【2015年12月号】 中小企業は、 ニッチで差別化! ニッチに多角化!「ドラッカーの ニッチ戦略」
ニュース
ドラッカー理論を活かして、 大企業にも手の出せない
「ニッチ」を考えることだと話す、藤屋伸二さんにうかがいました。
ニッチ戦略という発想
中小企業が、勝ち残っていくには「ニッチ」がキーワードになります。ニッチで差別化を図り、ニッチで黒字化を図るのですが、それには限定的なニッチ市場でNo.1になり、儲かる複数のニッチ事業を持つ多角化が勝ち抜いていく戦略となります。
戦略を立てるには「細分化」と「位置づけ」を行うこと。つまり、戦う場所を決めるのです。そして何で戦うのか、自分たちのセールスポイント、武器を見定めること。勝てる市場で勝てる武器で戦う。ドラッカーのニッチ戦略は実にシンプルです
競合の少ない市場を狙え
ドラッカーはニッチを「Ecological niche=生態学的ニッチ」だと言っています。つまり棲み分けること。例えばナマケモノという動物。動きは遅く、力もなく弱いですが、木の上なら食べる物もあってしっかりと生きていけます。それと同じです。
ニッチというと隙間とか、小さく閉じたイメージがありますが、そうではありません。フェラーリ社は、年間7千台造って年商は3千億円。1台当たりの営業利益は5百万円を超えており、ベンツで80万円、トヨタでも20数万円。最近、ニューヨーク市場に上場した際の時価総額は1兆2千億円。年間僅か7千台しか造らないのに。これがニッチなんです。競争しない市場だから儲かるのです。中小企業のお手本といえます。
ニッチ戦略の極意の一つ、それは「競合しない」こと
日本でも例があります。[図❶]の5位ワッツという100円ショップ企業の戦略が面白いのです。
アクセスのよくないスーパーなどの一角に居抜き出店というスタイル。小規模、内装にも金をかけません。毎年100店出しても、半分は閉店します。いつでも速やかに退店できるようにしており、敷金の返還も家主ときちんと取り決めているそうです。
なぜそんなことをするのかというと、ダイソーが来たらすぐに逃げるため。競合しても勝てないのはわかっています。逃げるが勝ち。さっさと逃げて、別の街に新しい店舗を探す。それでいて上場もしていますし、400億円を超える年商がある。これも優れたニッチ戦略といえます。
そのニッチ市場とは
■強者の既存の利益に反する市場
ビール業界の歴史を見ると、キリンはラガーで黄金期を築きましたが、アサヒがスーパードライで逆転しました。悔しくてもキリンはラガーの熱処理型で、スーパードライの非熱処理型には挑めません。コンセプトが違うので、ラガーの存在を否定することになるからです。それでスーパードライは一人勝ちとなった。そして今度は発泡酒が出てきて、キリンは淡麗で勝ちました。熱処理、非熱処理、発泡酒と、ビール業界は、既存市場の強者に反する戦略で挑むモノがNo.1を勝ち取っている歴史があるのです。
■差別化できるまで絞り込んだ市場
スマホは、たくさんの機能を揃えた総合化という流れの中で、シニア向けのボタンは3つだけのシンプルなもの。あれだけ絞り込むと、市場が小さ過ぎて総合化の市場は参入できません。実は60代、70代の人たちは子どもや孫とコミュニケーションができるからメールが大好きです。電話や訪問だけでないコミュニケーション手段としてのメール。これに特化して成功している企業もあり、まさにニッチ戦略です。
■今までのやり方では儲かりそうにない市場
「俺のイタリアン」なんてまさにこれ。立ち食いさせて、飲み物で稼ぐわけです。高級レストランでは単価を下げなくてはいけないので絶対真似はできません。強者が入って行けないのがニッチ市場なのです。
■手間がかかる面倒くさい市場
利益を上げるため効率を求めるのではなく、逆にこだわりを徹底的にやると顧客満足が高まってそれが付加価値になります。付加価値には値段が付きます。高額商品を扱っていても成功しているところはあります。
■技術力を要するなど敷居が高い市場
大企業がやっても採算に合わない市場。10億円や20億円なんて市場は、大手は相手にしません。そういう市場こそ中小企業の土俵、ニッチ市場といえます。
『ここ勝つシート』活用法[図❷(次頁)]
ニッチ市場を見出し、どうやって戦略を打ち立てていくのか私が考案したシートで見て行きましょう。
■対象事業を書く
誰に何を提供する会社なのか。それを明確にしなくては話になりません。「うちは建材業です」ではだめです。もっと絞り込みましょう。市場に提供すべき満足や差別化の領域を決めるのが事業の定義。さらにドラッカーは規模に関するものが事業定義の最終結論だとも言っています。つまり、大規模になろうと努めるのか、小規模に留まるのか、です。
■事業目的を決める良い例
良い例として「顧客の事務管理部門に対し、近代的オフィスに必要な機器や消耗品を供給する」という事業目的。これだと誰に何を提供するのかよくわかります。電卓からパソコンに変わっても対応できますし、パソコンからクラウドになっても対応できます。少々経営環境が変わっても、事業の目標定義を変える必要はありません。
もう一つの好例は「当社の事業は、商品のなかに食品店と主婦の労力と技術を組み込むことである」。これだと惣菜でもレトルトでもカット野菜でも対応できますよね。外食か自宅で作る以外は対応できるということです。
■事業目的を決める悪い例
悪い例としては「当社の事業はテレビ受像機である」。これだとテレビがなくなってしまえば終わりです。事業目的が狭すぎます。
逆に「当社の事業は娯楽である」では広すぎます。事業展開の意志決定ができません。娯楽ならなんでもいいわけで、やる・やらないの判断が難しくなります。それでは事業目的としてふさわしくありません。
■自社の本当の強みを確認する
「自社の強み」はじっくり考えなければなりません。私のところの塾生でクリーニング店を多数出店されている方に「強みは?」と聞くと、「地元のスーパーに入っていることです」と答えました。でもそれは結果であって、よくよく聞くと、「丁寧で確実でクレームも少ない対応」ということがわかってきました。これこそ強み。しっかり考えてください。
■対象市場を決める・事例①
私はよく「中間サイズの金属加工」を例に出しますが、これも塾生の話です。
小さな町工場では時間あたりの加工単価は4千円ほどだといいます。何トン、十何トンの加工をする大手では時間単価は7〜8千円です。それで、小さい工場では造れない物件を、塾生の工場では対応できるのですが決して規模は大きくなく、中間の工場といったところ。なのに大手と同じ7千円ぐらいは取るのだそうです。時間単価3千円〜7千円の仕事をこなし、旋盤もフライス盤もできる。こんな工場は少ないそうです。これがニッチなんです。今も相当忙しいと言っていました。
■対象市場を決める・事例②
すごく腕のいい整骨院さんとコラボして機能回復型デイサービスを展開する「きたえるーむ」。機能回復プログラムだけでなくマッサージもしています。さらにお茶などでおしゃべりの時間も取り入れているとか。年配の方に不足しているのは会話です。気持ち良くなれて、おしゃべりも楽しめるから元気になって帰ってきます。すごく人気だそうです。
全国にFC展開をして今80店舗位ですが、1店舗あたりの営業利益が1650万円、営業利益率は29.5%。500店舗を目指しているとか。こんなリハビリにマッサージを取り入れているところなんてありません。まさにニッチです。
■戦略目標を決める
「○○分野で東北No.1になる!」「3年後に△△で□□を達成!」という具体的な目標は足並みを揃える意味でも大切です。いつまで、どのレベルにまでという目標の方向が明確であれば、従業員も一生懸命に頑張るものです。
■キャッチコピーを決める
これは絶対に必要です。「あったらいいな! を形にする」「お、値段以上 ニトリ」「お口の恋人ロッテ」等々。
そして今回のテーマをキャッチコピーにするのなら「中小企業は、ニッチで差別化! ニッチに多角化!」ではないでしょうか。多角化は、一つの事業を広げるという意味ではなく、ニッチで得た差別化のノウハウで、別のニッチに取り組むということです。
■ペルソナを設定する
ペルソナとは「象徴的な顧客像」のこと。自社商品のセールスポイントの価値を認め、買ってくれるだろうと思われる会社像・個人像です。例えばカルビーのジャガビーのペルソナは「27歳、独身女性、文京区在住、ヨガや水泳に凝っている」としました。CMにはそんな顧客像が読むであろう雑誌のモデルを使い、好むであろうデザインでパッケージを作成して大ヒット。
会社なら、社名、設立年月日、沿革、理念・価値観、住所、従業員数、業種・業態、主な取扱商品、主な取引先、売上高、営業エリア、流通ルート、取引銀行などから企業像を設定しましょう。
■セールスポイントを決める
ペルソナで企業像・顧客像が絞り込まれれば次はセールスポイントです。
◉うまい、はやい、やすい(吉野家)
◉うまい、やすい、ごゆっくり(吉野家)
◉ハイセンス、ハイクオリティ、ロープライス(クー レンズ)
既存のセールスポイントは、いいお手本がたくさんあります。
■日常業務に落とし込み、スケジュール化する
セールスポイントを実現するために、業務を体系化することです。例えば、[図❸]を見てください。「うまい」を実現するにはどうしたらいいのか。「見た目が美味しそう」「香りが良い」「味付けが良い」という日常業務に落とし込んでスケジュール化[図❹]します。ここまでやってはじめてこのニッチ戦略は機能するのです。