【2015年7・8月号】 部下がやる気を出す! 魔法の言葉 part3 【褒め方編】
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そこで今回は「褒め方」を取り上げてみました。
どんな褒め方をすれば、よりやる気が出るようになるのでしょうか。
人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏にうかがいました。
質問しながら褒める「質問話法」
褒める場合、以前よりも変わったところ、変化した点を褒めるのが前提です。でも、闇雲に「君は変わったね」と言えばいいというものではありません。年上の部下だったり、自信に溢れている部下だったりすると、褒めても【いまさら褒めるの?】と素直に聞けない人もいて、却って関係を悪くしてしまうこともあります。
特にあなたが他の部署から異動してきたばかりで、すでにその部署やチームにエース級の部下がいる場合など、その部下を褒めても【移ってきたばかりのあなたに何が分かるんだ?】と逆効果になってしまいます。
この場合は上から目線にならないように、一目置くように「教えてもらいたい」ことが伝わるように言ってみましょう。
私の実体験ですが、年上の部下にプレゼン資料を作るのがうまい人がいました。「資料を作るのがうまいですね」と褒めても「そうですか・・・」のひと言だけで、そこから会話は続きませんでした。そこで「どうしたらあなたのようにうまくまとめることができるのか教えてもらえませんか?」と訊くと、私はこのようにやっているのですが…とアドバイスを話し始めたのです。私はその時「これだ!」と気付きました。
「どうしたら・・・教えてください」と質問しながら褒める「質問話法」は、相手も【自分のことを認めてもらえている】と感じ、褒められて「そんなことはないです」と謙遜する人でも何らかの答えを出そうとして会話が続きます。
また、同行営業の後にでも「あのように話をするといいですね。勉強になりました」と言えば、部下は「褒められた」と素直にうれしく思うのではないでしょうか。
こうした「褒める」には2つの目的があります。
1つは部下のプライドをくすぐりやる気を引き出すためです。「君のことを認めていますよ」と、上司としての意志表示となります。
2つ目は、その部下が持つスキルを部署やチームのメンバーで共有するためです。「教えてください」とミーティング時にレクチャーしてもらうといいでしょう。教えることで、部下のリーダーシップ力を育てることにもつながり、上司の後継者を育てるという意味合いも出てきます。
褒めるなら人前で褒める
「他の人の前で褒める」というのも効果的です。これは対外的というか部下を第三者に紹介するタイミングで、特に新しく担当する部下を連れてクライアントに出向いた際に使うといいでしょう。 例えば、
「この吉田は、パソコンやネット環境に詳しくて、私もよく教えてもらうんですよ」
「この吉田は、弊社でも3本の指に入る営業マンです。安心してお任せください」
後者は実際に私が言われたことがある言葉でした。内心は【えっ? 自分は3本の指には入らないと思うけど…】とビックリ。当時の私はたぶん7位か8位あたりだったので、上司はかなり盛って私を紹介したのですが、「本当に3位に入らないといけないかも」と奮起したものです。
もし実績が何も無い場合は「吉田は対応が迅速で、しかも丁寧だとクライアントの皆様からよくお褒めの言葉をいただいております」と言うのもいいでしょう。
逆に気を付けていただきたいのは、上司が謙遜し過ぎて「吉田はまだまだ未熟なもので…」とつい言ってしまいがちですがこれはダメです。部下は自尊心を傷つけられ、クライアントも【未熟な人に任せるのかよ】と不安になります。
さらに「何かあったら私がフォローしますので」もNG。【だったら最初からあんたがやってくれよ】とクライアントは思うでしょうし、部下は信頼されていないとやる気を失くしてしまうかもしれません。特に女性はこの言葉に反感を持つ場合が多いようなので気を付けたいです。また、成長意欲の低い部下なら【上司が助けてくれるのなら、自分は言われたことだけにしよう】となり、やる気なんて出てきません。フォローは黙ってするものなので、「何かあったら私が…」は口にしないほうがいいでしょう。
ますますやる気が出る「レッテル褒め」
部下に自信をつけさせ、部下の実績や能力に気付いていることを伝えるのが「レッテル褒め」です。
以前、私が勤めていた旅行会社で「リゾートのことなら吉田に聞け」と言われたことがありました。たまたまリゾートホテルで過ごす企画が受注になっただけで、リゾートに詳しい人は他にもっといるはずと思いました。でも、これからさらに頑張らないといけないとプレッシャーを感じましたが、認めてもらえた喜びもありました。
「この企画ならA君だ」
「この業務ならBさんだ」
と、オーソライズ(権威づけ)すると、部下もその分野のスキルをより磨こうとします。
それからミーティングなどで、レッテルを貼った分野についての「講師」をさせてみましょう。これは社歴の浅い、若年層の部下に自信をつけさせるにはもってこいの方法。もちろん自信をつけるという意味では、ベテランでも、昇進が遅れている人や自信を失くしている人などにも「レッテル褒め」と「講師」は効果的です。
といっても赴任したばかりでしたら、まだわからないので、部下をよく観察することです。それも、「彼のストロングポイントはなんだろう?」と強みをまず見つけることで、その次に弱みを見つければいいのです。弱みはすぐに見つかるものですが、強みはなかなか見つけにくいもの。それが、この「レッテル褒め」をしていると、部下の強みを見つけるのがうまくなるものなのです。
第三者を使った「トライアングル褒め」
「トライアングル褒め」の2つ目の使い方として、「その場に居ない人を褒める」のもいいでしょう。特に褒めるのが苦手な上司は、褒める対象の部下がその場に居ないので、照れずに言えるはずです。
普通、「その場に居ない人」というのは悪口の対象になるものです。私が見てきた業績が悪いチームでは常に誰かが誰かの悪口を言っています。悪者がいるんです。
私はそうならないためにも意識して居ない人を褒めるようにしました。すると必ず誰かが居なかった人に「君、褒められていたよ」と伝えてくれて、これはいい効果を発揮しました。
直接業績には関わらない事務員だとか業務を評価しにくい部署の人、アシスタント的な仕事をしている人、契約や派遣社員に使うといいようです。こういう人たちはやって当たり前と思われているので、失敗すれば注意されても、やって当たり前なので褒められることが少ないからです。
例えば「営業のBさんが急いで資料を作ってくれて助かったと言っていたよ」「君の電話応対がとても爽やかでお客さんに評判だと聞いたよ」とか、当たり前のことを「トライアングル褒め」を使えば、モチベーションも上がることでしょう。
その場に居ない人を褒めるのも「トライアングル褒め」
叱っても叱っても変わらない部下がいます。「この前も言ったじゃないか」はNGです。結局変わらないのは得てしてやり方がわからないことが多いようです。
こんな時に、よく「自分で考えろ」と言ったりしそうですが、これは上司の勝手な言い草です。上司にすれば、自分で考えて答えを見つけたほうが早く成長すると思うでしょう。けれど、自分で考えてできるのなら、叱られることもなく、とっくにいい結果を出しているはずですから。
そんな時は、「具体的に何をやったらいいと思う?」と質問してみましょう。これで何か方策があるのかないのかがわかります。部下に方策が無ければ、具体的なアドバイスや指示をすればいいのです。
また、例えば提案書を持ってきたとします。前回と何も変わっていなかったり、前回と同じところが間違っていたとしても、どこか前回と違う点はないか、良くなっているところはないかを探しましょう。
同じミスを繰り返すのなら解決策を「一緒に考えよう」と言えば、部下は安心します。どの段階でミスが起きたのか、時系列でたどったり、チャート図にしてみたり。指示待ちタイプの部下なら、2〜3の改善案を提示して、どれを選ぶかを考えさせるのです。
若い部下や落ち込みやすい部下には、やる気を出す「サ行のつぶやき褒め」
昔、「さすが」とか「すごい」が口癖の上司がいました。思わず口から出てしまったという「つぶやき」のような感じなので、私はわざとらしいとは思わず、素直にうれしかったものです。
部下を持つようになった私はこれを「つぶやき褒め」と称して真似て、経験の浅い人や、落ち込みやすいけれど褒められると勢いがつくムードメーカータイプには意識して使うようにしました。
さらに他のつぶやきを追加し、「サ行のつぶやき褒め」として改良したのです。
「さすが」⇒成績のいい部下に使います。あまり成績のよくない部下には皮肉に聞こえてしまいます。
「知らなかった」⇒知らないことは上司として恥ずかしいことではありません。知らなかったと言えば、部下はさらにより詳しく報告するものです。
「すごい」⇒頑張ったことが成果に出た時が効果的。以前、営業不振の部下が、連続して契約を取ってきた時に、「すごい」と言ったらさらにやる気を出して成績を伸ばしたことがありました。
「せっかくだから教えて」⇒部下の意見や提案に興味をもった場合はもちろん、わかりづらい時にも使ってみましょう。結局その提案が採用されなくても部下は納得し、次も提案してみようと思います。
「そうくるか」⇒上司が思っていた事と反対の事を言われると、つい「でも」「だけどさ」「そんなはずはないだろう」と言ってしまいそうですがこれはNG。そう否定されると次の機会に部下は【どうせ言ってもな…】と何も言わなくなってしまいます。その時は「そうくるか」「そうきたか」とまずは否定せずに受け止めるつぶやきを使いましょう。また、サ行ではありませんが「確かにね」もいいでしょう。