部下とのコミュニケーションを図るとき、必ず直面するのが「褒める」ことと「叱る」ことだ。
そのどちらもうまくいけば部下との確かな信頼関係を築くことができるだろう。
リーダー教育で数多くの実績を持つ経営コンサルタントの吉田幸弘氏に話を伺った。

褒め上手になるために
▲おだてるのではなく、事実を褒める
「褒めて育てる」ことは今や人材育成で大切なポイントのように言われています。しかし、「がんばっているね」「いいね」と言っても相手に届かない場合もあります。というのは事実に基づいた褒め言葉ではないからです。根拠がない褒め言葉は「おだてている」と受け取れます。
「今月は、前月と比べて新規契約が5件も増えたね。がんばったじゃない」
「昨日の報告書、顧客ニーズの変化がグラフ化されて、とても分かりやすかった。ああいうのがほしかったんだよ」
具体的な事実で褒められれば、部下もきっと素直に喜ぶでしょう。
▲部下の視点まで降りて、成長を褒める
リーダーと同じ視点で部下の仕事を見ないようにしましょう。新人でもこのぐらいならできるだろうと、部下の視点まで降りて見守ることが大切です。それで、過去と比べて少しでもよくなっている点、改善されているところがあれば、「成長したね」と褒めるのです。
「朝の会議での発言だけど、具体的な提案が盛り込まれていて前回よりも良くなっていたよ」
「電話でのお客様への商品説明が上手くできるようになったね」
上手くできるようになったことに本人は気付いていない場合もありますので、そこを気付かせてあげるのはまさにリーダーの務めです。
▲褒め言葉になる「相づち」
「相づち」は、褒めるのに大切なツールだと思います。「さすがだね」「すごいね」「その考え方は面白い」などの肯定的な相づちはうれしいものです。これにさらに具体的なひと言を付け加えれば相づちはより効果的な褒め言葉となります。
「さすがだね! 頼んだ報告書、もう作ってくれたんだね」
「すごいね! 今週もチームトップだよ」
「その考え方は面白い! もう少し詳しく聞かせてよ」
▲自分自身を褒めるようアドバイスしてみる
ネガティブな部下の場合、褒められても「いえ、自分なんてまだまだです」と肯定的にとらえることができない場合があります。そんなリアクションがあったら、「自分自身を褒めることも大切だよ」とアドバイスしてみましょう。「できないところではなく、できたところを見て、“できて良かった” “自分は結構がんばったんだ”と自分を褒めてみるんだよ」と。
そういう指導も「褒める」「褒められる」という意識を持つ上で効果的だと思います。
リフレーミングで褒める
褒めるよう心掛けてはいるものの、なかなか褒める長所が見つからないという部下もいるでしょう。実は短所と長所は表裏一体。短所だと思っていたことが、視点や言い回しを変えると長所に見えるのです。これを心理学では「リフレーミング」と言います。例えば、
・細かくて神経質→よく気がつく
・消極的な性格→慎重派
・飽きっぽい→好奇心旺盛
私はかつて消極的なタイプの部下には「君は慎重派だから、昔からの大切な顧客も任せられるよ」とプラスに変換して伝えるように心掛けていました。これは長所を褒めるよりも、はるかにインパクトがあったようです。部下の欠点や短所をいつでも褒め言葉に言い換えできるように考えておきましょう。
経験の浅い部下には当たり前のことを褒める
周囲も認める優れたスキルを持つ部下や成果を上げている部下は褒めやすいのですが、経験の浅い部下はなかなか褒めにくいもの。それでリフレーミングのテクニックを紹介しましたが、「できて当たり前のことを褒める」ことも効果的です。
指示されたことはできて当たり前で褒めるに値しないと思う方もいるかもしれません。しかし、経験が浅いわけですから、指示通りとはいえ、きちんとやり遂げる能力があり、真面目に取り組んだことによるもの、と褒めるに値することと言えます。
「細かいところまできちんとできていたね。会議で説明しやすかったよ」
「頼んだ期日までに仕上げてくれたね。スムーズに次の工程に移れたので助かったよ」
仕事以外で、遅刻しないことや、呼ばれたらきちんと返事をすることでもいいのです。
「いつも気持ちのいい返事をするよね。チームのみんなにも見習ってもらいたいよ」と褒めます。
叱るときの大事なポイント
▲叱ると怒るは違う
部下を叱る目的は、「行動改善」が大前提といえます。強く言えば部下に伝わるわけではなく、それは自分視点の感情的な「怒る」場合が多いのです。そうなるとリーダーは自分の感情をきちんとコントロールしなければなりません。
お客様からのクレームが多いのなら、どんな言葉遣いや対応をしているのかを探り、改善を図るために叱ります。怒っていてはなんの解決にもつながりません。
▲「なぜ」ではなく、「何」と聞く
「なぜ、期日に間に合わなかったんだ?」
このように「なぜ」と言われると責められている感じがして、言葉に詰まり、思考がストップしてしまいます。これを「何」で聞いてみるのです。
「期日に間に合わなかった要因は、何だと思うかな?」
これなら、反省と共に部下も自分の行動のどこに問題があったのかと、振り返ることができます。自分自身をそれほど責めずに客観視でき、話しやすくなるのはもちろん、「次からはこうします」と部下自身が対策を考えることにもなります。
▲1つに絞って「叱る」
私も経験があるのですが、営業のロールプレイング研修で上司からたくさんのダメ出しをもらったときです。何から直したらいいのか分からず、すべてスルーしてしまいました。
そこで教訓ですが、1回につき叱る内容は1つに絞りましょう。複数を指摘されても部下には優先順位がつけられません。しかも、叱る内容に関連して思い出し、「そういえば、この前も同じことをやったよな」と今の目の前のことではなく過去の話を持ち
▼リーダー行動学▲
出すのは避けましょう。部下は混乱するだけです。
▲叱るときは改善提案も示すことも
行動改善のために叱るわけで、部下が自分でその改善案を考えるのがベストです。しかし、できなかったわけですから、「どのようにすれば良くなるのか」の改善案をリーダーが示したり、一緒に考えたりすることも大切です。自転車の補助輪のように寄り添う気持ちが「叱る」中には含まれています。

怒らないための感情コントロール術
私はかつて「万年湯沸かし器」などと呼ばれ、部下がミスしたり、言ったとおりにしないと烈火のごとく怒っていました。すると部下には「怒られた」という悪い印象だけが残り、行動改善にまで頭がまわらなくなって、また同じミスを起こしてしまいます。こうなると部下が悪いのではなく、指導するリーダーに要因があるといえます。感情を抑制する簡単な方法を紹介しましょう。
▲怒った内容を紙に書く
紙に書くという行為は、鎮静作用があります。書いているうちにイライラが収まってくるのです。そして、怒った内容を紙に書きながら、今回の件は何が問題点で、どのように指導しようかと、整理できるメリットもあります。
▲一度席から離れる
部下から報告を聞き、カチンときてこれはやばいと自覚できれば「10分待ってくれるかな」と言い、いったん席を離れます。トイレに行ったり、自販機のコーヒーを飲みに行くのもいいでしょう。カッカした頭を、席を離れることでクールダウンするわけです。
▲怒りを点数化してみる
人生で一番腹が立ったことを10点にして、今回の件での怒り度の点数を付けてみるのです。「あのときに比べれば2点か、3点ぐらいか。大したことないな」と思えるはずです。
▲心を落ち着かせるグッズを用意する
お子さんの写真とか、美しい風景写真などをPCやスマホの待ち受け画面に設定しておくとか、心を癒すグッズを用意しておきます。カッカしてきたらそれらを見て心を落ち着かせるわけです。名言集をそばに置いて読むのもいいかもしれません。
遠慮した叱り方はダメ
部下を注意するのは気がひけるという人は、つい次のように言ってしまいがちです。
「大した話じゃないんだけど」
「忙しいときにこんな話をして悪いけど」
「僕もこんなことを言えた柄じゃないんだけど」
このような遠慮がちな言い方だと部下は「そうか、重要な話じゃないんだ」「まあ、形式的に聞いておけばいいか」と受け取ってしまい、真意は伝わりません。
ではどうすればいいのか。言いにくい気持ちは正直に話し、その後に大切な話だということをしっかりと伝えるのです。
「言いにくい話なんだけど、大事なことなのでちゃんと聞いてほしい」
「これから言うことは君にとって気分を害することかもしれない。でも、重要な話だと思うので伝えるね」
こういう言い回しだと、部下は「リーダーも言いづらいという気持ちを打ち明けてくれた」と好感を持ってくれることでしょう。
全否定はしない
部下が提出してきたものに、意図するものと違っていると「指示どおりになってないじゃないか。全然違うだろ」と叱りつけながらの全否定は避けましょう。部下は大きなショックを受けてしまい、モチベーションは下がってしまいます。
「よくやってくれたな」で始めるのです。すると全てができていないわけではなく、部分的にはできている箇所を見つけられるはずです。
それでもできている箇所が見出せないのなら、提出してきたという行動だけでも「がんばったね」と認めるのでもいいでしょう。
叱った後のフォローも忘れずに
部下は叱られると、当然、気持ちを引きずり、へこんでしまいます。ですから、いつまでも尾を引かないよう、リーダーはアフターフォローをするのも仕事のひとつといえます。
▲叱ったことを謝らない
へこんでいる様子を見て、「叱ったりして悪かったね」と謝るようなことは言ってはいけません。叱った意味がなくなってしまいます。
▲別の業務の話で切り替える
フォローとして大切なのは、スパッと切り替えることです。コツは別の業務の話を振るのです。
「あっ、そういえば、明日の社内報の打ち合わせで総務が来るのは10時だったかな?」
別の話といっても、「そういえばバイクに乗っているって言ってたよね?」とプライベートな話を振っても効果は少ないでしょう。仕事に対するモチベーションにはつながらないからです。
▲「一杯飲みに行こうか」はNG
叱った後に「一杯飲みに行こうか」は、やめておきましょう。リーダーにしてみれば、飲みながらざっくばらんにいろんな話をして心をほぐしてやろうと思うかもしれません。しかし、叱られた部下は、リーダーとこれ以上一緒にいたいなんて思わないですし、早く帰りたいもの。一緒に飲みに行けばよけいに引きずってしまいかねません。
▲次のアクションの手伝いをする
叱る目的は行動改善ですから、叱った後は「何から取り組もうか」と次のアクションを自分なりにどのように考えているのかを尋ねてみます。いい考えならそれでOKですし、だめなら「他にないだろうか」と部下が自ら方向性を導き出せるように一緒に考える。そういうフォローが必要だと思います。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)
部下とのコミュニケーションに悩むリーダーは多いだろう。
いかにしてプロジェクトや販売促進などの方針を伝えればいいのか?
いや、その前にまずは部下との信頼関係を築くことが先決だと述べる、リーダー教育で数多くの実績を持つ経営コンサルタントの吉田幸弘氏に話を伺った。

コミュニケーションの基本は、「聞き上手」になること
部下との信頼関係を築きたいと思うとき、まずはコミュニケーションを図ろうとするでしょう。そこで今回はコミュニケーションという観点から信頼関係の築き方をお話させていただきます。
まず、リーダーは話し上手になる必要はありません。もちろん、簡潔にポイントをおさえて伝えることは、相手も理解しやすいでしょう。でも、部下はそれぞれ経験も、得意分野も違いますし、ましてや苦手な分野も各々あるはずです。そうしたことで大切になってくるのが「聞く力」です。
「聞く力」が身につけば、部下にリーダーの意図することが伝わるようになり、よりスムーズなコミュニケーションができるようになるでしょう。
そんな「聞く力」が身につくと、次のようないいメリットが生まれてきます。
◆部下が今、どのくらいの知識があり、何を知らないかがわかること
部下が持つ知識と技術がわかってくるので、どの部分を重点的に指導すればいいのか、任せればできるのか、また、補足すればいいのかが明確になります。
◆部下が質問しやすくなること
説明を受けた後など、リーダーにはなかなか質問しづらいものです。「さっき言ったじゃないか」とか、「何を聞いていたんだ」と叱られると思うからです。ですから、リーダーが聞き上手なら、部下も質問しやすくなるので、より正確に理解できることにつながります。
◆部下が主体的になること
「聞く力」で部下が考えていることや感じていることをうまく引き出し、理解してやれば、部下のほうから主体的に行動するようになります。「やらされる」よりも部下も「自分でやりたい」と思っているものなのです。
すべての部下と「平等」に接すること
上司と部下という関係は、どんな企業でも職種でも、部下は上司に対してプレッシャーを感じているものです。個人面談や会議などで時間をとって話し合っているから大丈夫というのはリーダーの勘違い。公式の場では感情部分の本音はなかなか出てきません。だからこそリーダーのほうから意識してコミュニケーションを図るようにしたいものです。
そのコミュニケーションの図り方ですが、すべての部下と「平等」に接することが大切です。実はこれがなかなか難しいのです。つい、話しやすい部下、よく報告や相談をしてくる部下とばかり話していませんか? 特定の部下ばかりとランチや飲みに行っていませんか?
これについては私にも苦い経験があります。部下の大量離脱です。
A君は売上トップで後輩の面倒もよくみてくれるチームではエース級の存在でした。そのチームは営業に不慣れな若手が多く、私は彼らにつきっきりで、A君とはほとんどコミュニケーションをとっていませんで
した。
できる部下だから大丈夫だと思っていたA君でしたが、実は悩みやストレスを抱えており、それに気付かずにいた結果、辞めてしまったのです。
するとA君を慕っていた部下たちが次々と後を追うように辞め、結果、大量離脱となってしまいました。後で人づてに聞いた話だと「自分の話も聞いてほしかった」と言うのでした。

部下への声かけは内容よりも「回数」がポイント
「平等」に接するということは、「内容=質」のことではなく物理的な「回数=量」のことなのです。いわば、何回話したかと言ったほうがわかりやすいかもしれません。
行動心理学で「ザイオンス効果」というのがあります。これは「同じ人や物に接する回数が増えるほど、その対象に対して好印象を持つようになる効果」のこと。例えば、最初は興味のなかった音楽を何度も聴いていると、いつの間にか好きになって口ずさんでいたという経験は、よくあるかと思います。あれです。
つまり、人は一度に2時間話すより、30分ずつ4回話した相手に親しみを持つのです。ですから、部下にはどんどん話しかけてみましょう。仕事以外のことでもいいのです。雑談も大いに結構です。「おはよう」「ご苦労さん」「お疲れさま」といった挨拶程度でも構いません。
ただし、「おい」はNGです。部下といっても、年上の場合もありますし、年上、年下関係なく「おい」呼ばわりするリーダーは信頼できないでしょう。部下が年上なら敬意を持って「○○さん、お疲れさまでした」と敬語で声をかけるのが常識的です。
また、声をかける部下が偏ってはいけません。「平等に」です。誰しも話しやすい相手とそうでない相手がいます。それを補うためにも例えば部下の一覧表を作成し、声をかけた回数を書き込んでみましょう。少ない部下には意識して声をかける。そこまでしなければならないほど、偏りはよくありません。
声かけをカウントしながらどんどん増やしていく。そんなコミュニケーション方法もあるのです。
世間話でいい雑談力を養う
さて、その声かけですが、コミュニケーションを促すようにするにはどのようなことを聞けばいいでしょうか。
「最近、どう?」「何か困っていることはある?」と聞けばいいかと思う人がいます。しかし、親切そうに思えるこの声かけは、実はあまりいい聞き方ではありません。もしあなた自身がそう聞かれたら、何て答えますか? すぐには答えられず、考える時
間がほしくなるでしょう。これは、とても答えづらい声かけの代表例なのです。
ではどのような声かけがいいのか。それは、あまり考えなくてもいい内容、つまり、世間話などの雑談を心がければいいのです。
ただ、その雑談が一往復ぐらいしか続かないという部下もいるでしょう。ですから、ある程度は部下の情報を知り、普段から話しやすい関係を意識してつくっておくことなのです。
また、うまく雑談する際のポイントとして、「目の前に見えているものの話をする」ことです。
例えば手に缶コーヒーを持っていたとします。
「この缶コーヒー、知っている?」
「いえ、知りません」
「結構、いけるよ。君は普段、何を飲んでいるの?」
「僕はA社の缶コーヒーをよく飲みますね」
「ああ、あの芸人が出てるコマーシャルのか」
という具合です。
このほかに、
「休みの日は何をしているの?」
「何線に乗っているの?」
「昨日のサッカー、観た?」
この他、時事ネタも用意しておいたほうがいいでしょう。こうした雑談を通して部下のことを知ることもできます。好きなスポーツが同じで話が盛り上がれば、それだけ距離が縮まり、人間関係も強化されることでしょう。しかも、雑談をするうちにビジネスチャンスや、いいアイデアが浮かんだりして思わぬ収穫があるかもしれません。
また、何気ない声かけや雑談の中にも「ねぎらいの言葉」を使うと好感を持ってくれます。単に「お疲れさまでした」よりも「寒い中お疲れさまでした」と言ってもらえるほうがうれしいものです。

部下の働く理由を知ること
コミュニケーションを図り、信頼関係を築いたその先の狙いは、成果につながるような動きを部下にしてもらうことです。
では、部下が積極的に動いてくれるようなコミュニケーションは、どのようにすればいいでしょうか。ひとつ有効なのは部下の将来の考えに応じたコミュニケーションです。そしてそれには「部下の働く理由」を知る必要があります。
「今の仕事を選んだきっかけは?」
「仕事を通して得たことは何か?」
「将来はどのようなことをしたいのか?」
といったことです。部下がどんな価値観や動機で今働いているのか。それを把握できれば、その部下にマッチした指導ができます。例えば、
・現在は営業だけれど、将来は新商品の開発をしたいと思っているのなら、顧客のニーズに合う新しい商品を考えるように指示します。
・家族との時間を大切にしたいと思っているのなら、定時には帰れるように一つひとつの業務時間を短縮する工夫を促します。
部下の仕事をする動機となっているものがわかっていると、仕事も頼みやすくなり、モチベーションもアップすることでしょう。
でも、中には動機も将来像もはっきりしない部下もいるはずです。そういう場合はリーダーがうまく誘導し、引き出してあげればいいのです。次のような問いかけを普段から意識して、部下に接します。
【価値観を見つける問いかけ例】
◆子どもの頃に時間のたつのも忘れて打ち込んだことは何かある?
【将来像を見つける問いかけ例】
◆あのような人になりたいと思う憧れの先輩はいる?
【やりたいことを見つける問いかけ例】
◆周りの人が苦労しているのに、自分は簡単にできたことはある?
◆(逆にやりたくないことも把握するため)やっていてストレスを感じることは何?
このようにして、部下のビジョンや価値観、動機を共に探し出し、そこを刺激するような仕事をさせていくことがポイントです。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)
既存事業の建て直しや方向転換は、新規事業の立ち上げよりも難しいといわれる。
しかし、ドラッカー理論の専門家でもある経営コンサルタントの藤屋伸二氏が提案する「変えたらシート」を活用すると、素早く取り組むべき方向性が見えてくる。
その「変えたらシート」とは?

事例①「対象市場・顧客」を変えてみる
現在の事業が頭打ちだとか、伸び悩んでいるというのはどの企業もあることでしょう。それが本業なら深刻です。
そうした状況にあるのなら、「変えたらシート」を活用してみてはいかがでしょうか。これはドラッカー理論をベースに私が考案したもので、セミナーやワークショップで好評を得ているマネジメント・ツールの一つです。
まず、表①のオフィスグリコを例に見てみましょう。
このシートを活用する場合はまず、「現在の状況」を縦の列に書き込みます。グリコ商品の本来の対象市場・顧客は「子ども」がメインです。提供する価値は「夢、栄養補助」、商品・サービスは「自社のお菓子と飲み物」、提供方法は「流通業者経由」になるでしょう。
そして「変えたらシート」の一番重要な点は、アミ部分の項目を別のものに変えてみることなのです。
表①では対象市場・顧客の「子ども」を「ビジネスパーソン」に変えてみれば、他の項目もそれに伴って変わっていきます。
(提供する価値)夢、栄養補助⇒リフレッシュ
(商品・サービス)自社のお菓子と飲み物⇒他社商品も含む食べ物・飲み物
(提供方法)流通業者経由⇒直接
(流通チャネル)卸業者・大規模小売店⇒企業にボックスを設置
(時間・スピード)都度⇒定期的
(数量)大量⇒数個
(価格)商品ごと⇒100円均一
というように、商品を構成する状況の要素は全て変わってしまいました。
アイス、野菜ジュース、栄養ドリンクもラインナップにあり、お菓子や甘いモノというと女性が好みそうですが、職場で手軽に買えることもあり、実際のオフィスグリコの利用者の7割は男性といいます。単に小腹が空いたからとか、お菓子が好きだからというだけではなく、デスクワークや外から帰ってきた男性にとってのお菓子は「リフレッシュ」するツールとなり、それで大ヒットしたのです。

事例②「提供する価値」を変えてみる
「提供する価値」を変えてみる
次に表②のマンナンライフ・蒟蒻畑の成功をこのシートに当てはめてみると、2の「提供する価値」を変えたことになります。
(対象市場・顧客)食材⇒ダイエット
(提供する価値)料理の具材で脇役⇒ダイエットの主役
(商品・サービス)食材としての蒟蒻⇒ダイエット食品の蒟蒻
(提供方法)流通業者経由⇒流通業者経由
(流通チャネル)食材売り場⇒健康食品売り場
(時間・スピード)都度⇒常用
(数量)1個⇒1袋〜
(価格)70円⇒145円〜
従来は料理の具材の脇役だったものに、「ダイエットの主役」という新しい価値に変えることにより、価格も従来より高くなりましたが、消費者に大いに受け入れられたのです。

事例③成功した事業や製品をシートに当てはめてみると
前述の事例①②のように「現在の状況」の項目を変えるとどうなるのかを、実在の商品や事業を簡単に紹介したのが表③です。
事務用品を中心とした通信販売会社のアスクルの場合は、この業界では3番手、4番手の位置付けになります。ですから、「提供方法」は流通業者経由としていましたが、その業者にもなかなか相手にしてもらえませんでした。
そこで、零細企業を対象にインターネットを通じて直接売ることにしたのです。零細企業では事務用品を買いに行く人員もいませんから、インターネットで注文するのが一番効率的で手っ取り早いのです。そして、「流通チャネル」も卸業者だったのを、地域をよく知る文具店に営業代行してもらい、カタログ販売としたので多品種・小ロットとなり、薄利多売だったのが適正利益となって実績を上げることができています。
星野リゾートの場合は、商品・サービスの項目である宿泊を、「運営指導・運営代行」に変えたんですね。すると、対象としていた市場・顧客も、消費者から「同業他社」へと変わるビジネス・モデルを作り上げました。
エスエス製薬のハイチオールCは、流通チャネルの変更で大きく変わりました。マツモトキヨシの登場で薬局・薬店の販売力が一気に減退し、ドラッグストアでの販売へとチェンジしました。その一方で「美白ブーム」がおきます。それまで二日酔いや倦怠回復向けだったハイチオールCを、シミ・そばかす対策といった美容・美白という価値を付けて、対象顧客も中・高年の男女から「美しくなりたい女性」とします。さらに、飲み方も以前は朝昼晩に分けてたくさん服用していたのを、若い人は薬には抵抗があるので、1日数粒に減らしました。すると横ばいだった売り上げが3倍にもなったといいます。

商品名を変えるだけでも、劇的に変化する
こうして今売れている製品やサービスを見ると、「変えたらシート」に当てはまる事例は他にもたくさんあります。そうした事例を見ていけば、このシートの使い方もよりわかってくることでしょう。
例えばトランプは、ポーカーなどのギャンブルの道具でした。それを任天堂が、「子ども向けのおもちゃ」に変えて、あらゆる世代、世帯に広がる商品に育てました。
ホテルグリーンコアというホテルは、普通のビジネスホテルならベッドが当たり前ですが、ベッドではなく布団を敷いて寝てもらう家族向けに変えて話題となりました。するとそれまで30%の稼働率が、80%になったそうです。
高知県にある、ひだか和紙は、文化財の引っ越しや移動する際は、和紙で包んで運ぶのがもっとも適していることをアピールして、文化財保護という超ニッチ市場を開拓しています。
フランスでは世界遺産に登録されたブドウ畑に、多くの観光客が訪れ、醸造所見学ツアーなどワイン文化に親しめる取り組みが盛んに行われています。それを創造的模倣として宇治茶畑にも生かす試みが行われており、単なる農地から観光資源へと変わっています。
フィットネスクラブの「Curves(カーブス)」は、女性だけのフィットネスクラブ。年齢不問、1回わずか30分の健康体操教室というコンセプトは、「対象市場・顧客」から「提供する価値」、「商品・サービス」「提供方法」「流通チャネル」「時間・スピード」などすべての要素が、従来の男性の多いフィットネスクラブの常識を変えました。今や全国の店舗数は1800店以上、会員数は80万人という実績を上げています。
また、商品名を変えるだけで成功した例もあります。ティッシュペーパーの『鼻セレブ』(旧:モイスチャーティッシュ)、清涼飲料水の『お〜い お茶』(旧:缶煎茶)、靴下の『通勤快足』(旧:フレッシュライフ)などが好例でしょう。
他に、頑丈な構造にすることで持ち運びに気を遣わなくてもいい、出張に特化したノートパソコン、本機は無料にしてカウンター課金で消耗品費にしたコピー機、計算機という機能からぼけ防止の「考具」としても売れているそろばん等々。「変えたらシート」にある現在の状況を構成する要素を1つ変えるだけで、劇的に変化する場合があるのです。

5W3Hに置き換えて考えてみる
「変えたらシート」に書き込む際、「現在の状況」を下の5W3Hに置き換えると考えやすいと思います。
「儲かりそうか」と「できるか」から判断して小規模に始めてみましょう。そして①予想通り、②思いがけない成功、③思いがけない失敗の3つの視点から、市場のニーズをくみ取り、売れる仕組みになるまで、テストを繰り返します。やがて、売れるめどがついたら本格的に事業として取り組むというわけです。
このように「変えたらシート」を活用すれば、ゼロから商品開発・市場開拓するより、はるかに短期間・低コスト・低リスクで、商品開発も市場開拓もできます。現在の商品や事業を儲かるビジネス・モデルに変えることも難しくはないでしょう。
対象市場・顧客……………………Who
提供する価値………………………Why
商品・サービス……………………What
提供方法………………………………How
流通チャネル……………………Where
時間・スピード……………………When
数量…………………………How many
価格…………………………How much
エスカイヤ世代にとって、気になる記憶力を維持するには普段からどんな習慣を身につけておればいいのだろうか。
神経内科の医師であり、テレビや多数の著書で知られる米山公啓医学博士にアドバイスしていただいた。

「あれなんだっけ」などと、いつも使っている言葉でありながらすぐに出てこないことや、いま言おうとしたことを一瞬にして忘れてしまったり、日常生活の中で記憶力の低下は気になるものです。
年齢と共に記憶力の低下が起きてきますが、それを防ぐ方法を考えてみましょう。
記憶には3つの種類
記憶には新しいことを覚えていく「記銘力」、覚えたことを脳に記録しておく「保持」、記憶したことを思い出す「想起」の3種類があります。
いわゆるど忘れは「想起」がうまくできない状態です。昨日のことをなかなか思い出せないのは「保持」が低下している状態。新しいことが苦手と思うのは「記銘力」の低下です。日常の生活ではこれらの記憶力が関係しあって、「もの忘れが多い」ということになります。
記銘力をアップする方法
新しいことを覚える力は、記憶の法則から言えば、好奇心です。自分の好きなことは努力しないで覚えられるものです。しかし、仕事に関係することはなかなか記憶できません。つまり本気で仕事に興味を持っているかどうかということになります。
なんども繰り返すことで次第に記憶は強固なものになっていきますが、それでは効率が悪いのです。
新しいことを覚える力は、やはり、いかにいろいろなことに興味を持てるかどうかということです。営業であれば、仕事をする相手にどれほど興味があるかということになります。重要な人であればあるほど名前も顔も覚えてしまうものです。
新しいグッズ、新しいレストランなど自分がいかに新しい情報を持っているか見直してみれば、自分の記銘力の強さがわかります。
「保持」をアップする方法
記憶の「保持」とは、いわゆる長期記憶と呼ばれ、一度覚えたら消えない記憶なのです。いまさっきの記憶は海馬で処理されて、大脳皮質へ送られる、忘れない記憶に変化していきます。そうなれば、忘れることはありません。つまり大脳皮質へ記憶をいかに上手に送り込むかということです。
「保持」で重要なことは十分な睡眠です。前日の情報の中で重要なものを睡眠中に、選んで大脳皮質へ送り込んでいるのです。だから十分な睡眠が取れないと記憶は保持されないで消えていってしまいます。
試験の前日、徹夜で勉強をして試験会場へ臨むのと、ある程度勉強して寝てしまう場合では、寝てしまったほうが覚えている記憶の量は多いのです。つまりうまく「保持」ができるのです。睡眠中は脳へ行く血液が増えて、脳が活性化していますし、神経細胞を刺激する神経栄養因子が増えるのです。
記憶と睡眠は非常に重要な関係を持っています。睡眠によって脳を休ませるのではなく、記憶力をアップするのだと考えるべきです。
保持をアップするもうひとつの方法は感情につなげることです。記憶は驚いた、感動したなどの感情が動かされたときに、一瞬にして忘れない記憶になります。
仕事の記憶で感情を動かすというのは難しいかもしれませんが、それくらい打ち込むことで、無理せず、忘れない記憶にしていくことができるはずです。仕事に感動をいかに持ち込めるかということでしょう。
「想起」をアップする方法
「想起」がうまくいかない状態とは、いわゆるど
忘れです。一度記憶して忘れない記憶になっていても、どうしてもうまく思い出せない、途中まで出かかっているのに出てこないという状態です。
記憶というのは、コンピューターのハードディスクにそのまま書き込んでいる状態とは違います。リンゴという単語であれば、赤い、丸い、あまい、くだものというようにさまざまな要素にわけて記憶されています。思い出すときには、いろいろな要素を取り出して「リンゴ」という言葉になります。つまり思い出す手順があります。それを間違ってしまうと、「赤いあれ」という感覚はあっても、リンゴという言葉が出てこなくなってしまうのです。あることを覚える場合、できるだけいろいろな手がかりがあったほうがいいということです。関連するいろいろなこと、覚えた場所なども思い出すときには重要になってきます。ひとつのことを覚えるのではなく、関連することも覚えていくと、思い出しやすいのです。
またど忘れの状態はもうひとつ原因があります。周辺の記憶に気持ちがいってしまい、重要な肝心の単語が出てこなくなってしまうのです。あまい、丸い、赤いということはしっかり覚えていても、リンゴという言葉を思い出すことを抑制してしまうのです。
そんな場合はむしろそこで諦めてしまいましょう。時間と場所を変えてもう一度考えるとすっと出てくるものです。
こういったど忘れを心配するのではなく、うまく思い出せないからいいやくらいに考えて、また思い
出せるだろうと前向きに考えることも大切です。

「ワーキングメモリー」というもうひとつの記憶装置
ワーキングメモリーは、時間の長さで区別する短期記憶でも長期記憶でもありません。ワーキングメモリーとは、何か目的を持って作業するときに使う記憶です。例えば暗算でお金の計算をする、人と話をする、創造性のある思考をする、あるいは同時に物事をやるときなどに必要になる記憶です。脳の中の黒板と考えるとわかりやすいです。
ワーキングメモリーの機能がしっかりしていると、幅広く、創造性のある思考ができます。ワーキングメモリーの機能が低下していると、いわゆる頭のキレが悪くなったと思うようになります。ワーキングメモリーは脳の前頭葉にあるとされ、年齢とともに面積が狭くなってきます。
だから、脳のキレが悪くなったと思うときは、ワーキングメモリーを鍛えていく必要があります。ワーキングメモリーを鍛える方法にはいろいろあります。
⑴新聞の短い記事を読んで、内容を理解するので はなく、印象に残った単語を4つ挙げてみる。
⑵電車の中吊り広告を見て、視線をそらしたあ と、そこに書かれている文章の単語を思い出し てみる。
⑶人と話をするとき、やたらに自分の意見を言わ ないで、相手の話を記憶するように聞いてみる。
⑷カラオケで新曲を覚えて、歌詞を見ないで歌え るようにする。
⑸文章を読んだり、音楽を聴いたりするときにも、 頭の中でイメージを作るようにする。
記憶の原則として、いやだなとか苦手だなと思うと、記憶していくことが難しくなります。まずは苦手意識を持たず、楽しく記憶していく必要があります。
またストレスが多いと、脳をしっかり働かせることができずに間違いも増えます。記憶力をアップするには、ストレス回避を心がけることです。つまり脳の中に余裕を持たせることです。さらに覚えるときには「覚えられる」と宣言をすることです。口に出して言うだけでも記憶力が違ってきたりするのです。
逆に忘れてもまた覚えればいいというくらいの楽観的な考え方や、自分の苦手なことが覚えられないと悲観的にならないことです。
脳の基本は忘れるようにできています。だから何もしなければ多くを忘れていくのが普通です。好奇心を持ち、楽しく記憶するその姿勢が非常に重要なのです。
新たなるチームを結成したが、どのように運営すればいいのか。初めてリーダーを任された人はもちろん、ベテランのリーダーも知っておけば役立つ「発達段階別チーム運営法」を、社長・幹部コーチング実績の豊富なチーム開発コンサルタント、鳥澤謙一郎氏に伺った。

第一段階:形成期
不安と期待の中で大切な4つのポイント
オハイオ州立大学のタックマン教授が提唱する「小グループ発展の段階再考」という理論をベースに、結成されたチームはどのような段階を経て成長していけば、成果を出せるチームになるのかを見ていきましょう。
例えば、あるプロジェクト遂行のためや、特定商品の販売目的のために、各部署から収集されたチームが結成されたとしましょう。
初めて顔を合わせるメンバーばかりなら、最初は「様子見」状態から始まります。心は開いていませんから、不安と期待が入り混じった探り合いというところでしょう。
そこで、リーダーの役目として、次の4つのポイントを念頭に置いてチームの運営に取り組みます。
1つ目は、このチームは何のため集められたのか(目的)、それをメンバーはきちんと理解しているのか(方向性)を一人ひとりに確認しておく必要があります。
意外とこれがわかっていなくて、「なんで自分はこのチームにいるのだろう?」と思っているメンバーがいるものです。いつまでに何をどうしなければいけないのか。ゴールを明確に伝えます。
2つ目は、チームはどんな役割を担っていて、どんな作業をしなければならないのかを明確にしておきましょう。
3つ目は、ゴールまでどのような過程、プロセスを通っていくのかを把握しておくことです。
4つ目は、プロセス上で起きた問題や予期せぬトラブルが、雑談レベルでも話せる状態にあること。これがとても重要です。不安に思っていたことを黙っていて、後で大ごとになることがないようにしなければなりません。
心を開くためにすることは
この4つのポイントをリーダーだけでなく、メンバーも理解し、各々の仕事に生かして取り組めば、成果は必ずついてくると思います。
でも、大事だとわかっていても「でもね」と思うこともあるでしょう。メンバー同士がわかりあえてないので、どんどん進めていこうにも心がついていけないのです。いわゆる心を開いていない状態では、チームワークを発揮することはできません。
例えば社歴ランクの高い人(リーダーや先輩社員)は、社歴ランクの低い人(若手社員)につい「こんなことがなんでわからないんだ」と言ってしまいます。社歴の浅い社員が知らないのは当たり前だと思って、ランクの高い人は、低い人のところまで降りていかなければ、社歴の浅い社員は心を開きません。
そうしてリーダーは、メンバーの個人的な背景も知っておき、その人らしさが今、このチームで生かされているのかを見ていくのです。
第二段階:混乱期
一番大切な段階で、とことんぶつかり合うこと
各メンバーの個性や特徴、らしさ、そして価値観がわかってきて、いろんな意見が出てくる状態になると、チームは第二段階に入ります。
「それはちょっと違うんじゃないの?」と仕事をめぐって主張し、衝突が起き始めます。実はこの状態がとても大切なのです。チーム内での対立やトラブルはよくないことのように思えますが、チームが成長するための発展段階では不可欠な要素なのです。
不思議に思うかもしれませんが、リーダーは衝突がない状態なら、「うちのチームはまだまだだな」と思わないといけません。逆に衝突が起きたなら、喜んでもいいのです。
どういうことかといいますと、チーム内での対立やトラブルが起きるのは、メンバーが本気を出してきた証拠です。本音を言い合えるのは「チームワークを発揮する」ための大前提といえます。
衝突が起きる状態はもちろん、パフォーマンスは落ちます。けれど、本音を徹底的にぶつけ合わず中途半端のままだと、後に残るのは憎しみだけです。リーダーなら、このぶつかり合う状態を決して止めてはいけません。本音で「それは違う。俺はこう思うんだ」となれば、解決策がメンバー間から出てくるものです。
本気スイッチを探すのもリーダーの役目
40代や50代の方なら「昔は本気でぶつかり合った」という経験をお持ちでしょう。本気で喧嘩した、本気で遊んだというこの世代の方はスイッチがすぐに入るからいいのですが、若い世代はトラブルは嫌だと逃げてしまいます。
ですから、リーダーはメンバーがどうすれば「本気スイッチ」が入るのかを探さなくてはなりません。何か楽しいことがあると入るのか、認めてあげると入るのか、ですね。
そして、パフォーマンスの良いチームでもよくあるのが、一番大切なことを話しだすと誰かが冗談を言って笑ってしまい、本筋からずれてしまうことです。本筋からずれると、同じところをぐるぐる回って、前に進みません。これは無意識でそうなるもので、なかなか抜け出せないのです。
そんな時こそリーダーが気づかなければなりません。何か同じパターンで繰り返しているなと自覚することです。「ハーフ イン・ハーフ アウト」という言葉がありますが、リーダーはあまりにも俯瞰しすぎると冷たいと思われますし、入り込みすぎると現状が読めなくなります。ほどよい俯瞰。まず、このことを心がけようという気持ちが大切です。
そして、リーダーはメンバーの本音に対しては「YES」をどんどん出していきましょう。受容することです。メンバーたちに「こういう意見を出してもいいんだ」という安心感を与えることです。
また、リーダーは、今自分はどんなリーダーなのかを客観視するのに役立つPM理論(図①)も参考にしておくといいでしょう。

【コラム】 過去をひも解く、「年表」を作ってみる
一番大切な第二段階では「会社も自分も過去をひも解く」ことを目的に「年表」を作ることをすすめています。
世界の出来事、日本の出来事、会社の出来事、個人の出来事の年表を作るのです。例えば金融危機が起きた時、日本もその影響を受け、会社も大変な状況になり、そんな時に自分や家族はどうだったのかを見ていくと、つながっているんです。世界の出来事が自分にもリンクしていることがわかります。特に面白いのは会社の年表です。あの時、苦しかったので、今の節約の取り組みがあるんだなと理解できます。その苦しかった時の当事者である先輩社員は、その時の苦労を理解してもらえ、若手はその出来事を知る。つまり、「会社の歴史」を通じてお互いが近づくのです。この「年表作り」は理解を深めるのに一役買うはずです。
第三段階:統一期
暗黙のルールが適材適所を生む

本音がとことん出て、課題に対してオープンな意見交換ができると、次の段階です。第三段階では、チーム内で暗黙のルールが生まれてきます。
こういう計算はAさんが早い、新規のアイデア出しはBさんがうまい、この分野はCさんの得意分野だ、というように、メンバーそれぞれが目標達成に向けての効果的なプロセスや、各人の役割分担を検討するようになるのです。メンバー同士がそれぞれの特性がわかってくると適材適所で動き始めます。
ある会社で3年計画のもと、チームの活性化に取り組んだ時に、2年目でこの第三段階の状態になりました。けれど、皆さん、自分たちがこの段階にまで成長していることに自覚がなく取り組んでいるのです。もちろん、生き生きと取り組み、当然、いいパフォーマンスで成果を上げていきました。
ここまで発達すると、適材適所だけでなく、「Dさんはこういう時に決まってミスをするから」と素早くメンバーがフォローします。こういうチームになるとリーダーは楽になりますね。
第四段階:達成・機能期
全員がリーダーシップを発揮
チーム一丸となって目標達成に向けて集中し始めると、第四段階です。この段階では、メンバーは共通の目的意識を持ち、効果的にコミュニケーションを取って、それぞれの仕事を最終目標に向けて順調に進めていきます。
全員がリーダーシップを発揮している状態ですから、課題に対しても自分たちで乗り越え、確実に成果を出すことでしょう。
塗装業を営む会社の事例です。ある時、お昼の休憩中に、「そうだ。この時間を利用して別件の現場の仕事をやっておこう」「それはいいね。何人か抜けてもここの現場なら、社長にやっておいてもらおう」と、さっさと自分たちで考え行動してしまったのですよと、その会社の社長が驚いていました。私は第四段階に入ったなと感じました。見ていて実に気持ち良く、動いていましたね。
こうして第四段階を経て成果を出せば、チームは解散です。また、別のプロジェクトのチームへと渡り歩いていくでしょうが、成功したチームを経験しておれば、リーダーもメンバーも次のチームでも活躍してくれることでしょう。
チームがどうも活性化しない。だからか結果もでない。
そんなチームの主な原因はコミュニケーションロス、ミスにあると、社長・幹部コーチング実績の豊富なチーム開発コンサルタントの鳥澤謙一郎氏は指摘する。
ではどうすればコミュニケーションはよくなるのか。そのノウハウを伺った。

信頼関係は明るさ、話しやすさ、接点の多さ、コミュニケーション量が質に変わる
例えば、組織に戦略、戦術があり、メンバーそれぞれは能力があり、ロジカルな思考で、効率良く仕事をこなすものの、雰囲気が暗く、会話は必要最低限のみ、そしていまいち士気が高まらない。そんなチームは、リーダーやメンバー間で言いたいことが言えない、リーダーが話を聞いてくれない等コミュニケーションロス、ミスが多いようです。しかも、メンバー間の心理的安心感が低く、信頼関係は希薄です。
このような状況に心当たりのあるリーダーは、先ずメンバーの話を聞き、情報量を増やすことが必要です。メンバーの情報が増えることで、タイムリーで的確な対応ができます。意識してメンバーに好奇心と肯定的な関わりを持ち、心理的な壁を低くすることがスタートです。そこで、私がコンサルティングの現場で導入している簡単に実践できる3つのワークを紹介しましょう。
心理的な壁を低くして、話しやすくするワーク
コミュニケーションを良くするということは、人間関係を良くすることです。前提として戦略、戦術はあるが結果が出ないのは、メンバーの能力に問題があるのでなく、人間関係が機能していないことがほとんどと考えています。
そこでおすすめしたいのが、3つのステップからなる「心理的距離を近づけるワーク」です。これはメンバー各人が自分の考えを開示し、相互理解して心理的距離を近づけ、話しやすくなることを目指します。このワークは、よく知られる「ジョハリの窓」(図①)や、チームの発達の段階を4段階に定義した理論「タックマンモデル」を参考にしています。週1回、朝礼の3分間を6ヵ月間実践してみましょう。

STEP1 グッド&ニュースを共有する
2人1組で、「24時間以内に起きた自分にとって良かった事柄」の話をします。「遅刻せずに出社することができた」「留守が多いユーザーにアポがとれた」といったレベルから始めてみましょう。
STEP1では「良い」ことに意識を向けるということがポイントになります。人は、どういうわけかネガティブな事柄は拾いやすいもの。特に日本人は、欧米との文化的な違いがあるのか、自虐的なことを美徳と受け取りがちです。褒める文化が日本にはあまり見られません。ですから、なおさら意識して「良い」ことを意識するのは、ポジティブな視点を養うのに有効といえます。
そして、その良かった事柄をポストイットに書き出し、相手に渡します。書くことは思考を整理する習慣にも役立ちます。
ここで大切なルールはポストイットを受け取った人はその内容について決して否定、批判したり、非難してはいけないことです。受け取り方、考え方は人それぞれですから、「そういう受け取り方はあるよね」「それは良かったですね」と受け答えするように始める前に伝えておきましょう。
このSTEP1の時間は1人1分弱で構いません。毎日行い、3ヵ月は続けます。
このワークを進めていくと、物事の「良いところを見る」習慣が身につきます。となると、例えば営業活動で新規受注率は通常3~5%と言われていますが、断られてばかりでへこむところを、「なぜお客様に断られたのか」「お客様から学ぶ(良いところを見る)」という習慣が身につけば、その断られた中からも何か得られる事を見つけようとします。それがキャリア、成長することにつながるのです。
STEP2 ポジティブに振り返る自分史作り
4ヵ月目はSTEP2に移り、「夢を語る自分史」というもので、これも2人1組で行います。
このワークの組み立てで参考になったのが「ジョハリの窓」です。人間関係を良くするには2つのポイントがあります。1つ目は、自分だけが知っている事柄を他人に知ってもらうことで、つまり自己開示です。この自己開示には「価値観の自己開示」「事実の自己開示」「感情の自己開示」の3つがあり、これらの情報を知ると相手は安心します。2つ目は、他人からのフィードバックを貰うこと。他人のフィードバックで自分の知らなかった自分に気づけるというわけです。
さて、STEP2ですが、自分史を「子供時代」「学生時代」「社会時代」の3つに分け、その時の夢をポストイットに書き出します。その中で1つだけ自分の事実を入れるのです。
「私は『子供時代』にオランダに旅行したことがあり、パンの美味しさに驚き、帰国後、将来はパン職人になろうと思っていました。『学生時代』には・・・。この中で夢はどれでしょうか。答えは子供時代です」といった感じで実施します。これはポジティブな謎解きのようで、なかなか楽しいもの。しかも3つの時代の話を聞けばその人の考え方、価値観を知り、その人への理解も深まるはずです。
それと同時に、夢を考えることは想像力を鍛え、伝えることでプレゼン力をも養います。週1回、毎回メンバーを替えて、もちろんリーダーも入って行うといいでしょう。
STEP3 自分らしさを探すワーク
5ヵ月目はSTEP3へと移ります。これも同様に2人1組で実施。「自分らしさ」を探すワークです。30秒でポストイットに自分らしさを書き出してみましょう。それを互いに見せ合い、相手らしさを一つ選び、選んだ理由を伝えます。
例えば、自分が「慎重」「計画的」「謙虚」「丁寧」と書いたとします。それらから相手は、「丁寧」を選び、その理由は「この前、ファイルを元に戻すのを頼むと、他のファイルまできちんと順番を揃えていたから」と伝えるのです。
コミュニケーションを良くするには相手に興味、関心を持つことが大切です。それが関係性を築く基本となります。
ワークショップでこのSTEP3を実施することがあるのですが、選んでくれた自分らしさを書いたポストイットは、ほとんどの人が大事に持って帰ります。「自分はそういうふうに見られているのか」は、普段は寡黙に仕事をしている人でも気になるもの。ましてや褒められたことは大事にとっておきたいのでしょう。
メンバーの魅力引き出しワーク

いよいよリーダーが大きな役目を果たすのが「メンバーの魅力引き出しワーク」です。
このワークでは、リーダーがメンバーに行動特徴(強み、弱み)をフィードバックします。メンバーの行動特徴は環境、目標に応じて変化します。ですから、弱みを否定的に捉えることはありません。自己理解を深め、変わり続けることが成果につながります。
このワークのフィードバックとは、メンバーの普段の実績や勤務態度から見つけた肯定的な事柄を伝えます。つまり、褒めるのです。メンバーに気づきを促し、魅力を引き出すのが目的で、「ジョハリの窓」や「タックマンモデル」のほかに、“良い人間関係があるチームは良い思考、良い行動、良い結果を出せる”という「成功の循環モデル」を参考に組み立ててみました。
やり方としては、リーダーは毎週メンバー全員の前で、1人を選び、選んだメンバーが成長した点を心(仕事の前向き姿勢)、技(お客様を喜ばした仕事)、体(勤怠・残業時間)の3つの観点から90秒でフィードバックします。フィードバックを受けたメンバーは感想を1分以内で話します。週1回、時間はわずか会議前の3分間ほどでいいでしょう。
このワークで成果を出すポイントは100%の本気です。メンバーのことを「本気で観ている」という感じが伝わることです。そうすれば、メンバーも心を開いて接しやすくなります。
実際、あるチーム開発先のオーナーは褒めるのは苦手なので、「ありがとう」なら言えそうだということで、それを実施してもらいました。すると1ヵ月後、あるメンバーが「社長はここまで拾い上げてくれるのかと驚いています」と喜んでいました。このオーナーはおそらく本気で、社員をよく観察し、見ていたのでしょう。トップやリーダーが率先することの大切さを感じました。
受け取り力アップワーク
3つ目は、仕事上でのマイナスな出来事を、前向きに受け取り、プラスに展開できる力を身につけるトレーニングとなる「受け取り力アップワーク」です。
「ジョハリの窓」、「成功の循環モデル」に加え、「ABC理論※」も参考にしたワークで、独りで問題を抱えがちな人であっても、リーダーやメンバーにすぐ相談できるような関係性を築き、コミュニケーションを図るものです。
やり方は、10人いれば、2人1組で3組と2組のチームに分け、それぞれリーダーを決めます。会議前の3分間、週1回、3カ月間実施してみましょう。
まず、2人1組で、①マイナスな出来事、②その事実をどう受け取り、③どんなプラスの行動をとったかを伝え合います。例えば、
①マイナスな出来事▼印刷物に間違った数字が載ってしまい、クライアントに迷惑をかけた。
②どう受け取ったか▼誰もが間違いやすいので、お陰でチェック体制を強化できたと受け取った。
③どんなプラスの行動▼誰もが使えるチェックマニュアルを作成し、同じミスが起きなくなった。
といった感じです。
終わったらリーダーにメールで報告。リーダーはパソコンなどで①出来事、②受け取り方、③どんなプラスに行動したかを管理し、各リーダーは良かった内容をメンバーにメール配信して共有するのです。
今回ご紹介したいずれのワークも決して複雑な内容ではありません。リーダーはワークの実施回数や間隔を臨機応変に変えていけばいいのです。コミュニケーションの接点を増やし、明るい話しやすい空気を作り、前向きな人間関係になったチームは必ず前向きな結果が伴います。まずは取り組んでみてください。
※ABC理論(心理学者アリバート・エリス)
困った状況、出来事(Adversity)に直面すると、それについて考え、思い込み(Belief)ができ、思い込みは結果(Consequence)を生む。結果を変えるにはどう受け取り方(思い込み)を変えるかがポイントとした理論。
うつ病などの精神疾患にかかる年齢層は、30代から増えはじめ、50代でピークとなるとか。まさに、マネジャーをはじめとする管理職に就くリーダーたちの世代だ。さまざまなプレッシャーにさらされるリーダーは日々どんな心掛けが必要なのだろうか。ビジネスマン向けメンタルヘルスのコンサルティングで多くの実績を持つ田村綾子氏に聞いた。

活躍するリーダーは、上司と部下からの板挟みは当たり前!
とかくリーダーは、「上からの命令と下からの突き上げの板挟みになってつらい」というイメージがあるようです。でも、リーダーならば、板挟みの危険性がない人は存在しないのではないでしょうか。
ひと昔前は、上司の要望だけを聞き、あとは部下に丸投げをするという中間管理職がいました。または反対に、部下を守るために、やたらと上司にかみつくという気概のあるリーダーも珍しくなかったと思います。
しかし、今の時代、どちらのタイプも出世はしづらいかもしれません。現代で管理職に就ける人は、会社の方針や上司の意見をくみ取ることができ、さらに部下の教育や心身の状況も把握できる人です。上司か部下、どちらか一方を気にしていればいいという人はそもそもリーダーにはなれないのではないでしょうか。
つまり、すでに管理職の方や、これから管理職になる方は、板挟みの危険性は避けては通れないといえるでしょう。
女性が部長にもなると板挟みも乗り越えている?!
男性と女性のリーダーを比べると、女性のほうが板挟みの率は多いでしょう。男性よりも女性は「リーダーだからこれをしなければいけない」と思い込む傾向が強いように思えますので、その分、上司や部下に気を遣ってストレスを感じます。実際、マネジャー・クラスで男性と比べると、女性のほうがメンタル負担についての相談をよく受けます。
そんな女性が、部長にもなると一転。板挟み状況なんてありません。いえ、板挟みがないというか、乗り越えているようなんですね。まさに「ストレスは人生のスパイス」(※)だと肯定的に向き合ってきた人といえますね。というのは「女性管理職」の中でも、部長職はお飾りではできませんから、真の実力があってのポストです。男性が部長になるよりもかなりハードルは高いので、部長に就くほどの女性は、根回し、周囲への配慮はもちろん、実務能力に優れ、自身の精神コントロールにも長けているのではないでしょうか。
派遣業界などでは男女問わず、「マネジャーを経験していない人は市場価値が下がる」とまで言われています。しんどいポストにありますが、それだけ価値ある存在でもあるのです。
※日常生活に「ストレス」の概念を見いだしたカナダの生理学者ハンス・セリエ の言葉。ストレスには「良いストレス」もあると唱えた。
ストレスの症状、「不眠」
板挟みにあるリーダーに就いた当初は、無理難題を押し付けてくる上司や、自分勝手な部下に対しては、腹が立つ人もいるかもしれません。しかし、ストレスが溜まってくると、やがてその矛先は必ず自分自身に向かいます。
「上司の役に立てない俺」「部下を育てられない私」。そんな自分自身を責め、精神的にも肉体的にも疲れが蓄積されます。ストレスが大きくなってやっかいなのは、自分を嫌いになってしまうことです。他人の悪口や愚痴を言っているあいだはまだいいのです。自分のことを嫌いになってきたら危険信号と思ってください。
やがて、溜まったストレスにより、身体的に現れる症状は、「不眠」です。なかなか寝付けない、夜中に目が覚めると後が眠れないといった症状ですね。ただ、眠れない日が続いても、何日目かでぐっすりと眠って清算できることはあるようですが、それでも不眠そのものは病気です。専門医に診てもらうことをお勧めします。
ストレスは、IQを下げる
不眠の他に、ストレスを過度に感じたり、身体の疲れが重なると、人はIQが下がります。普段ならできることができなくなるのです。リーダーなのに、お手本になるべき人なのにできなくなる。どんなに優秀な人でも、強いストレスを感じている状況下では、仕事の質もスピードも下がってしまいます。生産的な行動がとれなくなるのです。
さらに、周囲の人に相談しようという発想も出てこないので、どんどん独りよがりに陥ってしまい、孤独感も積もってきます。そのような状態では、上司からのあたりはさらに強くなり、部下の不満も増えるでしょう。まさに悪循環です。

予防法&対処法①
「自分自身はどうしたいのか?」を考えること
不眠に対しては専門医に相談して睡眠導入剤を服用したりして、体調を整えましょう。
一方、精神的には普段からの心掛けとしては、常に「自分自身はどうしたいのか?」を考えることです。「トップの方針だから従え」では、実務を担う部下や現場の人たちはたまったものではありません。もちろん、そうせざるを得ない場合もあるでしょうが、まずはその方針を自分はどう思うのか。「おかしいな」と思う部分があるのなら、可能な限り上司へ掛け合うことです。
「そんなことしたら、上司の機嫌を損なうだけだ!」という人がたまにいますが、本当にそうでしょうか? よく「うちの会社はイエスマンが出世する」という声を聞きます。それはその会社にイエスマン以上に優秀な人がいないからなのではないでしょうか。
トップの周りに、自分自身の考えや意見を丁寧に伝えてくれる部下がいないなら、せめて自分の考えに従ってくれるイエスマンを優先するのはトップにすれば当然の行為だといえます。もちろん、意見を言えばいいというものではありません。上司の立場も尊重しながら、建設的な意見を言ってくれる部下は頼りになります。そういう人が周りにいれば、イエスマンより優先されるはずです。
大切なのは、「自分自身はどうしたいのか?」という考えを持ち、同時に相手を動かすための伝え方、つまりコミュニケーション力を身に付けることです。部下も、「トップに言われたからこうして」という上司にはしらけてしまいますが、「私はこうしたいんだ!」という強い信念がある人にはついて行きたくなるものです。
予防法&対処法②
他人からの評価を気にし過ぎないこと
板挟みのストレスを和らげるために、もう一つ心掛けてほしいのは「他人からの評価を気にし過ぎない」ことです。
「こんな風に言ったら生意気に聞こえるかな?」「相手は傷つかないかな?」なんていうことを過度に気にしないことです。
もちろん、伝え方には一定の配慮が必要ですが、相手がどう受け取るかは相手の問題であり、踏み入ることができません。最近話題になっているA・アドラーの『嫌われる勇気』でも言っている、〈課題の分離〉です。あなたが言ったことを聞いて上司や部下がどう感じるかは〈相手の課題〉であってどうすることもできません。
どうにもできない〈相手の課題〉のことを考えるより、誠意ある対応で「できることを精一杯する」という論理性を持つことは、余計なストレスを抱えないためにとても大切なことです。このことに付随して「他人の悩みを自分の悩みにしないこと」もお伝えしておきます。
予防法&対処法③
背筋を伸ばして笑顔をつくる!
先ほど少し触れましたが「ストレスは人生のスパイス」と肯定的に捉えてみましょう。そうして、“背筋を伸ばし、笑顔になること”です。実はこれは最も手軽で人気のあるストレス軽減法。「自分にはストレスがたくさんある!」という人は、例外なく姿勢が悪く、表情が暗いか怖いかのどちらかです。
「大変な仕事をしているのだから当然だ!」という意見もあるかもしれませんが、逆もまた然り。心身相関といって、心と体はつながっています。背筋を伸ばし、頬を緩ますことで、心のストレスも必ず軽減されます。
ですから、鏡を見て、笑顔をつくってみましょう。常に暗い顔や怖い顔をしている上司の元で働く部下と、和やかな表情をしている上司の元で働く部下とでは、どちらのパフォーマンスが高くなるかは想像に難くないと思います。
予防法&対処法④
今この場に集中する!
“今この場に集中する”ということも、ストレス対処法として有効です。よく、「家に帰っても仕事のことが頭から離れない」という人がいます。難しい仕事をしているのですから当然です。ただし、いつも気になるという方は、集中力の問題かもしれません。
家に帰っても仕事が気になって家族との会話に集中できないという方は、案外、仕事中に「家の車の車検、来週あたり出しておこうか」と考えていたりするものです。
当たり前のことですが、職場で集中しなければいけないことは目の前の仕事です。家の車のことや、子どもの進学について心配をする時間ではありません。家庭でも同じです。経営の戦略や次の企画、部下のミスのフォローについて考えるのは、せめて帰宅するまでの電車や車の中で終わらせたいものです。そういう意識を持つだけでも、心身に良い変化が起こります。
エスカイヤニュースの読者の方には、ゴルフをなさる方も多いかと思います。パットの時に、ドライバーでミスしたことを思い出したりはしませんよね? 仮に大きく叩いてしまったホールがあっても、次のホールに着く前までに気持ちを切り替える努力をすると思います。余計なストレスを引き起こさないために、“今この場に集中する”を常に意識することをお勧めいたします。