【2016年5月号】 女性が活躍できる企業になるための条件 Part2
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Part2の今回は現場で、実際に女性たちを管理・指導するリーダーとしての心構えをワーク・ライフバランスコンサルタントの二瓶美紀子氏に伺った。
男性リーダーに求められる女性活用のマネジメントポイント
女性とのコミュニケーションにおける男性リーダーに多い「誤解」とは
男性リーダー(管理職者)から「女性の部下とうまくコミュニケーションがとれない」「どこまで踏み込んでいいのかわからない」という相談をよく受けます。特に結婚・出産となると、どのように配慮すればいいのかわからないようです。わからないから、本人のためを思って配慮しているつもりが、配慮し過ぎて逆に女性の成長を阻んでしまうことも起こっています。
その根底には女性に対して抱く「誤解」によるものが多いようです。その「誤解」とは?
女性は結婚・出産のタイミングでモチベーションダウンするのでは!?
女性は結婚や出産をするとモチベーションが下がると思い込む男性リーダーは多いようです。実際はそんなことはなく、下がっているように見えるとしたら、それは模範となるロールモデルがいないからです。
入社3〜5年で社内を見回すと、結婚・出産した女性のキャリアが横ばいになっている現実を知ってしまうのです。
出産後、短い勤務時間でも成果をあげ、それをきちんと評価してもらえるとわかれば、モチベーションダウンすることはありません。
女性は管理職になりたくないのでは!?
管理職というと、遅くまで働いて、残業代はつかず、すべての責任を負わされ、家庭は崩壊しているというイメージを持ってしまっています。女性が管理職になりたくないというのは、今、自分の目の前にいる管理職者のようにはなりたくないと言っているだけで、上昇志向がないわけではないのです。ですから後ほど述べる「新しいリーダー(管理職)像」を伝えていくことが重要です。
女性特有の「詐欺師症候群」
男性リーダーは、女性特有の「詐欺師症候群」についてもぜひ知っておいてください。
これはフェイスブックCEOのシェリル・サンドバーグ氏も著書の中で書いていますが、女性の中にはほめられても「自分はそんな評価をされるような人間ではない」と思い、「自分は周囲に対して詐欺行為を働いているのではないか」と罪悪感を覚える人がいます。
十分な実力がありながら理由もなく自信を持てずに悩む症状で、そのうち化けの皮が剥がれると思い込むのだそうです。
すると、大きな仕事に自分から手を挙げることができなかったり、自信がなさそうに見えるので、上司の側からも大きな仕事を任せられないことにもなります。
女性に多いこのような特質を理解しておき、「私なんかとてもそんなことは」と言う女性には「詐欺師症候群」のことを教えてあげてください。女性自身は今まで気付かなかったでしょうが、そのことを知るだけで行動を変えていくきっかけになります。
女性には賞賛ではなく、承認するほめ方が有効
「詐欺師症候群」に陥っている女性には、「ほめる」ことで自信をつけさせることが大切ですが、ほめ方にも注意が必要です。
「ほめる」には2種類あります。
「新しいことにチャレンジしてすばらしい」
「あなたの意見は的確でいいね」
これらは話している人の主観が入っている「賞賛」のほめ方です。自分に自信のない人がこう言われても「そんなことはないのに」と思って素直に受け取れないことが多いのです。
これに対して、客観的な事実を認めて伝えてあげるのが「承認」のほめ方です。
「○○にチャレンジしているんだね」
「この議論に欠かせない視点だね」
こう言うと、言われたほうも事実なので受け止めやすいのです。「そうか、私は○○が出来ていたんだ」という気付きになり、さらにモチベーションをあげて仕事に取り組むようになります。
普段からよく観察し、「変化」を感じ取ること
ただ、この「承認」はすぐにできるかというと結構難しく、普段からよく観察していないとなかなか言葉が出てこないものです。
特に「変化」を観察することが大切です。過去と比べて現在はどのように変わったのか。以前はこうだったけど、今はこのように変わったと伝えます。事実の変化を伝えると、「私のことをよく見てくれているんだ」と信頼感も増すことでしょう。
具体的には、次のような点で観察することが大切です。
■何に困っているのか
■得意分野、苦手分野は何か
■どんな性格・特性を持っているのか
■仕事の進め方の特徴は何か
■何にやりがいを感じているのか
■チームの場合、メンバー同士が深いつながりを持っ ているのか
■何に不満を持っているか
■仕事に追われていないか
これらの中でも、部下の得意分野・苦手分野を把握していれば、各々の能力を最大限に活かせるのではないでしょうか。
また、部下に新しい仕事を任せるときは、その人の過去の成功体験を知っていれば、そこに結びつけて伝えると、本人もチャレンジしやすくなります。
また、「どんな性格か」をつかんでいれば、部下との接し方もスムーズにいくはず。ほめれば突き進むタイプなのか、「こういう課題があるね」と問題提起をしてあげるとそれに一生懸命取り組むタイプなのか。
〝飲みニケーション〟だけでなく、普段から「意識して観察する」ことを心がけて、時には「面談」という形でそれを伝えてあげると良いでしょう。
男性リーダーとしての評価も上げる実践プログラム
ここまで見てきたように、女性への「誤解」の認識、観察や接し方は、女性の活躍を推進していく大切なマネジメントポイントです。
また、リーダーに求められるのは、自分のチームを成長させ、メンバーの中から次代のリーダーを育てていくことです。
それを段階的に取り組む実践プログラムをご紹介しましょう。
STEP❶ 現状を把握する
部下の強みや現状を把握するために個人カルテ(表①参照)を作成します。どれだけ部下のことがわかっているのかをみるのです。
まずは、自分でできる限り書き込んでみましょう。意外と部下のことを知らなかったなと思われるのではないでしょうか。
その後、それを部下と一緒に確認してみるのです。おそらくかなりの認識のギャップがあるはず。
そのギャップをしっかりと見つめることが現状の把握になります。
そして次は、部下の具体的なスキルを知るためのスキルマップ(表②参照)を作成してみましょう。
業務に必要なスキルを全て書き出します。
次にそれぞれのスキルについて、人に教えることができる◎、誰かに聞きながらならできる○、まったくできない×という3つのレベルに分けて各自の評価を書き込みます。
このスキルマップはリーダーが主体となってチーム全員で作成するほうが良いでしょう。
スキルは具体化しないと何を伸ばして良いのかわかりません。スキルマップを作ることによって、メンバー1人ひとりが今必要としているスキルがわかり、メンバーの成長を促進します。また、メンバー同士でのスキルを共有・継承していく仕組みにもなります。
STEP❷ 将来像を共有する
長期的な視点でワーク面とライフ面の部下のなりたい姿を知ることです。現在、6カ月後、1年後、3年後、5年後までのキャリアプランを考えてみましょう。
特に育休に入る女性はその前に面談しておきたいもの。育休に入る前の女性は、1年後に復帰したときのことがなかなか想像できずに、育休をキャリア上のマイナスと考えてしまいがちです。長期的なキャリアプランを一緒に考えることによって、育休をブランクと考えるのではなく、なりたい自分へのブラッシュアップ期間と考えることができるようになります。
また、モチベーションが落ちている部下、私生活の時間に自己研鑽できていない部下、目の前のことで精一杯になっているような部下にも有効です。
STEP❸ 成功体験を積ませる
STEP2で将来像を描きましたが、それを実現するには職場にはどんな課題があるのか。その課題を解決するために、私たちが提案しているのが働き方を見直していくための「カエル会議」です。もう少し具体的に言いますと、
■育児・介護などを抱えた社員も実力を発揮でき る環境づくり
■決められた時間内で最大の成果を出せる生産性 の高い職場づくり
これらを実現するためにチーム全員が主体的に話し合う会議のことです。
カエル会議は、こうした職場の課題や不満に対して、周りを巻き込んでリーダーシップを発揮して改善していく成功体験を積ませることが大切な目的です。
会議というとどうしても男性が仕切ってしまうことが多いので、女性にファシリテーター(議論のまとめ役)を任せていきましょう。
成功体験と同時に、会議での発言・提案の場数を踏んで、ファシリテーターとしての成長を促し、やりがいを感じてもらうのです。
小さな事でも成功体験を積み、ファシリテーターとしての経験も重ねれば、クライアントにも自信を持ってプレゼンテーションできるようになるでしょう。
成功体験を承認すれば、本人もうれしいですし、新しい仕事にも積極的にチャレンジしていく自信がつきます。また、その女性が次期リーダーに向かって成長していくことは、ロールモデルとして、周りのモチベーションも高めていきます。
今、求められる新しいリーダー像とは?
このように見てくると、「今、求められるリーダー像」が浮かび上がってきます。
■部下を信頼して任せ、チーム力向上に取り組む。
■メンバーの発言に耳を傾け、安易に否定はしない。
■育児・介護者のモチベーションを高め、時間内で最 大限の活躍をしてもらう。
■部下をよく知る。ワーク&ライフを相談できる関係へ努力・工夫をしている。
■メンバーに期待すること・認めていることを日常的に言葉にして伝えている。
■チームへの貢献を評価する。
スーパーマンのような「すごいリーダー」ではなく、「このリーダーといると自分が最も成長できる」部下が思えるような人物こそ、目指すべきリーダーの理想像といえます。つまりいあ、求められているのは、部下をぐいぐい引っ張っていくリーダーではなく、部下たちが自主的に動けるように下から支えるフォローするリーダーなのです。
実は、このリーダー像は、女性のほうが向いているのかもしれません。ぜひあなたの職場の女性にも、このようなリーダー像を伝えて、そんなリーダーとして期待していることを伝えてあげてください。
女性が活躍するポイントはコミュニケーションです。ぜひ取り組んでみてください。