【2015年1・2月号】 ドラッカーを活用して 売り込まなくても 売れる仕組みに変える方法
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お客様に、「当社の何がいいのですか?」と訊くことから始めよう
ドラッカーは、「マーケティングとはセールスを無くすことだ」と述べています。これは「売り込まなくてはならないのは、仕組みができていない」ことを言っています。「お客様が欲しいというモノを、欲しい形にして、欲しい売り方にする仕組み」にすれば、売り込まなくてもお客様は買ってくださるという発想です。現実的には営業や販売活動がなくなることはないのですが、ただあまりにも多くの企業が自分の視点で商品を作り、自分の視点で売っています。お客様に訊かずに、自分でこういうのを作って売ればいいと思い込んでいるだけ。「何故、当社の商品を買っていただいたのですか?」と訊くことはほとんどありません。
だからお客様と噛み合わないのです。買っていただいた理由がわかれば、その理由の言葉をそのままセールスに使えばいいのです。得意先に、ああだ、こうだと説明する必要はありません。「こういうところがいいから、と当社の商品を買っていただいています」と、同じものを求めているお客様なら「そういうことをやってくれるのなら、ウチもお願いしようかな」と。これが売れる仕組みと言えます。それではもう少し詳しく説明していきましょう。
市場(顧客・競合状況)を知る
◎対象市場(ニーズ、顧客層)を特定する
まず、市場や競合状況を知ることです。お客様が何を求めているのか、競合状況はどうなのかを、とかく噂話はしても分析はしていません。自社が強いのはどんな顧客層に対してなのか、どんなニーズに強いのかを知ることです。
といっても、あれもこれも知ることはできないので、対象とする市場や顧客を特定しましょう。ここの部分ならよくわかる、よく知っているというところを特定するのです。例えば広告業といってもテレビやラジオでのコマーシャルから、新聞・雑誌の広告、読み物記事、交通広告、チラシ、DM、パンフレット、看板、そしてインターネット広告等々、いろんな種類があります。それらの中で「WEBのバナー広告ならよく知っている」というように特定すれば、自社の特徴も出てくるわけです。
◎競合企業(商品)との位置関係(ポジショニング)を知る
大手企業と比べるとどうしてもブランドでは負けてしまいます。自社の得意な部分、例えば短納期、柔軟な対応、徹底したアフターサービスなど、その得意なことでどのように勝負していくか。お客様にとっての自社商品の位置付けはどこにあるのかということです。そういう発想が中小企業には必要かと思います。そうすればどこに力を入れていけばいいのか、どこを攻めればいいのかが見えてきます。
◎競合要因(顧客にとっての魅力や、顧客の選択基準)を知る
お客様にはどういうところに魅力を感じていただいているのか。贔屓にしていただいている理由ですね。価格なのか、品質なのか。納期なのか、種類の多さなのか。他に、デザイン、サービス、接客、柔軟性、希少性、安全性など、さまざまな事柄を訊いてみましょう。
ところがこの「お客様に訊く」ことがなかなかできないのです。自分たちで考えようとします。それでは意味がありません。アンケートに書いてもらう方法もありますが、「はい」や「いいえ」だけではその背後に潜むお客様の思いなどのニュアンスがわかりません。それに書面に書くとなると構えてしまって本音が出てこないこともあります。それでも文字に残すなら、方言で話されたらそのまま書きましょう。大阪の人が標準語で書いたって、ニュアンスは伝わらないのではありませんか。
一番いいのは「雑談」です。相手は構えませんから本音を話しやすい。「そういえば、あれはどんなところが良かったんですかねぇ?」とフランクに訊けばいいのです。
◎満足だけでなく不満も訊く
できれば、買わなかった商品についても訊きたいものです。「Aは買ったのに、なぜBは買わなかったのですか?」と。さらに「C社の商品をお買いになっていますが、それはどうしてですか?」と突っ込んで訊いてみましょう。すると「C社はすぐに持って来てくれるんだよ」とか「安かったから」と教えてくれればベスト。後は自社でそれに対応できるかどうかを考えればいいのです。対応できるのなら、次回買ってもらえる確率が高くなり、できなければ、あきらめるしかありません。得意ではないのですから。ただし、お客様が望んでいることが何もできなければ、商売にはなりませんが。
このようにお客様が「物足りないと感じていることは何だろう?」という視点から攻めていくことも大切です。逆に、お客様の不満を知ろうとせずに放っていると、そこを他社が攻めてくることもあるのですから。
いずれにせよ何に満足しているのか、何に不満を感じているのかを「お客様に訊く」こと。ドラッカーは「机の上では何もわからない。外に出て、よく観て、よく訊き、よく質問しなさい」と言っています。現場の情報にこそヒントが潜んでいるのです。
事業や商品の特徴を知る
◎顧客にとって自社(商品)は主役か? 脇役か?
対象市場がわかったのなら、自社の事業や商品の特徴を知らなければなりません。というのも、そんなこと当たり前だと思われるでしょうが、自社商品は誰だって「主役」だと思っています。けれど、お客様から見たらどうでしょうか? 例えば刺身と醤油なら、刺身が主役で醤油は脇役です。それが醤油と山葵なら、醤油が主役で山葵は脇役。つまり、お客様の状況やニーズによって、主役は違ってきます。
お茶っ葉でも売る側はお茶を飲むために買っていただいていると思っているでしょうが、本当にただ飲むだけなのでしょうか? おやつの和菓子と一緒に飲むのかもしれませんし、お茶漬け用に買ったのかもしれません。ならば、飲む温度も濃さも同じでは美味しくいただけないでしょうから、和菓子用、お茶漬け用のお茶っ葉があればお客様も喜ぶはず。そうした商品の提案に特徴が表れるのです。
◎主力商品と補助商品にわける
例えばコピー機が主力商品なら、消耗品のトナーやプリント用紙は補助商品です。消耗品を主力商品として売るのなら逆になります。補助商品は、主力商品にとって販促の役割があるのです。
タバコの自動販売機を見ても、たくさんの銘柄がありますが、売れ筋は数種類しかないそうです。それならば、その数種類だけを売ればいいと思うのですが、そうするとその中でも売れ筋とそうでない銘柄ができてしまうとか。つまり、主力商品を売るための販売促進の役割が補助商品にあるわけで、自社商品は主力なのか、補助なのか。さらに自社商品の中にも主力と補助にわけることが、特徴を知ることになります。
◎魅力を創り出している自社の強みを特定する
例えば短納期が強みなら、なぜ短納期ができるのか。どんなノウハウがあるから納期を短くできるのかを特定しましょう。というのも「御社の強みは?」と訊いても「わからない」という返事が実に多いのです。何故かというと、ごく当たり前にこなしているから気付かないのでしょう。
経営セミナー『藤屋伸二の創客塾』に参加する、陶磁器用の釉薬や粘土を販売している塾生は、自分の強みがよくわかりませんでした。ですが、よくよく訊いてみると、釉薬や粘土によって焼成温度が違ってくるとかで、そのさじ加減がわかるノウハウ(強み)を持つ人はそうはいないことがわかりました。ベテランならいざ知らず、試行錯誤を繰り返す若い作家には、是が非でも欲しいノウハウです。何しろ、そのノウハウがあれば失敗も少なくて済みます。つまり、歩留まりを高めることができるので、その強み(ノウハウ)を特定することは利益率が上がることにもつながるのです。
ただ、たとえ個人が優れた技術やノウハウを持っていても、感覚でやっていれば共有や伝承はできません。その場合の「強みを特定する」とは、その人の何が凄いのかを探り、どんな技術なのかを徹底的に分析して、みんなで共有することでもあり、共有できれば会社の強みになります。
差別化のためのコンセプトをつくる
◎当社は「誰に」「何を」「どのように売る」ビジネスなのか?
こうして自社の商品の特徴、強みがわかってくれば、次は差別化のためのコンセプトづくりですが、ここまでくれば「誰に」「何を」「売っていくのか」が明確になっているはずです。
例えば札幌で世界の壁紙を売るお店があるのですが、5,000種類ほど取り揃えています。日本では一度貼ったらあまり替えませんが、海外の壁紙は自分で貼って剥がせる。子どもが幼稚園、小学校、中学校と、成長するにしたがい替えていけます。簡単なので春夏秋冬で替えることも。つまり、住まいを手軽に安くイメージチェンジできるわけです。店に来るお客様は3時間も4時間もかけて壁紙を吟味しています。楽しいから時間がかかっても苦にならない。誰に、何を、どのように売っているかが明確にできている好例といえます。
誰に、何を、どのように売るかが明確になれば、それでビジネスモデルが出来上がります。つまり、コンセプトを作るということは、ビジネスモデルを作ることでもあるのです。
◎キャッチコピーをつくる
例えばニトリのコンセプトは、「欧米並みの住まいの豊かさをリーズナブルな価格で売ること」です。だからそのキャッチコピーが「お、ねだん以上。ニトリ」となるんですね。吉野家の「うまい、やすい、はやい」はコンセプトでもあります。「お口の恋人ロッテ」「自然を、おいしく、楽しく。KAGOME」「100人乗っても大丈夫(イナバ物置)」「ココロも満タンに(コスモ石油)」など。自社の特徴や強みがわかれば、キャッチコピーも決まってきます。
◎3つの魅力を打ち出す
先の吉野家の「うまい、やすい、はやい」は、食事に時間を使いたくない人にとって、まさに3つの魅力です。
3つの魅力を打ち出す際、「どんなお客様に好かれているのか」のみならず、「どんなお客様に嫌われたいのか」まで考えれば、ターゲットも明確になります。ここまでくれば、しゃかりきになって売り込まなくても、売れる仕組みが出来上がってくるのではないでしょうか。