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【2018年6月号】事例で見る 成長企業への展望

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人気シリーズの西村晃氏のフィールドワーク・レポート。超高齢化社会へと突入した日本で、企業は既成概念を超える提案力が問われていると西村氏は語る。その成功事例を紹介していただこう。

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超高齢化に対応する提案力
 
◆元気な企業は、こんなことをしている!
2018年は後期高齢者人口が前期高齢者を上回り始める年になる。戦後のベビーブーム世代が、2020年のオリンピック以降続々と後期高齢者の仲間入りをしてゆく。
日本人の平均寿命は80代だからまだ多くの人は生きてはいるが、これまでの経験則から見ると、後期高齢者になると旅行や外出が次第に減りがちとなる。
後期高齢者のおよそ10人に1人は老人施設などへの入所が必要になってくる。
いよいよ本格的な高齢社会だ。
今回はそれに対応する企業の取り組みを紹介する。
 
 
日本人に合う新しいコンセプトで“おかゆ”市場の創出となるか
 
おかゆと聞いてどんな連想をするだろうか?
お腹をこわして何も食べられないときに、母親に作ってもらったおかゆをようやく口にしたときの美味しさと、早く普通のご飯が食べたいという気持ちが重なる……。
「病中病後、あるいはこってりした中華コースを食べた翌朝の軽めの食事など、おかゆは体に優しいと感じている方が多いと思います。栄養バランスも考え、元気なときにでもおいしく簡単に食べていただけるようなおかゆを考えました」
こう語るのは豊味館の松尾あゆみ社長だ。
豊味館が「もち米おかゆセット」を発売して3年、静かだが少しずつ売り上げを伸ばしている。
「豚なんこつ、彩り野菜とベーコン、若鶏と栗の3種類あります。これまでのおかゆの概念を覆す『具だくさんのレトルトパック入り』のおかゆです。栄養価も高く、また歯の弱いお年寄りでも食べられると、まとめ買いで常備するお客様が増えています」(松尾さん)
豊味館は長崎県佐世保市にある。
グループ会社の丸協食産はホルモンなどの精肉メーカーだ。豊味館はスーパーなどを販路に日常必要な肉を販売する丸協食産とは一線を画し、土産や贈答など付加価値の高い商品提案をしようと10年ほど前に設立した。
「人の拳くらいの大きな牛テール肉の入ったレトルトカレーや黒豚ロールステーキなどこれまでヒット商品を出してきました。あるとき韓国料理サムゲタンの開発依頼があり商品化しましたが、あまり国内市場は広がりませんでした。その後教訓を生かし、お肉に主体を置き、薬膳の具材や野菜を加え『ライトな主食感覚のおかゆ』という、日本人に合った新しいコンセプトにたどり着きました」(松尾さん)
常温で保存ができ、ダイエットにも、お年寄りの日常食にも適した商品として提案したところ、通販や病院、調剤薬局の店頭などから注文が来るようになった。
「おかゆはもともとは家庭内で体の弱った家族のためにつくるものです。食の外注化の中で、家庭料理になりかわってご提供する新しい“おかゆ”市場を作りたいと思います」(松尾さん)
核家族化、高齢社会に新たな販路を拓けるか、松尾さんは手応えを感じている。
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高齢者の癒し的存在のペット中でも活性化する“インコ”市場
 
続いてはペットショップの事例だ。
ペットを飼う家が増えてきたことは事実だが、ここにきて購入するペットにも変化が出ているようだ。
「実はここ数年ヒット商品が出ています。それは小鳥なんですよ」
こう話すのは、首都圏を中心にペットの総合専門店を展開する「ペットエコ」の米山由幸取締役だ。
「当社の売り上げを見てもここ数年小鳥の販売が伸びています。イヌよりもネコ、ネコよりも小鳥のほうが世話が楽だし、マンションなどでの飼育も許容されるということも背景にあります。動画サイトなどで可愛らしいしぐさを見て買いに来る若者、高齢の親にプレゼントしたいという娘さんなど客層も幅広いのが特徴です」(米山さん)
小鳥の中でも特に人気が出ているのがインコ類だという。
大型のインコだと30万円以上するが、知能もすぐれ言葉も覚えるなど人気があるという。インコはキビやヒエなど餌のにおいがすると言われるがそうした雑穀とバニラ味をブレンドした『インコアイス』が百貨店のイベント等で売り出されたり、インコをデザインした雑貨や文具なども若い女性に人気が出るなど“インコ”市場が活性化している。
実は生体の販売価格にも特徴がある。
「イヌやネコは生後51日以上で販売を開始しますが、月齢が経つと価格は下がる傾向にあります。ところが小鳥の場合仕入れてからある程度時間が経つと慣れてきて、手乗りなどができるようになります。当社では販売価格を上げていきますが、慣れた小鳥ほど人気がでます」(米山さん)
近年ペット業界は高齢者世帯の増加に伴い、右肩上がりの市場で推移してきた。
子育てが終わり生活に余裕のある人が増えたことは追い風だった。しかし更に高齢化が進むと、散歩の必要なイヌが敬遠されたり、飼い主が先に他界した後ペットがかわいそうだと、新たなペットを飼うことを敬遠したりという傾向も出始めている。
「その点、小鳥は気軽に飼えることと、話しかけることで認知症予防に効果があるなど今後のペット市場で大きな役割を果たすと思います。保険の整備、また飼い主不在時に利用できる鳥ホテルの展開とともに、当社独自の品質の良い小鳥の生体の新たな取り扱い先ルートの開拓を進めています」
米山さんはこう語り、小鳥市場が大きく羽ばたくことに期待を示した。
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日本ではまだ利用者が少ない難聴用の“補聴器”市場を開拓
 
高齢化が進むと、市場拡大が期待されるものに補聴器がある。
平均寿命が延びたことは嬉しい限りだが、人生の後半に目や耳の能力が衰えてしまうことはどうしても避けられない。老眼鏡や補聴器のお世話になる人の数は増える傾向にある。
「当社では92年に軽度の難聴用の補聴器市場に参入し、これまで合わせて130万個を販売してきました。今後この市場はさらに伸びると思います」
こう語るのはオムロンヘルスケア国内事業部の高桑暢浩さんだ。
国内の補聴器の出荷個数は2015年度56万個で5年前と比べて20%程度増えているが、実は日本では難聴と自己申告している人のおよそ14%しか補聴器を使用していないという。これはイギリスの41%、ドイツの34%、アメリカの24%などと比べてかなり低い普及率にとどまっている。
これには私にも思い当たる節がある。
私の祖母も母も老境に入り会話が聞き取りにくく、補聴器をプレゼントするから装着してほしいと再三薦めたが「いやだよ、年寄りくさくみえるから」となかなか応じようとしなかった。
「たしかにシニアグラス(老眼鏡)ほどは普及していないのはそういう認識が障害になっているのかもしれません。PCや会議資料を見るために、ピンポイントでシニアグラスをかけるという方が多いように、会議や商談などで大事な要点を聞き漏らさないように補聴器を使うといったシーン提案をすることでイメージを変えていかなければなりません」(高桑さん)
オムロンヘルスケアでは、最近イヤメイトシリーズ3機種のうち2種をリニューアルした。耳穴に装着するタイプは本体の重さがおよそ1.8gと超小型で見た目も目立たない。
「軽度難聴用の補聴器は、これまであまり知られていませんでしたが、通販市場で販売したところ売り上げを伸ばしつつあります。今後はこれまで中度・重度の補聴器を主に販売してきたメガネ店やテレビ通販などでの販売にも力を入れ、補聴器をもっと気軽に使っていただけるように紹介していきたいと思います」
高桑さんはこう語る。
難聴は認知症につながる危険性も指摘されているだけに、今後軽度の“補聴器”市場はさらに拡大しそうだ。
 
人口減少に加え急速な高齢社会の進展で東京オリンピック以降の日本経済は、長いトンネルに入ることが予想される。
昭和39年のオリンピック以後も40年不況があり、政府は戦後初めて国債を発行するなどして景気対策に努めた。
比較的短期間で不況を脱することができたのは当時社会人になり、結婚適齢期に入りつつあった戦後のベビーブーム世代が3Cと呼ばれた「カー、クーラー、カラーテレビ」の購買層になり景気拡大をけん引したことが大きな要因だった。
その時の経済のエンジン役だったこの世代が今度のオリンピック以降は後期高齢者入りして消費のけん引役どころかブレーキになりかねない心配がある。
企業に求められるのは自社に合った高齢時代向けの提案力だ。
今回紹介した三社は、その共通の事例と言えそうだ。
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