【2016年12月号】ドラッカー理論を活かして中小企業が生き抜く作戦は、これ! 「小規模で 面倒くさい独自化戦略」
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独自化(ニッチ)戦略の基本とは
ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』で、ニッチ戦略には2つの狙いがあると語っています。1つは小さな領域において、実質的な独占を実現することを狙いとすること。2つ目は競争に免疫になろうとする戦略であり、挑戦を受けることさえないようにすることを狙いとしています。
ニッチというと「すき間」を連想する人が多いと思いますが、「独自化」という言葉に置き換えたほうがわかりやすいので、「独自化戦略」を実現する視点で見ていくことにしましょう。
独自化の基本的な考え方としては、下の表をご覧ください。
■A領域は、追随したいし、追随できる状態にありますが、過当競争の領域です。
■B領域は、追随したいけれど、能力的に追随できないので追随しない領域です。
■C領域は、追随できるけれど、面倒くさいし、儲かりそうにないので追随しません。
■D領域は、追随できないし、面倒くさそうだし、儲かりそうにないので追随しません。
特別な能力を持っていない普通の中小企業は、C領域を目指すのが現実的でしょう。というのは、C領域で小規模事業に留めておけば大企業の追随防止策になり、面倒くさい分野なら中小企業も新規参入をためらい、真似される防止策にもなるからです。これを基本に述べていきましょう。
独自化戦略その①
小さな市場でオンリーワンを目指すこと
独自化と差別化は違います。「差別化は競争を前提」にしているからです。
競争のない未開拓市場「ブルー・オーシャン」を狙えといいますが、そういう魅力的な市場は先のA領域になることが多いので、参入防止策を考えないと独自化戦略にはなりません。
ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中でニッチ戦略を「生態学的地位(エコロジカル・ニッチ)を確保する」という言い方をしています。
いわゆる、動物が天敵から逃れて生き残ることですが、動きの遅いナマケモノが生きながらえているのは、獰猛な動物がやってこない高い樹木の上部にいるからです。これが生態学的にニッチなわけで、こうしたことを意識すると戦略になります。逆に言えば意識しないから儲からないということになります。
例えば小さな制作会社が、いろんなクライアントの社内報をコツコツと作っているとします。社内報って、載せる項目は多いし、こまごまとした取材を毎日のようにしなければならないので面倒くさいですよね。大手の出版社がそれを手がけることはまずないでしょう。そんな領域で、社内報制作のスペシャリストを目指せばいいのです。
つまり、独自化とは小さな市場でオンリーワンになることです。
独自化戦略その②
限定されたニーズに対して自社の強みを活かす
自分たちが目指す理想の企業像を設計してみましょう。大企業になりたいのですか? 規模を広げれば広げるほど競争は激しくなります。そこそこ儲けることができる規模のビジネスモデルを設計することが大事なのではないでしょうか。
独自化戦略その①の小さな市場とは「限定的なニーズ」であり、そこで自社の強みを活かせば、独自化事業となるわけです。
船で例えるとわかりやすいでしょう。石油を運ぶには数十万トンという大きな船が必要ですが、小さな湖なら手こぎボートで十分。どんな小さな企業にも得意な領域があるはずです。よく零細企業の経営者が「うちは大企業ではないので」と言うのを聞きますが、大企業と中小企業を比べても意味はありません。そもそもマンモスタンカーと釣り船では、機能が違うからです。
独自化できる対象市場を絞り込むこと。つまり、大企業と勝負しないですむ小さな市場を、自分たちの舞台とするわけです。
それが独自化戦略であり、独自化ができれば、あらゆる企業にとって目標となる「経常利益率10%」も達成できるはずです。この経常利益率10%はいわば独自化を計る物差しという見方もできます。10%を超えれば設備投資だけでなく、人にも投資ができ、将来に手が打てるようになります。
独自化戦略の事例
①対象市場を徹底的に絞り込む
ここまで述べてきた独自化の考え方を説明するのに、いい事例がありますので紹介しましょう。
陸上競技用品を造る辻谷工業の砲丸は、オリンピックなどの世界の競技大会でトップシェアを誇っています。というのは、辻谷工業が造る砲丸は、重心が完全に球の真ん中にあることから「魔法の砲丸」とまで言われており、真似をしようとしても面倒くさく、しかも市場はとても小さい。誰も追随しようと思わないでしょう。つまり、辻谷工業は独自化ができているんです。
②強者の既存の利益に反することをする
アサヒ飲料の『ワンダーモーニングショット』は朝専用缶コーヒーという独自化で成功しています。缶コーヒーのトップシェアは、コカコーラの『ジョージア』。いつ飲んでもおいしいというのがコンセプト。ところが先の『ワンダーモーニングショット』は朝だけおいしいと言っているので、『ジョージア』は割り込めません。強者の利益に反することで独自化を目指したのです。
マーケティングによると朝コーヒーを飲む人は40%だそうで、『ワンダーモーニングショット』はそこにターゲットを絞ったわけです。先の①にも当てはまります。『エビスビール』にしてもそうでした。以前、価格競争している中で、唯一「ちょっと贅沢なビール」として根強い人気を得ていました。既存の利益に反する独自化の好例です。
③業界では非常識なやり方に取り組む
次は「雨漏り調査」です。業界では普通、無料で雨漏りを調査しますが、雨漏り110番グループは有料で調査(修繕工事は別途提案)をします。もちろん、依頼者のほとんどは5万円~10万円かかると言われると「結構です」と断ります。けれど、中にはそれでも見てほしいと依頼する人もいるのです。それだけの費用をかけるのですから、かなり細密な調査を行います。雨漏りの原因は単純なものではなく、徹底して調査をしないと判明しないそうです。
つまり、お金を払ってでも原因を突き止めてほしい人をターゲットにしているのです。業界から見たらこんな非常識なやり方はありません。けれど他には追随できない独自化で、順調にこの事業を展開しています。
④従来では儲かりそうにない事業に挑む
「俺の株式会社」が展開するのは、腕利きのシェフが作るフレンチやイタリアン等の立ち食い店です。立席にすることで収容人数を高めると同時に回転を速めて低価格を実現。高級料理がリーズナブルな価格で食べられるというコンセプトは、既存の高級料理店は介入できません。ただ、どんどん店を増やしていますから、料理人の確保の問題が出てくるでしょうね。そうなると成長ではなく膨張になります。しかも資金力のあるところが追随してくるかもしれません。冒頭のA領域になれば、新たな舵取りが必要になってくるでしょう。
⑤手間のかかる対応をきっちりする
美容室で使うノンシリコンのオリジナルシャンプーですが、OEM(相手先のブランドを製造)で作るとなると通常のメーカーは3000本以上でないと受けないそうです。ところが名古屋のノースポイントという企業は50本から造ります。わずか50本の製造はとても面倒くさいので、まず大手などのメーカーは参入しないでしょう。ただ、ノンシリコンシャンプーは1本数千円。ですから造る側も面倒くさい分、いい値で受注できるのです。
⑥高度な技術を要する分野に取り組む
東京の岡野工業が開発した痛くない注射針。わずか0.2ミリの高度な金属加工技術は世界屈指のものといいます。当初、この企画を100社以上のメーカーが「できない」と断ったそうで、実現できたのは岡野工業だけでした。市場も小さく、まさに独占ですよね。
こうした事例を組み合わせて取り組んでもいいのです。ドラッカーは、「戦略は組み合わせたほうがいい」と言っています。組み合わせてオリジナル=独自化すればいいのです。
小規模事業で、面倒くさいことで儲けよう
まとめますと、大企業の追随防止策としては、大規模よりも小規模に留めること。広がりだしたら、縮小することです。
一方、同じ中小企業の参入防止・真似の防止策は、ある部分だけは痒い所に手が届くようにする。面倒くさいけれど人の技能・手間をたくさん加えて、機械化させないことです。つまり、中小企業は「手間のかかる面倒くさいことで儲けよう」ということです。
ただ気をつけたいのは、かなりの手間をかけ、他ではやっていないことをやるので、それに見合う料金をもらいましょう。安くすることはありません。下請け根性から抜けだせないところはこうした手間を無料でやってしまうのです。だから儲からない。面倒くさいことに取り組んでいる価値に対する誇りを持ってください。1度値引きをすれば、さらなる値引きを求められます。社長ほど値引きをするものです。下請けではなく、パートナーシップという意識で臨みたいものです。