■ミスマッチを防ぎ、合否を見極めるチェックシート
まずは、ドラッカーの言葉から紹介しましょう。
「生態学的地位を確保しようとする戦略は、小さい領域において、実質的な独占を実現することを狙いとする=中略=競争的戦略に成功したものは、大企業として目立つ存在になる。生態的ニッチ戦略に成功したものは、名より実をとることになる。それらの企業は、名もないなかで贅沢に暮らす。事実、生態的ニッチ戦略に成功した企業は、決定的に重要な製品を手がけておきながら、ほとんど目立たない。そのため誰もこれに挑戦しようとさえしない。(イノベーションと企業家精神)」
大企業と競争するのではなく、目立たなくてもいいのでしっかり稼ごう、非競争の市場を獲得しようということです。
「専門化と多角化に関連がなければ、生産的とはなりえない。専門化だけでは、個人営業の自由業に毛が生えただけのことである。通常、そのような事業は成長できず、一人の人間が死ねば消滅する。しかし逆に、専門化せず、いかなる卓越性もなく、単に多角化しているだけでは、マネジメントはできなくなり、ついにはまったくマネジメントできなくなる。(創造する経営者)」
「専門化」とはノウハウを高めることで、「多角化」は強みを応用して事業を展開していくことです。単に知っているからといろんな業態に手を出すのはよくありません。
専門化と多角化の関係は、“or”ではなく、 “and”と考えましょう。図①で、「川上」へ向かうのは専門化で、「川下」の方向が多角化。例えば、出版社が川下の多角化で電子書籍を手がけるなら、川上の専門化ではwebについてのノウハウを深めていかなければならないという関係性です。
■多角化の方向には2通りある
さらに図②です。例えばアメリカの某ディーゼルエンジンメーカーは、大型トラック用ディーゼルエンジンの専門化に「知識を集中」させ、販路をアメリカだけでなくアジア、ヨーロッパへと拡大し「市場を多角化」して成功しました。
しかし、顧客の激減に伴い、他社を買収し、中型、小型トラックをはじめ、ブルドーザー等の土木機械や農機具にも着手して「知識を多角化」。そして販路を絞り込んで「市場を集中」して順調に業績を上げたのです。
つまり、多角化の方向は図②のように2通りあり、どちらが望ましいかはそのときの状況によります。状況をきちんと把握して、自社の強みを見極め、その強みを活かせる分野を考えねばなりません。
■「生態的ニッチ」を理解しておく
さらに多角化を考えるにあたって、ドラッカーの「ニッチ」という概念をきちんと掴んでおきましょう。ドラッカーが言うニッチとは〔すき間〕ではなく、ラテン語の「nidus」に由来します。動物の「巣」、人なら「家」という意味で、安心・安全で睡眠ができ、子育てもでき、占有できる場所や空間。それが、「生態的ニッチ」であり、わかりやすくは「適所」と捉えてください。
この生態的ニッチを経営に取り入れた「生態的ニッチ戦略」は、「適所戦略」と言い換えられます。生態的ニッチ戦略=適所戦略は、企業規模に関係なく、自社の実力を活かせる適所で事業展開するものです。
例えばトヨタは1000万台を売りたいので適所といえば世界市場となります。ところが富山県にある光岡自動車は、1日1台の手作りなので国内市場で手一杯。4カ月待ちだといいます。こんな面倒くさい市場には大手も入ってこようとは思いません。これが適所戦略なのです。
■進化した「藤屋式ニッチ戦略」とは
私のところには日々、さまざまな規模、業種の企業から、多角化についても相談が寄せられます。それに応えるために、ドラッカーの生態的ニッチ戦略をベースにしながらも、ブルーオーシャン戦略(非競争の市場)、カテゴライズ戦略(新市場の創造)、ブランド戦略、競争しない競争戦略などの考え方を取り入れたため、今ではドラッカー理論の枠を飛び出してしまっています。
そこで、新たなネーミングが必要となったので、「藤屋式ニッチ戦略」と銘打ってコンサルティングしています。
この「藤屋式ニッチ戦略」とは、自社の強みを活かせる生態的ニッチ(適所:非競争の独占市場)となるように、他社との「棲み分け」と「食い分け」で高収益の独自市場を創り出し、維持・発展させる中長期的な事業への取り組み︱適所繁栄(適所を創り出して繁栄する)を目指すものです。いわば、生態的ニッチをさらに進化させた戦略であり、生態的ニッチな事業を複数展開する多角化企業を「マルチプル・ニッチャー」と言います。
■マルチプル・ニッチャーを目指した「棲み分け」
藤屋式ニッチ戦略による多角化を目指す〔マルチプル・ニッチャー〕のポイントとして前述の“他社との「棲み分け」”を考えてみましょう。それには「誰に・何を・どのように」の3つの要素を明らかにする必要があります。
まず、1つ目の要素は「誰に」です。これは、対象市場・対象顧客を絞ることです。市場をセグメンテーション(細分化)して特定の市場に絞り込みます。その特定の市場でポジショニング(位置づけ、特徴づけ)を行い、 ペルソナ(理想の顧客像)を設定します。
こうして、しっかりと他社と「棲み分け」し、適所といえる市場(ポジショニング)を確保できるかを考えるのです。
2つ目の要素「何を」は、提供する価値は何なのかということ。そして3つ目の要素「どのように」は、商品の仕様を変えたり、提供方法を新たにつけ加えたり、増やしたり、減らしたり、取り除いたりして、業界の通例といわれるものとは違う仕組みに変えていきます。
■「棲み分け」の事例シチズンMホテル
前述の2つ目と3つ目の要素を、今、注目のホテル「シチズンMホテル」を事例(図③)にして説明しましょう。
まず、2つ目の要素「提供する価値」を、“旅慣れた人のための「手が届く高級ホテル」”としています。旅慣れた人にとってフロントやコンシェルジュは必要ありません。荷物も少ないのでベルボーイも要りません。そして、部屋のタイプは幾つもいりませんし、寝るだけなので広くなくてもいい。だから、料金設定を下げることもできるでしょう。
そのために創り出したのがセルフチェックインの端末、仕事終わりにちょっと飲める24時間使えるバー、そして親切なアンバサダー(世話係)。
増やしたことは、睡眠環境として特大サイズのベッドに高級リネン、部屋の遮音性、水圧のあるシャワー、さらに無料のオンデマンド映画配信、格安の電話、高速インターネット等々。
こうした絞り込みで、人件費は半分になったといいます。すると宿泊費を下げても人気を集めて業績をアップさせることができたのです。これが高級志向の人ならそうはいきませんが、絞り込めば込むほど、特定の顧客だけの満足に集中でき、余分なものはいらない。それが藤屋式ニッチ戦略の「棲み分け」といえます。
■マルチプル・ニッチャーを目指した「食い分け」
それでは「食い分け」とは何でしょうか。動物の世界では、同じ草でも、先端を食べる種がいれば、根元に近いほうを食べる種がいます。これだと、同じ草を食べても、他の種と競合することはありません。つまり、競合する商品やサービスがない状態を「食い分け」と言うのです。
図④をご覧ください。5つ星ホテルなら、高価格とフルサービスとなり、低価格でセルフサービスを望むならネットカフェになります。すると高価格でセルフサービスというのはあまり無く、そこをシチズンMホテルは狙ったわけです。
つまり、他社にとって魅力がない、あるいは、魅力と思われないような市場にもニーズが潜んでいるといえます。具体的にそういう市場を見つけるには、次の4点を基準にするといいでしょう。
・業界の異常識・非常識
・めんどうくさい
・儲かりそうにない
・相対的に市場規模が小さい
これらを基準に、満たされていないニーズや他社がやりたがらないニーズに応えることが、他社と市場ニーズを「食い分ける」ことになります。それが多角化に必要な「食い分け」なのです。
■マルチプル・ニッチャーのメリットとは?
藤屋式ニッチ戦略による多角化〔マルチプル・ニッチャー〕のメリットについても述べておきましょう。
◆強みを有効活用できる⇨強みは努力、努力はコスト、より多く、より速くコストを回収するためには、多角化が効果的です。
◆事業のライフサイクルに対応できる⇨事業には必ず「導入期→成長期→成熟期→衰退期」のライフサイクルがあるので、多角化しておけば図⑤のように、ある事業の衰退期が訪れても慌てることはありません。ドラッカーが「目標を達成した時はお祝いするのではなく、次の事業を準備する時だ」と言っており、調子のいい時にこそ次の事業の仕掛けをしておかなければなりません。
◆人材育成のチャンスが増える⇨組織のNo.2がトップに立ってもうまくいかない例はたくさんありますから、そういう人に新規事業を任せれば経営マネジメントを学ばせるいい機会になります。
■まとめ
ここまで述べてきたことをまとめると
◆自社の強みを再認識する
◆新事業の事業領域は、共通市場か共通技術だけにする
◆既存市場を細分化する
◆満たされていないニーズを探す
◆「棲み分け」と「食い分け」の視点から対応するニーズを選択する
◆多角化の方向は、川上・川下・横への展開
◆専門化と多角化を同時に行う
大手が入り込めないような小さな独自市場を創り出し、戦わずして勝てる「藤屋式ニッチ戦略によるマルチプル・ニッチャー」。この多角化戦略で、生命力の強い、高収益企業を目指してみてはいかがでしょうか。
アーカイブ: BUSINESS EYE
【2020年1・2月号】仕事が遅い人と早い人はここが違う! Part1
【2019年12月号】強い企業になれる「藤屋式ニッチ戦略」マルチプル・ニッチャーで 高収益企業を目指そう!
【2019年11月号】部下を育てて強い組織をつくる 令和的、新しいリーダー像を探る
■人を育てる力が弱くなった今のリーダーたち
「これからのリーダー像を探る」というテーマを前にしたとき、今のリーダーに感じるのは「人を育てる力が弱くなってきた」ということです。部下との関係性を築こうという意思が希薄というか、相手の中に一歩踏み込んでいく力が弱くなっているように思えます。一体どうしてこうなってしまったのでしょうか。
私が社会人となった40年前の日本は、高度経済成長を遂げ、「Japanas NumberOne」と呼ばれていました。そんな日本的経営の強さはどこにあったのか。それは仕事熱心なリーダーたちが経営を支えていたからです。「明日はもっと組織を成長させてやる」というビジョンや目標、信念がワンセットとなって息づいており、それに向けて部下をきちんと育てていました。
そしてバブルが崩壊した後、低迷が続いていた1997年頃から、さらなる追い打ちをかけるように金融不安や失業率の急上昇、財政改革の挫折など、自信喪失の時代に入っていきました。
■昭和、平成とリーダーに何が起きたのか
すると、先の仕事熱心なリーダーたち(シニア・ミドル世代:40〜50歳以上)が行っていたやり方や頑張りが否定され始めたのです。戦後、管理者研修のお手本だったMTP研修*なども受けなくなっていきました。財務だとか、人間関係だとか、モチベーションの上げ方とか、今すぐ必要と思われるスキルだけをワンチャンスで身につければいいと、目先のスキル習得が主流となったのです。
すると何が起きたのか。リーダーとして身につけなければならないマネジメントの基礎がおろそかになってしまいました。確かに一つひとつのテクニックは身についているのですが、リーダーとしての器を持たないまま、リーダーとしての深い自覚が生まれてこないまま、現場に出てしまうのです。
リーダー哲学のようなもの、例えば「好調であっても次の事業を調査・探索しておくことを忘れるな」「新商品の販売比率を必ず何%か目標設定に入れること」「利益は今日の消費のためではなく未来への投資のためにある」といったことを、染み入るように繰り返し叩き込む管理者教育が手薄になったことは否めません。
*MTP(ManagementTrainingProgram)は、1950年代にアメリカより日本に紹介、導入された管理者研修プログラム。戦後の日本経済の復興、発展に貢献してきたことで知られている。現在、一般社団法人日本産業訓練協会が提供。
■「成長支援型リーダー」に期待
そして今、求められるリーダー像といってもさまざまですが、私が注目しているのは「成長支援型リーダー」です。
営業の部下が、例えば昨年の予算が3000万円で、今年は5000万円になった。お客様がついた。お客様と交渉できるようになった。できなかったことがどんどんできるようになり、壁を乗り越えることができた│。そうした部下の身についた力をどのように自覚するかを本人のキャリアの成長と結びつけて語ることができるリーダーは有能です。人の多様性を大切にし、長く働いて貢献をしてもらうため、一人ひとりを丁寧に育てる「成長支援型リーダー」こそ、これからの時代に求められるリーダーだと思います。
■青山学院大学陸上競技部監督
部下を育てることは、組織を育てることとイコールです。その好事例は、なんといっても青山学院大学陸上競技部の原晋監督です。どうやって、いまどきの学生をやる気にさせ、陸上競技部を強い組織に育てたのでしょうか。
原監督は、挑発と実践を繰り返して、選手たちの才能を開花させるのに成功しました。その方法は、ひと月の目標と練習方法をA4の用紙に毎月書かせます。当然、先月よりも少しでもレベルアップできる目標と練習方法です。こうすることで、挑戦する→気づく→挑戦する→気づくというサイクルを選手たちの中に根付かせました。自分を甘やかさず、可能性を追求していくわけです。やがて練習を選手たちが自分で管理する自主管理型に変わっていきました。
そうして次はチーム作りです。原監督は、駅伝シーズンに入ると、本番を想定したメンバーを毎日のように発表します。選手たち一人ひとりに自分の現実的な立ち位置を理解させるためです。すると選手は「明日はメンバーに絶対に入ってやるぞ」「今日もメンバーから外れないように頑張るぞ」と気を緩めずに努力を続ける。こうやって、箱根駅伝・総合4連覇を達成したのです。
■個人と組織の関係性を考えよう
青山学院大学陸上競技部の選手のパフォーマンスとチーム作りを参考に、個人と組織の関係性は次の3つがポイントになるでしょう。
1.管理(支配)のしやすさと、個人の自由度を考える
管理のしやすさだけを追求したら、「俺の言うことを聞け」「はい、わかりました」となり、絶対に新規の発想は生まれてきません。ですから、個人の自由度、組織の自由度に着目して、チームの可能性をメンバー自らが引き出すようなマネジメント姿勢が必要です。
2.メンバーの目標に対するコミットメント(必ずやり切るという決意)の引き出し方を考える
仕事や組織目標を自己目標化し、ヤル気やコミットメントを、個人・組織が持続的にやろうとするように仕向けていくことです。
3.持続的に成果を生む行動の源泉となるモチベーションの持たせ方を考える
目標達成は、単なる評価プラス個人・組織の成長としての意味を理解させ、仕事をノルマと報酬だけでなく、もっと、自分たちにとって望ましい成長過程になることだと捉えさせます。
■組織形態とリーダーシップ
次にメンバーにも組織にも、リーダーに求められる大切な能力、「リーダーシップ」を発揮するにはどうすればいいでしょうか。
リーダーシップの発揮は、まず組織の環境とその使命のあり方に応じて決まります。目標達成志向や率先垂範型の、いわゆる「オレが走るからついてこい!」では組織は持続的に成長させることはできません。持続成長できる組織としては「ネットワーク型組織」です。これを経営トップも考えていかねばならないでしょう。
図①をご覧ください。組織Aは、従来よくある階層重視で、上が決めたことを下は忠実に実行していく組織です。所属組織のために働くことが最優先され、隣の部署の手を借りたり、貸したりすることもありません。指示命令系統を重視するので上からの指示以外は動かない。今後こういう組織はまず長続きしないでしょう。
一方、組織Bは、自律・分散ネットワーク重視で、必要な目的を自分たちが作り出す組織*です。グローバルな環境変化に即応するため、迅速に市場や顧客対応していくため、目的に応じた自在な組織化が優先されます。
つまり、Bのように組織や肩書きを越えて知恵を出し合わないと、Aの縦割り組織の「オレの部下に手を出すな」では強い組織はできなくなっているのです。Bで隣の組織との結節点にいるL1やL2の人がリーダーシップをとっていくことになるので、リーダーは自分の立ち位置を自覚する必要があります。
*自律・分散ネットワーク組織は、野中郁次郎氏が提唱している組織
■課題を通してリーダーシップ能力を習得する
では、ネットワーク型組織で必要なリーダーシップは、どうすれば習得できるのでしょうか。
発揮されるリーダーシップは“課題の性質”によって異なってきます。リーダーシップ能力が発揮される機会となる「課題へのアプローチ」は、大きく次の2つ(図②)。
1.組織的正解が見えている課題(発生型課題)へのアプローチ
組織目標の達成管理に必要な職務遂行能力とその効果・効率的な行動実践で所期の成果が出せる課題です。
例えば、今期の予算達成まであと5%をどうするか。これは課題が明白であり、課題意識を共有することで、個人の役割に従って、一生懸命に力を合わせればいいのです。リーダーは、行動と成果が比例する因果関係を把握するように努めればクリアできるでしょう。
2.何が正解かがよくわからない課題(設定型課題)へのアプローチ
働く人や価値観の多様性を理解し、メンバーが望む、もっと良い組織、もっと快適な働き方、助け合える人間関係、組織や仕事との強い一体感、高い仕事意欲の保持など、組織のあり方や機能を良くするための創造的な課題です。
例えば、「採用した新人の育ち具合がよくなく、これからというときに辞めてしまう」「若手や中堅層にやらされ感が強く、会議などで前向きな意見や発案がでてこない」。
これらの課題には決まった答えはなく、当事者の社員が何を気遣い、何が嫌になっているのか、何があれば良いのかなど、リーダーとメンバーがハラを割った話し合い、つまり、対話が必要になってきます。
■個人と組織の関係性を強化できるリーダーに
対話することで、さらにリーダーに求められるのが前述にもあった個人と組織の関係性、これを良くする能力・スキルです。つまり、関係性理解と関係性を強化するためのマインドと行動化スキルの習得。これが重要だと、私は今、強く思います。
リーダーと部下の関係、社長とリーダーの関係、お互いの信頼感、目標への共感、協働感があるかないかです。関係性の質が悪いのにいい成果は生まれません。
こうした関係性を粗雑に扱っていると「オレの言いたいことはわかっているはずだ」「今期の経営方針や目標は書類に書かれているだろ」となります。でも、部下がその目標に本気で取り組んでいるのか、本音はどう思っているかなんて、本人ときちんと話してみないとわかりません。だからこそ「ハラを割った話し合い」が大切なのです。
話し合いのとき、「オレもこういう人間だから、時たまヘマをするんだよ」とリーダーは自分の弱みをさらけ出すのも大切です。「オレは強いんだ」「私がチームを引っ張っていくんだ」と言うのは前時代的な価値観によるものといえます。
◉チームみんなに活躍してもらうには、私は何をしたらいいのだろうと気づくリーダー
◉上から目線ではなく、メンバーと自然な向き合い方ができるリーダー
◉強気のスタンスを外し、メンバーの考えや気持ちの奥底にある感情を、優しくしなやかに聴く努力ができるリーダー
◉人の感情・心を大切にすることができるリーダー
このようなスタンスと能力を持ち、キャリアの自律したリーダーが、これからの令和にふさわしいリーダーといえるのではないでしょうか。
★従業員の活力を引き出すいまどきの人材育成施策「セルフ・キャリアドック」
専門の導入キャリアコンサルタントが企業を訪問し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援するのがセルフ・キャリアドック(厚生労働省https://selfcareerdock.mhlw.go.jp)。「若手社員の定着率がよくない」「中堅社員のモチベーションが下がっている」「育児・介護休業明けの処遇に悩んでいる」「シニア社員にもっと活躍してほしい」といった課題を持つ企業が導入している。導入の相談・利用は無料。助成金としては厚生労働省「人材開発支援助成金」がある。
【2019年10月号】失敗しない人材採用計画を目指してミスマッチを防ぎ、「面接」を見極める!
鳥澤謙一郎氏オリジナルシート
◆ミスマッチを防ぎ、合否を見極めるチェックシート
現在、大卒新入社員の3割が、入社後3年以内に離職しているといいます。これでは採用コストや教育コストが無駄になるだけでなく、会社の将来にも大きな痛手となります。離職する理由はさまざまでしょう。「待遇が不満」「期待したようなやりがいを感じられない」「人間関係がうまくいかない」等々。これらは一言でいえば「ミスマッチ」に他なりません。採用段階で、企業と求職者のお互いの意思を確認し合っていれば、ミスマッチを防ぐことができたと思われます。でも、入社してみなくてはわからないというのが本音でしょうし、面接で採用する・しないの見極めは至難の技ともいえ、人事担当者の頭を悩ませています。そこで、私が面接時に役立ててほしくて作成した「仕事力・自己診断シート」(下図)をご紹介させてください。これは私がコンサルティングしてきた現場で蓄積してきたことと、これまで出会った多くのビジネス成功者から学んだことをもとに作成したものです。
◆自己肯定できる人かどうか
このシートは、「自己肯定力」をチェックするものとして作成しました。ビジネス現場では失敗することのほうが多く、例えば私がリクルートの営業マンだった頃の新規獲得率は5%でした。戦略的に計画を立て、リストを作成し、アポイントを取り、たくさん断られてやっとプレゼンできても、契約に至るのは僅か5%。つまり、100件にプレゼンして、契約はたった5件だけ。“心が折れる”とはいいますが、断られ続けていたら、自分を信じる力とか、こうなりたいという理想を持ち続けるには自己肯定力がないと、なかなか前に進めません。100のうちに95も失敗しても、「95のダメなやり方を知った」と思う失敗を学びに変えるポジティブさ、自己肯定力がビジネス現場では必要だからです。シートの設問に対する答えは◎が多いに越したことはないのですが、実はたった3つの設問の答えだけを見て判断できるように作っています。
◆この3つの設問の答えが◎であれば採用すべき人物
まず、[1]コミュニケーション力では、10の「自分のこれまでの人生は運がいいと思っているか」は◎であれば採用したい人材といえます。運がいいと思っている人は前を向いています。例えば“出会い”を偶然だとしても「これはいい出会いだ」と思う心持ち、肯定的な考え方は良い出来事を引き寄せます。また、「運がいい」という人は、自分のいたらなさを認める素直さもあるので伸びる可能性が高いと思います。それに対して「運が良くない」と思う人は、物事に対して否定的かつ批判的なので、周囲の応援も得にくいですよね。
[2]主体力では、20の「労働条件より成長できる環境を重視するか」も◎なら合格です。「労働条件」といえば給与や報酬ですが、それは結果の話です。結果はまだ出していないのに、お金を求めるのはどうでしょうか。お金が先にありきだと、キャリアを積んだ技術者は別にして、小さくまとまってしまい、すぐに不満を言うような気がします。それよりも、「こういうことがしたい」「この仕事を通して成長したい」と自己実現したい人、自己の能力や個性を生かしていきたいという人なら、結果としてのお金はついてくる環境がある。そんなスタンスで採用し、受け入れたいものです。
[3]達成力では、30の「両親を尊敬し、年長者・上司を立てることができるか」も◎であればOKです。生みの親、育ての親に尊敬せずして成功した人はいないのではないでしょうか。これまで出会ったビジネスで永続的に成功された方たちを見ていると、生みの親、育ての親には常に感謝の念を持ち、先輩や上司、周囲をさり気なく立てています。主観的な言い方になるかもしれませんが、10、20、30の設問が◎であれば、あとの設問が△や×ばかりでも、採用してもよい人物だと私は考えています。
◆面接は先入観を抑え、過去の事実を深掘りしていく
「仕事力・自己診断シート」は私の経験から導き出されたものですが、客観的なデータを駆使したチェックシートをご紹介しておきましょう。株式会社ヒューマンキャピタル研究所の適性検査「HCi-AS(HumanCapital Institute-AdaptationSupport)」です。6千社、200万人以上の検査実績があるそうで、診断結果と受検者本人の性格特徴を照らし合わせたときの合致性・正確性は85%以上だといいます。その「HCi-AS」を紹介する前に、懇意にする同社の猪俣卓氏に面接のポイントを話してもらいましょう。猪俣氏「面接で気をつけたいのは、書類や第一印象などから抱く主観による“先入観”です。先入観があると客観的に見るのが難しくなるのですが、なかなか取り除くこともできません。そこはあえて先入観があることを認めてから臨むのもいいでしょう。例えば挨拶がハキハキして『好青年だ。』という先入観が生じても、一歩引いて『好青年だが、……』というように心がけるのです。また、面接では応募者がどういう人物なのか、過去の経験や実績などいろいろな角度から訊き出します。その訊き出した事を深掘りしていきましょう。どうしてそれをやろうと思ったのか、何がきっかけだったのか、その結果はどうなって、どのように感じたのか。深掘りして、その人の考え方や視点の置き方を掴むことです。過去の事実を徹底的に深掘りしていくのが面接官のスタンスだと思います。一方、新卒なら『御社ではこんなことをしたい』と未来の話になると思いますが、その場合は、なぜそれがしたいのか、あなたなら何ができそうか、といったような感じで深掘りをしていけばいいかと思います」
◆「見極め」のために、適性検査も活用してみる
採用面接は、かなり高度なスキルを必要とします。1度や2度会っただけで応募者がわが社にふさわしいのかどうかの「見極め」が求められるからです。それができていないから、早期退職が後を絶たないミスマッチが起こっているといえます。しかも、昨今は売り手市場と言われ、人手不足が深刻化しており、欲しい人材が来ないが故に採用を急ぐケースが、よりミスマッチを生み出しているように思えます。また、面接だけでわかることは限られていますし、面接だけで決めると面接官の主観が採用を左右することになり、それもまたリスクがあるといえます。そこで、先の適性検査「HCi-AS」を活用してみるといいかもしれません。猪俣氏「この適性検査HCi-ASは、面接では分からない応募者の本質的な性格特徴を、簡単なアンケートで明らかにします。実施がしやすいのもポイントで、アンケートを受けて、その診断結果が出るのに30分もかからないスピーディーな検査なのです」
◆受検者の個性まで確認できる診断結果
採用面接は、かなり高度なスキルを必要とします。1度や2度会っただけで応募者がわが社にふさわしいのかどうかの「見極め」が求められるからです。それができていないから、早期退職が後を絶たないミスマッチが起こっているといえます。しかも、昨今は売り手市場と言われ、人手不足が深刻化しており、欲しい人材が来ないが故に採用を急ぐケースが、よりミスマッチを生み出しているように思えます。また、面接だけでわかることは限られていますし、面接だけで決めると面接官の主観が採用を左右することになり、それもまたリスクがあるといえます。そこで、先の適性検査「HCi-AS」を活用してみるといいかもしれません。猪俣氏「この適性検査HCi-ASは、面接では分からない応募者の本質的な性格特徴を、簡単なアンケートで明らかにします。実施がしやすいのもポイントで、アンケートを受けて、その診断結果が出るのに30分もかからないスピーディーな検査なのです」
◆ストレス耐性に強いかどうかも大切
さらにHCi-ASには、受検者のメンタルヘルスについてもアドバイスしてあるので心強いと思いますよ。猪俣氏「最近では、仕事を任されるプレッシャー、クレーム、ミス、職場での人間関係など日々生じるさまざまなことからのストレスで早期退職する人が増えています。今やストレス耐性の強い人を選ぶことが採用の失敗を防ぐことにつながり、人材採用の大きなポイントになっているのです。診断結果にはその点も重視してメンタルヘルス、ストレス耐性についても明記し、採用の合否の判断材料として活用していただいております」このようなチェックシートや適性検査は、採用を迷ったときなどはもちろん、面接や試験と合わせて活用するととても役立つと思われます。ミスマッチの少ない採用計画こそまさに戦略的人事であり、企業の存亡にも関わってきますので、今回ご紹介させていただきました。
【2019年9月号】部下のやる気を高める!モチベーション・エンパワー Part2
※本稿では「エンパワメント」を従業員の本来の力を引き出し、成果と従業員の充実感を生み出すという意味とする
ビジネス現場で生かす10のケース
モチベーションを高める5大要素
前回お話した「モチベーションを高める5大要素」について少しおさらいをしておきましょう。
①身体の状態
モチベーションは体の中で生まれますので、まずは「身体の状態」を整えることが大切です。食事・睡眠を充実させるとともに、筋肉を動かすなど運動をすることで脳内のモチベーションを高める物質がたくさん出やすくなります。失敗などで気分が塞ぎ込んだら、筋トレや運動は手早く元気になれる方法です。
②アウトカム
「アウトカム」とはゴールや目標、欲しいモノのこと。「私の理想の状態はこれだ」「これを手に入れたい」というイメージを明確に持つことが大切です。「今日一日しっかり働いて、美味しいビールが飲みたい」「自身が成長してこんな姿になりたい」というのもアウトカムといえます。
③ミッション
私たちの働くモチベーションの最も核にあるのが「ミッション」です。自分は仕事を通じてどのような使命を果たすのか、すなわち自身の命を使って果たすべき役割は何なのか、がミッションとなります。企業なら、自分たちの組織の存在意義、そして従業員は、何のために、誰の幸せのためにこの仕事をするのかがミッションになるのです。
④柔軟性
目の前の出来事にどういう意味づけをするのか、その事実をいかに生かすか、それが「柔軟性」です。例えばクレームに対して「もううんざり。この仕事は辞めよう」と思うか、「このクレームには何か意味がある。ここから何を学ぼう?」と思うか。どのように受け止めるかは自分の選択です。周囲の環境にしなやかに適応し、起こる出来事を全てチャンスに捉えるのが「柔軟性」です。
⑤刺激
「刺激」はモチベーションを高めるのに重要な要素といえます。もし仕事がマンネリ化しているのなら一緒に仕事をする人を変えたり、席替えや模様替えをしたり、通勤の経路を変えたりするのもいいでしょう。さらに、テンションが上がる音楽や映画、食べ物やアート、元気になるモノ、演劇やコンサートなど、全力でエネルギーを放出されているモノに触れるのも大きな刺激となるはずです。
これら5つの要素を、ビジネス現場でどのように生かしていけばいいのか。さまざまな職場での問題を通してアドバイスしたいと思います。(以下の質問内容は、野本氏のもとに寄せられた実際の質問や相談をベースに、エスカイヤニュース編集部が作成)
【身体の状態】
1. 自分の身体をよく観察し、クセを知ること
Q. 1日のうちでも、モチベーションが上がるときと下がるときがあるように思えます。下がるときは集中力が欠けているからなのでしょうか。
A. 1日の中でも生産性が上がる時間帯があります(左図参照)。食後しばらくしてから、午前なら11時ごろ、午後なら15時あたりにピークがきますので、脳が一番よく働くこの時間帯に大事な仕事をもってくるといいでしょう。また、集中力が続くのはおよそ45分、最大でも120分といわれています。集中力が下がる時間帯には、あまり集中力を必要としない仕事をするなど、人の身体の調子にはバイオリズムがあるので、その波をうまく利用するのです。ふだんから自分の身体をよく観察し、自身の癖をよく知ることが大切です。
2. 職場の環境を変えてみる
Q. あるカタログ冊子の制作を15年間担当し、仕事はルーチン的な作業となっています。だからか「新しい企画を」と言われてもアイデアが浮かんできません。どうしたらいいのでしょうか。
A. できるかぎり環境を変えてみましょう。手始めに、いつもディスカッションする相手、席、インテリア等、目に入ってくるモノを変えてみましょう。15年もやっているのなら日本のカタログ事情の大概のことはご存じでしょうから、海外のサイトを見るなど、インプットの幅を広げるのも一つです。海外だとカタログの作り方や使われ方も日本とは違うはず。そこからインスピレーションを得ることもできるのでは。
【アウトカム】
3. リーダーは明るく元気でいること!
Q. このところ顧客からのクレームやミスが続き、メンバーは自信を無くし、チームの雰囲気も陰鬱です。なんとかチームを盛り上げたいのですが、いい方法はないでしょうか。
A. まずはリーダー自身がご機嫌で仕事をすることです。「ミラーリング」と言って、私たちは無意識に目の前にいる人の言動や仕草など、鏡を見るかのように真似をします。これはモチベーションも同じこと。周囲に伝播していきますから、目の前の人は自身の鏡だと思うことです。自身がメンバーを元気付ければ、元気になったメンバーを見て自分も元気をもらえます。
4. 「これならできそう」と思わせる
Q. 当社も女性が活躍できる会社を目指そうと、複数の幹部候補を選びました。するとその一人が「なぜ私ですか?」と辞退したいと。優秀な人材なのでなんとか管理職に育てたいのですが。
A. 「女性管理職を増やしたい」という相談はよく受けますが、現場の女性たちはなりたくないというのが大半です。理由は2つに集約できます。1つは管理職に魅力を感じていないから。2つ目は自分にはできそうにないと思っているからです。一般的に男性は自己評価を高く見積もり、女性は自己評価を低く見積もりがちで、自分にはとても無理と思っていることも多いのです。
そこで「あなたのやってくれたこれが助かった」「あなたのここが強み」と、一つ一つ承認の言葉をかけて、「これならできそうだ」「こんな管理職ならなってみたい」と思えるよう承認するとともに、彼女にとって魅力的と思える管理職像を創っていけるようサポートをしていきましょう。
【ミッション】
5. 文句ばかり言う人には役割と責任を伝える
Q. どんな仕事にも文句を言う男性部下がいます。特に変更を嫌がり、きちんと理由を説明しても「最悪」と嘆き、チームの士気を下げてしまうのです。どのように指導すればいいのでしょうか。
A. まずは、変更も彼のすべき仕事であることをきちんと伝えるべきでしょう。文句や悪態をつくのが癖になっている可能性もあります。自分が周囲へ悪い影響を及ぼしていることに気づいていないのかもしれません。率直にチームの士気を下げていることを伝えるのもよいでしょう。文句には同調せず、彼の役割と責任をしっかりと認識させましょう。
6. 繰り返し問い掛けていく
Q. 20代後半の部下で、いわれた事、指示した事は完璧に仕上げるのですが、それ以上の事はしません。自らやってみる楽しさを感じてほしいのですが……。
A. 指示した以上のことを部下がやってくれることをあなたが期待しているのなら、それをまずはきちんと伝え、認識してもらうことです。例えば「ここまでの指示は出すけれど、そこから先は自分で何らかの方法を考えてほしい」と指示以上の事をやってほしいと最初にきちんと伝えます。それを言わないで、やってくれたらいいなと期待しても部下には伝わっていません。
そして、「これについてはどう思う?」「何の役に立っていると思う?」とさまざまな問い掛けを繰り返ししていけば、あなたがいなくてもその問いが頭をよぎり自ら考えるようになるでしょう。
【柔軟性】
7. 陰気臭い職場には「おしゃべり作戦」
Q. 異動で新しい職場に来て間もないのですが、とにかく陰気臭く、挨拶もなく、報告も目の前にいるのにメールで済ませようとします。皆のモチベーションを上げる方法はありませんか?
A. とにかくリーダー自らがよく喋り、明るい雰囲気を作ることです。何でもメールで済ませようという職場は動きが停滞しているもの。「話す」ことでそこにエネルギーが発生するので、いろんな人と対話してエネルギーの橋を架け合っていけば、澱んでいた空気も動き出すはず。一日中パソコンに向かってずっと黙っていると、極端ですが顔の筋肉が喋り方を忘れてしまいます。気軽に話しやすい環境を作ること。雑談のしやすい職場というのを目指してもいいかと思います。
8. 顧客の要求の理由を深く理解する
Q. 決済システムのプロジェクトリーダーを務めています。短期納品なのに2度も仕様変更があり、顧客に振り回されて皆うんざり。やる気を取り戻すにはどうすればいいでしょうか。
A. 振り回されているという捉え方を変える必要がありそうです。変更があるということは得意先もそれ以前に迷っていたのかもしれず、予測して別案を提案していれば迷わせることはなかったのかもしれません。顧客の要求の「なぜ」「何のために」といった理由や目的を深く理解できれば、顧客にとって最良の選択肢を提案できるはずです。
【刺激】
9. 自分をメンテナンスすることも大切
Q. 今のチームもようやく軌道に乗り、成果を上げているのでホッとしたのか、最近、やる気が出ません。新しいことにも億劫になってしまいます。どうしたらやる気が出てくるでしょうか。
A. 人は常に全力疾走する必要はありません。時に、エネルギーをたくさん使ったあとは、自分を充電し、メンテナンスする時間も必要です。美味しいものを食べるとか、温泉に行くとか、新しい分野の勉強などインプットに努めるのもいいでしょう。次の目標を定めるのはそれからでも良いのです。
10. ボキャブラリーを増やして褒め上手になる
Q. 幹部研修で「褒めることが大切」と教わりましたが、なかなか褒めることができません。どうしたら褒めることができるでしょうか。
A. まずは褒めるボキャブラリーを増やしましょう。上の世代のスパルタ的な環境で過ごしてきた方は褒められた経験があまりないので、褒める言葉を知りません。ですから、いざ褒めたくても言葉が出てこないのです。普段から褒める言葉を手帳に書き留めておけば、自然と口に出てくるようになるでしょう。身近な人や芸能人などで褒め上手な人を参考にするのも良いですね。
参考:野本明日香著『たった5つでモチベがあがる技術』(日経BP社)
【2019年7・8月号】部下のやる気を高める!モチベーション・エンパワー Part1
※本稿では「エンパワメント」を従業員の本来の力を引き出し、成果と従業員の充実感を生み出すという意味とする
人が行動を起こす前にある、モチベーション
「モチベーション」とは、人が行動を起こすときの原因、つまり動機づけのことですが、
ラテン語の「movere(動く)」が語源となっています。
私たちが行動を起こす前には、必ずモチベーションの存在があります。
食事をする、友人と会っておしゃべりをする、電車に乗って仕事に行く、
その全ての行動に必ずモチベーションがあるからそのように動くのです。
組織の活性化やチームをマネジメントするトップやリーダーにとって、「人は何で動くのか」、
すなわち「人のモチベーション」を知ることは必須条件といえます。
部下に素晴らしいパフォーマンスをしてもらうには、
トップやリーダーのモチベーションをマネジメントするスキルが欠かせません。
トップやリーダーは自分自身のモチベーションを見直す
「モチベーション・エンパワメント」は、まずはトップやリーダーが自分自身のモチベーションを見直さなければなりません。
例えば一流のアスリートたちはここぞという場面で高いパフォーマンスを出すために、
メンタルもフィジカルもコントロールするスキルを持っているもの。それと同じなのです。
しかもモチベーションは伝播します。モチベーションの高いリーダーの側にいれば、
部下のモチベーションも高まりやすくなります。
だからこそ自分のモチベーションをコントロールし、
常にいいモチベーションを維持することはトップやリーダーの大前提といえるでしょう。
大企業や有名企業といわれる組織の管理職者であっても、パフォーマンスをうまく発揮できていない人はよくいます。
保身に走ってしまったりするモチベーションの低さが要因の一つで、その人の部下にも悪影響を与えてしまいます。
モチベーションを高めるスキル その1
「身体の状態」を整えること
気分が塞ぎ込んだら筋トレを!?
自分でモチベーションをコントロールし、高める5つの要因とスキルについてお話しましょう。
まず、モチベーションは体の中で生まれますので「身体の状態」を整えることが大切です。
筋肉を動かすとモチベーションを高める物質がたくさん出るという研究結果があります。
例えば快感物質でもある「ドーパミン」はやる気を高めて集中力を上げます。
この物質は何かを達成したとき等にも出ますが、筋肉を動かしても出るのです。
ネガティブなときは失敗が続いたりします。
そのマイナスのサイクルを断ち切るためには、メンタル面で改善を図るよりもフィジカルな状態を整えるほうが手っ取り早いのです。
つまり、どん詰まりを感じたら筋トレをしてみましょう。
ウォーキング、ストレッチ、ヨガ、有酸素運動等もお勧めです。適度な運動はモチベーションを高める効果があります。
モチベーションを高めるスキル その2
「アウトカム」を持つこと
今日も一杯のビールのために!
モチベーションを高めるには「アウトカム」を持つのもポイントです。
「アウトカム」とはゴールや目標、欲しいモノのこと。
「私の理想の状態はこれだ」「これを手に入れたい」というイメージを明確に持つと、
そのイメージに向かって体の神経、細胞の一つひとつが動いていくといわれています。
「あの資格が取りたい」「ハワイに別荘を持ちたい」「今日一日しっかり働いて、
美味しいビールが飲みたい」というのもアウトカムなのです。
自分にとって魅力的なアウトカムがきちんと描けていると、そこに向かってモチベーションがどんどん上がっていきます。
そこでお勧めしたいのが、「どうなれば理想的だろうか」、「どういうのが素敵だろうか」
というアウトカムを語る場を持ってみることです。
例えばフラストレーションの溜まる会議について、どんな会議なら素敵なのか?活気のある有意義な会議とは?
明日の会議は楽しみで仕方がないと思える会議とは?を皆で話し合ってみます。
理想とする会議のアウトカムが見えてくれば、自然とそのアウトカムに向かって皆が取り組むようになるものです。
現状とアウトカムの間にはギャップ、つまり問題や課題があります。
そのギャップが何なのかを明確にすれば、それを解決するための行動も明確になるというわけです。
モチベーションを高めるスキル その3
「ミッション」を定めること
自分は人を笑顔にする花屋なんだ!?
私たちの働くモチベーションの最も核にあるのが「ミッション」です。
私たちの仕事は、誰かの幸せに繋がっており、誰かの役に立っているからこそ、その対価としてお金をもらっているといえます。
自分が提供したい価値は何なのか、自分は何者でありたいのか、それが「ミッション」となります。
例えば「自分は人を笑顔にする花屋でありたい」とか「自分は斬新な味で人を楽しませる料理人でありたい」とか。
どんな仕事を通じて人を幸せにする使命があるのか、
すなわち自身の命をつかって果たすべき役割が何なのかを考えてみましょう。
それは今の仕事に魅かれた理由にヒントがあるかもしれません。
従業員一人ひとりのミッションと会社のミッションが繋がっていると理想的です。
企業のミッションは、企業理念やビジョンに表れていることが多いでしょう。
自分たちの組織は何をする組織なのか。そして従業員は、何のために、誰のためにこの仕事をするのかがミッションになります。
自分は何者であり、何を実現したいのかが定まり、人生を賭して果たしたい役割が明確になると、行動に迷いがなくなります。
そして、何かの判断を迫られたとき、優先順位が明確になり、瞬時に判断できるようになります。
つまり、ミッションは全てのよりどころとなるわけです。
モチベーションを高めるスキル その4
「柔軟性」を身につける
クレームではない。チャンスなんだ!
モチベーションの高め方で「柔軟性」は身につけておきたいスキルです。
モチベーションが下がっているとき、今、起きている出来事が要因だと思いがちですが、下げているのは自分自身。
同じ出来事に対する反応は人それぞれです。その反応は自身が無意識に選択しているのです。
目の前の出来事にどういう意味づけをするのか、その事実をいかに生かすか、それが「柔軟性」です。
お得意様からクレームがあったとしましょう。
「もううんざりだ。この仕事は辞めよう」と思うか、「上司がフォローしてくれなかったからだ」と思うか、
それとも「このクレームには何か意味がある。何か学べるはずだ」と思うか。目の前の事実は変わりません。
どのように受け止めるかは自分次第です。
うまくいかないとき、モノの見方を変える「リフレーミング」が役立ちます。
私たちはモノごとを見て、一般常識や決まり事、特定の価値観や思い込みなどのフレーム(枠組み)で意味づけをしています。
リフレーミングはそのフレームを柔軟に付け替えてみることをいいます。
フレーミングの技をいくつか紹介しましょう。
人間関係がうまくいかないときなど、自分以外の誰かの目線で見る方法です。
意見が食い違うのならその相手の靴を履いて、相手の目玉を借りたら自分がどう見えるかを考えます。
目線の高さを変えるのもいい方法です。ロケットに乗ったつもりで物事を俯瞰してみます。
自分たちの仕事が何の役に立っているのか、顧客の先に誰がいるのか。地球レベルで物事を見るのもいいですね。
社内で部門同士が対立しているのなら、事業部全体、会社全体へと俯瞰してみましょう。
時間軸を変える方法も役立ちます。今の仕事は、半年後は、1年後は、そして10年後、30年後はどうなっているのか。
周囲の環境にしなやかに適応するリフレーミングを使った「柔軟性」を身につけ、起こる出来事は全てチャンスと捉えられれば、こんな素敵なことはありません。
モチベーションを高めるスキル その5
「刺激」でマンネリ化を防ぐ
人、場所、習慣を変えてみよう
人の脳は同じ景色ばかりを見ていたら、何も感じなくなったり、以前は刺激的だったモノでもやがて飽きてきて、
何も気づかなくなったりします。マンネリ化はエネルギーを削いでしまうもの。
そこで必要となるのが、変化による「刺激」です。
何か変化が起こるとそこに化学反応が生じますから、「刺激」はモチベーションを高めるのに重要な要素といえます。
変化をつけるには、例えば人との出会いがあります。
趣味の場や異業種交流会に出かけて、ふだんは会わない人との出会いは、いい刺激になってモチベーションを高めます。
また、仕事のメンバーを替えるのもいいでしょう。
別の事業部の人と仕事をすれば、異なる考え方や仕事の進め方が刺激となり、柔軟性を高めることにも繋がります。
「場所」を替えるのもお勧めです。許されるのなら、カフェや図書館で仕事をしたり、
席替えや模様替えを定期的にすれば座っているときの視界が変わるので刺激になります。
また、通勤の経路を変えたり、日常で使う文房具類を替えたり、日々の習慣を変えるのもいいでしょう。
さらに「刺激」を得る方法としては、エネルギーのあるモノに触れることです。
テンションが上がる音楽や映画、漫画に小説、食べ物やアートでもいいでしょう。
自分が元気になるモノ、演劇やコンサートなど、全力でエネルギーを放出されているモノに触れることは、
大きな刺激となるはずです。
このように、「身体の状態」「アウトカム」「ミッション」「柔軟性」「刺激」とモチベーションを高める5つの要素とスキルを紹介してきました。次回はこの5つの要素をさまざまなビジネス現場で生かす方法を見ていきましょう。
参考:野本明日香著『たった5つでモチベがあがる技術』(日経BP社)
【2019年6月号】事例で見る 成長企業への展望 Part8
今日の消費動向を把握するには、年金支給日のスーパーを観察するのがいちばんだ。
隔月15日、スーパーにシニア層が押し寄せる。
店側もその日に合わせて販促を行っていることもあるが、開店早々レジには長蛇の列が続く。
いかにこの国の消費者が「主たる収入が年金」という人たちが多数派になりつつあることを実感する。
近年は一般消費財でヒット商品が出づらくなった。たまにSNSなどで評判になる商品が出ても極めて短命だ。
理由はいろいろあるだろうが、高齢消費者が増えて新規需要が発生しにくくなっていることが大きな要因だ。
メガヒットではなく中小企業ならではの時代のニーズに合わせた商品提案で確実に果実を得る営業戦略が求められる。
今回はそんな事例を紹介する。
感動営業こそ地方住宅メーカーの生きる道
愛知県豊田市で不動産・建設業 「ニッポー」を経営する近田知晃さんは42歳、
社長就任以来若い感性で次々に改革を進めている。
「地方都市の不動産、建設業は、ふつうは目立たない地味な存在です。
でもこれからは、地域を元気にする先兵となるべきだし、一生に一度の家を建てる感動を演出する必要があります」(近田さん)
ニッポーは、話題性のあるイベントを提供して集客をする。
最近人気なのが「VR(ヴァーチャル・リアリティ)で想像を超える土地体験!」というもので、家族連れなどで大いに賑わう。
「ゴーグルをつけると、CADで作成した3Dの家が更地の景色に現れ、リモコン操作で室内もヴァーチャル体験できます。
親子三世代がまるでテーマパークに遊びに行ったように喜んでくれます」(近田さん)
近田さんはこれまでも「起震装置による震度7体験」や「家庭で作れるお菓子教室」といったイベントを次々に企画、
それを地元のマスコミに取り上げてもらうようにリリース発表を繰り返してきた。
「最初は一人の新聞記者も知り合いはいませんでしたが、市役所の記者クラブを訪問してチラシを渡しては名刺交換、
その名刺を頼りにリリースを繰り返したところ、
イベントの度に地元紙やテレビ局が取材に来てくれるようになり知名度が上がりました」(近田さん)
ニッポーでは“感動営業”としてお客様との出会いから家の完成までの感動ムービーを製作し、
カギの引き渡し式や、一生で一番高い買い物をしたパパへの手紙など、家づくりを一生の思い出にする演出をイベント化している。
「人生の節目を演出することで、ほかのメーカーにはない付加価値を提案しています。
祖父母が何より喜んでくれる三世代の家づくりのトータルコーディネーターになるという手作り感こそ、
地方住宅メーカーの生きる道です」と近田さんは明るくこう結んだ。
地方のベンチャー企業が大手の特許技術で新商品開発
何が幸いするかわからない。毎朝始業前に社員で行う会社前の道路清掃が、新規ビジネスにつながった。
「当社の前を通勤する佐賀県地域産業支援センターの職員の方が、
お宅のような実直そうな会社に開発をお願いしたい、とお声がけをいただきました」
こう語るのは佐賀市にあるコンピューターソフトウエア開発の「アイティーインペル」、田中政史社長だ。
「病院や老人施設で徘徊するお年寄りを検知し、
ナースセンターに通報するシステムを開発できないかという依頼でした」(田中さん)
これまでの認知症アラームは、ベッドの上にセンサーマットを敷き、お年寄りの動きを感知するというものが一般的だが、寝返りを打っただけでも反応してしまうなど誤作動が多く、看護師、介護士の負担軽減にはつながらないという問題点があったという。
それに対してアイティーインペルでは、人感センサーを使いお年寄りの頭の部分を追従し、
さらに行動範囲をプログラミングしてベッドエリアから出る可能性を察知、ナースコールへ信号を送るシステムを開発した。
実はこの開発の裏には大企業の開発した特許を県を仲介にベンチャー企業が活用するという仕組みがあった。
「大企業が持つ特許を中小企業の開発支援に使う『知財ビジネスマッチング事業』として富士通と当社との間で特許ライセンス契約を締結しました。佐賀県が仲介する初めての事例です」(田中さん)
アイティーインペルは、富士通の「状態検知プログラムおよび状態検知方法」という特許を利用、
視覚的に行動を把握するシステムを作りあげた。
「大学病院での臨床試験を行い、この春から販売を開始しました。
このシステムで看護師や介護士の負担が大幅に軽減されることが期待されます」(田中さん)
『見守りあんしんくん+eye』と名付けた新商品は、今後はスマートフォンと連動させ在宅介護でも利用できるようにする予定だ。
地方の中小企業が偶然の出会いから大企業とつながり、高齢社会に挑む製品作りに挑戦している。
「一から製品開発するだけの投資は中小企業にはできません。
大企業の特許を利用させてもらい、大企業ではコストが見合わないニッチ市場の商品開発ができる可能性を感じます」(田中さん)
『見守りあんしんくん+eye』は発売前から引き合いが相次ぎ、生産に追われている。
田中さんはチャンス到来と意気込んでいる。
新しい「古物商ビジネス」を提案する
「古物商」という呼び名は見るからに古めかしい印象だ。
廃品回収業、あるいは古本屋業、質流れ品販売といったものはこのジャンルにくくられる。
全国に60店余りを展開する「ネオスタンダード」は、創業15年。
これまでは関東地方を中心に中古品を中心にブランド品や高級時計、宝石などを買い取るビジネスを行ってきた。
この企業をM&Aで買い取ったのが後藤光さんだ。
「これまでのビジネスモデルを更に進化させて、新しい時代に合った仕組みを構築しようと考えました」(後藤さん)
後藤さんが新しく考え出したビジネスは「遺産相続や、老人ホームなどへの転居の際の資産整理」である。
「高齢社会で注目が集まる生前整理・遺品整理の仕事です。
当社はこれまで買取専門店で培ってきた目利きを活かし、適正価格を算出して買い取りを行うことができます。
素人の方にとっては価値がないと思われるものでも、プロの鑑定眼で価格を割り出します。
一方で整理する品々にかかる廃棄費用を割り出し、買い取り商品の価格と相殺することになります」(後藤さん)
家財道具を整理して、廃棄費用が上回るか、あるいは買い取り費用が上回るか、プラスとマイナスを計算して提示する。
これまでのビジネスは買うだけ、あるいは廃棄物を有償で引き取るだけというものが多かったが、
両方の機能を提案するところにこの会社の強みと新しさがある。
このビジネスに注目したのが、リバースモーゲージを展開する金融機関や、資産運用を提案する証券会社だった。
リバースモーゲージとは、存命中に不動産を担保に金融機関から生活資金を借りて、
死亡後にその不動産を引き取ってもらうという資産設計だ。
死亡後、土地や家は金融機関の所有になるが、金融機関にしてみれば家財道具などを整理する必要があり、
ネオスタンダードのようなビジネスモデルが必要になってくる。
また遺産整理などをテーマにした富裕層向けの証券会社の講演会でも後藤さんはこのところ講師を務めることが増えた。
「各地で満員の盛況です。このテーマへの関心の高さが伺えます。
遺品整理業者の選び方など参考になった、人生に一回の事で備えあれば憂いなしだと思った、
といった感想をいただいています」(後藤さん)
高齢社会というトレンドをとらえてビジネスモデルを転換することで新しい成長のきっかけをつかむ。
閉塞市場というけれど、「すき間(ニッチ)」はたくさんある。「すき間」というのは掘ってみれば実は意外に広いものなのだ。
大企業ならともかく中小企業の今後はこの「すき間」を確実にものにしてゆく姿勢ではないだろうか。
【2019年5月号】昭和世代とは違う「ゆとり世代」を解明!イマドキ社員たちの 扱い方マニュアル Part2
■イマドキ社員たちを定着させるために
これからお話する内容を耳にして、もしかしたら「なぜ自分たちが若い人たちにそこまでやらなければいけないのか?」と疑問に思われるトップやリーダーがおられるかもしれません。しかし、よく考えてみてください。昨今の人材獲得については売り手市場です。苦労して確保した若い人たちは将来の会社を担う人材なのに、大卒新入者が3年で3割も辞めてしまう現状があります。そんなイマドキ社員をなんとか定着させないといけません。それは全社を挙げて取り組むべきことといえます。今回の「扱い方、接し方」はそのヒントになればと思います。
■イマドキ社員たちとのコミュニケーション方法
― その①イマドキ社員たちが望む方法で連絡する
まずは連絡方法です。今の若者たちは、物心がついたときから、メールやSNSでの連絡が当たり前の世代です。ビジネス現場で連絡に関して大事なことは「すぐに連絡すること」であり、手段は二の次といえます。電話より慣れているメールやSNSでの連絡を受け入れてみましょう。「電話で連絡すべきだ」というのは、メールやSNSが普及していなかった時代に育ってきた人の考え方に過ぎません。
例えば、明日の待ち合わせ時間が変更となりました。出先からそのことを連絡する場合、スマホのラインやメールで伝えてみるのです。また、お互いが社内にいても、簡単な連絡事項ならメールで送ってみます。普段は話しベタなのに、メールだと意外と饒舌になる人もいるのです。
上司や先輩社員たちがイマドキ社員たちの望む方法でコミュニケーションを取ることを受け入れることで、意思の疎通を図りやすくなることもあるようです。
― その②上司のほうから頻繁に声掛けをする
インターネットを通じた人間関係に馴染んできたイマドキ社員たちは、現実の世界では他人に対して遠慮しがち。自ら進んで上司に報告・連絡・相談を行うことに対してもためらいがちになります。
そんな彼らには、上司のほうから声掛けを行うことが効果的です。そこで提案したいのが具体的な仕組みを作ることです。例えば、上司や先輩による「相談タイム」を設けてみてはいかがでしょうか。入社後1カ月間は定時時刻前の15分間を新入社員のためにいろんな相談にのるといったようなことをしてみるのです。自分からはできなくても、相談の時間が設定されていれば、ためらわずに話しやすくなるのではないでしょうか。
■イマドキ社員たちへの伝え方
― その①分かるように指示を与える
“オンリーワンであることが大切”と言われて育ってきた今の若者たちには、納得しないと行動しないタイプが少なくありません。このようなイマドキ社員たちにきちんと仕事をしてもらうためには、「分かるように指示を与える」ことが重要です。
①具体的に伝える:このような理由で、何について、いつまでに、どのようにしてほしい、と誰が聞いても同じように受け取れる内容にまで落とし込んだ指示を行う。
②ゴールの形を具体的に伝える:指示したことをやり遂げた場合にどのような結果が生まれるのかを伝える。
③やり方だけではなく仕事の仕組みを教える:業務全体の流れと担当する業務の位置づけを教える。
― その②相手に伝わるまで説明する
自ら進んで上司に報告・連絡・相談を行うことをためらいがちなイマドキ社員たちは、指示されたことを飲み込めていなくても、その場で確認をせずに、誤った仕事の進め方をしてしまうことがあります。「はい。わかりました」と答えても理解できていない場合があるのです。
繰り返し伝え、相手が指示した内容を本当に理解しているのかを確認することも重要です。復唱してもらってもいいでしょうし、指示に対してどのような行動をとろうと考えているのかを、答えてもらうなどすれば理解度を確認できるでしょう。
― その③指示を与えた後も面倒を見る
前述したように、「詳しく説明したのだから、後は、きちんとやってくれるはずだ」と過信するのは禁物です。指示を与えた側の人間が、イマドキ社員たちの仕事ぶりに目を光らせ、仕事をやり遂げるまで積極的に面倒を見ることが必要でしょう。つまり、適時なアドバイスです。そうすれば、イマドキ社員たちとの意思の疎通を円滑にし、本人の能力の向上にもつながっていくはずです。
ただし、イマドキ社員たちはすぐに答えを求める傾向が強いため、1から10までアドバイスするのではなく、本人に考えさせるプロセスを設けましょう。
― その④残業は、残業の必要性を考えさせる
残業を指示する場合は、イマドキ社員たちは自分の時間を大切にしたいという意識が強く、残業を嫌う傾向にあります。一方的に残業を指示しても、本人は納得して動きません。そこで、「残業の必要性」を考えさせることが大切です。
「なぜ、残業をしてまでこのことをやらなければならないのか」、「今、残業してこのことをやることが今後にどう影響するのか」などについて考えさせ、本人が納得すれば、イマドキ社員たちは自発的に残業もするようになるでしょう。
■イマドキ社員たちへの接し方
― その①雑に扱わない
上司や先輩社員たちの中に、「新人は社内で一番下の人間である」、「新人は戦力にはならない」などといった意識があり、意図的に雑用のようなレベルの低い仕事ばかりを新人に与えがちです。
そのような扱い方をされると、理想やプライドの高いタイプが多いイマドキ社員たちは、ストレスを感じて、嫌気がさし、離職することを考えるようになってしまいます。
一人の戦力として認め、任せられる仕事は積極的に任せていきましょう。すると、イマドキ社員たちも自分が期待されていることを感じ取り、意思の疎通を積極的に図るようになるはずです。
― その②過剰に気を遣う必要はなし
先の雑に扱ってはいけないからとか、辞められてはたまらないからと恐れるあまり、腫れ物に触るような感覚で彼らに接するのは本末転倒です。
人を使う側は、イマドキ社員が何人いようと、組織の中での役割分担を決めて効率的に人を動かし、組織としての成果を追い求めるためのマネジメントを行わなければならないことに変わりはありません。なのに気を遣ってばかりでは、イマドキ社員たちは、いつまで経っても成長しませんし、会社や上司、先輩社員たちに対して距離感や不信感を抱くことで、離職への引き金にもなりかねません。
― その③過去の自分と比べない
「オレが新人のときは、このようなことは当たり前にやっていたのに、なぜできないのか(なぜやらないのか)」などと、過去の自分と比較しながら叱責するのは禁物です。なぜなら、過去の自分と比べた発言は、相手のことを全面的に評価しないことへとつながり、イマドキ社員たちは上司とのコミュニケーションをとるのに嫌気を感じてしまうでしょう。
過去の自分と比べるのではなく、イマドキ社員自身の過去と今とを比べて、「できていること」や「できるようになったこと」を認めてあげる姿勢が重要です。
― その④イマドキ社員のタイプに合わせた接し方
昨今の若者は、報酬や出世への欲望は薄れつつありますが、成長したいという欲求は、昔と変わらずにあるようです。
イマドキ社員のタイプを知り上手に導けば、自発的に行動し、成長していくものです。
【導き方の例】
▶協調性のあるタイプは、協調性があることを褒めた上で、今後の進むべき方向性を指し示す。
▶客観的に物事を判断するタイプは、現実的な対応ができていることに対して信頼していることを伝えた上で、今後の進むべき方向性を指し示す。
▶批判的な態度を取ることの多いタイプは、上司が部下の言うことにきちんと耳を傾けるという姿勢を示しながら、今後の進むべき方向性を指し示す。
▶自分を表に出さないタイプは、声掛けする回数を増やした上で、今後の進むべき方向性を指し示す。
このような形で導くことで、本人が仕事を通じて成長していることを実感することができれば、モチベーションの向上にもつながることでしょう。
■イマドキ社員たちのヤル気の引き出し方
― その①帰属意識を持たせる
イマドキ社員たちには、会社組織に馴染めないタイプが多いようです。「自分は組織の一員であり、組織から必要とされている人間なのだ」という帰属意識を持たせることが、彼らのヤル気を引き出し、成長させることに対して効果的です。
そのためにも、確たる根拠のない古い価値観や考え方を押し付けることは避けたいものです。
【イマドキ社員たちに対するNGワード】
▶世の中とはそういうものなのだ。
▶そういうのが社会人としての常識なのだ。
▶若いうちは下積みの仕事をするのが当たり前だ。
▶オレが若いときはもっと大変だった。
▶そんなことくらい自分で考えろ。
イマドキ社員たちには、一昔前の「サラリーマンとは、このようなものなのだ」的な感覚は通用しません。
― その②自己実現の欲求に火をつける
イマドキ社員たちのヤル気を高めるには、彼らは理想やプライドが高いので、「仕事を通じて自己実現をしたい」という欲求に火をつけることが効果的です。
【自己実現の欲求に火をつけるプロセス】
▶最初のうちは、「やらないと叱られるから」、すなわち仕方がないからやるという感覚で仕事をしている。
▶そこで、「自分の背負った役割は果たさなければならない」という使命感や責任感を植え付ける。
▶使命感や責任感が芽生えたならば、きちんと行動できていることを認めることで、認められることに対する喜びを感じさせる。
▶そこまでくると、「仕事を通じて自己実現をしたい」という欲求が生まれてきて、彼らの中でヤル気が高まり、理想に向かって自発的かつ積極的に行動するようになる。
― その③働きに応じた公平な評価をする
イマドキ社員たちには納得しないと行動しないタイプが少なくないので、働きに応じた公平な評価をすることが重要です。
それには、本人の能力や環境に応じた無理のない適正な目標を設定し、それに対する達成度に応じた評価を行うのです。
一昔前のように、上から一方的にノルマを課し、それに対して杓子定規的な評価を行うやり方には、イマドキ社員たちは納得しません。そのようなことを続けていると、会社に対する不満や不信が募り、ヤル気を失ってしまうでしょう。
― 最後に
イマドキ社員たちが別に特殊な人間だというわけではありません。彼らの価値観というものがあり、それが一昔前のものとは異なるというだけの話なのです。イマドキ社員たちを使う側の人間が、いかに彼らのヤル気を引き出し、能力を高め、組織の一員として機能させるかというマネジメントに起因する問題です。能力とヤル気を高めることができれば大きな戦力となりうることに変わりはありません。
つまり、身の回りにいる彼らがどのようなタイプの人間なのかを知ろうと、上司自らの行動を変えていくことが求められるのです。
【2019年4月号】昭和世代とは違う「ゆとり世代」を解明!イマドキ社員たちの 扱い方マニュアル Part1
■イマドキ社員とは?その特徴と傾向
“イマドキ”と呼ばれる人たちの年齢層は「ゆとり世代」をイコールと考えてもいいでしょう。「ゆとり世代」とは主に2002年度から2010年度まで実施された「ゆとり教育」を受けた人たちをさします。年齢的には1987年度から2004年度の間に生まれた31歳から14歳までのあたり。どんな特徴や傾向があるのか、後ほど公的データでご紹介しますが、簡単に挙げてみましょう。
◉ストレス耐性が低くて打たれ弱い
◉指示されるまで動かない(指示されたことしかやらない)
◉すぐに結果を求め、答えを知りたがる
◉仕事よりプライベートを優先する
◉遅刻や欠勤、欠席などの連絡をメールやラインで送ってくる
◉お客様や上司にタメ口をきく
◉コピペした報告書を上げてくる
◉周りが忙しそうにしていても、定 時が来たら一言もなくさっさと帰ってしまう
◉職場の飲み会に参加したがらない
◉人が話をしているときにスマホを いじる
◉注意すると逆切れする
◉きつく言うと会社を辞めてしまう
こんなイマドキ社員たちの言動に頭を悩ます昭和世代のトップやリーダーたちが私の周りで増えています。考え方や価値観が異なるので、まともにぶつかってもかみ合うはずがありません。
この問題を解決するためには、まずイマドキ社員たちの本質を知る必要があり、今回は、彼らが育ってきた背景を見てみましょう。
■イマドキ社員たちが育ってきた生活環境
― その①「インターネット」
イマドキ社員たちの言動にもっとも影響を与えている生活環境要因として、子どものころからインターネットが普及している環境で育ってきたことを挙げることができます。
1990年代に爆発的に普及したインターネットは、まさにゆとり世代の人にとって、もっとも身近な存在。「ネットなし」なんて想像すらできないでしょう。
面識のない相手とインターネットを通じて簡単にやり取りを行ってきましたし、年齢や地位の異なる相手に対してもインターネットを通じてフラットな接し方をしてきました。さらには、無料で簡単に情報を入手できます。こうして彼らはインターネットを通じたバーチャルな世界に自分の居場所を見つけているのです。
― その②「競争の経験が少ない」
イマドキ社員たちの時代は、少子化がどんどん進んでいきました。1973年に約209万人もあった出生数は、ゆとり教育が始まる1987年には134万人、1997年119万人、ゆとり教育が終わる2004年は110万人となります。ちなみに2016年には100万人を割り、昨年2018年の出生数は1899年の統計開始以来最少の92万人だったとか。
学校教育では、競争を促すスタイルから、個を尊重し伸ばすスタイルへと変化していきました。そのことが、他人と競争して打ち勝つ経験をイマドキ社員たちから奪い、ナンバーワンよりも「オンリーワン」を重視する意識を持つことへとつながっていきました。
つまり、「他人との競争にさらされた経験が少ないイマドキ社員」を作り出したというわけです。“草食系”と呼ばれる、大人しくてガツガツしないタイプの若者にも、こうした背景があるのでしょう。
― その③「叱られたことが少ない」
イマドキ社員たちが育った環境に「親や学校の先生などから厳しく叱られた経験が少ない」ということも挙げられるでしょう。
これは実は親にもいえることなのです。というのは、イマドキ社員たちの親世代といえば、40歳〜50歳ぐらいが多いでしょうか。実はこの層の人たちも「新人類」などと呼ばれた世代。平等や公平を好み、打たれ弱く、仕事よりもプライベートを重視する傾向があり、結構甘やかされて育てられたりしたのです。ですから、当然自分の子にも甘いので、叱ることが少ないといえるわけです。
学校教育の場にしても、厳しくすると、やりすぎだとか叱責されます。いわゆるモスンター・ペアレントの餌食になるのを避けるためにも、生徒を叱れないのです。
そうしたことが、イマドキ社員たちを打たれ弱い人間へと育て上げ、会社で上司や先輩に叱られるとすぐに辞めてしまう│。あるいは、仕事に対して注意をしたときに、「自分的には満足しています!」と逆切れするなどといったケースもあるようです。
■データで見るイマドキ社員たちの言動
さらにイマドキ社員たちを知るために、今度は公的なアンケート調査でのデータを見てみましょう。公益財団法人日本生産性本部が、毎年春に実施している「新入社員意識調査」を吟味すると、前述した特徴が見えてきます。すると、厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」の数字もうなずけてしまうのです。その特徴をまとめると……。
― 特徴Ⅰ:理想とプライドが高い
個を重んじオンリーワンを重視する環境で育ってきたため、理想やプライドの高いタイプの人間が多いようです。
取り組む仕事の内容や仕事の進め方にも、理想やプライドが高いがゆえにこだわりを持ち、主張もします。それは、Aの調査結果①④⑧に表れています。一見、「なんだ、我々と変わらないじゃないか」と思われそうですが、⑧の仕事を通じてかなえたい「夢」はあるかの「夢」が少し昭和世代と違うのです。
昭和世代の仕事を通じての「夢」といえば、バリバリ頑張っていい給料をもらい、家を建て、昇進し、安定した生活を求めるという感じでしょう。ところがイマドキ社員たちの「夢」は、出世することよりも、目の前の仕事を自分の理想とする形でこなすこと。いわゆるネット用語にある「リア充(リアじゅう:今の生活がとても充実していること)」的なことを目指しているのです。
ですから、そこへ先輩や上司が会社の理念とか、従来の仕事のやり方を押し付けようとすると「自分はそんなつもりではやらないです!」と反発し、「ここはダメだ」と辞めることになるわけです。
― 特徴Ⅱ:安定志向である
他人との競争にさらされた経験の少ない環境で育ってきたため、安定志向の強いタイプが多いようです。これも「我々と同じじゃないか」と思われるかもしれませんが、中身が違います。安定した暮らしを実現するためにガムシャラに働くのではなく、イマドキ社員たちは競争のない、もしくは競争がおきないという意味での平穏な安定した環境を求めているのです。
そのため、ライバルを押しのけながらのし上がっていく、というようなことに対してエネルギーを使いたがりません。そのような特徴が、Aの調査結果⑤に表れていて、出世することに価値があるとは考えていないのです。
― 特徴Ⅲ:根気に欠ける
周囲の大人たちから厳しくされる機会が少なく自由な環境で育ってきたため、やはり根気に欠けるタイプが多いようです。そのため、自ら創意工夫を凝らすことなく、簡単に答えを求めようとします。そのような特徴が、Aの調査結果②に表れています。
また、このような傾向が、仕事において下積みを体験するようなことを嫌うことへとつながっています。最初は雑用的なことから携わって徐々に本筋の仕事を経験させていくのが昭和世代の一般的なセオリーです。しかし「新人の仕事は雑務から」「サービス残業をしてでも目で見て覚えろ」といった感覚は、イマドキ社員たちには通用しません。
雑用を与えようものなら、「なぜ、きちんと仕事をさせてもらえないのですか?」「そういうのはパワハラです」などと主張し、サービス残業云々を言えば、「正当な権利として残業代を要求します!」と主張するのです。そして、早々に会社に見切りをつけて転職を考える│。そのような特徴が、Aの調査結果⑥⑨に表れています。
― 特徴Ⅳ:会社組織に馴染めない
インターネットというバーチャルな世界におけるフラットな人間関係に馴染んできたため、現実の世界での序列が存在する人間関係に馴染むことのできないタイプが多いようです。そのため、職場の人とも常に一定の距離を保ち、自分の世界を大事にしたがります。そのような特徴が、Aの調査結果③⑩に表れているといえます。
特に⑩の回答で「雰囲気・社風」が第2位になっているのは、「自分にとってしんどくない人間関係があること」を求めているからでしょう。例えば社内での飲み会だとか、社員旅行だとかを嫌います。オフタイムの付き合いは敬遠したいのです。だからなのか、チームプレーを苦手とするタイプも多いようです。そうした特徴がAの調査結果⑦に表れているといえます。
今回はゆとり世代に多いイマドキ社員たちの言動の背景を見てきましたが、次回はそんな彼らへの対策、扱い方を考えてみましょう。