【2018年12月号】ドラッカーの「生態的ニッチ」を活かせ!「こだわり」で 小さな企業でも 独占市場をつくる!
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「いろんな人に買ってほしい」ではダメ
私は、ドラッカー理論を駆使して「ニッチ戦略」をコンセプトにコンサルティングをしていますが、そもそも「ニッチ」とは「隙間」と思っておられる方が多いと思います。実はこれは生物学用語であり、「巣」という意味があります。ある生物種が生息している特別な環境。安心で安全、独占できる空間のことをニッチというのです。つまり、独占できる環境をつくることがニッチ戦略といえます。
だから、中小企業は、「みんなに買ってほしい」と思ってはいけません。
情報の単位をゼタバイト(ZB)と言い、2の70乗だそうです。世界中の砂浜にある砂の数が1ZB。
今発信される情報量は、世界中の砂浜にある砂の数倍という途方もない量になっています。自社のホームページをつくって発信しても、それは一粒の砂ですから、ターゲットとなる消費者にはほとんど届きません。ですから、いろんな人に買ってほしいのではなく、どんな人に買ってほしいのか明確にしないと、対象となるお客様には辿り着かないのです。こうしたことを前提に、小さな企業でも独占市場をつくりだす「こだわり」のニッチ戦略(ペルソナイズ戦略)を考えていきましょう。
①事業目的にこだわる
ネットで検索した場合、92%の人が検索結果の1ページ目で終了してしまうそうです。2ページ目以降はほとんど見てもらえない。つまり、検索キーワードを絞り込まなければなりません。
例えば「ラーメン」だけではまず1ページ目には載りません。事業目的をもっと絞り込んで明確にするのです。ラーメン、とんこつ、渋谷ぐらいまで必要でしょう。これならライバルもぐっと少なくなるはず。これが「生態的ニッチ」なのです。しかも、「辛い」とか「大盛り」もキーワードにすればさらに絞り込まれます。それで、1日に300人も来ればOKでしょう。そうなれば、“大盛りのとんこつラーメンを食べられる店”として渋谷で「独占市場」をつくることも可能なわけです。チェーン店の場合は「渋谷」を変えればいいのです。
1つのホームページで全てのニーズにヒットするなんてあり得ません。ですから、事業目的にこだわって、絞り込むことです。
②戦略目標の達成にこだわる
事業目的を明確にしたのなら、次はゴールを明確にしましょう。
例えば来年の8月中旬にみんなで富士山山頂に登るので、それまでに資金を蓄え、体力をつけておくように。これだと目標が明確ですよね。5合目なら行ける人とか、来年あたり登りましょうとか、それではチームの足並みは揃いません。それには戦略目標にこだわった明確さが必要です。
よくあるのがスローガンを目標にする場合で、これだと精神論で終わってしまい、絵に描いた餅になってしまいます。工程まで、ロードマップにまで落とし込みましょう。
③自社の強みにこだわる
自社の強みこそが、実はお客様満足につながります。精密につくるとか、早くつくるとか。ただ、自社の強みってなかなか分からないものです。
例えば私が主催する「藤屋式ニッチ戦略塾」で、ある建築士の塾生は、6種類のCADを使いこなせました。6種類も使えるのでさまざまなオーダーに柔軟に対応できるのです。彼はそのことは当たり前のことで強みだとは思っていませんでした。
当たり前のことが強みであることはよくありますが、自分では気付いていない。だから、「お客様に聞け」とはよく言いますよね。強みをベースにしないと事業というのは成り立ちません。
④市場の独占にこだわる
ライバルがいると、必ず価格競争となるので、価格競争は避けなければいけません。それには特定の市場をつくることにこだわることです。木村秋則氏の「奇跡のリンゴ」は、4年待ちといいます。苦労して、奥さんのために育てたというストーリー。消費者はリンゴが食べたいというのではなく、「木村さんのリンゴ」が食べたいのです。独占市場になっています。そこには価格競争はなく、4年待っても食べてもらえるのです。大企業でなくても、独占市場はつくれるといえます。
⑤顧客のファン化・信者化にこだわる
独占市場をつくるには、ファンクラブをつくるような顧客のファン化・信者化を目指します。それには次のようなことにこだわってみましょう。
◎商品の品質にこだわる
先の木村氏の場合、奥さんが農薬で病気になってしまったので、無農薬でつくることにこだわりました。つまり、無農薬栽培という品質にこだわったのです。
一方で、品質を変えていくのも、ニッチ戦略です。例えば会計ソフトの分野。いろんな企業が、安くて簡単で便利なソフトを売り出してしのぎを削っています。これまで「使いやすさ」でしたが、そこへ「業績を上げる会計ソフト」となると全く違う展開が見られます。つまり、この業界のこの分野ではこの会計ソフトという絞り込みです。そうなると競争相手もガラッと変わってきます。もしかしたら特定の分野なら独占できるかもしれません。
◎提供方法にこだわる
数量限定とか、期間限定、会員様限定といった、提供方法にこだわるのもファンをつくることになります。特製ラーメン限定20杯! とか。会員様だけの特別サービス、特別価格とか。好例だなと思ったのはサントリーのハイボールのコマーシャルです。「ウイスキーと炭酸を1:3で割って」と作り方をコマーシャルで流すのも、提供方法の一つ。自社だけの提供の仕方を考えてみましょう。
◎ストーリーにこだわる
提供するのに、ストーリー性があるとよりいいでしょう。何年も寝かせたウイスキーというのもストーリーがあります。「奇跡のリンゴ」なんて、映画にもなった感動ストーリーがありました。
◎流通経路にこだわる
流通経路にもこだわってみるのも、魅力度アップとなります。あそこのお店しか手に入らないとか。どこそこの地域でしか売っていないとか。また、オリジナル商品はこのお店だけとか。PB(プライベートブランド)なんてまさしくそうです。
⑥ブランディングにこだわる
次はブランディングです。今大人気のインスタもブランディングの一つです。見た目の良さというブランディングといえます。究極は、「○○と言えば、★★」です。例えば、「テレビゲームと言えば、任天堂」とか、「コーヒーを飲むならスタバ(スターバックスコーヒー)」など。
また、あなたの会社や事業、商品に「お、ねだん以上。ニトリ」のようなキャッチコピーはありますか? キャッチコピーがあれば次の⑦の情報提供も取り組みやすくなります。
⑦情報発信にこだわる
以前はいいモノをつくれば売れたのですが、今は情報が溢れ、知ってもらわないと売れないのでどんどん情報発信する必要があります。それについては今最高の方法は、YouTubeです。
YouTubeを利用して情報を発信している企業はまだ少ないようです。音楽やスポーツを見るだけだと思われているかもしれません。私もYouTubeで動画をどんどんアップしています。これはSEO対策※にもなっており、YouTubeで「ニッチ戦略」で検索すると1番目から4番目ぐらいまで私の動画が独占しています。また、そのSEO対策セミナーのサイトはごまんとある中で、私とWEB戦略で提携している高橋真樹氏のサイトはトップで表示されるのも彼がYouTubeで発信しているからです。
※SEO(Search Engine Optimization)対策:検索エンジン最適化という意味で、検索結果で自社サイトが上位表示されるようにする対策のこと。
チャンネル登録数が500を超えると問い合わせが増えてきて仕事にも好影響が出てくると言われており、高橋氏は4700を超えているので、街中でも「YouTubeで見た高橋さんですか?」と声を掛けられるそうです。みんなのスターになる必要はありません。特定のスターになればいいのです。
また、情報発信の大原則といいますか、ルールがあります。それは「技術自慢」「商品自慢」「自社自慢」はNGです。お客様の「満足」「成功」「幸せ」にした状況を発信しましょう。自社の商品やサービスを使っていただいて幸せになりますと伝える。するとお客様は自分も幸せになりたいと思って購入するのです。「奇跡のリンゴ」で幸せになった奥さんのストーリーに感動と共感を抱き、それでオーダーするわけです。自社自慢に対しては感動も共感もありません。
情報発信には共感を呼ぶものでないと。そのためにはストーリーが必要です。そのストーリーも、「こんなに努力をしました」ではなく、「このように使って幸せになりました」という内容がポイントになります。
こうして①から⑦のこだわりを、ところどころ取り組んでいる企業はありますが、点と点で、線になっていません。例えば③が抜けるとそこで途絶えてしまいます。④が弱いとか、⑥は少し自信がないという項目があっても構いません。一つの流れとして①から⑦まで全てを取り組めば、ニッチ戦略の独占市場をつくるというゴールが見えてくるはずです。