★一流のリーダーの自分の上司への振る舞いは?
■新しい案件を与えられた場合
常務直々に「K社への提案書を作成してほしい」と言われました。提案書はつい先週も作成したばかりです。
― 三流のリーダー
(なんでウチが?)と反発的に「先週も私のチームでしたよ。今、忙しいので他のチームにお願いできませんか」と断ってしまいます。もし逆の立場で部下に同じように断られたらどのように思いますか? 「こんな部下にはもう仕事は頼まない!」と思いますよね。評価は確実に下がりますので、テロリストのような行動と言わざるを得ません。
― 二流のリーダー
「わかりました。別件もあるので調整してみます」と言うリーダーもいるでしょう。自分やチームの状態を分析し、できるかどうかを慎重に考える。いわばアナリストです。常務は有無を言わずにやってほしいはずですが……。
― 一流のリーダー
「やります」と即答して引き受けるのが一流です。アナリストのように「自分にできるだろうか」とは考えず、「私を指名したということは、私を信頼しているからだ。その思いに応えたい」と一流のリーダーは、ナルシスト的に捉える傾向があるようです。まず「やる」と決めたら、どのようにして時間を作って新しい案件を進めていくかを考えるのです。これだと上司からは高く評価され、他にも大切な仕事を任されるようになり、出世していくことでしょう。
■上司に相談したいことがある場合
「部下が得意先とトラブルを起こした」「部下が入院して補充要員が必要」「ライバル社との相見積りのため条件の見直しが必要」等々、リーダーが自分で対応できないことも起きます。
― 三流のリーダー
「報告・連絡・相談は迅速に」というビジネスの鉄則に従って、すぐに上司へ相談するのは実はあまりよくありません。上司も忙しいのです。これから商談に行こうとしていたかもしれません。突然の相談には対応できないかもしれないのです。
― 二流のリーダー
まずは社内の共有スケジュールを見て、相談のタイミングを判断します。でもそう簡単にはいかないもの。役職が上になればなるほど予定表に明記されていない、非公開の予定は意外と多くあるものです。
― 一流のリーダー
事前に相談のアポイントをとるのが一流のリーダーの行動です。まずメールで「相談したい時間」「相談内容」「困っている点について」を送ります。それから在席していればメールした旨を直接伝え、離席していれば目立つところにメモを貼っておきます。これなら上司もきちんと対応するでしょうし、相談時に解決策を用意しておいてくれるかもしれません。
★一流のリーダーの部下とのコミュニケーション術とは?
■部下との接し方
「部下に嫌われてなんぼ」と思っている人がいます。嫌われ役だからとわざと厳しくするのです。さて、一流のリーダーは嫌われようとするでしょうか、逆に好かれようとするでしょうか。それとも……。
― 三流のリーダー
「嫌われ役でいい」としても、人は嫌いな人についていこうとは思わないものです。でも、嫌われる勇気が必要だと言う方もいますが、それは「嫌われる」を誤解しています。間違っていたことを注意する、あるいは叱る、部下が作成した提案書を改善してもらうこと等。これらは嫌われることではなく、リーダーとしての当然の行動です。
― 二流のリーダー
では逆に部下に好かれようとすればいいのか。好かれようとすると、嫌われないようにしようという気持ちが働いて「叱りたいけれど、部下の気分を害するかもしれないので黙っていよう」となります。これでは本末転倒。ほめ言葉も、おだてになって部下のモチベーションは上がりません。
― 一流のリーダー
「嫌われよう」「好かれよう」という考えは「自分がどのように思われているか」という視点に他なりません。部下を育てよう、チームを伸ばそうという視点に立つのが一流のリーダーです。部下を適切な行動に改善させるためには、言いにくいことも言えばいいのです。ただし、感情的にならずに、改善案をいくつか与え、部下に選択させる。そんなスタンスが一流といえるでしょう。
■仕事の頼み方
例えば部門会議でのレジュメを部下に作成してもらう場合。当然、部下もいくつかの仕事を掛け持ちでやっているはず。そこへ頼むとなると……。
― 三流のリーダー
「なるはやで頼むよ」。私もよく使った言葉でした。「なるべく早く」という意味ですが、これはとても危険です。人によって「なるべく早く」は今日中と捉えたり、3日後ぐらいまでならいいやと自分の都合がいいように解釈する人もいるからです。
― 二流のリーダー
捉え方や解釈の食い違いを防止するためにも、いつまでに仕上げてほしいのか、期限は明確に伝えましょう。その際、「今週末」とか「来週の頭あたり」、「来週の月曜日」という言い方はよくありません。リーダーは月曜の午前中にはもらえるだろうと思っていても、部下は夕方でもいいだろうと解釈しているかもしれません。「月曜日の10時」と言いましょう。
― 一流のリーダー
期限を設定するだけではまだ二流です。一流は、部下の仕事の総量を調整し、オーバーフローにならないようにします。つまり、「やらなくてもいい仕事」「後回しにしていい仕事」という、優先順位の逆となる「劣後順位」を明確にします。さらに、期限を「月曜日の15時からの会議だから、できれば朝の10時にほしいんだ。でもしんどかったら12時まで待つけど」と二者択一を提案し、期限を部下に決めさせるとよりいいでしょう。
■雑談について
私語厳禁という職場があります。リーダーが静かに仕事をしたいタイプであったり、能率を上げようとそうするのです。果たして私語厳禁は能率をアップさせるのでしょうか。
― 三流のリーダー
公式な会話しかない上下関係では本音で話し合うことは難しいでしょう。部下との距離も縮まらず、信頼関係も構築しづらくなります。しかも、静かな職場は、相談がしにくいもの。他の人に聞こえてしまうからです。それが嫌で相談するのが遅くなってしまえば、事態はさらに悪化するかもしれません。また、メンバー同士の協力や情報交換も希薄になるものです。
― 二流のリーダー
コミュニケーションの潤滑油としても雑談は大切です。新聞やネットニュースなどの時事ネタをストックしておけばいいでしょう。ビジネス関連のニュースをはじめ、スポーツの試合結果、芸能ニュース、音楽ランキング、天気の話、話題のグルメ店等々。
― 一流のリーダー
単なる雑談も一流のリーダーは部下のことを知るために使います。「夕べ、サッカーのアジアカップ予選の試合、見た?」という話題から「僕は学生のころサッカー部でね。君は何かスポーツをやるの?」と、部下が話しやすいように自己開示してから質問をするといいでしょう。
雑談を通じて部下の情報を知り、どんな考えを持っているのかを把握する。そして元気がないときなど「最近、ドライブしてる?」という質問から雑談を始め、その答え方によってどれだけストレスを抱えているかを探る。そこまでやるのが一流のリーダーなのです。
★一流のリーダーの社外交流は?
■仕事以外での交流
毎日のように部下たちを誘って飲みに行くリーダーがいます。社内での交流は大切ですが、それだけでいいのでしょうか。
― 三流のリーダー
仕事に関係のない人と交流するのは「時間がもったいない」と言う人がいます。それでは情報が入ってきません。仕事のヒントは他業種にもあるもの。違う業界ならではの知識やノウハウ、異なる視点は参考になりますし、いい刺激にもなります。
― 二流のリーダー
社外交流のひとつで「朝活(あさかつ)」へ出勤前に参加する人もいるでしょう。朝食をとりながら議論や読書会をしたり、また講演会があったりします。有意義な時間活用法にも思えるのですが、「朝の1時間は深夜の3時間に匹敵する」とも言われ、頭は冴えているもの。仕事を処理するのに最適の朝に、別のことをするのはもったいないように思えるのですが。
― 一流のリーダー
社外のセミナーや交流会、食事会は、朝よりも夜に参加するほうがいいでしょう。社外の人と会う場合、遅れると恥ずかしいので、締め切り効果が出てその日の仕事は効率よくこなすもの。また、頭がよく働く朝は、外国語を勉強したり、ビジネス書を読んだり、インプットの時間にあてるのが一流のリーダーの朝の使い方です。
★一流のリーダーの問題解決法は?
■メンバー間の対立にどのように対処するか
チーム内の雰囲気が悪くなっています。原因は2人の中心メンバーが対立。このままではチームの運営に大きな支障をきたします。
― 三流のリーダー
当該の2人を別々に呼び出して注意するのはNGです。また、立場の弱いほうにつくのもNGです。違う態度で対応すれば、いつしか「人によって態度が違う」という噂が立ってしまいます。リーダーは公平な視点と態度が大切なので、別々に呼ぶのは避けましょう。
― 二流のリーダー
2人一緒に会議室に呼び出しましょう。例えば次のように言ってみます。「Aくんはいつもお得意さんの面倒をよくみてもらって助かるよ」
「Bくんは積極的に新規開拓してくれるから次年度の計画も立てやすくて助かるよ」
これらはリーダーの「私(I)」を主語にした自分の気持ちや感じたことを伝える「Iメッセージ」を使ったほめ言葉です。さらにこの後「今、チームはいい感じだから、さらに2人の力が合わされば、この事業部では抜きん出た強力なチームになれると思うんだ。だから、力を貸してほしい」
呼び出して和解させても一時的なもので時間が立てばまた対立するものです。
― 一流のリーダー
先の二流のリーダーの行動で十分ですが、一流はもうワン・アクションがあります。リーダーを含めた3人でミーティングするようにしたり、プロジェクトをつくったり、対立する2人を組ませて仕事をさせるのです。対立の原因は、コミュニケーション不足が多いので、会話する場を設け、2人がお互いを知る機会をたくさんつくれば、対立はたいていの場合、解消するものです。これこそ、一流と呼ばれるにふさわしいリーダーの問題解決法といえます。
※参考:吉田幸弘著『リーダーの一流、二流、三流』(明日香出版社)
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【2019年1・2月号】リーダーの資質を身につける あなたは 一流のリーダーか? Part1
★一流のリーダーの「スタンス」は?
■部下に対する考え方
― 三流のリーダー
ほとんど褒めずに、叱ってばかりいるリーダーがいます。そんなリーダーの部下は「提案や意見を言っても、どうせ受け入れてもらえない」と考え、言われたことしかしない人になってしまい、部下は育ちません。
― 二流のリーダー
部下が仕事を楽しめるように仕向ける人はリーダーとしてのいい資質を持っているでしょう。仕事が楽しくなればどんどん自発的になります。優れたリーダーは、部下に成功体験を味わってもらったり、仕事のアイデアを出し合う会議を開いたりといった工夫を考えるのです。
― 一流のリーダー
先の二流でも素晴らしいリーダーなのですが、一流はもっと先のことを考えます。「部下の成長を重視する」ことです。部下の力が80だとすると、130の仕事は辛いので110ぐらいの少し負荷をかけた仕事を与え、挑戦意欲をかき立てるのです。部下に少し上の仕事をさせるのが一流のリーダーといえます。
■理想のリーダー像とは?
― 三流のリーダー
威厳があるのが理想のリーダーだと思っている人です。部下になめられてはいけないと、威圧感を出してもリーダーとしての力不足は部下にすぐに見破られてしまいます。
― 二流のリーダー
指示をどんどん出して、「俺についてこい」という統率力のあるリーダー。威張らなければ、それはそれでいいでしょう。でも、部下は自ら考えて能動的に動くことが大切なので、このリーダーのもとでは部下は、リーダーの力量以上の力を出すことはできないでしょう。
― 一流のリーダー
共感を呼ぶリーダーは一流です。例えば落ち込んだ部下には「大変だったよな」と部下の気持ちに寄り添い、時には自分の失敗談を話します。人は成功談よりも失敗談のほうに共感するものです。そんなリーダーなら相談もしやすいはず。そして「つべこべ言わずにやれ」などと理不尽な言い方はせず、その仕事をする理由を明確に説明できるリーダーは一流です。
★一流のリーダーの「仕事の進め方」は?
■苦手な仕事や新しい仕事の場合
― 三流のリーダー
苦手な仕事を我慢して取り組むようなリーダーではいけません。我慢し続けるとただ苦痛になるだけですから。
― 二流のリーダー
できるリーダーは、得意な仕事と組み合わせながら進めていきます。例えば、30分苦手な事務処理をしたら、お得意様に電話してみたり、メールをチェックしてみたりという具合に苦手と得意を組み合わせます。また、新しい仕事を一つの「かたまり」と思いがちなので、仕事を細かい作業に分割してみると、気持ちが楽になることもあります。
― 一流のリーダー
一流のリーダーは楽をする人です。どういうことかと言いますと、上司や先輩をはじめ、時には部下が持つ知識や情報を借りて利用します。つまり「集合知」を上手に使うのです。例えば経営会議に提出する報告書なら、上司にどのように作っているのかを見せてもらいます。いちいちフォーマットを作成する時間はもったいなく、それは単なる作業。生産性はありません。作業に時間をかけず、価値を生むことに注力するのが一流のリーダーです。
■「目標設定」の立て方
― 三流のリーダー
「わが事業部の今期の目標は前年1割アップの1億円! 必ず達成しよう!」と数字の目標だけを掲げ、結果のみ、経過を見ないリーダーがいます。これでは部下もやる気は出てきませんし、やみくもに売上を追いかけても結果は出ないでしょう。
― 二流のリーダー
達成するための「途中経過」はとても大切です。できるリーダーは各プロセスの目標を設定します。四半期2500万円を達成するために既存客からは1000万円ずつ増やし、新規を5件獲得する、というような設定です。ただ、もし途中の目標が達成できなかったとき、その要因を分析して解決策を指示できないのならまだ二流と言わざるをえません。
― 一流のリーダー
一流のリーダーなら、達成できない要因を分析し、次は達成できるように行動も細かく設定します。「見込み客を100件ピックアップして電話でアポイントを申し込む」「既存客300件に新商品を案内するDMを送る」「企画書を30件書く」とか。電話や書くことはきちんと取り組めば確実にできることです。そうした細かな設定は、たとえ小さなことでもやり遂げれば、部下は成功体験を味わうことができます。
また、プロセスを分解してみましょう。どこがいけなかったのか。何につまずいたのか。アポイントが取れて面談できても見積りが出せないとか。見積りが出せても契約に至らないとか。それならクロージングを強めるためにベテランと二人で訪問させるといった対策が立てられます。そしてたまたま新規が獲得できた。達成できた。というのもそのままにしておくのではなく、貴重な成功体験としてその要因や経過は分析しておきます。
★一流のリーダーの「部下育成」は?
■部下の仕事に対しては?
― 三流のリーダー
知識も経験もない別部門に配属された新リーダーを想定してみましょう。よくあるのが今さら最初から仕事を学ぶより、これまでの管理経験を活かして効率的にやっていこうという方法です。その場合、自分より知識がある部下に仕事の内容を聞こうとしない、部下がどんな仕事をしているのか知ろうとしない人がよくいます。それでは部下との信頼関係は築けませんし、新しいチームで成果を上げる仕組みも作ることはできません。
― 二流のリーダー
新しい部門で、積極的に部下に質問し、部下の仕事内容を理解することはリーダーとしては当然です。中には知識もスキルも部下に負けないように頑張るリーダーがいますが、それはリーダーのすることではありません。競い合えば、リーダーはプレイヤーになってしまい、本来の仕事であるマネジメントができなくなるからです。
― 一流のリーダー
リーダーの仕事は、部下に負けないように頑張るのではなく、サポートにまわって部下ができることはどんどん任せてしまうことです。そうすれば部下へのリスペクトにもなり、信頼関係も築きやすくなります。そして、部下が担当する仕事はどこにつながるのか、誰の役に立つのかをきちんと把握し、部下よりも一歩高い視点で俯瞰的に業務の全体像をつかむ。これが一流のリーダーの仕事です。
■部下の戦力化について
― 三流のリーダー
部下が早く戦力となるよう、ひっきりなしに指示を出す人がいます。いつの間にか雑用まで与えてしまい、自分の手足のように使ってしまっています。これでは部下のモチベーションは上がりません。
― 二流のリーダー
部下はアシスタントではありません。フラットな関係の「パートナー」と位置付ければ、モチベーションも上がり、部下は建設的な意見を出しやすくなって、積極的に行動をとるはずです。そうなれば結果も出せて業績も上がることでしょう。しかし、これでもリーダーの役割を果たしているとはまだ言えないのです。
― 一流のリーダー
リーダーは部下を成長させなければなりません。それは上から指導する教育と少し違って、サポート役にまわるのがリーダーであり、主役は部下なのです。何が得意で何が苦手かを知り、強みを見つけて活かせるようにサポートする。つまり、一流のリーダーは、部下を「タレント」と考え、自分は「プロデューサー」になるような人だといえます。
★一流のリーダーの「チームづくり」とは?
■権限移譲はこうする
― 三流のリーダー
「部下が指示待ち人間になって困る」と悩むリーダーは多いようです。でもこれはリーダーの責任ともいえ、指示を細かく出しすぎなのかもしれません。「メールを送る前に下書きを見せて」「12時前には送るように」「15時になってもメールの返信がなければ電話して」など。とどめは、指示以外のことをやった場合、「指示したことだけをやりなさい」と言う。これは完全にアウト。部下は言われたことだけしかやらなくなります。
― 二流のリーダー
「この部分は君がやって」と自由にできる余地を与えましょう。ただ、自由だからと適当にやる部下もいます。さて、一流のリーダーならどうするでしょうか。
― 一流のリーダー
自由とともに「責任」も与えます。ただし全ての責任を負わせるのではありません。責任には、「遂行責任」「報告責任」「結果責任」の3つがあります。部下には「遂行責任」と「報告責任」を与えるのです。これなら途中で投げ出すことも少なく、やり切ることでしょう。「結果責任」はリーダーが負います。そうすれば部下は、きちんと報告し、最後まで遂行すれば、たとえうまくいかなくてもリーダーが責任をとってくれるから安心して取り組めるというものです。
■チームでの仕事の配分について
― 三流のリーダー
仕事ができる部下には、いくつもの仕事が集中し、忙しくなります。そんな部下は、誰よりも早く出社し、夜も遅くまで頑張っているものです。リーダーも少し気にしつつも、よくできるのでついまた仕事を任せてしまう。すると、ある日突然、辞表を出してきた……。私の苦い経験のひとつです。
― 二流のリーダー
自分はこんなに頑張っているのに給料は上がらないし、他の人と同じなんておかしい。当然、そう思うでしょう。やはり、仕事の配分は平等にすべきなのです。
― 一流のリーダー
平等にしても、例えばよくできる営業マンなら、顧客を増やし、業績も上げるので、事務処理などの仕事も増えて忙しくなるもの。そんな場合、仕事を減らしたり、やめることを検討しましょう。例えば「記入項目がやたらと多い日報」「定期的に作成しているがほとんど誰も見ないデータ」等です。また急ぎの依頼の中にもそんなに急がないでいいものもあるはず。そこで一流のリーダーなら次のように考えます。
・この仕事をやらない場合の不利益は何か
・頻度を減らすことはできないだろうか
・既存の何かでカバーできないだろうか
・アウトソーシングできないだろうか
仕事を減らし、もっと楽で効果のある仕組みをつくる人こそ一流と呼ばれるにふさわしいリーダーなのです。
※参考:吉田幸弘著『リーダーの一流、二流、三流』(明日香出版社)
【2018年12月号】ドラッカーの「生態的ニッチ」を活かせ!「こだわり」で 小さな企業でも 独占市場をつくる!
「いろんな人に買ってほしい」ではダメ
私は、ドラッカー理論を駆使して「ニッチ戦略」をコンセプトにコンサルティングをしていますが、そもそも「ニッチ」とは「隙間」と思っておられる方が多いと思います。実はこれは生物学用語であり、「巣」という意味があります。ある生物種が生息している特別な環境。安心で安全、独占できる空間のことをニッチというのです。つまり、独占できる環境をつくることがニッチ戦略といえます。
だから、中小企業は、「みんなに買ってほしい」と思ってはいけません。
情報の単位をゼタバイト(ZB)と言い、2の70乗だそうです。世界中の砂浜にある砂の数が1ZB。
今発信される情報量は、世界中の砂浜にある砂の数倍という途方もない量になっています。自社のホームページをつくって発信しても、それは一粒の砂ですから、ターゲットとなる消費者にはほとんど届きません。ですから、いろんな人に買ってほしいのではなく、どんな人に買ってほしいのか明確にしないと、対象となるお客様には辿り着かないのです。こうしたことを前提に、小さな企業でも独占市場をつくりだす「こだわり」のニッチ戦略(ペルソナイズ戦略)を考えていきましょう。
①事業目的にこだわる
ネットで検索した場合、92%の人が検索結果の1ページ目で終了してしまうそうです。2ページ目以降はほとんど見てもらえない。つまり、検索キーワードを絞り込まなければなりません。
例えば「ラーメン」だけではまず1ページ目には載りません。事業目的をもっと絞り込んで明確にするのです。ラーメン、とんこつ、渋谷ぐらいまで必要でしょう。これならライバルもぐっと少なくなるはず。これが「生態的ニッチ」なのです。しかも、「辛い」とか「大盛り」もキーワードにすればさらに絞り込まれます。それで、1日に300人も来ればOKでしょう。そうなれば、“大盛りのとんこつラーメンを食べられる店”として渋谷で「独占市場」をつくることも可能なわけです。チェーン店の場合は「渋谷」を変えればいいのです。
1つのホームページで全てのニーズにヒットするなんてあり得ません。ですから、事業目的にこだわって、絞り込むことです。
②戦略目標の達成にこだわる
事業目的を明確にしたのなら、次はゴールを明確にしましょう。
例えば来年の8月中旬にみんなで富士山山頂に登るので、それまでに資金を蓄え、体力をつけておくように。これだと目標が明確ですよね。5合目なら行ける人とか、来年あたり登りましょうとか、それではチームの足並みは揃いません。それには戦略目標にこだわった明確さが必要です。
よくあるのがスローガンを目標にする場合で、これだと精神論で終わってしまい、絵に描いた餅になってしまいます。工程まで、ロードマップにまで落とし込みましょう。
③自社の強みにこだわる
自社の強みこそが、実はお客様満足につながります。精密につくるとか、早くつくるとか。ただ、自社の強みってなかなか分からないものです。
例えば私が主催する「藤屋式ニッチ戦略塾」で、ある建築士の塾生は、6種類のCADを使いこなせました。6種類も使えるのでさまざまなオーダーに柔軟に対応できるのです。彼はそのことは当たり前のことで強みだとは思っていませんでした。
当たり前のことが強みであることはよくありますが、自分では気付いていない。だから、「お客様に聞け」とはよく言いますよね。強みをベースにしないと事業というのは成り立ちません。
④市場の独占にこだわる
ライバルがいると、必ず価格競争となるので、価格競争は避けなければいけません。それには特定の市場をつくることにこだわることです。木村秋則氏の「奇跡のリンゴ」は、4年待ちといいます。苦労して、奥さんのために育てたというストーリー。消費者はリンゴが食べたいというのではなく、「木村さんのリンゴ」が食べたいのです。独占市場になっています。そこには価格競争はなく、4年待っても食べてもらえるのです。大企業でなくても、独占市場はつくれるといえます。
⑤顧客のファン化・信者化にこだわる
独占市場をつくるには、ファンクラブをつくるような顧客のファン化・信者化を目指します。それには次のようなことにこだわってみましょう。
◎商品の品質にこだわる
先の木村氏の場合、奥さんが農薬で病気になってしまったので、無農薬でつくることにこだわりました。つまり、無農薬栽培という品質にこだわったのです。
一方で、品質を変えていくのも、ニッチ戦略です。例えば会計ソフトの分野。いろんな企業が、安くて簡単で便利なソフトを売り出してしのぎを削っています。これまで「使いやすさ」でしたが、そこへ「業績を上げる会計ソフト」となると全く違う展開が見られます。つまり、この業界のこの分野ではこの会計ソフトという絞り込みです。そうなると競争相手もガラッと変わってきます。もしかしたら特定の分野なら独占できるかもしれません。
◎提供方法にこだわる
数量限定とか、期間限定、会員様限定といった、提供方法にこだわるのもファンをつくることになります。特製ラーメン限定20杯! とか。会員様だけの特別サービス、特別価格とか。好例だなと思ったのはサントリーのハイボールのコマーシャルです。「ウイスキーと炭酸を1:3で割って」と作り方をコマーシャルで流すのも、提供方法の一つ。自社だけの提供の仕方を考えてみましょう。
◎ストーリーにこだわる
提供するのに、ストーリー性があるとよりいいでしょう。何年も寝かせたウイスキーというのもストーリーがあります。「奇跡のリンゴ」なんて、映画にもなった感動ストーリーがありました。
◎流通経路にこだわる
流通経路にもこだわってみるのも、魅力度アップとなります。あそこのお店しか手に入らないとか。どこそこの地域でしか売っていないとか。また、オリジナル商品はこのお店だけとか。PB(プライベートブランド)なんてまさしくそうです。
⑥ブランディングにこだわる
次はブランディングです。今大人気のインスタもブランディングの一つです。見た目の良さというブランディングといえます。究極は、「○○と言えば、★★」です。例えば、「テレビゲームと言えば、任天堂」とか、「コーヒーを飲むならスタバ(スターバックスコーヒー)」など。
また、あなたの会社や事業、商品に「お、ねだん以上。ニトリ」のようなキャッチコピーはありますか? キャッチコピーがあれば次の⑦の情報提供も取り組みやすくなります。
⑦情報発信にこだわる
以前はいいモノをつくれば売れたのですが、今は情報が溢れ、知ってもらわないと売れないのでどんどん情報発信する必要があります。それについては今最高の方法は、YouTubeです。
YouTubeを利用して情報を発信している企業はまだ少ないようです。音楽やスポーツを見るだけだと思われているかもしれません。私もYouTubeで動画をどんどんアップしています。これはSEO対策※にもなっており、YouTubeで「ニッチ戦略」で検索すると1番目から4番目ぐらいまで私の動画が独占しています。また、そのSEO対策セミナーのサイトはごまんとある中で、私とWEB戦略で提携している高橋真樹氏のサイトはトップで表示されるのも彼がYouTubeで発信しているからです。
※SEO(Search Engine Optimization)対策:検索エンジン最適化という意味で、検索結果で自社サイトが上位表示されるようにする対策のこと。
チャンネル登録数が500を超えると問い合わせが増えてきて仕事にも好影響が出てくると言われており、高橋氏は4700を超えているので、街中でも「YouTubeで見た高橋さんですか?」と声を掛けられるそうです。みんなのスターになる必要はありません。特定のスターになればいいのです。
また、情報発信の大原則といいますか、ルールがあります。それは「技術自慢」「商品自慢」「自社自慢」はNGです。お客様の「満足」「成功」「幸せ」にした状況を発信しましょう。自社の商品やサービスを使っていただいて幸せになりますと伝える。するとお客様は自分も幸せになりたいと思って購入するのです。「奇跡のリンゴ」で幸せになった奥さんのストーリーに感動と共感を抱き、それでオーダーするわけです。自社自慢に対しては感動も共感もありません。
情報発信には共感を呼ぶものでないと。そのためにはストーリーが必要です。そのストーリーも、「こんなに努力をしました」ではなく、「このように使って幸せになりました」という内容がポイントになります。
こうして①から⑦のこだわりを、ところどころ取り組んでいる企業はありますが、点と点で、線になっていません。例えば③が抜けるとそこで途絶えてしまいます。④が弱いとか、⑥は少し自信がないという項目があっても構いません。一つの流れとして①から⑦まで全てを取り組めば、ニッチ戦略の独占市場をつくるというゴールが見えてくるはずです。
【2018年11月号】社員のコミュニケーションを良くすれば 品質も改善される
ワークショップはファシリテーターの人柄で決まる
― 鳥澤氏
私とKさんの会社との最初のお付き合いは、10年ほど前でした。「社員を元気にしよう」というプロジェクトに参加していた知人の紹介で、一人のファシリテーター※1としてお手伝いをさせていただきました。私が行ったワークショップでは5人1組で真ん中にリーダーを置き、他の4人は目を閉じて手をつないで囲みます。8mほど離れたゴールまでリーダーの指示だけでたどり着くのです。
これはチームとして動くことの難しさ、コミュニケーションの難しさを知るもので、「目隠しUFO」と呼んでいます。これがメンバーの素の行動特性が出て、分かり、とても楽しかったようで、その中にKさんの上司がおられて、私のことをずっと覚えていてくださいました。
― K氏
一方で私は2013年ごろ、たまたま知人に誘われて鳥澤さんのDC(Diversity Communication〔ダイバーシティー・コミュニケーション〕)塾というセミナーに参加したことがありました。鳥澤さんが弊社でワークショップを行ったことは知りませんでした。先の目隠しUFOのようなコミュニケーション支援を図る内容で、これを会社でやったら面白いだろうなと思っていました。
でも何よりも鳥澤さんの人柄が良かった。いろいろなワークショップがありますが、組織課題にマッチしたキャラクターを持つファシリテーターを選ばないと、そのワークショップが生きてきません。私自身もワークショップを開催しますので、一緒にワークショップのコンテンツを考えたことは、とても勉強になったのを覚えています。
※1 ファシリテーター/グループ活動が円滑に行われるようにする支援者のこと。
品質改善には社員間のコミュニケーションも必要
― 鳥澤氏
DC塾の後、再びお会いしたのは2年ほどしてから。2016年4月に連絡をいただきました。
― K氏
上司から「組織をなんとかしたい」と相談を受けました。私も同感でした。というのは当時、品質の問題で顧客クレームが頻繁にありました。その要因を探っていくとスキルの問題などいろいろある中で、考え方の行き違いなど「社員間のコミュニケーション不足」が要因の1つとして浮き彫りになりました。
私が主導して取り組んでも良かったのですが、外部の人のほうがいいのではということで、上司が挙げたコンサルティング候補の中に鳥澤さんの名前が入っていたのです。驚くとともに鳥澤さんのキャラクターが必要だと感じて、即、鳥澤さんにお願いしようと進言しました。
― 鳥澤氏
Kさんとの打ち合わせでは、あくまでも最終目標は「品質改善」であり、その対策の1つとして縦割り組織の中でいかに横のつながりをスムーズにしていくかでした。
― K氏
私たちの仕事は、役割を分担してしまうと、あとは社内の人とコミュニケーションをとる必要がそんなにありません。パソコンを相手にすることが多く、隣の人と会話することも少ない。確かになんとかしないといけない課題といえました。
▶セッション第1回目
問題の要因を明らかにし、ゲームを通して「気付き」を促す
― K氏
第1回目のセッションは2016年6月。まずはコミュニケーション不足の現状を知ってもらうために例の「目隠しUFO」を行いました。このときは新聞を広げて真ん中をくり抜き、そこにリーダーが入り、メンバーは新聞の4隅を持ちます。リーダーがゴールに向かって右、左と言って指示するのは同じです。
リーダーが「右」と言っても、新聞を持つ人はそれぞれ違う方向なので、自分のことだけでなく他のメンバーの位置も考えなくてはいけません。単純なゲームですが、相手の立場になって考える必要がありますから、なかなか難しいのです。
― 鳥澤氏
制限は5分以内で。破れたらやり直しです。限られた時間内で破らずにゴールという結果を出さなければならない。まさに仕事と同じです。納期というゴールに向かって、チーム一体となってコミュニケーションをとらないと達成できません。
― K氏
ゲームを行う前に、「品質改善」のための課題や、何がクレームの要因になっているのかということを付箋に書いて白板に貼り、改善点を明らかにしておきました。その改善点の1つにコミュニケーション不足がある。だからこの目隠しUFOで、「相手の気持ちになって行動することが大切だ」と、それぞれが気付く。というストーリーは、事前に鳥澤さんとそうなるように考えていました。
▶セッション第2回目
自己開示で、本来の自分の気持ちに気付く
― K氏
セッションの終わりに全員に行動目標を書いてもらいます。次回に向けての自分への宿題です。1回目はまだ最終テーマの「品質改善」にフォーカスしたセッションだったので、“お客様の期待に応えるための行動目標は?”という仕事寄りの設問でした。「お客様の期待を上回る提案をすること」「お客様の話をよく聞くこと」といった内容を書いている参加者がいました。
― 鳥澤氏
1回目の目隠しUFOを通じてコミュニケーションの大切さに気付いた人もいました。それで、2回目はコミュニケーションに大切な「自己開示」を行いました。
言いたいことが言える関係性を育むことを目標に、良いときもあれば、悪いときもあったという自分史を語ります。いわゆる「人生曲線」です。
― K氏
いきなり“語れ”と言われても無理です。これもゲーム性があったほうが取り組みやすいので数字や風景が描かれたカードをめくって、出た絵柄に合わせて自分史を話していくのです。
― 鳥澤氏
とはいえ、自分のことを語るのは苦手な人もいて、このワークショップに参加するのが辛いと話される方も。もちろん無理強いはしません。辛いことがわかる。それもまた自分を知ることになりますから。
― K氏
2回目の行動目標の設問は「自分が仕事で大切にしたい行動は?」で、1回目より、より内面にフォーカスした問いにしました。参加者は「お客様の期待に応えるために“早さ”を大切にしたい」「お客様に感謝を持って接すること」などと書いています。なぜ「感謝」という言葉が出てきたのかという理由も書いてあって、「これまで“感謝”という気持ちを持っていなかったから」とのことでした。
― 鳥澤氏
2回目ともなると日本人らしいというか、「感謝」という言葉が出てきましたね。本当はそういう思いを持っていたのに、自分でも気付かなかったのかもしれません。
▶セッション第3回目
自己開示をさらに深め、感情で思いの背景を知る
― K氏
セッションは3カ月ごとに行われたので3回目は12月でした。1年間の喜怒哀楽を「振り返りシート」に書いてもらいました。2回目の自己開示をさらに深めた形で、その年、一番心に響いた出来事についての自己開示です。
― 鳥澤氏
単に出来事を思い起こすだけでなく、そのときにどう思ったのか、どのように感じたのか。感情面をフォーカスして自己開示していきます。これを4〜5人のグループで行い、「あのときはこのように感じた」と話すだけでなく、それを聞いた人たちもどう思ったのか。そういう対話も行いました。
― K氏
話しづらい人もいますので、話しやすい状態を作るためにもアイスブレイク※2なんかが必要ですね。ただ、ワークショップそのものは明るく陽気に行いますので3回目ともなると、自分を出すことに慣れてきます。1回につき3時間ほどですが、あっという間に過ぎます。
― 鳥澤氏
このセッションは「感情を表す」ことですが、エンジニアたちは普段、感情を表すようなことはあまりないことでしょう。でもコミュニケーションを図る上で、感情は相手の思いの背景を知ることができます。何故怒っているのか、喜んでいるのか、感情を通してわかってきます。
― K氏
振り返りシートには、仕事のことばかり書く人もいれば、プライベートを大切にしたいという思いを書く人もいます。どちらが良い悪いではなく、その思いが素直に出せるかどうかなんでしょうね。このときの行動目標は「自分の仕事で大切にしたい喜怒哀楽とは?」でした。書いてきたことは「楽しく仕事をしたい」「日々笑う」が印象的でした。
※2 アイスブレイク/ワークショップなどで、初対面同士の緊張をときほぐすための手法(簡単なゲームや自己紹介などを行う)。
▶セッション第4回目
組織の目標と自分の目標
― K氏
4回目は2017年の5月。毎年、部長が新年度の組織運営や事業目標といった部の方針を説明します。それをきちんと理解しているのかどうか、本来の目標であった「品質改善」に向けてストレートに投げかけてみました。
― 鳥澤氏
アイスブレイクとして方針内容の虫食いテストを行いましたが、残念ながら皆さん、聞いていないことがわかりましたね(笑)。聞いていなかった自分に気付く。それでいいかと思います。部長に報告すると「ちゃんと言いましたよ。伝わってなかったのかな?」と(笑)。
― K氏
4回目の本題は、部長の方針説明で印象に残っていること、組織でチャレンジしていくこと、その中で自分が大切にしていきたい価値観は何? ということでした。つまり、組織の目標はこうだけれど、それに対する自分の目標は何? ということを書いてもらいました。
― 鳥澤氏
組織の目標を達成するには、自分の目標と価値観がわかっていることが大切です。
― K氏
毎年各自の年度目標は立ててきましたが、自己開示を経て内面を掘り下げてきたので、2017年度は少し変化がありました。人ごとではなく、自分と会社の関係性で見る視点が芽生えていました。
関係性が進むと助け合いが始まって、品質改善にもつながる
― 鳥澤氏
他の変化として、クレーム件数も減ったんですよね。
― K氏
そうです。そして大きな変化として「助け合い」が始まりました。「大丈夫? 何か手伝おうか?」と声を掛け合うようになりました。その逆で「ちょっと大変なんだけど」と言うのも自己開示の影響かもしれません。
― 鳥澤氏
自己開示がないと他者理解も難しいものです。何よりもヘルプが言えるのはいいですよね。問題を抱え込まない。そして助け合ってみんなで品質を上げていく。それがゴールでもありました。
― K氏
コミュニケーションも進むと、気付きが広がっていきます。「ここ、危ないんじゃないの?」と気付いてすぐに言い合えるようになりました。
― 鳥澤氏
コミュニケーションがいいとミスがあってもすぐに報告し、素早く対応できるので品質は上がります。ミスがあったときにそれぞれが当事者意識で捉え、協力し合えるチームは理想的です。
― K氏
ミスがあっても「それは俺じゃないし」「じゃお先に」なんて、そんな職場って、辛いですよ(笑)。
― 鳥澤氏
関係性が低いと感情、本心を隠すのでゴールを目指しても組織として機能しません。
― K氏
ワークショップでそんなに変わるかなという懐疑的な声もありましたが、回が進むにつれ、クレーム件数は減っていきました。あれから人員も入れ替わりましたが、あのワークショップを受けた社員たちはそれぞれ自己開示をしながら、今も関係性を築いています。
【2018年10月号】感情をコントロールすれば、経営もうまくいく
雑談を通して「違和感」を抱いていた
私が1年間、経営コンサルティングの一環として「個別支援エモーションサービス」を行った多々納さんとは、あるセミナーを介して知り合い、分科会的に二人で勉強会を持つようになりました。その勉強会は、雑談で終わることもあれば、コンサル的にアドバイスすることもありますが、契約は結んでいないので無料です。
そんな多々納さんと会うたびに私は「違和感」というか、「何かが違う」と思うようになりました。なんというか、大言壮語というか、「本当はそうではないだろうな」と思い始めていたのです。
多々納氏「あるとき、何気ない私のひと言に鳥澤さんが『多々納さんは、本当はそうは思っていないのではないですか?』と指摘を受けたのです。図星だったのでビックリしました」
さらにもう一つ感じたことがありました。私は仕事柄、エリートと呼ばれるような人との付き合いも多く、多々納さんに同じ匂いを感じたのです。それで、率直にそのことも訊いてみました。
多々納氏「確かに高校は県下でもトップクラスの進学校で成績は良かったです。しかし、受験に失敗。その後もいろいろと挫折を味わってきましたので、エリートなんて思いもしません。失敗をしてきたことをバネにここまでやってきたと思っていました」
「エリート臭い」というのではありません。頭脳明晰な人には特有の思考パターン、行動パターンがあります。例えば幼い頃から期待されてきているので、その期待に応えようとする責任感が強い。そのせいか、間違えてはいけないと問題を抱え込んでしまいがちなのです。だから、頭の中と想いが、ちぐはぐになってしまう。「無理しているな」というのを感じていたのです。
個別支援エモーションサービスを受けることを決意
多々納氏「鳥澤さんにお会いしたときは、会社を立ち上げて意気揚々と取り組んでいたのですが、なにか計画と現実がうまく噛み合っていないなと感じ始めていた頃でした。人材派遣業ですから、人材を育てることと、クライアントの意向に合う人材を派遣することが経営の柱なわけですが、その両方がうまくいってませんでした」
これまで何度も挫折を味わってきたというのに多々納さんの自信がどこからくるのかも不思議でした。もともと頭脳明晰であったことがわかり、本人は全く意識していなくても、エリート意識がどこかに潜在されていて、それが知らぬ間に言葉や態度に表れているのだと思いました。
多々納氏「鳥澤さんから『潜在するエリート意識が働き、いつの間にか上から目線で従業員を見ていませんか?』と指摘されて、そうかもしれないと思い、鳥澤さんから本格的に個別支援エモーションサービスを受けてみようと決意したのです」
最初のセッションは「イライラしてもいい」
二人だけの勉強会を始めて1年ほど経った2016年、多々納さんと正式に個別支援エモーションサービスの契約を結びました。
勉強会で多々納さんの日常を訊くと、イライラすることが多く、そのイライラをしてはいけないと思い込んでいることが課題だと思いました。そこで、個別支援エモーションサービスのテーマを「感情のコントロール」にしようと提案しました。
多々納氏「当時はいつもイライラしていて、なかなか冷静になれない自分がありました。そして、『こうあるべきだ』という“べき論”で考え、行動していたのです。頭の中では『この場ではこう言ってはいけない』と考えて何も言わない。でも心の中は言いたくて仕方がない想いが渦巻き、頭の中の思考と感情が一致していません。当然、沸き起こる感情をうまく対処できないのでイライラするわけです」
十人十色と言いますが、私は「一人十色」だと思っています。いろんな自分があるはずです。「良い点」だけでなく、「ネガティブな自分」も逃げずに認め、受け入れる必要があります。
そこで、最初のセッションでの行動目標を、「イライラしてもいい」としました。責任感の強い人はイライラしてはいけないと思い込んでいますが、イライラしても構いません。それが受け入れるということなのです。
多々納氏「鳥澤さんの指導で、『自分は今、イライラしているのだな』と、イライラしているという事実を認めるようにしました。すると楽になりましたね。『イライラしちゃいけない』は我慢することなのでストレスになります。事実を認めると客観性が出てきたのか、イライラしている自分をちょっと脇に置いておけるのです。そして、徐々に目の前の事案を冷静に見ることができるようになりました」
毎朝、奥さんに挨拶するという「行動目標」
エモーションサービスのセッションは月に1度。1〜2時間ぐらい。喫茶店で行う場合もあります。場所は問いません。
この1カ月間にどのような行動をし、心の動きがあったか等を聞き出し、次月まで取り組む行動目標を考えます。そして次月は、その行動目標の結果を中心に分析し、次に取り組むべき行動目標を考えていきます。
多々納氏「最初はセッションのために課題を考えていました。鳥澤さんのために課題を考える、勉強のために勉強する、そんな感じでした。次第に行動目標を意識しながら日常業務をこなしてきた結果に答えや課題があるのだとわかってきました。鳥澤さんはよく図解で分析・指示してくれたので、問題を俯瞰できて取り組みやすかったです。
それでも、戸惑った行動目標の一つが、 “毎朝、妻に挨拶をする”ことでした。今なら全てのビジネスマンにおすすめしたい素晴らしい目標だと思います(笑)」
私が行う個別支援エモーションサービスとは、言わば「人間力」をアップさせるコンサルティングです。人間力とは◆知識・スキル(縦軸)◆人との関わりの数(横軸)◆謙虚力(奥行き軸)の3つで構成されるものと考えています。それでいくと、多々納さんが自身の感情をコントロールしていくのは、プライベートも巻き込んだほうがよりスムーズにいくパターンだと判断したのです。それで、いろいろ訊けば奥さんへの挨拶はほとんどしていないとのこと。それで、奥さんへの「挨拶」を提案しました。コミュニケーションを図る根本的な部分としてこれができれば、仕事にも必ずいい影響を及ぼすはずです。
多々納氏「実際、家族に対しても頭で先に考えて決め付ける態度だったので、ギスギスしていました。仕事:家庭の比率は、9:1ぐらいでした」
家庭がうまくいってないのに、仕事はうまくいくとは思えません。仕事も家庭も同じです。
多々納氏「たかが挨拶ですが、いかに大切なのか、自分でやってみてわかりました。新たな気付きも増えました。その日の妻の調子がなんとなくわかるのです。以来、夫婦間は良好。今は仕事:家庭は5:5。すると仕事もうまくいくのですね」
成功者は必ずと言っていいほど奥さんを大切にされています。
ある喫茶店での衝撃の出来事
多々納氏「新宿のある喫茶店でセッションを行ったときのことです。その日はいつもより混んでいて、ウエイトレスはかなりテンパっていました。そこへ、鳥澤さんがあるひと言を投げ掛けたら、そのウエイトレスはとたんに笑顔になり、キビキビと働き出しました。その変貌ぶりは私にとっては衝撃的でしたね」
その喫茶店は普段からよく利用していて、ウエイトレスの彼女のことも以前から知っていました。というのはいつもキリッとして、真面目に、プライドを持って仕事をしているのがよくわかり感心していたのです。
ところがその日は、かなり忙しそうで、イライラしているようで、いつもの彼女ではないと思いました。そんなとき、コーチングでは“承認のスキル”というテクニックがあります。私は『随分と混んでいるようだけど、今日も頑張っているね』と声を掛けました。“承認のスキル”とは褒めるのでなく、その人の存在に気づいて、言語化して伝えること。そうすると、承認された人はやる気や自発性がさらに促進されます。
多々納氏「鳥澤さんは自然にサラッと言っている感じでした。心で思っていることを鳥澤さんのように言えたらと思いました。まさにお手本を示してもらったようでした」
良好なコミュニケーションをめざして
個別支援エモーションサービスを本格的に開始してから半年過ぎると、多々納さんはどんどん素直になってきて、さまざまなことを受け入れ、積極的に課題に取り組んでいかれました。そうなれば定期的にフォローすれば大丈夫なので個別支援エモーションサービスは1年で終了。随分と成長されました。
多々納氏「今では冷静に部下の話を聞けるようになりました。大袈裟かもしれませんが“拝聴する”みたいな姿勢です。頭の中で『どうせ君はこうなんだろう』と決め付けないで、心から『ああ、そうなんだ』と思える自分がいます。ですから、部下の本音もようやく聞き出せるようになり、適材適所のオペレーションも好転し始めました。以前は、部下の話を聞きながら頭の中で用意した答えになるように誘導していました。それでは部下が納得できる結果は得られません。それは良好なコミュニケーションとはいえませんからね」感情をコントロールすると、良好なコミュニケーションも生まれます。コーチングでは、質の高いコミュニケーションを生み出すステップとして「共通体験→共通言語→共通認識→共通理解」があります。日々仕事という共通の体験を重ね、その共通の体験があるからこそ共通の言語で話ができるようになります。そして同じ目的や視点で共通の認識をするようになり、互いの理解が深められていく。そうなれば、理想的な職場、業績アップにつながるコミュニケーションを創り出していけるのです。
【2018年9月号】好感度が上がる10の心理学テクニック
Technique 1
◆鏡を見れば見るほどに、あなたは魅力的になる
「初対面」の相手との商談を想定してみましょう。経験を積んでいても緊張はするもの。そこで、商談前にお勧めしたいのが「鏡を見る」ことです。
心理学の実験で、鏡を見ないでいると次第に自分の容姿だけでなく、周囲のことにも無関心になり、その結果、無気力になるという実験結果があります。
逆に鏡を多く見る人は、自分が周囲からどのように見えているのかを気にする「公的自己意識」があります。これが強い人ほど、どのように自分が魅力的に見えるかに熱心なので、その結果として、どんどん魅力的になっていくというわけです。
内面は信念や意志、経験で磨くしかありませんが、外見は鏡1枚あれば磨けます。私の知っているトップ営業マンは、常に鏡を携帯し、自分の容姿をチェックしていました。初対面の相手には、まずは「見た目」が大切です。
Technique 2
◆自己紹介は、まず良い情報から
「初対面」では、人は相手の全体像を瞬間的に捉えて、「この人は親切そう」とか、「雑な感じがする」といった漠然とした印象を作り上げます。その印象は時間とともに増幅されることがわかっており、このことを「初頭効果」といいます。
そして、その感じた印象を裏付ける情報を集めるようになり、「やっぱり最初に思ったとおりだ」と自分の正しさを確認しようとします。これを「確証バイアス」と呼びます。心理学者ソロモン・アッシュが行った有名な「印象形成実験」があります。2つのリストを被験者に示して答えてもらうというものです。
リストA:「彼は、知的で、勤勉で、衝動的で、批判的で、嫉妬深い人」
リストB:「彼は、嫉妬深く、衝動的で、批判的で、勤勉で、知的な人」
どちらが好印象だったかと訊くと、Aと答えた人が多かったのです。つまり、最初に好ましい特性を提示すると相手に対する印象は好意的なものになる傾向があるわけです。
ですから、第一印象を良くするには、自己紹介では自分の良い情報をまず提示しましょう。但し、自慢にならないよう強調し過ぎてはいけません。
Technique 3
◆共通項があると、好意を抱かれやすくなる
人は趣味や考え、境遇の似た者同士は親しくなるという「類似性の法則」があります。例えば、名前、出身地、誕生日、年齢、血液型、卒業校、趣味など。実際、同じ誕生日だと見知らぬ人からの依頼でも承諾する率が高いという実験結果もあります。初対面のお客様でも、あなたと何かしらの「関連」「類似性」「共通項」があれば、お客様はあなたに好意を抱きやすくなるということです。
そこで私は「“木戸に立ちかけし”衣食住」を利用しています。これはお客様との会話の糸口になるキーワードを並べたもの。
〔き〕気候や天気
〔ど〕道楽や趣味
〔に〕ニュース(時事、経済、スポーツニュース等)
〔た〕旅
〔ち〕知人や友人
〔か〕家庭
〔け〕健康、身体、病気
〔し〕仕事
このキーワードを使えば、あまり話が弾まない相手でも話のネタに困りません。これらの話題で雑談をしながら相手との共通項を探してみるのです。
Technique 4
◆相手のしぐさに合わせてみる
さらに「初対面」で使えるいくつかのテクニックをご紹介しましょう。
まずは、相手の姿勢や身振り、身体の動きに合わせる「ミラーリング」。例えば、手が机の上にあるか膝の上にあるか、足を組んでいるかいないか、椅子に腰を掛けているのは浅いか深いか、前かがみか後ろに反っているかとか。さらに首の傾き、手の動き、呼吸などに自分の動作を合わせてみるのです。
次に「ペーシング」。相手の声の大きさ、速さ、トーン、テンポ、高低、リズム、感情の明るさや暗さ、熱意、静けさに合わせます。
「バックトラッキング」も相手に気に入られるテクニックです。これは〔おうむ返し〕のことで、相手が今話した会話の語尾を繰り返す、相手の会話のキーワードを使って返す、相手の会話を要約して返す、といったことをしてみましょう。
これらのことを相手に気付かれずに行うと、あなたに対して、「なんだかこの人とはペースが合う」「気が合う」「波長が合う」という状態を作り出し、良い印象につながるわけです。
Technique 5
◆相手の隣に移動すると、心理的距離が縮まる
私たちは自分の周囲に、他人が侵入してくると不快感やストレスを感じる「個人空間(パーソナル・スペース)」を持っています。アメリカの文化人類学者エドワード・ホールは、その個人空間を次の4つに分類しています。
①密接距離(0〜45㎝)/家族や恋人同士の距離で、それ以外の人がこの距離に近づくと不快感を抱きます。
②個体距離(45〜120㎝)/手を伸ばせば相手に届く、親しい友人同士で会話するような距離です。
③社会距離(120〜360㎝)/相手の身体に触れることができない距離です。上司と部下が仕事の話をするときの間隔です。
④公衆距離(360㎝以上)/大きな会合や集会、講演会等の距離です。
こうした個人空間をうまく使えば、お客様との良好な関係づくりに役立ちます。
商談となれば③の社会距離が多いでしょうが、親近感をさらに深めたいのなら、②の個体距離にしてみます。例えば、資料を見せる場合に、相手の隣に移動して「ちょっとここを見てもらえますか」と指差して説明するわけです。手にできる商品なら相手に持たせるなど、相手との心理的距離を縮める行動を意識してみましょう。
Technique 6
◆相手の視線で、心を読む
視線には人の心の内が表れると言われ、視線の動きは、脳のどこかにアクセスしているのです(右利きの人の場合。左利きの人はこの反対)。
◆左上に視線が動く:記憶する過去の視覚イメージ(映像)にアクセスしている
◆右上に視線が動く:未来を創造する視覚イメージにアクセスしている
◆左横に視線が動く:記憶する過去の聴覚的記憶(音や言葉)のイメージにアクセスしている
◆右横に視線が動く:未来を創造する聴覚的記憶(音や言葉)のイメージにアクセスしている
◆左下に視線が動く:内的対話(過去の感情や記憶)にアクセスしている
◆右下に視線が動く:身体的にアクセスしている
これらを「アイ・アクセシング・キュー」といい、相手の視線の動きで、「今、この人はこういうことを考えているな」とある程度の推察ができるというわけです。
視線が上を向くことが多いのなら、言葉や資料で説明するより、商品の写真やイラストを見せるほうが納得してもらう確率が高まるでしょう。
視線が左右に動くのなら、論理的な言葉での説明や他のお客様の感想を聞かせるほうがいいかもしれません。また、視線が落ちる場合は身体で何かを感じたり、心の中で対話をしていると思われるので、あまりせかさずに考える時間を与えるといいでしょう。
Technique 7
◆人の噂話は、自分の評価になる?
アメリカの大学での心理学実験です。役者を使って「彼は動物嫌いで、子犬を蹴飛ばすのを見たことがある。本当に嫌な奴だ」と第三者の噂話をするシーンを撮ったVTRを被験者に見せて感想を訊きました。すると、被験者の共通した感想は、噂話の話し手(役者)を嫌な人間だと感じたことでした。
これは、誰かが第三者の噂話をしたとき、聞き手は無意識のうちに「話し手」を「第三者」に重ね合わせてしまう「自発的特徴変換」と呼ばれるもの。
あなたが「あの人はいつも朗らかな人だけれど、本当は冷たい人なんですよ」と言えば、聞き手は無意識にあなたを「本当は冷たい人」と見るようになるのです。
ですから、商談やクライアントとの打ち合わせで第三者を揶揄するような噂話や、確証のない情報提供‒「S社の部長さんて、誠実そうに見えて実際は無理難題を押し付けるので有名ですよ」‒と話すのはNG。言ったことが自分のイメージになるので、自分の評価がダウンします。逆に人を褒めると自分の評価はアップするわけで、「あの人は誠実な人ですよね」とポジティブな噂話ならいいでしょう。
Technique 8
◆あいさつにひと言添えると、印象が強くなる
商談が終わったとき、なんと言って締めますか?普通は「それでは良いお返事をお待ちしております」でしょう。心理学テクニックとしては、何気ないあいさつでも、印象度を上げたいもの。そこで、「それでは良いお返事をお待ちしております。期待しておりますので!」と、基本のあいさつに「もうひと言」を付け加えれば、相手の印象に深く残ります。
「初めまして。今日はお会いするのを楽しみにして来ました」
「今日はありがとうございます。御社にお声掛けをいただけるとは本当に光栄です」
初対面なら印象付けることはとても大切です。
Technique 9
◆商談や打ち合わせは、玄関を出てしまうまで気を抜かない
終わり良ければすべて良しは、ビジネス現場でも同じです。
北陸の有名なある繁盛店の社長に「お見送り七歩」という言葉を教えていただきました。お客様が帰るときはただその場に立ってお見送りするのではなく、お客様に寄り添いながら七歩歩いて最後までお見送りをしなさいとのことでした。
私がこれまで出逢った繁盛店の共通項は、最後の印象が良いという点だといえます。心理学では「親近効果」といい、人は経験の最後の印象がもっとも記憶に残りやすいというのです。食事が楽しかったとしても最後のレジ係の対応や愛想が悪いと、結局そのお店全体のイメージがダウンしてしまいます。繁盛店では、接客能力の高いスタッフをレジ係に配置するのも共通項の一つです。
いい雰囲気で初対面との商談を終えても、退室するときにドアをバタンと無造作に閉めてしまったがために印象が悪くなってしまった。そんなことがないように、商談が終わってもあなたは玄関を出てしまうまで気を抜かないことです。
Technique 10
◆接触を重ねると印象度が上がる
こうして初対面のお客様との商談をクリアしたとしましょう。さて、その後はどうするか。連絡が来るのを待ちますか?
人は目にする、触れる、会う回数が多いものに好感をもつ「熟知性の原則」や、4回以上の接触をすると好意や信頼性が生まれやすい「単純接触効果」というのがあります。
私の師である竹田陽一先生は「2:8」、「5:8」とよく言いました。「2:8」は2回しか会わない人の8割は不成約となり、5回会う人が全契約の8割を手にするというものです。昔の御用聞きでお得意の職場にただ顔を出すというのも、それなりに意味があったのです。「あっさりと、しつこく」。これがコツと言えるでしょう。ぜひ、試してみてください。
参考:酒井とし夫著『心理マーケティング100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)
【2018年7-8月号】接客をレベルアップさせる10の心理学テクニック
Technique 1
◆小さな依頼を承諾してもらうと、次も承諾されやすい
初歩的なセールステクニック「foot in the door」をご存じでしょうか。これは「最初から大きな依頼をするよりも、小さな依頼の承諾を得れば、次は最初よりも大きな依頼であっても承諾されやすい」という心理をうまく使ったものです。
「foot in the door」は文字通り、「足先」をドアに入れること。訪問した際、少しでもドアを開けてくれたなら、サッとその隙間に足先を入れる。いわゆる足掛かりを得たということです。
お店の店頭に割引商品や特価商品など、安価な小物が並べられているのもこれです。安い商品で惹き付けて、店内の奥の高額商品のコーナーまで誘導することになります。
逆に言えば、予め小さな承諾を得られそうな商品やサービスを用意し、段階的に提案していく。つまり、小→中→大と勧めていくテクニックです。
Technique 2
◆簡単な要求を承諾すると、次の要求は断りにくくなる
前述のテクニックと似ている「low‒ball technique」という承諾を得やすくする説得法も紹介しましょう。これは、最初に相手が受け入れやすい条件で承諾を得れば、その後はネガティブな条件でも受け入れやすいというもの。社会心理学者のロバート・B・チャルディーニの有名な実験で、「朝7時から心理学の実験に協力してください」と大学生に伝えると、承諾したのは31%でした。次に「心理学の実験に協力してください」と伝えて承諾してもらった後、「実験は朝7時からスタートします」とお願いしても、早朝なのに56%の学生が承諾したのです。
例えばこれをPOP広告に生かすなら、
A「デジタルカメラ50%オフ! ただし、展示品につ きキズあり」
B「キズありデジタルカメラ50%オフ!」
であれば、Aのほうが注目されるでしょう。
人の心理を考慮すると最初に投げるのは好条件なロー・ボールのほうが効果的なのです。
Technique 3
◆選択肢を3つにすると人は真ん中を選ぶ
次は簡単な客単価アップ法です。例えばランチメニュー。
A…日替わり 680円
B…日替わり+コーヒー+デザート 1000円
とあれば、比較が簡単なのでAを「安い」と感じて選ぶ人が多いでしょう。お店としてはBを選んでほしい。そんな場合は、もう一つ選択肢を増やせばいいのです。
A…日替わり 680円
B…日替わり+コーヒー+デザート 1000円
C…日替わり+サラダ+コーヒー+デザート
1300円
こうすれば、Bの1000円が相対的に安く感じ、三者択一にすると真ん中が選ばれがちになるのでBをオーダーする人も出てくるでしょう。
また、人は基準価格より2割以上の高低があると「高い」「安い」と感じるものです。そこでBの1000円で売りたいなら、Aを850円ぐらいにして、割安なことによるお得感を感じさせない価格にするというテクニックもあります。
Technique 4
◆買うと決めた瞬間こそ、財布のヒモが緩むとき
次も客単価アップ法の一つです。特急電車に乗ったときです。私はコーヒーが飲みたくなり、ワゴン販売の女性に声をかけると、「ありがとうございます。ホットコーヒーですね」とその女性は笑顔で答え、「お得な大きいサイズと普通のサイズがございますが、どちらがよろしいですか?」と目の前に2つのカップを出してきました。
私は「お得な」というトークに惹かれて「大きいサイズ」を注文しました。このように、求めていたものより上位のものを勧めるテクニックを「up‒sell」といい、客単価を上げる方法の一つです。
そして、支払いをしようとしたとき、「ご一緒に出来立てのおいしいパウンドケーキはいかがですか?」と絶妙のタイミングで勧めるのです。私はそのパウンドケーキも買いました。
人は買い物を決めるまでは、財布のヒモは固いものですが、買うと決めた瞬間こそ、財布のヒモが緩むのです。つまり、客単価を上げる最も効果的なタイミングは、購入するまさにその瞬間だといえます。
私がコーヒーを買ったその瞬間にパウンドケーキを勧めましたが、関連するものを組み合わせて勧めることを「cross‒sell」といいます。次に提案する商品やサービスを準備しておきましょう。
Technique 5
◆相手に望むことを告げると、そのことを意識した行動をとる
「君って、細かいことを気にしすぎだね」と言われると、その人は自分のことを神経質な人間だと感じるようになります。これを心理学では「labeling(ラベリング)」といい、ラベルを貼られると人は、そのラベルのとおりに行動をとるようになります。
これをビジネスの現場でも生かせばいいのです。例えば「御社のような人材育成に真剣な会社は初めてです」と。すると相手はそれらしく振る舞いをしなくてはいけないかも、と思います。そこへ、社員教育をサポートするような商品やサービスの提案を行うと交渉もスムーズに運ぶというわけです。
「お客様はお目が高い!」と定員に言われて、その商品を選んだ自分に自信をもつようになるのもラベリングです。相手に気持ちよく動いてもらう心理テクニックといえます。
Technique 6
◆魔法の言葉1「あなただけは特別です」
ある男性が3人の女性にデートを申し込むという心理学の実験があります。
A子さん「OK、いいわよ」
B子さん「予定があるの。でも、あなたとのデートなら何とかするわ」
C子さん「予定があるからダメです」
被験者が最も好感を抱いたのはB子さんです。最初は断られて男性はデートしたい欲求を抑えなくてはなりません。ところが次の瞬間に「OK」が出たことで溜まった欲求が一挙に放出。この瞬間に人は快感を覚えるのです。
この心理をビジネスに生かすと、
客「今週中に納品できないだろうか?」
私「それは厳しいですね。でも、山下さんの頼みとなれば、なんとかしましょう」
客「もう少し安くならない?」
私「これ以上、下げるのはしんどいですね。でも、吉田さんのお願いだから頑張ってみます」
このように、お客様からリクエストがあってもすぐに「はい」と言わずに一旦断ってから、一呼吸間を取りましょう。そして「あなただけは特別です」と承諾するのです。お客様はあなたに感謝の念さえ抱くかもしれません。
Technique 7
◆魔法の言葉2「あなたの自由です」
街なかで見知らぬ人への実験で「バスに乗る小銭を貸してくれませんか?」と言われたら、約10%の人が小銭を貸してくれたそうです。これにある言葉を加えたら、小銭を貸してくれた人の割合が47%に増えました。
「……貸してくれませんか? もちろん、あなたの自由です」
この「あなたの自由です」と付け足すだけで貸してくれた人は増え、しかも、金額自体も増えるという不思議なことが起こりました。
人は強制されたことには抵抗しようとしますが、自分で決めた事柄には積極的に関与しようとします。「あなたの自由です」=「自分で決めた事」なのです。これを営業トークに入れて「どちらがいいか、ご自由にお選びください」と。相手に自分の選択に積極的に関与してほしいという場面で試してみてください。
Technique 8
◆権威者の言葉を使うと、商品やサービスの説得力が増す
次の文章を読んでみてください。
決してうつむいてはいけない。
頭はいつも上げていなさい。
目でしっかりとまっすぐ世界を見るのです。
なかなかいい文章です。では、もう一度。
決してうつむいてはいけない。
頭はいつも上げていなさい。
目でしっかりとまっすぐ世界を見るのです。
ヘレン・ケラー
全く同じ文章なのに「ヘレン・ケラー」という文字が入っただけで印象は大きく変わってきます。人や事物の権威の後ろ盾を借りることを「権威効果」といいます。
提案する商品やサービスに、誰もが知る著名な人や組織の推薦、使用実績等を付加できれば、説得力は増します。他に、受賞歴、資格等がないかも考えて、POPやカタログ等の広報物に記載すればより効果的です。
Technique 9
◆人はナンバーワンや第1位に、惹かれる
Technique7と通ずる「限定条件下の事実」も紹介しておきましょう。
私は名刺に「出版書籍はアマゾン書店のマーケティング部門第1位を獲得」と書いています。それを見た人に「第1位ですか! 凄いですね」とよく言われます。第1位という言葉のもつインパクトは大きいものです。
これは、ある限られた条件のもとにおいてのみ当てはまる事実「限定条件下の事実」という考え方を応用した例です。
実はアマゾン第1位は私の1冊目のことなのですが、総合ランキングではなく、「マーケティングカテゴリー」という小分類での第1位。つまり「限定条件下の事実」になるわけです。
誇大広告や誇張はいけませんが、条件を限定すれば、あなたの会社やお店にも第1位はあるはず。日本一、県下一でなくても、創業年数、社員数、品揃え、平均年齢、入賞数等、条件や地域、期間を限定すれば必ず1位が見つかると思います。それを名刺や提案書類、webサイトに載せるのです。
Technique 10
◆BGMで購入額が変わる
昔、私が開催していたパソコン教室で、BGMを流すと受講生たちは大きな声で話し、BGMを止めると声が小さくなることに気付きました。そこで、講演では持参したiPodで会場に小さな音でBGMを流すようにすると、会場内の雰囲気が和むようになりました。
米国ロヨラ大学のロナルド・ミリマン教授の実験です。スーパーマーケットでアップテンポとスローテンポのBGMで来店客の購買行動がどのように変わるかを調べました。
するとアップテンポなら滞留時間は短くなり、購入額も低いものでした。一方、スローテンポだと滞留時間は長くなり、ゆっくり買い物をし、購入額も増えたのです。
これを応用して、飲食店ならランチタイムではアップテンポなBGMを流して回転率を上げ、ディナータイムではスローテンポなBGMを流してゆっくりと食事を楽しんでもらい、滞在時間を増やして売り上げ増を狙ってみるのです。
このように、自分の店にはどんなBGMがマッチするのかをいろいろ試してみて、来店客の行動変化を観察してみるのもいいでしょう。
参考:酒井とし夫著『心理マーケティング100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)
【2018年6月号】事例で見る 成長企業への展望
超高齢化に対応する提案力
◆元気な企業は、こんなことをしている!
2018年は後期高齢者人口が前期高齢者を上回り始める年になる。戦後のベビーブーム世代が、2020年のオリンピック以降続々と後期高齢者の仲間入りをしてゆく。
日本人の平均寿命は80代だからまだ多くの人は生きてはいるが、これまでの経験則から見ると、後期高齢者になると旅行や外出が次第に減りがちとなる。
後期高齢者のおよそ10人に1人は老人施設などへの入所が必要になってくる。
いよいよ本格的な高齢社会だ。
今回はそれに対応する企業の取り組みを紹介する。
日本人に合う新しいコンセプトで“おかゆ”市場の創出となるか
おかゆと聞いてどんな連想をするだろうか?
お腹をこわして何も食べられないときに、母親に作ってもらったおかゆをようやく口にしたときの美味しさと、早く普通のご飯が食べたいという気持ちが重なる……。
「病中病後、あるいはこってりした中華コースを食べた翌朝の軽めの食事など、おかゆは体に優しいと感じている方が多いと思います。栄養バランスも考え、元気なときにでもおいしく簡単に食べていただけるようなおかゆを考えました」
こう語るのは豊味館の松尾あゆみ社長だ。
豊味館が「もち米おかゆセット」を発売して3年、静かだが少しずつ売り上げを伸ばしている。
「豚なんこつ、彩り野菜とベーコン、若鶏と栗の3種類あります。これまでのおかゆの概念を覆す『具だくさんのレトルトパック入り』のおかゆです。栄養価も高く、また歯の弱いお年寄りでも食べられると、まとめ買いで常備するお客様が増えています」(松尾さん)
豊味館は長崎県佐世保市にある。
グループ会社の丸協食産はホルモンなどの精肉メーカーだ。豊味館はスーパーなどを販路に日常必要な肉を販売する丸協食産とは一線を画し、土産や贈答など付加価値の高い商品提案をしようと10年ほど前に設立した。
「人の拳くらいの大きな牛テール肉の入ったレトルトカレーや黒豚ロールステーキなどこれまでヒット商品を出してきました。あるとき韓国料理サムゲタンの開発依頼があり商品化しましたが、あまり国内市場は広がりませんでした。その後教訓を生かし、お肉に主体を置き、薬膳の具材や野菜を加え『ライトな主食感覚のおかゆ』という、日本人に合った新しいコンセプトにたどり着きました」(松尾さん)
常温で保存ができ、ダイエットにも、お年寄りの日常食にも適した商品として提案したところ、通販や病院、調剤薬局の店頭などから注文が来るようになった。
「おかゆはもともとは家庭内で体の弱った家族のためにつくるものです。食の外注化の中で、家庭料理になりかわってご提供する新しい“おかゆ”市場を作りたいと思います」(松尾さん)
核家族化、高齢社会に新たな販路を拓けるか、松尾さんは手応えを感じている。
高齢者の癒し的存在のペット中でも活性化する“インコ”市場
続いてはペットショップの事例だ。
ペットを飼う家が増えてきたことは事実だが、ここにきて購入するペットにも変化が出ているようだ。
「実はここ数年ヒット商品が出ています。それは小鳥なんですよ」
こう話すのは、首都圏を中心にペットの総合専門店を展開する「ペットエコ」の米山由幸取締役だ。
「当社の売り上げを見てもここ数年小鳥の販売が伸びています。イヌよりもネコ、ネコよりも小鳥のほうが世話が楽だし、マンションなどでの飼育も許容されるということも背景にあります。動画サイトなどで可愛らしいしぐさを見て買いに来る若者、高齢の親にプレゼントしたいという娘さんなど客層も幅広いのが特徴です」(米山さん)
小鳥の中でも特に人気が出ているのがインコ類だという。
大型のインコだと30万円以上するが、知能もすぐれ言葉も覚えるなど人気があるという。インコはキビやヒエなど餌のにおいがすると言われるがそうした雑穀とバニラ味をブレンドした『インコアイス』が百貨店のイベント等で売り出されたり、インコをデザインした雑貨や文具なども若い女性に人気が出るなど“インコ”市場が活性化している。
実は生体の販売価格にも特徴がある。
「イヌやネコは生後51日以上で販売を開始しますが、月齢が経つと価格は下がる傾向にあります。ところが小鳥の場合仕入れてからある程度時間が経つと慣れてきて、手乗りなどができるようになります。当社では販売価格を上げていきますが、慣れた小鳥ほど人気がでます」(米山さん)
近年ペット業界は高齢者世帯の増加に伴い、右肩上がりの市場で推移してきた。
子育てが終わり生活に余裕のある人が増えたことは追い風だった。しかし更に高齢化が進むと、散歩の必要なイヌが敬遠されたり、飼い主が先に他界した後ペットがかわいそうだと、新たなペットを飼うことを敬遠したりという傾向も出始めている。
「その点、小鳥は気軽に飼えることと、話しかけることで認知症予防に効果があるなど今後のペット市場で大きな役割を果たすと思います。保険の整備、また飼い主不在時に利用できる鳥ホテルの展開とともに、当社独自の品質の良い小鳥の生体の新たな取り扱い先ルートの開拓を進めています」
米山さんはこう語り、小鳥市場が大きく羽ばたくことに期待を示した。
日本ではまだ利用者が少ない難聴用の“補聴器”市場を開拓
高齢化が進むと、市場拡大が期待されるものに補聴器がある。
平均寿命が延びたことは嬉しい限りだが、人生の後半に目や耳の能力が衰えてしまうことはどうしても避けられない。老眼鏡や補聴器のお世話になる人の数は増える傾向にある。
「当社では92年に軽度の難聴用の補聴器市場に参入し、これまで合わせて130万個を販売してきました。今後この市場はさらに伸びると思います」
こう語るのはオムロンヘルスケア国内事業部の高桑暢浩さんだ。
国内の補聴器の出荷個数は2015年度56万個で5年前と比べて20%程度増えているが、実は日本では難聴と自己申告している人のおよそ14%しか補聴器を使用していないという。これはイギリスの41%、ドイツの34%、アメリカの24%などと比べてかなり低い普及率にとどまっている。
これには私にも思い当たる節がある。
私の祖母も母も老境に入り会話が聞き取りにくく、補聴器をプレゼントするから装着してほしいと再三薦めたが「いやだよ、年寄りくさくみえるから」となかなか応じようとしなかった。
「たしかにシニアグラス(老眼鏡)ほどは普及していないのはそういう認識が障害になっているのかもしれません。PCや会議資料を見るために、ピンポイントでシニアグラスをかけるという方が多いように、会議や商談などで大事な要点を聞き漏らさないように補聴器を使うといったシーン提案をすることでイメージを変えていかなければなりません」(高桑さん)
オムロンヘルスケアでは、最近イヤメイトシリーズ3機種のうち2種をリニューアルした。耳穴に装着するタイプは本体の重さがおよそ1.8gと超小型で見た目も目立たない。
「軽度難聴用の補聴器は、これまであまり知られていませんでしたが、通販市場で販売したところ売り上げを伸ばしつつあります。今後はこれまで中度・重度の補聴器を主に販売してきたメガネ店やテレビ通販などでの販売にも力を入れ、補聴器をもっと気軽に使っていただけるように紹介していきたいと思います」
高桑さんはこう語る。
難聴は認知症につながる危険性も指摘されているだけに、今後軽度の“補聴器”市場はさらに拡大しそうだ。
人口減少に加え急速な高齢社会の進展で東京オリンピック以降の日本経済は、長いトンネルに入ることが予想される。
昭和39年のオリンピック以後も40年不況があり、政府は戦後初めて国債を発行するなどして景気対策に努めた。
比較的短期間で不況を脱することができたのは当時社会人になり、結婚適齢期に入りつつあった戦後のベビーブーム世代が3Cと呼ばれた「カー、クーラー、カラーテレビ」の購買層になり景気拡大をけん引したことが大きな要因だった。
その時の経済のエンジン役だったこの世代が今度のオリンピック以降は後期高齢者入りして消費のけん引役どころかブレーキになりかねない心配がある。
企業に求められるのは自社に合った高齢時代向けの提案力だ。
今回紹介した三社は、その共通の事例と言えそうだ。
【2018年5月号】仕事でいっぱいいっぱいな状況から抜け出す方法 Part2[解決編]
仕事の取り組み方を見直す
◆仕事にヒトをつける
社内にその人にしかできない業務がたくさん存在すると、個人も組織も仕事でいっぱいいっぱいな状況に陥ります。これを防止するために、「仕事にヒトをつける」という発想で、一つの仕事を複数の人間でこなすことができる状況を作るのです。
しかし、「うちのような少人数の会社では無理な話だ」という意見も多いでしょう。「仕事にヒトをつける」というのは、今いる人数にどのように業務を割り振りするかという視点だけで物事を考えるのではなく、業務の全体を今いる人数でこなしていくために、どのような仕組みがベストなのか、という視点で考えることでもあるのです。
◆仕事の整理整頓を行う
現在の業務が、今後の会社にとって必要なもの、最適なものであるとは限りません。環境が変化すれば、今後の会社にとって必要な業務、最適な業務も変化します。
ですから、現在組織内に存在する業務を体系的に洗い出したうえで仕事を整理整頓する必要があります。
・この業務は今後も必要な業務なのか?
・必要な業務だとしても捨てられる部分はないのか?
・捨てられない部分がない場合であっても、やり方を変えることで時間や労力を減らすことはできないのか?
という視点で内容を精査し、無駄な業務(不要となった業務)をカット。そうして役割分担の見直しを行えば、業務の絶対量を減らすことができ、仕事にヒトをつける状況を生み出すこともできるでしょう。
会議の無駄をなくすための6つの方法
会議は重要な業務ですが、現実は「いつも予定時間を超えてしまう」「何も決まらない」「決めても何も変化しない」が多く見られます。そのことにより、会議の存在が負担になり、仕事がいっぱいいっぱいになる原因を生み出しているのです。
そうなる会議の主な原因は、
・会議開始後に参加者が資料を読みふける
・会議中に話が脱線する
・会議中に議論が堂々巡りしてしまう
・会議中に沈黙する人が多く会議の雰囲気がだれてしまう
・決まったことが参加者たちに理解されていないまま会議が終了する
これらは「無駄な会議」を生む原因であり、どうすれば有意義な会議になるのか、その方法を見ていきましょう。
①司会役に徹する存在を設ける
進行役、いわゆるファシリテーターを設けます。役割は、会議開始後に参加者たちが資料を読みふける状況が生じた場合は議論に入ることを促します。議論の途中で話が脱線したのなら話の中身を本質的な部分に引き戻し、議論が堂々巡りすればそのことを指摘。会議中沈黙をしている人に対して発言を促し、会議終了後に参加者たちが決定事項を理解していることを確認する、といったことです。
②会議資料は事前に配布しておく
会議開始後に参加者たちが資料を読みふけることを防ぐため、会議の資料は事前に全参加者に配布し、内容を理解したうえで会議に参加することを徹底させます。
③議論の論点やポイントをホワイトボードなどに書き記す
会議の話が脱線することを防ぐために、議論の過程で明らかになった論点やポイントをホワイトボードなどに記録して”見える化”することが大切です。そうすることで参加者が、何についての結論が得られ、次に何についての結論を得なければならないのかが理解でき、的の外れた発言をすることが減るはずです。
④最初に参加者全員で、会議のゴールを確認し合う
会議中に議論が堂々巡りしてしまうことを防ぐために、会議を開始するときに参加者全員で今回の会議のゴール(=何について結論を出すのか)を確認し合いましょう。「新規顧客獲得についての会議」といったテーマだけの確認だと、発言が個人の主観に偏り、話が飛びまくります。ですから「新規顧客獲得について見込み客のリストアップに関する結論を得るための会議」というようにゴールを明確にすることが必要です。
⑤会議の時間は極力短く設定し、時間厳守を徹底すること
会議中に沈黙する人が多く会議の雰囲気がだれてしまうことを防ぐために、会議の時間を極力短く設定し時間厳守を徹底させましょう。会議の時間が長く設定されていると「そのうち発言すればいいか」という意識が生じ、口を開かなくなります。会議の時間が短く時間厳守が徹底されていれば、そのうちなどと考えることができなくなり、自ら発言しようとする人が増えるものです。
⑥議事録は、会議終了後すぐに配付する
決まったことが参加者たちに理解されていないまま会議が終了することを防ぐために、議事録を会議終了後すぐに参加者全員に配付しましょう。会議終了後は日常の業務に戻ることで、参加者の会議の決定事項に対する意識が薄れていきますから、議事録を簡潔にまとめたうえで、会議終了後直ちに配付することが重要です。
個人の意識を変える5つの方法
仕事の取り組み方の最適化を実現させるためには、組織上の仕組みを見直すことに加えて、個人の意識改革も必要です。
前回も述べましたが、仕事でいっぱいいっぱいな状況を生み出してしまう主な個人的な要因としては、
・仕事の進め方に計画性がない
・ダラダラと仕事をしてしまっている
・完璧を求めすぎている
ことが考えられます。そこで、個人の意識を変えさせるための方法を紹介しましょう。
①仕事の締切りを細かく設定することを習慣づける
部下に仕事を指示するときに、仕事全体の締切り期日は伝えますが、仕事を進める過程については何も指示をしないケースが多いようです。これでは仕事の効率を悪くし、仕事がいっぱいいっぱいになりかねません。「全体の終了が8月末まで。第一段階の顧客リスト化の終了は5月末までに、第二段階の顧客ごとの販売計画の提出は7月第一週末までに・・・」というように、仕事を進める過程ごとの締切りについても明確にすることを習慣づけましょう。そうすることで、仕事に計画性を持たなければならないという意識が芽生え、ダラダラと仕事を進める、完璧を求めすぎるといった行動も是正されていくはずです。
②仕事の優先順位を明確にすることを習慣づける
誰もが、いくつもの業務を抱えた状態で新しい仕事が割り込んできます。新しく入ってきた仕事に振り回され、中途半端な状態のままでやり残した仕事が山積みになり、いっぱいいっぱいになるわけです。
そこで、優先順位の高い仕事から処理することを習慣づければ、バタバタ感から解放されるはずです。優先順位を考えるうえで大事なキーワードは「タイミング」。「締切り」も大切ですが、特にタイミングは、「この仕事を早く片付けておけば、クライアントからの信頼を得られる」「この仕事を早く片付けておけば、周囲の人たちも助かる」というような”レスポンスを速めるべきことの理由”で優先順位を考えてみましょう。
③一日の仕事を終える時間を意識することを習慣づける
何時までに仕事を終わらせなければ(退社しなければ)ならないという縛りがないまま仕事をしていると、必然的にダラダラした働き方になってしまいます。
たとえば退社時間の縛りがあれば、決められた時間の中で終わらせなければならないため、仕事の締切りや優先順位を考えようとする意識も生まれてくるはず。退社時間を意識させる方法として、ノー残業デーを設けたり、各人の机やパソコンに今日の退社予定時間を書いた紙を張り付けたりするのも効果的です。
④長時間労働になっていることが後ろめたくなるような空気を作る
「夜遅くまで残っている人=頑張っている人、仕事ができる人」的な感覚に支配されている会社はいまだ多いことでしょう。それが、会社全体でのダラダラを生み出し、仕事でいっぱいいっぱいになることへとつながっていくのです。
そこで、毎晩のように遅くまで会社に残っていることが恥ずかしくなるような雰囲気を作れば、ダラダラ感も払拭されるはずです。それには経営者や管理職者自らが掲げた終業予定時刻に仕事を終え、堂々と退社する姿を見本として示すことが最も効果的だといえます。
⑤短い時間で結果を出した従業員を高く評価する
短い時間で結果を出した従業員が最も会社に貢献しているにもかかわらず、必ずしも高く評価されているわけではありません。
効率よく仕事を進めてきちんと結果を出している従業員を高く評価することで、組織全体で生産性の向上を追求していこうという雰囲気が生まれてきます。
さらに昇給や賞与などの評価基準の中に仕事の生産性の良し悪しを評価する項目を設けてもいいでしょう。インプット(=労働時間)とアウトプット(=仕事の成果)を数値化したうえで、生産性=アウトプット÷インプットで生産性の値を算出し、会社が予め設定した良し悪しの基準となる値を比較して評価するわけです。ぜひ試してみてください。
【2018年4月号】仕事でいっぱいいっぱいな 状況から抜け出す方法
仕事でいっぱいいっぱいがジリ貧経営を招く
私は経営コンサルタントの仕事に就いて25年になりますが、「仕事でいっぱいいっぱいで、改善、改革が進まない」という状況をたくさん見てきました。
私 「この間の打ち合わせで決まった○○に関する計画の取り組みは、進んでいますか?」
社長 「すみません。実は、まったく進んでいないのですよ」
私 「どうしてですか?」
社長 「忙しくて、時間が取れなかったもので……」
この会話を、私を社長に、社長を管理職者に置き換えてもいいでしょう。このように皆でやろうと決めたことが遅々として進まない現象が当たり前のように起きています。これが、企業の業績が振るわないことの根本的な要因の一つといえます。
一番重要なことは環境変化に対応すること
企業を取り巻く環境は常に変化をしています。日々の「経営活動」を、海を航海する船に例えると、次のようになるでしょう。
「世の中という大海原で、常に押し寄せてくる環境変化という波を上手にかわしながら、会社という船を前に進め、船の強度(=経営の安定性)を増しつつ、船の大きさ(=事業規模)を大きくしていく」
重要なのは「環境変化への対応」です。押し寄せてきた波(=環境変化)を上手にかわすことで、船(=会社)は順調に前に進んでいき、その先に新たに成長する仕組みが生まれてくるのです。
実行を伴わなければ業績は改善しない
環境変化への対応を図りながら業績を改善していくためには、実行し続けることが大切です。
つまり、「実行を重ねる」ことで、さまざまな結果が生まれ、それをヒントにして何がベストな選択なのかということを見極めることができるからです。
計画を立てる段階では見えない要素がたくさんあります。実行することが見えないものを“見える化”させることにつながり、それによって得た結果を検証していくのです。
そこで役立つのが皆さんもご存じの「PDCA」によるマネジメントです。
さまざまな経営活動の場面で活用できる「PDCA」。このプロセスを繰り返すことで、経営の安定性を
確保しつつ企業業績を高めていくという、経営の本質からブレない形での舵取りが行えるようになります。
ジリ貧経営の本質
ジリ貧経営にあえいでいる企業は、「PDCA」によるマネジメントのPlan〔計画〕とDo〔実行〕の間が分断されていることが多くあるようです。
業績を改善するためのPlan〔計画〕を考えたのにもかかわらず、Do〔実行〕を伴わないのは、考えただけの状況に甘んじてしまっていて、Planを考えることが目的になってしまっているのです。
実行を伴わないから当然結果は生まれてきません。ベストな選択を見極めるための材料が手に入らないのです。そのような状態で環境の変化が押し寄せてきて、経営は後退してしまう状況となるのです。
PlanとDoの間が分断されてしまう本質的な原因は、実行に係るべき人たちがスムーズに行動に移すことのできる環境にない。すなわち、溢れかえる仕事でいっぱいいっぱいになっていることにあるのです。
いっぱいいっぱいになってしまう原因
では、なぜ仕事でいっぱいいっぱいになってしまうのでしょうか。その原因には、組織的な問題と個人的な問題が考えられます。
組織的な問題
①ヒトに仕事をつけてしまっている
中小企業では、特定の人物だけが特定の業務全般を担当するという構図があります。つまり、その人にしかできない業務というものがたくさん存在してしまう状況です。そうなると、仕事の進行が他人の仕事の進み具合によって左右されてしまうことも起きます。
例えば、ある商品開発の仕事がA、B、Cの3つから成るとして、Aを大庭さんだけ、Bは奥村さんだけ、Cを小林さんだけが担当しているとしましょう。大庭さんも奥村さんもすでにAとBを終えているのに、Cの小林さんが遅れることで、その商品開発の仕事が終わらないわけです。
そのような結果が積み重なることで、皆が仕事でいっぱいいっぱいな状況を生み出してしまうというわけです。
ヒトに仕事をつけることは、従業員の働き方にも影響を及ぼします。自分以外に業務をこなせる人
がいないので、休みたくても休めなくなります。そのことが、従業員の士気低下やメンタル不全といった弊害を生み出していくことになるのです。
②一人一人が仕事を抱え込んでいる
中小企業には、一人一人が仕事を抱え込んでしまっている状況も多くみられます。臨機応変に仕事の見直しを行い、他人に仕事を振るといったことを行わない、または行えない人が多いのです。そのような中で新たな業務が生じることにより、仕事でいっぱいいっぱいになる状況が生まれてしまいます。
抱えている仕事量が個人のキャパシティを超えてしまうことが、長時間労働や残業コストの膨張、生産性の低下といった企業にとっての弊害を生み出すことをトップは認識しなければなりません。
③無駄な会議が多い
仕事でいっぱいいっぱいな状況に陥っている会社に共通する特徴として、無駄な会議が多いようです。
場当たり的な会議を行うことで、毎回のように予定時間を大幅に超えてしまうのです。加えて、「結局、何が決まったのかがわからない」、「会議をしたことによる変化が何も生まれてこない」、「だから再び会議をすることになる」、「それにより、会議に拘束される時間が増え続けてしまう」という悪循環が生じてしまい、仕事でいっぱいいっぱいになる状況づくりに拍車をかけているのです。
個人的な問題
①仕事の進め方に計画性がない
毎朝、仕事を始める前に今日一日の仕事のスケジュールを立てている人は、意外と少ないようです。出勤後、席について、思いついた仕事から手を付けたり、
朝一番に上司から指示された仕事から取り組んだりする人がほとんどではないでしょうか。そのような状況で新たな仕事が発生することにより、未処理の仕事が積み重なり、いつも仕事でいっぱいいっぱいに……。
計画なく仕事を進めると、中途半端な状態のままの仕事が増えていきます。中途半端な状態のまま放置した仕事を再開する場合、放置するまでの過程を頭の中で整理する時間が必要となるため、計画通りに始めから終わりまでを一気に仕上げたときと比べて、格段に時間がかかります。
また、誰もが計画性のないまま仕事を進めてしまうと、お互いに振り回されることになります。上司が思いついたように仕事を指示してくる。先輩がこちらの状況を考えずに仕事を振ってくる。すると効率も悪くなり、時間の無駄がたくさん生じてしまいます。
②ダラダラと仕事をしてしまっている
従業員の残業が減らない大きな理由の一つとして、ダラダラと仕事をしていることが挙げられるでしょう。
言い方を変えれば、残業することありきで仕事をしているのです。残業代は割増賃金なため、理屈の上では、従業員が残業をすればするほど会社は儲からなくなります。ダラダラ仕事は、従業員自身の首を絞めることにもつながります。
仕事のスピードが落ちることで、処理できない仕事が増えて、仕事でいっぱいいっぱいになる状況に追い込まれてしまうからです。
ダラダラ仕事に対して厳しい指摘を行っている会社は少ないようです。従業員や部下に対してクリエイティブな発想を求めている経営者や管理職者の姿をよく目にしますが、ダラダラ仕事をなくさない限
りは、クリエイティブな発想など生まれるわけがありません。
③完璧を求めすぎている
仕事でいっぱいいっぱいになっている人に共通する特徴として、一つ一つの仕事に対して完璧さを求めすぎていることも挙げられます。
例えば、資料を作るときにレイアウトにこだわって無駄な時間を費やしていたり、また、自分が納得できる状態でなければ後工程の人に仕事を回さなかったりとか。
会社にとって従業員が働く時間(=人件費)は最大のコストであり、個人の自己満足に影響されることは、あってはならないことです。それなのに、多くの会社が、できたかできなかったかの結果のみを評価し、出来上がるまでのプロセスや時間管理に関しての評価がおざなりになっています。
仕事の成果を従業員や部下がアピールしてきたときに、経営者や管理職者は、成果が生み出されたプロセスが適正であったのかどうかの判断も行う必要があります。
次回は、仕事でいっぱいいっぱいにならない対策を考えていきましょう。