【2017年1・2月合併号】部下のやる気を引き出す!リーダーに必要な「伝える技術」Part1
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部下との人間関係は良好となり、ストレスもなくなり、業績もアップ!
セミナーや研修で相談を受けることで多いのが「部下にこちらの意図がうまく伝わらない」という悩みです。
私もかつて同じ思いを抱いたことがありましたが、私の場合は上司の影響が考えられました。その上司の指示がとても分かりにくかったのです。
A事案の対策をどうするのか終わらないうちにいつの間にかB事案の話になって、あちこちに拡散し、いったい私はどうしたらいいのか分からなくなることがよくありました。
そんな上司の影響をもろに受けて、いつの間にか私は部下に、
「おはよう。ちょっとお願いしたいんだけど、まずA社の見積もりを明日までに作成してよ。それから昨日のミーティングの議事録を部長に見せるから今日中に作成しておいてね。あっ、前回と同じ方向性だからすぐにできるでしょう。それと、店長会議があるから、エリア別の売上表を作っておいて。なる早でお願い」
と、まくしたて、できなければ怒鳴りつける。そうするうち、チームの成績は社内で最下位、退職者が何人も出て、とうとう私は降格・異動となってしまいました。
異動先の上司は伝え方が上手な方でした。そのことに気付いた私は伝え方の勉強をするようになったのです。それからというもの営業成績は常にトップ、課長にも再昇格。いろんな部署からチームマネジメントの相談も受けるようになりました。
つまり「伝え方」に気を付けていれば、部下との人間関係は円滑になり、ストレスもなく、しかも業績もアップと、いいことづくし。私が実体験から学んだ「伝える技術」をご紹介しましょう。
「伝えたつもり」は、ほとんど伝わっていない
「伝える」と「伝わる」は違います。「伝える」に「受け取る」がセットになってはじめて、「伝わる」わけです。
つまり、「部下には、きちんと全て伝えたんだが……」という「伝えたつもり」が、ほとんど伝わっていないのは部下が受け取れていないからです。
ではなぜ部下は受け取れなかったのでしょうか。要因の1つに、知識、経験の差があります。リーダーはこんなことは分かるだろうと一方的に「伝えたつもり」になってしまいます。
私がかつて旅行会社に勤めていた時の新人時代、上司から「エアーのリザーブは済んだか? ホテルのアーリーチェックインは可能か?」と聞かれましたが、チンプンカンプンでした。
新人でも分かるように言うと「航空機(エアー)の予約(リザーブ)は済んだか? ホテルのチェックインを早めること(アーリー)は可能か?」になります。新人は専門用語にはまだ慣れていません。先のは部下への配慮に欠けていたのです。
また、リーダーの中には「同じことを言わすな」的な人がいて、質問しづらい、聞き直してはいけないと部下は思い、分からないままになってしまうこともよくあります。
「伝えた」のなら、部下が「受け取る」確認の時間をつくりましょう。本当に分かったのかどうか確認をするわけです。そこで便利なツールとなるのが5W2Hのシート。「食い違うといけないから念のために書いてもらえるかな」と書いてもらい確認し合えば、はじめて「伝わった」ことになるのです。
「やめてほしい伝えた方」をあなたも思い出して
あなたもかつて指示を受ける立場だった時のことを思い出してみてください。「あの人の指示は分かりにくかったな」と。大切なのは部下の視点を考えることです。「やめてほしい伝え方」をいくつか挙げてみましょう。
・たくさん指示されて、どれから取り組めばいいのか分からない。
・圧迫感があり、質問しにくい雰囲気がある(質問すると「前にも言っただろ」と怒鳴られた)。
・抽象的な内容で、2通り以上の解釈ができてしまう。
これらの場合、次のように心掛けてみましょう。
◎大事なポイントに絞って説明し、優先順位を明確に言う。
◎自分の表情に気を付けて、質疑応答を図る。
◎具体的な言葉を使う。
ここで特に気を付けたいのは、形容詞や副詞をあまり使わないようにすることです。「なる早で」「大至急で」「ざっくりやっといて」「適当にやっておいて」「急ぎの案件じゃないんだけど」「来週ぐらいにやっておいて」などはNGです。
「○日の○時までに仕上げてほしい」と日時をはっきりと伝えましょう。
そして、部下に伝える前にリーダーは時間をつくることです。先の5W2Hシートを使って伝える内容を整理してみましょう。思いつきで伝えることは一番避けたいことです。やめてほしい伝え方というのは思いつきが多いものです。
やるべきことをすべて書き出しておく
思いつきで、あれもこれも指示すると部下は必ず混乱してしまいます。ですから、伝えたいことは予めリストアップしてみましょう。準備する事、調達しておくモノ、誰にやってもらうのか等。そのリストを部下に見せながら他に漏れがないか確かめ合いながら、指示を出すのです。例えば新商品の説明会を行うとすればそのタスク(仕事・課題)は、
・会場の手配
・ホワイトボードやプロジェクター、マーカー等の備品が揃っているかの確認
・商品を並べる台(持ち運びできる場合)
・お茶や水、コーヒーの手配
・配布資料のレジュメの作成
・配布資料の印刷
・当日の講師を企画課の○○さんに依頼する
・招待したいお客様のリストアップ
・招待客への連絡(メール、DM)
・スケジュールの作成
・当日の受付スタッフを確保
こうして漏れがないようにすることが大きなポイントです。漏れがあると一からやり直しになったりしますから。
そして次は、分かりやすい伝え方になるように順番の工夫をします。このタスクは社内の○○課に頼んで、このタスクは社外に発注して、という感じです。これをチャンクアップといいます。チャンクとは「かたまり」という意味で、全体像を把握しておくためにも大切なことです。先のタスクをチャンクアップすると下図のようになります。
次は、イレギュラー、やり直し等も想定しておくことです。
そして、どこで進捗確認するかも決めておきましょう。そのためにもタスクのチェックリストを作成しておきます。
部下は、例えば説明会まで3週間あるとまだ時間があるからいいやと思い、2週間ほど過ぎてからやり出すもの。それだともう間に合わないことだってあります。「今日から水曜日と金曜日にチェックリストに沿って進捗確認をしていくから」と言えば、すぐに取りかかるでしょう。
「これは伝えない」という「引き算」も大切
チャンクアップしたのなら、「これはまだ取り組まなくてもいい」というタスクをリーダーは判断しておきましょう。つまり、大切なことだけをまず伝えるようにして、他は省くのです。これを「引き算の発想」と私は呼んでいます。
例えば先の新商品の発表会の準備タスクなら、A君に「招待したいお客様リストの作成を今週中にやってほしいんだけど、作成が終わった時点で報告してくれるかな」と伝えます。これならA君はリスト作成に集中して取り組めます。リーダーはリスト作成が終わった時点で、次の仕事を指示すればいいのです。それをリスト作成の次はこれ、その次はあれをしてと言ってしまうと、A君はやる前から混乱してしまうでしょう。
言葉を増やせば増やすほど、部下には伝わらなくなるのです。「何を伝えるのか」は大切ですが、「何を伝えないか」というのもとても大切だといえます。
そしてNGは、リーダーの感情・気持ちを言ってしまうのは避けましょう。「専務が早くやってくれって言うんだよ。まいったよ」とか。余計なことは言わないようにしましょう。
◎NGな伝え方
「午前中の会議でね、専務の説教が長くて大変だったんだけど。次長からA君の新規獲得数が少ないと言われたんだ。訪問件数も少ない気がするな。見込みの数はどう? どういう風にトークしているの? 売上も低迷しているしね。新規に力を入れてよ」
◎伝わる伝え方の例
「A君、最近新規の数が減っているようだね。訪問件数を1日1件でもいいから増やしてみようか。やってみて、来週の水曜日のミーティングで状況を報告してくれるかな」
シンプルがいいのです。A君も新規訪問を増やせばいいので、すぐに取り組むことでしょう。
曖昧な言葉は避け、数値化して伝える
あと、伝わっていない要因の一つに、「分かりにくい」というのがあります。先ほど、具体的な言葉を使うことと述べたところで、「なる早で」「大至急で」という形容詞や副詞をあまり使わないようにするのと同じです。
例えば「今週は新規開拓を徹底的に取り組んでほしい」の「徹底的」って、どの程度なのかとても曖昧です。こうした曖昧な言葉は、はっきりと数値化すれば、無理なく動けますし、チームで共有することも簡単です。
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【曖昧な言葉】
「営業力をアップしよう」
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【伝わる伝え方の例】
「売上を前年同月比で10%アップさせる」
【曖昧な言葉】
「積極的に行動すること」
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【伝わる伝え方の例】
「今週中に1人1件の企画案を提出すること」
【曖昧な言葉】
「既存顧客に重点を置く」
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【伝わる伝え方の例】
「リピートオーダー率を15%アップさせる」
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このように行動レベルを数値化すれば、具体的に行動ができるはずなので、ぜひ試してみてください。
※参考:吉田幸弘著『部下がきちんと動く リーダーの伝え方』(明日香出版社)