参考にしてみてください。
【2016年9月号】仕事のデキる人間は、 デキる理由から考える
仕事がデキる人とデキない人とでは、何が違うのでしょうか。
経営コンサルタントの大庭真一郎氏は「デキる人はデキる理由から考え、
デキない人はデキない理由から考えてしまうのです」と指摘します。
実際の3つのケースから解説していただきましょう。
デキる理由から考える人の発想「五段階思考法
ビジネスの現場では、やればデキるのに、「デキない理由」などないのに、なぜだか止まってしまっている人がいます。そんな人は「デキない理由」を並べ立てて前に進めない状況を作り上げているようです。
逆に、デキる人はどのようにしてデキる理由を考えているのでしょうか。私はコンサルティングを通じていろんな人と出会い、仕事がデキる人は左のような「デキる理由から考える思考パターン」がえる思考パターン」があることに気付いたのです。
〈デキる理由から考える思考パターン〉
❶デキたときの姿、成功イメージを思い浮かべている
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべている
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えている
❹考え付いたプロセスの実現性を検証している
❺実現性のあるプロセスをプラン化している
私はこれを「五段階思考法」と名付けました。前回は、この思考法で再チェンレジしてもらい、見事成功した企業を紹介しました。今回はビジネス現場の最前線に立つマネジャーで、うまくいかなかった仕事の結果に対して、この「五段階思考法」で好転した事例をご紹介しましょう。
事例テーマ❶ プレイング・マネジャーの役割を果たせるか?
印刷会社の制作グループを率いるAグループ長。グループ長に昇進した際に社長から、「部下の育成と残業削減に取り組み、グループの生産性向上を実現してほしい」と命じられたのです。
〔デキない理由から考えてしまったAグループ長の思考〕
・管理職者になったからといって、自分自身の仕事が減ったわけではない。
・社長の指令を守るのであれば、それを行う時間は、ほとんどない。
・自分の仕事をやり終えた後で、できる範囲で取り組むしかない。
・それ以外のやり方は無理だ。
〔デキない理由で取り組んだその結果〕
・「部下の育成」と「残業削減」は共に実現せず、次の人事での降格対象となってしまった。
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて再チャレンジしたAグループ長の思考〕
❶デキたときの姿を思い浮かべてみる
・マネジメント業務をきっちりと行うためには何が必要なのかを考えてみた。
・先輩管理職者たちが部下に指示を与えながら指導している姿を、自分自身の姿にだぶらせてみた。
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる
・そのような姿になるためには、自らの仕事の負担を軽くしなければならない。
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる
・そうするためには、部下に任せることができる仕事は任せ、引き続き自分が担う仕事については効率化を徹底することが必要だ。
❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる
・現在、自分が担当している仕事ごとに必要とされるスキルを洗い出して、該当スキルを持った部下の名前をピックアップ。任せたときに生じる影響を検証したうえで、任せても構わない作業を明確にしてみた。
❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる
・グループ全体の改善目標を立てて、それに関して自分自身がやるべきことと部下に協力してもらうこととを明らかにした。そしてそれを部下に伝えて話し合った。
〔デキる理由から考えて再チャレンジしたその結果〕
・グループ全体に仕事の効率化を意識し徹底していこうという「みんなでやろう」的な空気が生まれた。
・Aグループ長が、マネジメントに必要な時間を確保することができた。
・「部下の育成」と「残業削減」は共に実現し、社長からの評価がさらに上がった。
◎解説
「管理職になったからといって使える時間が増えるわけではないため、日常業務とマネジメント業務を両立させることがデキない理由を考えてしまうと、マネジメント業務が疎かになります。
日常業務とマネジメント業務の両立に関してデキる理由から考えようという思考を持ち合わせたマネジャーは、自分自身が抱えている日常業務に対して工夫を加えることを考えます。そうすることで、自身のマネジメント能力に磨きがかかり、部下も業務の幅が広がることで職務遂行能力が向上するという相乗効果が生まれるのです」
事例テーマ❷ チームの目標を達成させられるか
OA機器販売会社で営業課を率いるB課長。会社から前年比10%UPの課の数値目標を達成するように命じられました。
〔デキない理由から考えてしまったB課長の思考〕
・自分の課が担当するエリアは競争が激しい。
・競争が激しいから新規顧客の獲得も容易ではない。
・部下たちも揃ってピリッとしない(全員が目標未達)。
・前年比10%なんて、できっこない。
・仕方がないから、全員に前年比10%UPの目標を設定させることで押し切ろう。
〔デキない理由で取り組んだその結果〕
・無理な目標を押し付けたことで、部下の営業効率が悪くなり、前年度の実績を下回る部下が続出した。
・課の成績も散々なものとなり、会社から責任を追及された。
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて再チャレンジしたB課長の思考〕
❶デキたときの姿を思い浮かべてみる
・過去に受講した営業マンセミナーも参考にして、課全体で営業成績の底上げを図っていく姿をイメージしてみよう。
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる
・セミナーで得たヒントを部下と共有し全員で営業の行動を変えていけば、目標をクリアすることができるのではないだろうか。
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる
・セミナーで得たヒントの中から、簡単に取り組むことができて確実に営業成績の向上につながるものを選び出し、自分自身が部下の営業活動を日々サポートすることが効果的ではないだろうか。
❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる
・課の中で定期的に勉強会を開くことで、セミナーで得たヒントの共有化が実現できるのではないだろうか。
・部下の力量や顧客の特性、市場環境を考慮したうえで目標数値を適正に割り振れば足並みを揃えることができるのではないだろうか。
❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる
・シミュレーションを行ったうえで目標数値の割り振りを決定し、サポートの内容や具体的にどのように営業の行動を変えていけばよいのかを、部下に伝えて理解してもらうための計画を立ててみよう。
〔デキる理由から考えて再チャレンジしたその結果〕
・課全体の営業効率が向上し、B課長率いる課だけが、課としての目標を達成した。
・B課長自身、課の目標をもっと高く命じられてもクリアできるイメージを持てるようになった。
◎解説
「上意下達で組織の目標を決められた場合、マネジャーが割り切れない思いを抱きながらデキない理由を並べ立てれば、高い確率で組織としての目標を達成できない結果が生じてしまいます。
一方、与えられた目標を達成デキる理由から考えようという思考を持つマネジャーは、過去のルールややり方にとらわれずに、生み出したい結果を作るための体制を新たに整えるでしょう。そうすることで、組織の中に良い意味での新陳代謝が生じ、部下も成長していくのです」
IT会社のWEB制作部門の責任者であるC部長。部下から、どの競合他社も取り入れていない新サービスを市場に導入する内容の提案をされました。
〔デキない理由を思い浮かべたC部長の思考〕
・競合他社に押されている状況を何とかしなければならないが、下手な動きをして、今よりも状況を悪くすることも避けたい。
・一からの挑戦なので専属の人間が必要になるが、部内に手の空いている人間などいない。
・仮に人がいたとしても、売るためのノウハウがない。
・既存のサービスよりも価格が高くなるため、ユーザーからそっぽを向かれるのではないだろうか。
・これだけのリスクが想定できるのだから、やらないという判断を下すのが妥当である。
〔デキない理由で何もしなかったその結果〕
・提案をした部下の一部が退職してしまった。
・残った部下たちの間で、提案を握りつぶしたC部長に対する失望感が広がっていった。
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて再チャレンジしたC部長の思考〕
❶デキたときの姿を思い浮かべてみる
・新サービスが市場から受け入れられ、売上も伸び、市場シェアが回復する成功イメージを持ってみよう。
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる
・プロジェクトチームを立ち上げ、事業計画を立てて役員会の承認を得たうえで、市場へのプロモーションを展開し、既存顧客に対する働きかけを行っていけばよいのではないだろうか。
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる
・プロジェクトチームは、提案者を含めて自部門の人間で結成しよう。
・マーケティング活動に関しては、他部門にも協力してもらおう。
・販売ノウハウに関しては、テストマーケティングの実施で習得でき、専門家への相談でもカバーできる。
❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる
・業務効率を高めることで、自部門の人間が兼業という形でプロジェクトに参加することは可能だ。
・他部門からの協力に関しては、自部門の顧客に対して他部門の商材やサービスを売り込むことと引き換えに得ることが可能だ。
・今回の内容はスピードが要求され予算も限られているので、公的機関が行っている専門相談を活用することで販売ノウハウをカバーするやり方が最適だ。
❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる
・役員会の承認を得てプロジェクトを展開するまでの行動計画を立ててみよう。
〔デキる理由から考えて再チャレンジしたその結果〕
・取引先の数が増えた。
・部門内での結束力が高まった。
・C部長自身、部門を統率することへの自信が高まった。
【2016年7・8月合併号】 仕事のデキる人間は、 デキる理由から考える
ビジネスの現場では日々、「デキるか、デキないか」の選択に迫られます。
「デキる」人はどんな理由や考え方、発想で取り組んでいるのでしょうか。
事例を通して経営コンサルタントの大庭真一郎氏にうかがいました。
経験が邪魔をする「デキない理由」
実際のビジネスの現場では、「デキる」よりも「デキない」と考える人が多いように思えます。
デキない理由を並べ立てて前に進めない状況を作り上げ、自分の可能性に「デキない」枠を自分ではめてしまうのです。
これはどう考えても損をしているとしか思えません。
「デキない理由」から損な結果を生じさせてしまうメカニズムとしては、人は経験を積むことで知恵やノウハウが蓄積され、同じ過ちを繰り返さない、リスクを回避する術を身に付けるのですが、無意識のうちに変化に対して守りに入ろうとする気持ちが生まれてしまうことで「やっぱり止めておくか」と考えるようになるのです。
そのような時、人は経験により得た知識をフル回転させて、いくつものデキない理由を思い浮かびあがらせます。
取り組んだ先に待ち構えている「難」がいろいろと見えてしまう気がするんですね。
そうなると確実に損をします。
なぜなら、変化の先にある成功を自分のものにする可能性をゼロにしてしまっているからです。
周囲に対しても損をさせてしまう
変化を望まない人がいると、周囲に対しても損をさせてしまいます。
誰かが新しいことにチャレンジしようと口にしたときに、デキない理由を並べて、変化のない方向へ引っ張ろうとするからです。
どのようなやり方で挑戦していくのかを決めるための会議が、いつの間にかデキない理由を拾っていく会議に変化してしまう。
そんな会議を繰り返していると、会社や組織は環境変化の波にのまれて衰退の道をたどっていくことになりかねません。
デキる理由から考える人の発想「五段階思考法」
コンサルティングを通じていろんな方と出会ってきましたが、「デキる理由」から考える人は、共通して左のような思考回路を持っていることに気付きました。
❶デキたときの姿、成功イメージを思い浮かべている
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべている
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えている
❹考え付いたプロセスの実現性を検証している
❺実現性のあるプロセスをプラン化している
私はこれを「五段階思考法」と名付けています。
取り組んだ事がうまくいかなかった企業に、この思考法で再チャレンジしてもらい、見事成功した事例を紹介しましょう。
事例テーマ❶
取引先からの無理な要求に対応することができるか
部品製造会社のD社長。売上の30%を占めるA社が値下げを要求してきました。
〔デキない理由から出発したD社長の思考〕
・A社以外との取引で売上の30%をカバーする見込みは立たない。
・そのことをわかっているA社は強気な態度で出てくるはずだ。
・A社の責任者は妥協しない人だから押し通すだろう。
・要求は拒めない。
〔デキない理由で取り組んだ結果〕
・メーンバンクに融資をしてもらい運転資金を確保したが、経営の立て直しは思ったようには進まなかった。
・メーンバンクに再融資を断られ、リストラを断行せざるを得なくなった。
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて再チャレンジしたD社長の思考〕
❶デキたときの姿を思い浮かべてみる
・長年取引が続いているということは、A社が自社の部品に信頼を置いていることは明らか。
・A社にとっても、いまさら他社の部品にシフトすることはリスクがあるはずだ。
・WIN―WINの関係が実現するような提案を行えば、値下げを撤回してくれるかもしれない。
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる
・値下げ要求を口にした責任者のメンツにも配慮したうえで、双方の取引関係を強化することに関して合意を結んだという形で話をまとめるのがよいのではないだろうか。
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる
こちら側の考えをまとめた提案書を早急に作成し、責任者に対して意見する場を作ろう。
❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる
・双方で情報を共有し合い、受注の時期や数量を盛り込んだ生産計画の精度を高めることで、納期の短縮と在庫コストの削減、生産ロスの低減という面でWIN―WINの関係になれる実現性があるので はないだろうか。
・自社の技術力を高めることで、A社が作る完成品の性能が高まり、A社の市場競争力が強化され、A社からの部品発注量が増加し、自社の売上も増 すという形でWIN―WINの関係になれる実現性があるのではないだろうか。
❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる
・双方の情報共有化や自社の技術開発に関する実施計画を立ててみた。
〔デキる理由から考えて再チャレンジした結果〕
・A社の責任者が、提案に賛同。正式に値下げを撤回した。
◎ポイント
取引先からの要求に対して、断ると取引を打ち切られることが怖くて、深く考えることなく無条件に要求をのんでしまいがちになる。
・不利な要求は収益の減少に直結するため、経営者は、全知全能を注いで、要求を拒むことがデキる理由を考えつくす必要がある。
幹部社員と「想い」を一つにすることができるか
IT会社のF社長。幹部社員が経営感覚を持ち、率先して行動してほしいのですが、その「想い」がなかなか伝わりません。
〔デキない理由から考えてしまったF社長の思考〕
・幹部社員といえども、しょせんは雇われの身であり、会社の存在が自分の人生そのものだという感覚などあるはずもない。
・自分が抱えている悩みや感じている想いは、同じように会社のトップにいる人間にしかわからないだろう。
・想いを一つにすることはあきらめて、彼らの尻を叩き続けることにしよう。
〔デキない理由で取り組んだ結果〕
・会議の場でも、社長が一方的に檄を飛ばすだけで、幹部社員たちはほとんど発言しない状態になった。
・会社がジリ貧状態に陥った。
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて取り組んだF社長の思考〕
❶デキたときの姿を思い浮かべてみる
・自分の想いを伝えるだけでなく、彼らの想いにも耳を傾ければ、想いを一つにできるのではないだろうか。
・互いに語り合うことで想いを一つにできるイメージが湧いてきた。
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる
・彼らの想いに耳を傾け、共感できることを口にして、互いの距離を詰めていけばよいのではないだろうか。
・そうすることで、彼らも自分の言葉に耳を傾け、やがて互いの想いが一つになり、会社をどう立て直すのかについて建設的な議論が行えるようになるのではないだろうか。
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる
そのような状況を実現するためには、自分と彼らが一堂に会して本音で語り合う場を作る必要がある。
・彼らにお願いして、金曜日の業務終了後に、どこかのホテルで一晩語りつくしてみよう。
❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる
そうしたうえで彼らに会社を再生させるための事 業計画を作らせて、その後自分も加わって何をどのように進めていけばよいのかを明らかにしていけば、彼らも行動に移すのではないだろうか。
・計画書の雛形を与えて全員で協力して中身を考えてみてくれと言えば、事業計画を作った経験のない彼らでもやれるのではないだろうか。
❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる
彼らと事業計画を作り上げるまでのプロセスを明らかにした行動計画を立ててみた。
〔デキる理由から考えて取り組んだ結果〕
・幹部社員たちが、経営的な視点で率先して行動してくれるようになった。
・F社長が、会社を再生することについて確信を持てるようになった。
◎ポイント
社長と幹部社員が想いを一つにできれば、社長の立てた方針が即行動に移せる強い会社になるが、現実は、情熱や価値観の違いなどから想いを一つにできずにいる会社が多い。
・この状況を打開するためには、社長自らが想いを一つにデキる理由を考えたうえで、根気よく幹部社員に働きかけるしかない。
新卒者を採用することができるか
建設会社のE社長。総務部長から中小企業向けの新卒者採用支援サービスを利用してみないかと提案されました。
〔デキない理由を思い浮かべたE社長の思考〕
・うちのような小さな会社に、はたして新卒者が来 てくれるのだろうか。
・今の若い人は安定志向が強いから、賃金が高く福利厚生も充実した大企業に行きたがるのは当然だ。
・興味を持つ学生がいたとしても、親が反対をするのではないだろうか。
・採用支援サービスの利用料金は、失敗した場合に簡単に諦めがつく金額ではない。
・利用するのは、時期尚早だ。
〔デキない理由で何もしなかった結果〕
・後日、同規模の会社でサービスを利用して新卒者の採用に成功したことを知り、後悔の念が広がった。
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて利用に踏み切ったE社長の思考〕
❶デキたときの姿を思い浮かべてみる
・専用サイト上に紹介されたサービスを利用した中小企業が新卒者の採用に成功した事例を見てみよう。
・新卒者を採用できそうだというイメージが湧いてきた。
❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる
成功事例に共通しているのは、学生の目線で自社の魅力をアピールしていることと企業側から積極的にコミュニケーションを取っていることだ。
・大企業に勤務していては得られない魅力を学生の目線で伝えることができれば、新卒者を採用できそうだ。
❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる
・サービスツールを使って、こまめに学生とコミュニケーションを取り、自社の魅力を発信し続けていけばよいのではないか。
❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる
・若い社員たちに協力してもらえば、ツールの媒体で あるWEBやSNSを上手に使いこなせるし、自社の魅力を伝えることに関しても、実際に彼らが魅力だと感じていることを発信すれば、学生たちにも伝わるはずだ。
・若い社員たちを参加させることにより、彼らに責 任感が芽生え、実際に新卒者が入社してきたときの世話もきちんと見てくれるようになるのではないだろうか。
❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる
・総務部長に相談して、若い社員を巻き込んで、サービスを利用して採用活動を行う構想を練ってみた。
〔デキる理由から考えて利用した結果〕
・2人の新卒者採用に成功した。
・社内に活気がみなぎった。
【2016年6月号】 これからのインバウンド 戦略とGS世代向け戦略
日本の消費をけん引してきたインバウンドとGS世代(ゴールデンシックスティーズ=「黄金の60代」)向けに、元気な企業は次の一手を打って出ている。
そんな企業、3社を紹介しよう。
インバウンドで活況の化粧品業界
日本ならではの対応力で海外戦略を練る
いま日本の化粧品メーカーは、毎月販売先から上がってくるデータにくぎ付けになっている。
「とくに東京都心の百貨店やドラッグストアでの売り上げの急伸にびっくりしています。外国人観光客のまとめ買いです。
一人で数万円単位で買ってゆくというケースもあります」
こう話すのはコーセーの長浜清人常務取締役だ。
東京銀座のマツモトキヨシ。
特に二階の化粧品売り場に上がるとびっくりする。売る方も買う方も日本人はほとんど見当たらない。ここはどこの国かと一瞬わからなくなるくらいの光景だ。
「中でも最も売れているのが、わが社の『雪肌精(せっきせい)』です。国内では30年前から販売しているロングセラーシリーズで、化粧水の価格が5000円くらいです。アジア各国の百貨店でも販売していますが、とくに漢字3文字のネーミングが受けて中国では人気でした。現地の百貨店で買えば6000円前後しますが、これが円安効果もあって日本のドラッグストアでは3500円くらいで手に入るということで、インバウンドのまとめ買いの対象になっています」(長浜さん)
コーセーとセブンイレブンが共同開発・販売している関連商品「雪肌粋(せっきすい)」は価格が安いこともあって、一人で100個単位で買ってゆく人も多く、空港や都心のセブンイレブンでは売り場に並べるそばから商品が消えてゆく状態だという。
コーセーの場合、化粧品の売り上げ構成は日本国内での販売が85%、そして全体の2%は外国人が日本で買うと推定してきたが、これがこの1、2年で倍増したと長浜さんはみる。
「今後国内の日本人市場が大きく拡大するとは考えにくいので、インバウンド需要はありがたいとは思いますが、こちらが主体的に仕掛けるというものではなく、あくまでも現地国で日常的にブランド価値を高める努力をしておくことが、日本旅行の際の購買意欲に反映されると思います」(長浜さん)
コーセーが初めて海外に進出したのは1968年の香港だった。
いまでは25の国と地域に展開している。
早い時期に海外売上比率を全売り上げの~30%程度へ拡大することが当面の目標だ。
「特にアジアでは日本の化粧品は高価格帯ですから、やはり百貨店の店頭で美容部員がカウンセリングをして販売する必要があります。
現地で雇用した美容部員を日本で研修したり、日本人のスタッフが現地を巡回指導するなど『日本のサービス水準』を徹底するように努めています」。
長浜さんは、こう説明する。
東京王子にあるコーセー研究所は、販売する商品およそ3000品目すべてに関与している。
「最近は国内だけでなく輸出やインバウンド需要をにらみ、海外の気候や風土に合わせた研究も増えました」。
日本と比べて極度に高温や低温、あるいは乾燥地帯でどんな化粧品が求められるかなど研究テーマが増えているという。
国によって気候や習慣に差があり、ひと口に化粧品と言っても売れ筋が異なる場合もある。
国により重点商品をきめ細かく変えながらも日本商品の品質とカウンセリング力で国境をまたいでゆく戦略が求められている。
国内市場閉塞の中で、日本市場の成長期待は外国人客。こうした動きはもう後戻りはないとみるべきだ。
爆買いも一段落したアパレル業界
「上質の日本製」でいかに常連客に育てるか
そのインバウンド関連で注目すべき企業がもう一つある。
東京銀座。
行き交う人のかなりの割合が外国人。買い物袋を山ほど抱えている人も少なくない。
高級婦人服メーカー「銀座マギー」はその名のとおり銀座が発祥なだけに、外国人をターゲットにしたインバウンド対策にも先手を打ってきた。
「かなり早い時期から中国人の販売員を雇用し、POPなども中国語を用意してきました。また日本人よりも明るくはっきりした色合いを好むお客様が多いので、それを意識した商品の取り揃えも行っています」
本店長の山野直樹さんはこう話す。
本店の外国人売上比率はすでに2割近いという。
「いわゆる爆買いは一段落した感じはありますが、もう外国人のお客様がいらっしゃるのは当たり前の風景です。上海や香港などの女性エグゼクティブの方が年に何回もご来店されます。人前に出るときに着るスーツなどを何着も買って行かれます」(山野さん)
こうしたお客さんは、もともと生地販売からスタートした「銀座マギー」に、品質を求めてやってくるという。
「メイド イン ジャパンですか、と確認する外国人客が多いです。日本製の品質の良さで買い求める感覚は日本人ともはや変わりません」(山野さん)
「銀座マギー」はエレガントさを求める上質顧客をターゲットにし、女優や国会議員などにも上得意客が多い。
そうしたグレード感を求めて海を越えて顧客が来るということは、日本のアパレル産業の再生にも大きなヒントを示している。
三世代住宅や増改築需要に注目
GS世代が納得感を抱くアプローチが鍵
近年インバウンドと車の両輪で消費をけん引してきた「GS世代※」の消費がここにきて低迷気味だ。
退職記念旅行などの需要が一巡、資産は持っているとはいえ年金支給額は現役当時の収入と比べれば相当減るし、後期高齢者年齢も近づいてきて老人ホームなどに入る備えなども気になれば消費は保守的にならざるを得ない。
だいたい歳を取ればそれほど買いたいものもなくなってくる。
そうした中で消費税の再引き上げを睨んで今一番注目されるのが、三世代が住む住宅取得や増改築需要だ。
「当社の住宅は床下がないんです」
戸建て住宅メーカー「ユニバーサルホーム」の菅野淳夫マーケティング部次長は、いきなりこう切り出した。
実はここに、同社の付加価値戦略が隠されているという。
住宅メーカーのセールスポイントは、いかに他社商品と比べて特徴的か、価格以上のお得感があるかにある。
「これまでの基礎工法と違い、当社では地面と床下の間に砂利を敷き詰めコンクリートで密閉してしまう工法を標準仕様として採用しています。砂利層が振動や騒音を吸収・分散するクッションの役割を果たすうえ、床下浸水もなく、従来のように通気口から湿気が入ったり、シロアリ発生の心配もなくなりました」(菅野さん)
しかし、砂利を敷き詰めるとそれだけコストもかかることにならないか?
「基礎部分を考えると従来工法より2割くらいコストが増えます。また上に建物を建てるためには水平に床面を仕上げる技術力も求められます。しかし地熱床システムは高い評価を受け、商品力は大きく向上しました」(菅野さん)
東日本大震災で津波を受けた地域でも、ユニバーサルホームの住宅が倒壊を免れた事例が多く報告されている。
また近年多発するゲリラ豪雨で床下浸水が各地で報告されているが、密閉して軒下がない住宅ではそうしたリスクは軽減される。
そして「地熱床システム」と呼ぶこの工法のもう一つの特徴は、夏はひんやり、冬は暖かいという井戸水と同様の効果があることだ。
さらにそのうえ、砂利を敷いたあと鉄筋を施工する段階で1階全体に温水パイプを張り巡らせて床暖房も標準装備している。
「オプションで床暖房装置を作るのではありませんから費用負担も少なく、しかも部屋だけでなくトイレや洗面所など1階部分すべてが対象となります。急な温度変化は高齢者の身体に負担をかけることになりますから、『GS世代』同居の住宅として大きな優位性をアピールできます」
菅野さんは、こう強調した。
見かけ上の価格競争ではなく、いかに商品の価値を高め、この品質でこの価格ならば割安感があります、と訴えてゆく。
一生の買い物だけに、安全性と快適性も重要な購買条件になることは言うまでもない。
今後日本の消費力は、「GS世代」が後期高齢者に向かうために一気に落ちてゆく。
そうした中でシルバー層にどう納得いく商品提案を行うかが、企業戦略の大きなカギになる。
またインバウンド向けには「日本人の暮らし」をどう商品提案するかという発想も忘れてはならない。
※GS世代/ゴールデンシックスティーズ=「黄金の60代」
【2016年5月号】 女性が活躍できる企業になるための条件 Part2
Part2の今回は現場で、実際に女性たちを管理・指導するリーダーとしての心構えをワーク・ライフバランスコンサルタントの二瓶美紀子氏に伺った。
男性リーダーに求められる女性活用のマネジメントポイント
女性とのコミュニケーションにおける男性リーダーに多い「誤解」とは
男性リーダー(管理職者)から「女性の部下とうまくコミュニケーションがとれない」「どこまで踏み込んでいいのかわからない」という相談をよく受けます。特に結婚・出産となると、どのように配慮すればいいのかわからないようです。わからないから、本人のためを思って配慮しているつもりが、配慮し過ぎて逆に女性の成長を阻んでしまうことも起こっています。
その根底には女性に対して抱く「誤解」によるものが多いようです。その「誤解」とは?
女性は結婚・出産のタイミングでモチベーションダウンするのでは!?
女性は結婚や出産をするとモチベーションが下がると思い込む男性リーダーは多いようです。実際はそんなことはなく、下がっているように見えるとしたら、それは模範となるロールモデルがいないからです。
入社3〜5年で社内を見回すと、結婚・出産した女性のキャリアが横ばいになっている現実を知ってしまうのです。
出産後、短い勤務時間でも成果をあげ、それをきちんと評価してもらえるとわかれば、モチベーションダウンすることはありません。
女性は管理職になりたくないのでは!?
管理職というと、遅くまで働いて、残業代はつかず、すべての責任を負わされ、家庭は崩壊しているというイメージを持ってしまっています。女性が管理職になりたくないというのは、今、自分の目の前にいる管理職者のようにはなりたくないと言っているだけで、上昇志向がないわけではないのです。ですから後ほど述べる「新しいリーダー(管理職)像」を伝えていくことが重要です。
女性特有の「詐欺師症候群」
男性リーダーは、女性特有の「詐欺師症候群」についてもぜひ知っておいてください。
これはフェイスブックCEOのシェリル・サンドバーグ氏も著書の中で書いていますが、女性の中にはほめられても「自分はそんな評価をされるような人間ではない」と思い、「自分は周囲に対して詐欺行為を働いているのではないか」と罪悪感を覚える人がいます。
十分な実力がありながら理由もなく自信を持てずに悩む症状で、そのうち化けの皮が剥がれると思い込むのだそうです。
すると、大きな仕事に自分から手を挙げることができなかったり、自信がなさそうに見えるので、上司の側からも大きな仕事を任せられないことにもなります。
女性に多いこのような特質を理解しておき、「私なんかとてもそんなことは」と言う女性には「詐欺師症候群」のことを教えてあげてください。女性自身は今まで気付かなかったでしょうが、そのことを知るだけで行動を変えていくきっかけになります。
女性には賞賛ではなく、承認するほめ方が有効
「詐欺師症候群」に陥っている女性には、「ほめる」ことで自信をつけさせることが大切ですが、ほめ方にも注意が必要です。
「ほめる」には2種類あります。
「新しいことにチャレンジしてすばらしい」
「あなたの意見は的確でいいね」
これらは話している人の主観が入っている「賞賛」のほめ方です。自分に自信のない人がこう言われても「そんなことはないのに」と思って素直に受け取れないことが多いのです。
これに対して、客観的な事実を認めて伝えてあげるのが「承認」のほめ方です。
「○○にチャレンジしているんだね」
「この議論に欠かせない視点だね」
こう言うと、言われたほうも事実なので受け止めやすいのです。「そうか、私は○○が出来ていたんだ」という気付きになり、さらにモチベーションをあげて仕事に取り組むようになります。
普段からよく観察し、「変化」を感じ取ること
ただ、この「承認」はすぐにできるかというと結構難しく、普段からよく観察していないとなかなか言葉が出てこないものです。
特に「変化」を観察することが大切です。過去と比べて現在はどのように変わったのか。以前はこうだったけど、今はこのように変わったと伝えます。事実の変化を伝えると、「私のことをよく見てくれているんだ」と信頼感も増すことでしょう。
具体的には、次のような点で観察することが大切です。
■何に困っているのか
■得意分野、苦手分野は何か
■どんな性格・特性を持っているのか
■仕事の進め方の特徴は何か
■何にやりがいを感じているのか
■チームの場合、メンバー同士が深いつながりを持っ ているのか
■何に不満を持っているか
■仕事に追われていないか
これらの中でも、部下の得意分野・苦手分野を把握していれば、各々の能力を最大限に活かせるのではないでしょうか。
また、部下に新しい仕事を任せるときは、その人の過去の成功体験を知っていれば、そこに結びつけて伝えると、本人もチャレンジしやすくなります。
また、「どんな性格か」をつかんでいれば、部下との接し方もスムーズにいくはず。ほめれば突き進むタイプなのか、「こういう課題があるね」と問題提起をしてあげるとそれに一生懸命取り組むタイプなのか。
〝飲みニケーション〟だけでなく、普段から「意識して観察する」ことを心がけて、時には「面談」という形でそれを伝えてあげると良いでしょう。
男性リーダーとしての評価も上げる実践プログラム
ここまで見てきたように、女性への「誤解」の認識、観察や接し方は、女性の活躍を推進していく大切なマネジメントポイントです。
また、リーダーに求められるのは、自分のチームを成長させ、メンバーの中から次代のリーダーを育てていくことです。
それを段階的に取り組む実践プログラムをご紹介しましょう。
STEP❶ 現状を把握する
部下の強みや現状を把握するために個人カルテ(表①参照)を作成します。どれだけ部下のことがわかっているのかをみるのです。
まずは、自分でできる限り書き込んでみましょう。意外と部下のことを知らなかったなと思われるのではないでしょうか。
その後、それを部下と一緒に確認してみるのです。おそらくかなりの認識のギャップがあるはず。
そのギャップをしっかりと見つめることが現状の把握になります。
そして次は、部下の具体的なスキルを知るためのスキルマップ(表②参照)を作成してみましょう。
業務に必要なスキルを全て書き出します。
次にそれぞれのスキルについて、人に教えることができる◎、誰かに聞きながらならできる○、まったくできない×という3つのレベルに分けて各自の評価を書き込みます。
このスキルマップはリーダーが主体となってチーム全員で作成するほうが良いでしょう。
スキルは具体化しないと何を伸ばして良いのかわかりません。スキルマップを作ることによって、メンバー1人ひとりが今必要としているスキルがわかり、メンバーの成長を促進します。また、メンバー同士でのスキルを共有・継承していく仕組みにもなります。
STEP❷ 将来像を共有する
長期的な視点でワーク面とライフ面の部下のなりたい姿を知ることです。現在、6カ月後、1年後、3年後、5年後までのキャリアプランを考えてみましょう。
特に育休に入る女性はその前に面談しておきたいもの。育休に入る前の女性は、1年後に復帰したときのことがなかなか想像できずに、育休をキャリア上のマイナスと考えてしまいがちです。長期的なキャリアプランを一緒に考えることによって、育休をブランクと考えるのではなく、なりたい自分へのブラッシュアップ期間と考えることができるようになります。
また、モチベーションが落ちている部下、私生活の時間に自己研鑽できていない部下、目の前のことで精一杯になっているような部下にも有効です。
STEP❸ 成功体験を積ませる
STEP2で将来像を描きましたが、それを実現するには職場にはどんな課題があるのか。その課題を解決するために、私たちが提案しているのが働き方を見直していくための「カエル会議」です。もう少し具体的に言いますと、
■育児・介護などを抱えた社員も実力を発揮でき る環境づくり
■決められた時間内で最大の成果を出せる生産性 の高い職場づくり
これらを実現するためにチーム全員が主体的に話し合う会議のことです。
カエル会議は、こうした職場の課題や不満に対して、周りを巻き込んでリーダーシップを発揮して改善していく成功体験を積ませることが大切な目的です。
会議というとどうしても男性が仕切ってしまうことが多いので、女性にファシリテーター(議論のまとめ役)を任せていきましょう。
成功体験と同時に、会議での発言・提案の場数を踏んで、ファシリテーターとしての成長を促し、やりがいを感じてもらうのです。
小さな事でも成功体験を積み、ファシリテーターとしての経験も重ねれば、クライアントにも自信を持ってプレゼンテーションできるようになるでしょう。
成功体験を承認すれば、本人もうれしいですし、新しい仕事にも積極的にチャレンジしていく自信がつきます。また、その女性が次期リーダーに向かって成長していくことは、ロールモデルとして、周りのモチベーションも高めていきます。
今、求められる新しいリーダー像とは?
このように見てくると、「今、求められるリーダー像」が浮かび上がってきます。
■部下を信頼して任せ、チーム力向上に取り組む。
■メンバーの発言に耳を傾け、安易に否定はしない。
■育児・介護者のモチベーションを高め、時間内で最 大限の活躍をしてもらう。
■部下をよく知る。ワーク&ライフを相談できる関係へ努力・工夫をしている。
■メンバーに期待すること・認めていることを日常的に言葉にして伝えている。
■チームへの貢献を評価する。
スーパーマンのような「すごいリーダー」ではなく、「このリーダーといると自分が最も成長できる」部下が思えるような人物こそ、目指すべきリーダーの理想像といえます。つまりいあ、求められているのは、部下をぐいぐい引っ張っていくリーダーではなく、部下たちが自主的に動けるように下から支えるフォローするリーダーなのです。
実は、このリーダー像は、女性のほうが向いているのかもしれません。ぜひあなたの職場の女性にも、このようなリーダー像を伝えて、そんなリーダーとして期待していることを伝えてあげてください。
女性が活躍するポイントはコミュニケーションです。ぜひ取り組んでみてください。
【2016年4月号】 女性が活躍できる企業になるための条件
日本の潜在能力は「女性」!女性が働くと子どもが増える!?
少子・高齢化による労働力不足への対応は、日本社会にとっても企業にとっても緊急課題となっています。このため、女性の活躍に期待が高まり、成立したのが、女性活躍推進法です。
少子化による人口減少で労働力不足を解決するためには、出生率を向上させることが真っ先に思い浮かぶと思います。古くから日本社会には、女性が社会進出をしたから出生率が低下したという誤解があり、政府は配偶者控除など、性的役割分業を助長する政策を進めてきました。
ところが、実際はその逆だったのです。グラフ①「女性(25~34歳)の労働力率と出生率の国際比較」を見ても、女性の労働力率が上がるほど出生率も上がっています。フランスや北欧で出生率が近年上がっているのは、女性の就業率が高いからだということはよく知られています。
今の日本では、30代男性一人の収入では子ども1.3人分の養育費しか賄えないというデータがあり、女性の就業率が低いと、経済的理由で2人目の出産をひかえてしまう現状があります。夫一人が働いて家族を養う「片働きモデル」は経済的に成り立たなくなってきています。
このため、日本政府は女性活用と少子化対策を両輪で進めようとしており、今こそ日本の潜在能力である女性を活かさなければ、日本はこのままどんどん疲弊していってしまいかねません。
女性が活躍すれば、日本はGDP16%もアップする!
さらに興味深い統計資料があります。グラフ②をご覧ください。HDI(Human Development Index)というのは人間開発指数※1 を表し、日本は他の先進国と同じレベルにあることがわかります。そしてHDIが高ければ、女性の社会進出の度合いを示すGEM(Gender Empowerment Measure:ジェンダー・エンパワーメント指数)も通常は相関的に高いはずが、日本だけがとても低いのです。
これは日本の女性は高い教育を受けているのに社会に参画していない、活かされていないことを表しています。仕事か育児かの二者択一を迫られてきたのですが、別の視点から見ると、高い能力を持ったグラフ②の赤丸の中の女性こそが、今日本が活用すべき潜在労働力なのです。
ヒラリー・クリントン氏は、日本は女性の労働力率を男性と同程度に引き上げればGDPが16%も上がるという試算を紹介しており、これが、安倍政権が「女性活躍推進」を進める後押しになったともいわれています。
企業にしても、労働力人口が縮小していく中で、これまでのように男性を中心に採用していては優秀な人材が確保できなくなっています。女性の採用を積極的に実施すれば、より優秀な人材が確保できる確率は倍になるのです。
※1 保健、教育、所得という人間開発の3つの側面に関して、その国における平均達成度を測るための指標
子どもが増えるヨーロッパに見る働き方
経済を「人口」という側面から見ると、いろいろわかってくることがあります。
社会を支える働き手である生産年齢の人口が多く、高齢者が少ない状態を「人口ボーナス期」と言いますが、この人口ボーナス期には社会保障費の負担が少ないため経済成長するのがあたりまえです。ただし、人口ボーナス期は1つの国に1度しか訪れません。社会が豊かになると親は子供の教育に投資するようになり、人件費が上昇し、より人件費の安い他国に仕事が流れていくからです。日本は90年代半ばで終わっており、中国はまもなく終了し、インドは2040年まで続くと試算されています。
逆に働く人よりも支えられる人が多くなる状況は「人口オーナス期」と言い、社会保障費の負担が急増し、経済成長は停滞します。日本は世界でもっとも早くオーナス期に突入してしまいました。それは少子化対策の失敗が要因です。長時間労働を是正できず、待機児童対策に真剣に取り組まなかったからです。
ヨーロッパでは、フランスの週35時間労働や勤務間インターバル規制※2 など、労働時間を規制することで、共働きでも夫婦で子育てできる時間ができます。しかも女性が働くことで経済的なゆとりが生まれて家計は安定。ヨーロッパではこうしたことが功を奏して出生率が上がっているのです。
※2 前日の終業から翌日の始業まで一定の休息時間を設ける規制で、例えば、EUでは原則11時間のインターバル規制がある。
今の学生は、仕事と生活が両立できる企業を望んでいる
女性活躍を推進することは、今、企業にとっても大きなメリットがあります。
日本では、2008年のリーマンショックが団塊世代の一斉退職と重なり、多くの企業が新卒の採用を抑えることで社員を減らしてきました。ところが、業績が回復し優秀な若い人材を確保したいと計画しても、今や新卒は売り手市場。中小企業では募集しても応募がない場合もあります。しかも学生は、終身雇用が常識だった頃の就職観とは違い、1つの会社で一生働くとは考えておらず、仕事だけでなく生活も充実させられる企業に人気が集中しています。今、学生が企業を選ぶ視点で6年連続1位になっているのは「仕事と生活を両立できる企業かどうか」なのです。
「女性活躍推進法」に先駆けること10年前に「次世代育成支援対策推進法」が制定されています。この法律により、仕事と子育ての両立を図る職場環境があると認められた企業は厚生労働省から「くるみんマーク」がもらえます。就活する学生たちは、今、このくるみんマークのある企業にかなり注視しており、今後、優秀な人材を確保したければ、「女性活躍推進法」で認定マークを持っていることが、必須事項になることは間違いないでしょう。
つまり、女性が働きやすく、女性が活躍できる「ワーク・ライフ・バランス」が整っていない企業は、男性も含め優秀な人材を確保できない状況になっていることを企業のトップは知っておかなければなりません。
女性が活躍できない職場とは?
①長時間労働
長時間残業が恒常化すると何が起きるかというと、例えば重要な会議が夜8時から開かれたりします。すると子育てをする女性社員は参加できずに、重要な意思決定に参画できなくなります。
他にも、出張、転勤、残業が出世の条件となって、それを断る女性は評価されないということが女性活躍の障害になっているケースがあります。長時間残業を前提とする働き方そのものが是正されなければ、女性の活用は難しいのです。
「マネージメントの意識」とは、どのように人を評価するかということです。これまでは、短い時間内に効率よく生産性を上げている人よりも、だらだらと働いて遅くまで残業して成果を出している人を評価してしまうことがよくあったと思われます。
成果主義にしても、期間あたりの仕事を質と量の掛け合わせで評価していると、残業をたくさんしている人が評価されて、時短の女性は評価されませんでした。一定時間内にどれだけ生産性の高い仕事をしたかが評価されれば、時短勤務の女性もモチベーションを高くして働き続けることができます。
マネージメントの意識を変えるには、まずは評価制度の見直しです。本来の成果主義である「時間当たりの生産性」を評価すること。遅くまで働いたことを「がんばったね」と評価するのではなく、仕事そのもの、時間当たりの成果を評価すれば、女性も働きやすくなります。
②ロールモデルの不在
さらに、女性が活躍できない職場の特徴を挙げると、それはロールモデル(模範・手本)の不在です。例えば入社10年の女性先輩社員というと、出産後も残ってはいるもののあまり評価されずに割り切って働いている女性と、結婚も子どもも諦めてなんとか頑張っている管理職の女性、という女性像をイメージしてしまいがちです。
きちんと家庭を持ちながら仕事でも活躍しているロールモデルがいれば、仕事の壁にぶつかったときでも、成長した後の将来像を心に描いて頑張れるもの。
政府は2020年までに女性管理職を30%にする目標がありますが、企業もこのロールモデルが育つように、女性社員の育成を意識して、若いうちから長期的キャリアを考えられるような支援することが重要です。
女性が活躍できるよう、企業として取り組みたいこと
消費者の嗜好はますます多様化していて、消費行動の中心には女性がいます。果たして商品やサービスを提供する側が男性ばかりで本当に大丈夫なのでしょうか。
ここで重要なのは、女性が社内にいるだけではダメで、意思決定層に複数の女性がいることです。男性が居並ぶ会議に一人だけ女性を加えても、本当の意味での経営参画には至りません。
女性の活躍がめざましい企業では、管理職に昇格する女性が複数になった時点で一気に彼女たちを幹部に登用し、経営会議に参加してもらうなどの工夫をしています。女性の活躍は経営戦略の一環だと考える企業は、今、とても伸びています。
これをダイバーシティ&インクルージョン(Diversity&Inclusion)と言います。ダイバーシティだけではただ多様な人たちがいるだけです。その多様な人たちそれぞれが自分の持ち味を発揮し、きちんと組織に貢献し成果を出せる戦略がダイバーシティ&インクルージョンです。
最後に、経営戦略として女性活躍を推進していく企業のトップとして、今、取り組まなければならないことをまとめます。
■長時間労働の是正/短時間で生産性を上げる仕組みづくり、時間当たりの生産性を正当に評価する仕組みづくりをすること。
■女子学生に選ばれるブランディング/くるみんマーク、女性活躍推進法の認定を受けること。
■社内ロールモデルの構築/複数の女性を幹部に登用してみること。若い女性が「あの人を目指して頑張ってみよう」と思える先輩女性社員を育てること。
女性活躍推進法の施行を一つのきっかけとして、本当に女性が活躍できる組織作りにぜひ取り組んでいただきたいです。