【2017年5月号】事例で見る成長企業への展望 Part6 元気な企業は、こんなことをしている!
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人気シリーズの西村晃氏のフィールドワーク・レポート。市場規模の小さい地方は、大都市圏以上に戦略的な経営展開が求められる。今回は「食」をテーマに、果敢に挑戦する企業の成功事例をお届けしよう。
「食」に見る地方ならではの戦略がある
不況なのではない。
今を不況と言えば、これからずっと良くなることはない。
昨年はオリンピックイヤーだったのに五輪特需という言葉を聞かなかった。カラーテレビ、ビデオデッキ、DVDプレーヤー、大型・液晶テレビなど家電のヒット商品は、4年に1度のオリンピックをきっかけに広まった。近年の家電メーカーの凋落ぶりも併せて考えると時代の節目を感じる。クルマも売れるのは軽自動車とハイブリッドが中心。かつてのように若者の消費意欲を掻き立てることもない。
さらにここにきて衣料品の落ち込みも顕著。
百貨店やスーパーの不振に加えて最近はショッピングセンターも頭打ち。こうした店の利益は、かつては衣料品が稼いでいた。
高齢者が増え、主たる収入が年金という人達はたとえ資産はあっても、日常生活のランニングコストを落とそうとする。
「ハレ」の消費はともかく日常の「ケ」の消費に貯金は崩したくはない。
また「バブルを知らない子供たち」は、クルマはもちろんおしゃれな服で着飾る発想もない。
つまり需要がなくなったのだ。
減税したからと言って需要が増えるというものでもないだろう。
これまでの経済政策の手法の限界を感じる。
そうした中で「食」の分野は、比較的堅調と見られてきたが、高齢時代はやはり新たな切り口で市場開拓が求められる。
今回は地方の「食」を担う企業3社の取り組みを紹介する。
挑戦心を失わない老舗の市場開拓
福岡の名物と言えばまず思い浮かぶ明太子。戦後の混乱期にこの食品を作り出し、あえて特許を取らず地元の水産加工業者共通の製品として広めたのが、「ふくや」創業者の川原俊夫氏である。
その老舗で、このところヒット商品が相次いでいる。
「昨年発売した『めんツナかんかん』は1年で100万缶、累計200万缶を突破しました」
こう語るのは今年就任した4代目の川原武浩社長だ。
「ツナを明太子の調味液で味付けした缶詰です。明太子は生ものですから、外国人旅行者がお土産に持ち帰れません。何とか福岡の味を持ち帰っていただきたいというのが開発動機でしたが、実際にはお年寄りからお子さんまで日本人にもたくさんお買い上げいただいています」(川原さん)
また2013年1月、粒タイプのチューブ入り明太子「tubu tube(ツブチューブ)」を発売したところ初年度の販売数2万本。2015年度には12.5倍の25万本にまで伸び、すっかり定着した。
「ポップなパッケージで若者の旅行客から人気が出ましたが、それ以上に調理になるべく包丁を使いたくないという高齢者に広まっているのがメガヒットの秘密と分析しています」(川原さん)
中元・歳暮の習慣が減ってきていることや、コメの一人当たり年間消費量も年々減少していることなどを考えると、「贈答、ごはんの友」というコンセプトで全国区商品になった明太子も、将来像を描きにくくなっている。
ごはん以外でも食べられるメニュー提案、常温品の開発といった新規分野の開拓にトップ企業「ふくや」は挑戦している。
「昨年から明太子の皮を利用した商品、『醤明太(ひしおめんたい)』を発売したところ年間3万個の計画が発売8か月で4万個を超え、原料が足りなくなる事態になっています。国内市場縮小に向けて海外向けブランド『鱈卵屋』の名で香港・台湾に進出、北米・豪州に向けては缶詰の輸出も計画しています。創業者・川原俊夫氏の『味は守るな、常に顧客に合わせて進化させろ』との教えに従い、時代の変化に合わせて積極的な商品開発を続けていきます」
川原社長はこう結んだ。
コメ離れへの挑戦
「ハナノキ」という企業名を知らない人は多いかもしれない。
ネット通販「楽天」の食品部門で、年間ナンバーワンを何回も取ったことがあるコメショップ「ハーベストシーズン」を運営する愛知県のコメ問屋である。
「中部圏を中心にコメを供給してきましたが、需要の頭打ちの中で何とか販路を切り開けないかと考え、無洗米に特化したネット通販を始めたところ売り上げを伸ばすことに成功しました」
こう語るのは池山真一郎社長だ。
「炊飯前にとぐ必要がない無洗米は、手軽な反面、これまでぬかを取り除く過程できれいに取りきれず残ってしまったり、コメのおいしい部分まではがしてしまい味覚が落ちるといったマイナス面もありました。当社では、愛知県瑞浪市の新工場に、人が手で洗うのと同じ水洗い方式の工程で無洗米を生産する設備を導入しました。コメをとぐ手間がないうえ味覚も白米と変わらない、と家庭の主婦はもちろん、外食産業にも評価されるようになりました」(池山さん)
ハナノキはさらに次の手を考えた。
コメを立方体になるように真空パックで包装した「キューブ米」、同様にシート状に包装しハガキやメール便として送れる「シート米」などを開発した。
「包装の工夫により新しい販路を創ろうと考えました。引き出物や来店記念品などにも提案可能な少量パックをつくることができるようになりました。もともと問屋ですから大袋のコメが当社の常識でした。しかし単身世帯や、高齢者世帯では、少量パックの需要が増えており、それへの対応を考えました」(池山さん)
それに加えてコメをギフトやノベルティ商材として扱おうと需要開拓にハナノキは戦略を練る。
「薄利多売では、価格競争に巻き込まれ消耗してしまいます。バレンタインデーのお返しのホワイトデーにはホワイトライスを、外国人のおみやげに空港の売店でキューブ米を、といったギフト提案にも力を入れていきます」
コメ市場縮小にも「そうは問屋が卸さない」とハナノキの挑戦は続く。
地方メーカー、大手共存で生きる道
梅の本場紀州にある、その名も「プラム食品」という梅専門メーカーの存在もやはり一般の消費者は知らないかもしれない。
しかし大手飲料メーカーや菓子メーカーにとって梅関連商品の黒子役として欠かすことのできない会社なのだ。
「うちは梅干し以外の梅加工食品を専門に扱う唯一のメーカーです。梅ワインに梅ゼリー、梅ジャムに梅ドレッシング、和菓子など自らもたくさんの最終商品をつくっていますが、大手メーカーの企画のお手伝いをすることで、実際は自社の10倍以上の売上げと関わっています」
長井保夫社長はこう説明する。
「独自の缶飲料を作っても、流通コスト、宣伝力、資本力などどうしても地方企業は不利になります。だから大手企業と正面から戦うのではなく、むしろ大手に協力することで共存共栄をはかる道を考えました。うちがつくっている梅加工食品群は、実は『当社はこういうものがつくれますよ』と大手メーカーの開発担当者に伝えるパンフレットのようなものと位置づけています。最終商品よりも加工技術を売るという発想なのです」
プラム食品は、こうして大手酒造メーカーやビール会社などに果汁や果肉の加工技術ノウハウを提供し、梅酒や梅ワインを量産する縁の下の力持ちになった。
ただ、ここにきて少し異変が起きている。
50年前の創業商品、「プラムハニップ」という自社の梅ジュースが売れ始めたのだ。
「パッケージも味も昔のままなんです。近年甘さを抑えた商品が業界の主流だったのですが、昔の甘さを求めるお客さんにかえって新鮮に感じていただけているようなのです」(長井さん)
客層は、やはり昔の味を懐かしむ高齢者ではないか、と長井さんは見る。
「大手企業から依頼を受けて開発している商品も概して好調、甘酒など“昔の味”ほど好調です」
現在の売れ筋を追い求めて広告宣伝費を大量投入、短命のヒットを狙う大手メーカーのコンビニ型ビジネス。
一方それとは一線を画し、あえて昔の味にこだわり50年商品を売り続ける地方企業の「少量確実商法」に縮小経済下での生き残りのヒントが見えてくる。