【2017年3月号】部下のやる気を引き出す!リーダーに必要な「伝える技術」Part2
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「部下が動いてくれない」の原因は実はリーダーがつくっていた
「そこまで言わなくても分かっているはず」とリーダーはとかく話を省略してしまいがちです。口頭で話されても書類や図版もなければ、指示内容は頭になかなか入ってこないものです。
次のような事例はよくあることでしょう。
吉田部長は、部門会議で提出する受注見込みのリスト作成をいつものように小林君に頼みました。小林君は確実に受注できそうなAランクとBランクの見込み客をリストにして部長に提出。それを見るなり部長が声を荒げました。
部長「小林君! 見込み客はたったの6件しかないのか? 新規を獲得する気持ちはないのかい?」
小林「そんなことはありません。新規先にも積極的にアプローチしています(急に何だ?)」
部長「どうして6件だけなんだ!(語気鋭く)」
小林「確実な見込み客だけをリストに入れました。Cランクを入れていないだけです」
部長「CランクやDランクも入れるんだよ!」
小林「えっ? いつもAランクとBランクだけでいいとおっしゃっているじゃないですか」
部長「部門会議だぞ。数がいるんだよ。新規にもアプローチしていることもチェックされるんだ。そんなことくらい空気を読んで判断できるだろ?」
いつもの会議資料では小林君は確実に受注が見込まれるAランクとBランクだけのリストを作成していたのです。しかし部長は、今度の部門会議には専務が出席するので、できるだけたくさんの見込み客数をあげて、アピールしておきたかったのです。
それを「空気を読め」と言われても小林君は困ります。部下が動いてくれない、という原因は実はリーダーがつくっているのです。
「分かっているはずだ」と伝える話を省略せず、全体像もきちんと伝える
こうしたことが起きないよう、前回も紹介しました「5W2H」を使って、漏れがないようにするのがいいでしょう。先ほどの正しい伝え方の例です。
「来週3月2日の木曜日(いつ)までに、営業本部の部門会議で(どこで)、専務を含めた参加者全員へ(誰に)報告するために(なぜ)、Cランク以上もリストアップした(どのようにして)見込み客リストを(何を)30部(数量)作成してほしいんだ」
また、慣れた頃合いを見計らって、わざと「How(手段)」を省いて伝えてみましょう。「どうやってやるかは任せるよ」と。部下は自分で考えて取り組むので勉強になりますし、「任せてもらえた」と励みになり、成長にもつながります。
そして、吉田部長が求める「空気を読んでほしい」のなら「全体像」をしっかりと伝えておきましょう。それには指示書が有効です。「5W2H」の「誰に見せるのか」「どんなシーンで使うのか」だけ書いても立派な指示書になります。
全体像は口頭だけではなかなか理解しづらいもので、指示書があると全体像が見えてきます。もちろん指示書は事前にリーダーが用意しておきましょう。指示書を見せながら部下に指示をしている最中に、一人で作成しているときは気付かなかったことがひらめくこともあるのです。
依頼した仕事の完成形を明確にしておく
部下が分かって引き受けたと思っていたのに、違うモノがあがってきたとき、失望や怒り、とまどいはリーダーなら経験はあるでしょう。出来上がってきてからでは、ときすでに遅し。間に合わないこともあります。しかしそれは部下のせいではなく、リーダーの伝え方に問題があるのです。
そうならないためにも、どういう形で仕上げてほしいのかまず「完成形」を伝えておきましょう。資料作成なら、ソフトはパワーポイント、エクセル、またワードがいいのか、サイズはA4でいいのか、縦か横か、ページ数は何ページくらいで、どんな図表や写真を入れるのかなど。依頼時にアウトプットの形をリーダーが決めておきましょう。
優先順位よりも「劣後順位」のほうが大切
部下にいくつもの指示を出すことはよくあることです。それが3つや4つになると、部下はリーダーに言われたことはどれもが優先順位だと思い込んでしまい、どれを先にやればいいのか混乱してしまいます。
こういうときは決まってリーダーは「なるべく早くやっておいて」とか「空いた時間にやっておいて」と言っているものです。これはNGです。
優先順位を付けて指示するのは当たり前ですが、今やらなくてもいい劣後順位の指示のほうが実は大切なのです。
「木曜日アップで頼んでいた会議の報告書は来週の月曜日でいいから、この資料のまとめのほうを先にやってほしいんだ」と。優先順位の高い仕事を1つ頼んだら、劣後順位の高い仕事も1つ作る。複数頼んだ仕事を確実に仕上げたいのなら、劣後順位が大切です。
「分かりました」はあてにならない
部下の「分かりました」はあてにしないことです。部下にすると、リーダーの話で「ここが分かりません」とは言いづらいもの。分からないままでやってしまうと当然指示したものとは違うものがあがってきます。そこで怒鳴ったところで時間もないのでリーダーが自分でやることに。そうなるといつまでたっても部下に任せられないので、部下の成長も止まってしまいます。
大切なのは確認すること。いくら5W2Hや指示書で説明しても部下が分かっていなければなんにもなりません。分かったかどうか、次のようなやり方で確認してみましょう。
◆復唱してもらう
単に「今、伝えたことを復唱して」なら、信用されてないのか、と部下は思ってしまいます。そこで「間違って伝えたかもしれないから復唱してもらえないかな」と言ってみましょう。部下も納得してくれるはずです。
◆こちらから質問する
部下が間違いそうなこと、判断に迷いそうなことはこちらから質問してみましょう。例えば「製造課のG部長がいなかったらどうする?」「横浜エリアの会議室が押さえられなかったらどうする?」とか。
◆まとめてもらう
「今、伝えたことをまとめてくれるかな。10分ほどで戻ってくるから」と、リーダーは一旦席を外すのもいい方法です。これだと、部下はまとめながら質問や分からない点もまとめることができます。
「スモールゴール(中間目標)」「確認時期」「場」を設ける
スパンの長い仕事を部下に頼む場合、ゴールまでモチベーションを保つのは難しいのは当たり前です。そこで、通過点である「スモールゴール(中間目標)」と、進捗に対しての「確認時期」「場」を設定しておくとよいでしょう。
◆スモールゴール(中間目標)の設定方法
例えばある報告書を作成する仕事ならば、第1段階として資料を集める、第2段階は報告書の最初の1章を作成してみる、という感じです。
もう少し具体的な設定例を見てみましょう。
【最終ゴール】 沿線のPR冊子を新しく企画。発行までの3カ月間に30件の協賛広告主を集める。6人チームなので1人5件が目標。
◎スモールゴールの第1段階⇒最初の1週間で各々が50件にアプローチ(電話営業)をする
◎スモールゴールの第2段階⇒2週目は5件の見込み客を訪問する
◎スモールゴールの第3段階⇒3週目は累計10件 の見込み客を訪問し、協賛広告主を1件受注する
◎スモールゴールの第4段階⇒4週目で累計15件の 見込み客を訪問し、協賛広告主を2件受注する
スモールゴールを定めると途中の過程で達成感を味わうことができ、だらけてしまったり、モチベーションの低下を防ぐことができます。
◆確認の時期と場の設定方法
部下にうまく伝えても「確認」を怠ると失敗する可能性が高まります。1週間過ぎても何もやっていなかったとしても、途中の確認があればリカバリーできますし、方向性が違っていれば修正して、目標達成できるよう指導ができます。
また、リーダー自身もその案件が初めてならなおさら確認は大切でしょう。何かトラブルがあってもすぐに対応できます。
「確認時期」と「場」は、例えば毎週水曜日午後 13時からミーティングを開くときちんと決めておきます。そして、困った事、失敗した事を報告してもそれだけでは評価は下げないことをはっきりと言っておきましょう。逆にトラブルやリスクが起きている事を隠すほうが評価は下がると。
また、朝礼の後などに個別に報告してもらう場を設けるのもいいでしょう。メンバーの前で失敗事を話すのは恥ずかしくて報告をためらうことも防げます。
メールで伝えるには注意が必要
メールで部下に仕事を依頼したり、指示したりすることもあるでしょう。メールは便利ですが、デメリットもあるので注意が必要です。
◆件名は見てすぐにわかるように書く
◆本文は5W2Hを意識して簡潔に書く
◆曖昧な言葉や形容詞は使わない
◆CCの人たちはほとんど見ない、と考えておく
◆叱るときには使わない
◆急ぐとき、複雑な案件は送信後に必ず電話か、直接話すようにする
他、たくさんの商品を扱う会社でよくあるのが、生産中止になったり、価格が変更になったりした商品情報を従業員に一斉メールしますが、これは危険です。そもそも相手が読んだことを前提にするのは危ないことなのです。そういう場合は朝礼等で伝えるようにしましょう。
繰り返しますが、叱る内容をメールで送るのは避けましょう。メールは履歴で残りますし、顔が見えないので、言葉は何通りの解釈にもとれます。よけいな想像をしてしまい、部下は多大なストレスを感じるものです。
一方、褒めるのならメールでも問題はなさそうですが、口頭で言われるほうが相手はうれしいものです。リーダーだって気持ちがいいはずですから、せっかくの喜びは共有したいものです。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)