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【2017年9月号】リーダーのための実践ワークPart1 チームが「活性化・一致団結・強くなる」コミュニケーション術

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チームがどうも活性化しない。だからか結果もでない。
そんなチームの主な原因はコミュニケーションロス、ミスにあると、社長・幹部コーチング実績の豊富なチーム開発コンサルタントの鳥澤謙一郎氏は指摘する。
ではどうすればコミュニケーションはよくなるのか。そのノウハウを伺った。

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信頼関係は明るさ、話しやすさ、接点の多さ、コミュニケーション量が質に変わる
 
 例えば、組織に戦略、戦術があり、メンバーそれぞれは能力があり、ロジカルな思考で、効率良く仕事をこなすものの、雰囲気が暗く、会話は必要最低限のみ、そしていまいち士気が高まらない。そんなチームは、リーダーやメンバー間で言いたいことが言えない、リーダーが話を聞いてくれない等コミュニケーションロス、ミスが多いようです。しかも、メンバー間の心理的安心感が低く、信頼関係は希薄です。
 このような状況に心当たりのあるリーダーは、先ずメンバーの話を聞き、情報量を増やすことが必要です。メンバーの情報が増えることで、タイムリーで的確な対応ができます。意識してメンバーに好奇心と肯定的な関わりを持ち、心理的な壁を低くすることがスタートです。そこで、私がコンサルティングの現場で導入している簡単に実践できる3つのワークを紹介しましょう。
 
 
心理的な壁を低くして、話しやすくするワーク
 
 コミュニケーションを良くするということは、人間関係を良くすることです。前提として戦略、戦術はあるが結果が出ないのは、メンバーの能力に問題があるのでなく、人間関係が機能していないことがほとんどと考えています。
 そこでおすすめしたいのが、3つのステップからなる「心理的距離を近づけるワーク」です。これはメンバー各人が自分の考えを開示し、相互理解して心理的距離を近づけ、話しやすくなることを目指します。このワークは、よく知られる「ジョハリの窓」(図①)や、チームの発達の段階を4段階に定義した理論「タックマンモデル」を参考にしています。週1回、朝礼の3分間を6ヵ月間実践してみましょう。
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STEP1 グッド&ニュースを共有する
 
 2人1組で、「24時間以内に起きた自分にとって良かった事柄」の話をします。「遅刻せずに出社することができた」「留守が多いユーザーにアポがとれた」といったレベルから始めてみましょう。
 STEP1では「良い」ことに意識を向けるということがポイントになります。人は、どういうわけかネガティブな事柄は拾いやすいもの。特に日本人は、欧米との文化的な違いがあるのか、自虐的なことを美徳と受け取りがちです。褒める文化が日本にはあまり見られません。ですから、なおさら意識して「良い」ことを意識するのは、ポジティブな視点を養うのに有効といえます。
 そして、その良かった事柄をポストイットに書き出し、相手に渡します。書くことは思考を整理する習慣にも役立ちます。
 ここで大切なルールはポストイットを受け取った人はその内容について決して否定、批判したり、非難してはいけないことです。受け取り方、考え方は人それぞれですから、「そういう受け取り方はあるよね」「それは良かったですね」と受け答えするように始める前に伝えておきましょう。
 このSTEP1の時間は1人1分弱で構いません。毎日行い、3ヵ月は続けます。
 このワークを進めていくと、物事の「良いところを見る」習慣が身につきます。となると、例えば営業活動で新規受注率は通常3~5%と言われていますが、断られてばかりでへこむところを、「なぜお客様に断られたのか」「お客様から学ぶ(良いところを見る)」という習慣が身につけば、その断られた中からも何か得られる事を見つけようとします。それがキャリア、成長することにつながるのです。
 
 
STEP2 ポジティブに振り返る自分史作り
 
 4ヵ月目はSTEP2に移り、「夢を語る自分史」というもので、これも2人1組で行います。
 このワークの組み立てで参考になったのが「ジョハリの窓」です。人間関係を良くするには2つのポイントがあります。1つ目は、自分だけが知っている事柄を他人に知ってもらうことで、つまり自己開示です。この自己開示には「価値観の自己開示」「事実の自己開示」「感情の自己開示」の3つがあり、これらの情報を知ると相手は安心します。2つ目は、他人からのフィードバックを貰うこと。他人のフィードバックで自分の知らなかった自分に気づけるというわけです。
 さて、STEP2ですが、自分史を「子供時代」「学生時代」「社会時代」の3つに分け、その時の夢をポストイットに書き出します。その中で1つだけ自分の事実を入れるのです。
 「私は『子供時代』にオランダに旅行したことがあり、パンの美味しさに驚き、帰国後、将来はパン職人になろうと思っていました。『学生時代』には・・・。この中で夢はどれでしょうか。答えは子供時代です」といった感じで実施します。これはポジティブな謎解きのようで、なかなか楽しいもの。しかも3つの時代の話を聞けばその人の考え方、価値観を知り、その人への理解も深まるはずです。
 それと同時に、夢を考えることは想像力を鍛え、伝えることでプレゼン力をも養います。週1回、毎回メンバーを替えて、もちろんリーダーも入って行うといいでしょう。
 
 
STEP3 自分らしさを探すワーク
 
 5ヵ月目はSTEP3へと移ります。これも同様に2人1組で実施。「自分らしさ」を探すワークです。30秒でポストイットに自分らしさを書き出してみましょう。それを互いに見せ合い、相手らしさを一つ選び、選んだ理由を伝えます。
 例えば、自分が「慎重」「計画的」「謙虚」「丁寧」と書いたとします。それらから相手は、「丁寧」を選び、その理由は「この前、ファイルを元に戻すのを頼むと、他のファイルまできちんと順番を揃えていたから」と伝えるのです。
 コミュニケーションを良くするには相手に興味、関心を持つことが大切です。それが関係性を築く基本となります。
 ワークショップでこのSTEP3を実施することがあるのですが、選んでくれた自分らしさを書いたポストイットは、ほとんどの人が大事に持って帰ります。「自分はそういうふうに見られているのか」は、普段は寡黙に仕事をしている人でも気になるもの。ましてや褒められたことは大事にとっておきたいのでしょう。
 
 
メンバーの魅力引き出しワーク
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 いよいよリーダーが大きな役目を果たすのが「メンバーの魅力引き出しワーク」です。
 このワークでは、リーダーがメンバーに行動特徴(強み、弱み)をフィードバックします。メンバーの行動特徴は環境、目標に応じて変化します。ですから、弱みを否定的に捉えることはありません。自己理解を深め、変わり続けることが成果につながります。
 このワークのフィードバックとは、メンバーの普段の実績や勤務態度から見つけた肯定的な事柄を伝えます。つまり、褒めるのです。メンバーに気づきを促し、魅力を引き出すのが目的で、「ジョハリの窓」や「タックマンモデル」のほかに、“良い人間関係があるチームは良い思考、良い行動、良い結果を出せる”という「成功の循環モデル」を参考に組み立ててみました。  
 やり方としては、リーダーは毎週メンバー全員の前で、1人を選び、選んだメンバーが成長した点を心(仕事の前向き姿勢)、技(お客様を喜ばした仕事)、体(勤怠・残業時間)の3つの観点から90秒でフィードバックします。フィードバックを受けたメンバーは感想を1分以内で話します。週1回、時間はわずか会議前の3分間ほどでいいでしょう。
 このワークで成果を出すポイントは100%の本気です。メンバーのことを「本気で観ている」という感じが伝わることです。そうすれば、メンバーも心を開いて接しやすくなります。
 実際、あるチーム開発先のオーナーは褒めるのは苦手なので、「ありがとう」なら言えそうだということで、それを実施してもらいました。すると1ヵ月後、あるメンバーが「社長はここまで拾い上げてくれるのかと驚いています」と喜んでいました。このオーナーはおそらく本気で、社員をよく観察し、見ていたのでしょう。トップやリーダーが率先することの大切さを感じました。
 
 
受け取り力アップワーク
 
 3つ目は、仕事上でのマイナスな出来事を、前向きに受け取り、プラスに展開できる力を身につけるトレーニングとなる「受け取り力アップワーク」です。
 「ジョハリの窓」、「成功の循環モデル」に加え、「ABC理論※」も参考にしたワークで、独りで問題を抱えがちな人であっても、リーダーやメンバーにすぐ相談できるような関係性を築き、コミュニケーションを図るものです。
 やり方は、10人いれば、2人1組で3組と2組のチームに分け、それぞれリーダーを決めます。会議前の3分間、週1回、3カ月間実施してみましょう。
 まず、2人1組で、①マイナスな出来事、②その事実をどう受け取り、③どんなプラスの行動をとったかを伝え合います。例えば、
①マイナスな出来事▼印刷物に間違った数字が載ってしまい、クライアントに迷惑をかけた。
②どう受け取ったか▼誰もが間違いやすいので、お陰でチェック体制を強化できたと受け取った。
③どんなプラスの行動▼誰もが使えるチェックマニュアルを作成し、同じミスが起きなくなった。
 といった感じです。
 終わったらリーダーにメールで報告。リーダーはパソコンなどで①出来事、②受け取り方、③どんなプラスに行動したかを管理し、各リーダーは良かった内容をメンバーにメール配信して共有するのです。
 
 今回ご紹介したいずれのワークも決して複雑な内容ではありません。リーダーはワークの実施回数や間隔を臨機応変に変えていけばいいのです。コミュニケーションの接点を増やし、明るい話しやすい空気を作り、前向きな人間関係になったチームは必ず前向きな結果が伴います。まずは取り組んでみてください。
 
 
※ABC理論(心理学者アリバート・エリス)
 困った状況、出来事(Adversity)に直面すると、それについて考え、思い込み(Belief)ができ、思い込みは結果(Consequence)を生む。結果を変えるにはどう受け取り方(思い込み)を変えるかがポイントとした理論。