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【2016年7・8月合併号】 仕事のデキる人間は、 デキる理由から考える

ニュース

【経営者編】

ビジネスの現場では日々、「デキるか、デキないか」の選択に迫られます。
「デキる」人はどんな理由や考え方、発想で取り組んでいるのでしょうか。
事例を通して経営コンサルタントの大庭真一郎氏にうかがいました。

 
 
経験が邪魔をする「デキない理由」

実際のビジネスの現場では、「デキる」よりも「デキない」と考える人が多いように思えます。
デキない理由を並べ立てて前に進めない状況を作り上げ、自分の可能性に「デキない」枠を自分ではめてしまうのです。
これはどう考えても損をしているとしか思えません。
 
「デキない理由」から損な結果を生じさせてしまうメカニズムとしては、人は経験を積むことで知恵やノウハウが蓄積され、同じ過ちを繰り返さない、リスクを回避する術を身に付けるのですが、無意識のうちに変化に対して守りに入ろうとする気持ちが生まれてしまうことで「やっぱり止めておくか」と考えるようになるのです。
 
そのような時、人は経験により得た知識をフル回転させて、いくつものデキない理由を思い浮かびあがらせます。
取り組んだ先に待ち構えている「難」がいろいろと見えてしまう気がするんですね。
そうなると確実に損をします。

なぜなら、変化の先にある成功を自分のものにする可能性をゼロにしてしまっているからです。
 
 
周囲に対しても損をさせてしまう

変化を望まない人がいると、周囲に対しても損をさせてしまいます。
誰かが新しいことにチャレンジしようと口にしたときに、デキない理由を並べて、変化のない方向へ引っ張ろうとするからです。

どのようなやり方で挑戦していくのかを決めるための会議が、いつの間にかデキない理由を拾っていく会議に変化してしまう。
そんな会議を繰り返していると、会社や組織は環境変化の波にのまれて衰退の道をたどっていくことになりかねません。
 
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デキる理由から考える人の発想「五段階思考法」

コンサルティングを通じていろんな方と出会ってきましたが、「デキる理由」から考える人は、共通して左のような思考回路を持っていることに気付きました。
 
❶デキたときの姿、成功イメージを思い浮かべている

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべている

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えている

❹考え付いたプロセスの実現性を検証している

❺実現性のあるプロセスをプラン化している
 
 
私はこれを「五段階思考法」と名付けています。
取り組んだ事がうまくいかなかった企業に、この思考法で再チャレンジしてもらい、見事成功した事例を紹介しましょう。
 
 

事例テーマ❶
 
取引先からの無理な要求に対応することができるか

部品製造会社のD社長。売上の30%を占めるA社が値下げを要求してきました。
 
〔デキない理由から出発したD社長の思考〕

・A社以外との取引で売上の30%をカバーする見込みは立たない。
・そのことをわかっているA社は強気な態度で出てくるはずだ。
・A社の責任者は妥協しない人だから押し通すだろう。
・要求は拒めない。
 
〔デキない理由で取り組んだ結果〕

・メーンバンクに融資をしてもらい運転資金を確保したが、経営の立て直しは思ったようには進まなかった。
・メーンバンクに再融資を断られ、リストラを断行せざるを得なくなった。
 
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて再チャレンジしたD社長の思考〕

❶デキたときの姿を思い浮かべてみる

・長年取引が続いているということは、A社が自社の部品に信頼を置いていることは明らか。
・A社にとっても、いまさら他社の部品にシフトすることはリスクがあるはずだ。
・WIN―WINの関係が実現するような提案を行えば、値下げを撤回してくれるかもしれない。

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる

・値下げ要求を口にした責任者のメンツにも配慮したうえで、双方の取引関係を強化することに関して合意を結んだという形で話をまとめるのがよいのではないだろうか。

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる

こちら側の考えをまとめた提案書を早急に作成し、責任者に対して意見する場を作ろう。

❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる

・双方で情報を共有し合い、受注の時期や数量を盛り込んだ生産計画の精度を高めることで、納期の短縮と在庫コストの削減、生産ロスの低減という面でWIN―WINの関係になれる実現性があるので はないだろうか。
・自社の技術力を高めることで、A社が作る完成品の性能が高まり、A社の市場競争力が強化され、A社からの部品発注量が増加し、自社の売上も増 すという形でWIN―WINの関係になれる実現性があるのではないだろうか。

❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる

・双方の情報共有化や自社の技術開発に関する実施計画を立ててみた。
 
〔デキる理由から考えて再チャレンジした結果〕

・A社の責任者が、提案に賛同。正式に値下げを撤回した。
 
 
◎ポイント

取引先からの要求に対して、断ると取引を打ち切られることが怖くて、深く考えることなく無条件に要求をのんでしまいがちになる。
・不利な要求は収益の減少に直結するため、経営者は、全知全能を注いで、要求を拒むことがデキる理由を考えつくす必要がある。

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幹部社員と「想い」を一つにすることができるか
IT会社のF社長。幹部社員が経営感覚を持ち、率先して行動してほしいのですが、その「想い」がなかなか伝わりません。
 

〔デキない理由から考えてしまったF社長の思考〕

・幹部社員といえども、しょせんは雇われの身であり、会社の存在が自分の人生そのものだという感覚などあるはずもない。
・自分が抱えている悩みや感じている想いは、同じように会社のトップにいる人間にしかわからないだろう。
・想いを一つにすることはあきらめて、彼らの尻を叩き続けることにしよう。
 
〔デキない理由で取り組んだ結果〕

・会議の場でも、社長が一方的に檄を飛ばすだけで、幹部社員たちはほとんど発言しない状態になった。
・会社がジリ貧状態に陥った。
 
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて取り組んだF社長の思考〕

❶デキたときの姿を思い浮かべてみる

・自分の想いを伝えるだけでなく、彼らの想いにも耳を傾ければ、想いを一つにできるのではないだろうか。
・互いに語り合うことで想いを一つにできるイメージが湧いてきた。

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる

・彼らの想いに耳を傾け、共感できることを口にして、互いの距離を詰めていけばよいのではないだろうか。
・そうすることで、彼らも自分の言葉に耳を傾け、やがて互いの想いが一つになり、会社をどう立て直すのかについて建設的な議論が行えるようになるのではないだろうか。

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる

そのような状況を実現するためには、自分と彼らが一堂に会して本音で語り合う場を作る必要がある。
・彼らにお願いして、金曜日の業務終了後に、どこかのホテルで一晩語りつくしてみよう。

❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる

そうしたうえで彼らに会社を再生させるための事 業計画を作らせて、その後自分も加わって何をどのように進めていけばよいのかを明らかにしていけば、彼らも行動に移すのではないだろうか。
・計画書の雛形を与えて全員で協力して中身を考えてみてくれと言えば、事業計画を作った経験のない彼らでもやれるのではないだろうか。

❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる

彼らと事業計画を作り上げるまでのプロセスを明らかにした行動計画を立ててみた。
 
〔デキる理由から考えて取り組んだ結果〕

・幹部社員たちが、経営的な視点で率先して行動してくれるようになった。
・F社長が、会社を再生することについて確信を持てるようになった。
 
◎ポイント

社長と幹部社員が想いを一つにできれば、社長の立てた方針が即行動に移せる強い会社になるが、現実は、情熱や価値観の違いなどから想いを一つにできずにいる会社が多い。
・この状況を打開するためには、社長自らが想いを一つにデキる理由を考えたうえで、根気よく幹部社員に働きかけるしかない。

新卒者を採用することができるか

建設会社のE社長。総務部長から中小企業向けの新卒者採用支援サービスを利用してみないかと提案されました。
 
〔デキない理由を思い浮かべたE社長の思考〕

・うちのような小さな会社に、はたして新卒者が来 てくれるのだろうか。
・今の若い人は安定志向が強いから、賃金が高く福利厚生も充実した大企業に行きたがるのは当然だ。
・興味を持つ学生がいたとしても、親が反対をするのではないだろうか。
・採用支援サービスの利用料金は、失敗した場合に簡単に諦めがつく金額ではない。
・利用するのは、時期尚早だ。
 
〔デキない理由で何もしなかった結果〕

・後日、同規模の会社でサービスを利用して新卒者の採用に成功したことを知り、後悔の念が広がった。
 
〔五段階思考法で、デキる理由から考えて利用に踏み切ったE社長の思考〕

❶デキたときの姿を思い浮かべてみる

・専用サイト上に紹介されたサービスを利用した中小企業が新卒者の採用に成功した事例を見てみよう。
・新卒者を採用できそうだというイメージが湧いてきた。

❷デキたときの姿に行き着く筋書を思い浮かべてみる

成功事例に共通しているのは、学生の目線で自社の魅力をアピールしていることと企業側から積極的にコミュニケーションを取っていることだ。
・大企業に勤務していては得られない魅力を学生の目線で伝えることができれば、新卒者を採用できそうだ。

❸筋書を実現させるためのプロセスを考えてみる

・サービスツールを使って、こまめに学生とコミュニケーションを取り、自社の魅力を発信し続けていけばよいのではないか。

❹考え付いたプロセスの実現性を検証してみる

・若い社員たちに協力してもらえば、ツールの媒体で あるWEBやSNSを上手に使いこなせるし、自社の魅力を伝えることに関しても、実際に彼らが魅力だと感じていることを発信すれば、学生たちにも伝わるはずだ。

・若い社員たちを参加させることにより、彼らに責 任感が芽生え、実際に新卒者が入社してきたときの世話もきちんと見てくれるようになるのではないだろうか。

❺実現性のあるプロセスをプラン化してみる

・総務部長に相談して、若い社員を巻き込んで、サービスを利用して採用活動を行う構想を練ってみた。
 
〔デキる理由から考えて利用した結果〕

・2人の新卒者採用に成功した。
・社内に活気がみなぎった。