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【2015年6月号】 元気な企業は、 こんなことを している!

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~時代適応力~
「時代を見抜く」ことは経営に必須の条件だが、これが簡単ではない。今回紹介する3社は私が最近取材した中でも「時代適応力」に秀でている企業である。

 

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消費者の「本物志向」に応える

私が住む横浜の住宅街。
街道筋から一本折れた小道に「その店」はある。駐車場スペースはかなり広く、車の出入りも多い。店の中に入ると商品を専用カゴに入れた人がレジ前に列を作っている。

お菓子屋のレジに行列?
この人気店こそ「シャトレーゼ」だ。「郊外のロードサイド立地がうちの基本です。店舗数は現在457店。北は北海道から南は鹿児島まで、地方店舗が多く、山手線内には出店していません」

齊藤誠社長はこう説明する。
「シャトレーゼ」は山梨県に本社を置く菓子の製造小売業である。

 

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「ナマのケーキにバウムクーヘンといった洋菓子、大福に饅頭、せんべいなどの和菓子、アイスクリームにパンまで自ら製造して販売しています」(齊藤社長)

店内を見ると確かにさまざまな菓子が並ぶ。和洋菓子を折衷で並べているから客層も多彩だ。

人気の一つに価格の安さがある。ショートケーキで280円、どらやきなら1個108円だ。

「卵や牛乳などを契約農家から直接仕入れ、自社工場で製品化、卸を介さない販売の結果です。東京に本社を置く会社が銀座の価格帯で全国販売するのとは違い、ふだんから親しんでいただける価格帯で販売しています」(齊藤誠社長)

齊藤社長には今日の経営の原点になった「ある経験」がある。

「30年ほど前、週末にロールケーキの増産に追われました。それまで冷凍の液卵を仕入れて使用していましたが、間に合わず近くの市場から卵を購入して手作業で割ってスポンジケーキを作ったのです。すると、いつもとスポンジのふくらみ方が全く違う。食べてみるといつものケーキより明らかにおいしい、と感じました。新鮮な卵を使うと安定剤や添加物を加えなくても味がいいし、口どけが違うことを実感しました。以来契約農場から仕入れた卵を自社工場内で割って使用しています」

この「卵の経験」がきっかけとなり、同社では素材を直接契約農家などから仕入れる体制つくりが始まった。

「清里高原でストレスのない育て方をしている牧場にこだわって搾乳をお願いしています。ここの牛乳は乳脂肪率が高く菓子つくりに最適です。小豆やイチゴなどあらゆる素材をこうした観点で仕入れています」

最大のこだわりは「水」と齊藤社長は言う。

「白州の名水を求めこの地に工場を建てました。ここの水は軟水で雑味がなく素材の味を引き立てますし、小豆を炊き上げても型崩れせずふっくらと炊き上がります。アイスクリームやゼリー、羊羹などにとって透明感のあるおいしい水は最高の素材です」

「山梨のシャトレーゼ」だからこそ菓子つくりの原料を地元で調達できるという最高の経営条件を持つ。山梨県の3カ所の工場で1500人が働く。

地元の農産物を素材に本物志向の消費者の評価に耐えうる品質をめざし、大きな雇用も生み出す。

地方発、日本の新産業のヒントが見えてくる。

 

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本物はいつも新しい

東京芝大門にある「大島椿」の本社で歓喜の声が上がった。

女性に大きな影響力を持つ化粧品美容のポータルサイト「アットコスメ(@cosme)」で2014年にもっともクチコミが多いと表彰が決まった瞬間だった。同時にフリーペーパー、シティリビング編集部が選ぶヘアケア部門のベストコスメにも同社のヘアオイル「大島椿」が選ばれた。

「化粧品会社にとって大変嬉しいことです。二つの受賞とも20代から40代を中心にした若い女性の評価によるものです。販売90年のロングセラー商品にこうした年齢の女性が興味を持ってくださるのはサイトの口コミによるものです。椿油という天然素材の商品を自分に合った使い方をしているという情報を広げていただいています」と岡田一郎社長。

「ヤブツバキという木の種を工場で圧搾して油を抽出しますが、1本の木から60mlの製品が1本か2本しかできません。しかし椿油はヒトの皮脂と同じ成分を多く含むため肌になじみやすく刺激が少ないことが評価されています」(岡田社長)

 

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昭和2年。岡田社長の祖父で創業者の岡田春一氏は、大学の卒論のテーマを探そうと全国を旅した。たまたま訪れた伊豆大島で女性の髪が一様につややかなことに気が付く。島民が地元の椿の種から採れる油を髪につけていることを知り、これを全国に販売しようと会社を設立した。まだテレビもない時代に「あんこさん」のキャラバン隊を組み、全国に大島の椿油をピーアールして歩いた。

「あんことは地元の言葉であねこ(姐こ)さん、女性の敬称です。絣の着物に帯の代わりの前垂れ、そして頭には手拭いを独特の形に巻いた女性たちは全国に知られるようになりました」(岡田社長)

こうして伊豆大島の椿油とともに「大島椿」は全国に知れ渡る。その後髪油だけでなくシャンプーやヘアケア用品、スキンケア用品など商品アイテムを増やしていくが、いずれも椿油を原料にしてきた。現在は東京八王子に新設した最新鋭の工場で生産しているが、天然の椿油を原料にしていることは昔と変わらない。

岡田社長はいま新しい事業展開に乗り出そうとしている。

それは食用油としての椿油の販売だ。

「これまで食用に使われてこなかったのは、一般の天ぷら油との間に大きな価格差があったからです。椿油はざっと10倍近い価格なんです」

しかし、それでもプロの料理人は椿油で天ぷらを揚げるとカラッとしておいしいと評価する。

「今年はイタリアでミラノ万博があります。日本館のレストランの天ぷらを私たちの会社の『椿てんぷら油』で揚げる話が決まりました。一般への普及はともかく超一流と言われるプロが椿油を選んでくれることがまず大切です」(岡田社長)

日本食が海外で注目される中、椿油がどう評価されるか注目したい。

 

時代の流れに先回りする

タキシードや礼服のメーカーとして知られる「カインドウェア」は明治27年創業、2014年で120周年となった。

「創業者は秋田藩の御典医でしたが東京に出てきて古着商を始めました。古着といっても着古した中古品ではなく既製服のなかった当時は、上流階級が着用した衣料品が民間に払い下げられていました。これからは洋服の時代と考え、その先駆けをなしたのです」

こう語るのは創業家4代目の渡邊喜雄会長だ。

「3代目は戦後、これからは庶民も礼節を重んじる必要があると略礼服を世界に先駆けて開発しました」(渡邊会長)

結婚式にも葬式にもネクタイを替えるだけで来ていける紳士用のダブルの略礼服は一世を風靡する。

 

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「ベビーブーム世代の結婚ラッシュ、その時必要なものとしてフォーマルウェアが大ヒットしたのです。テレビCMにこの世代に大人気だった田中邦衛さんを起用、大きな話題となりました」(渡邊会長)

いまこの世代が中高年となり同社はクルーズ用のタキシードやドレスアップスーツを提案している。

ところで「カインドウェア」には、もう一つの顔がある。

「それは介護用品です。現在は年商の20%くらいですが、5年以内に被服部門の売り上げを上回ることを目標にしています」と渡邊会長。

「創業95周年の時から5年かけて次の100年をどんな会社にするかと、グランドデザインを社内で考えました。いくつかの事業目標が上がりましたが、その中で焦点を絞ったのが『シルバー』でした。当時私自身が親の介護をしていましたが、介護用品に魅力的なものが少ない。早く高齢者になってあんな素敵なものを使ってみたいと思ってくれるような魅力的な介護用品の先駆者になろうと決めました」

 

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中でも主力商品はステッキだ。カラフルな柄物や折りたたみ式など豊富な品ぞろえを誇る。そしてボタン一つで折りたためるステッキも開発中だ。

「高齢者だけでなく、2020年パラリンピックまでに整備される情報インフラを取り込み、IT技術を込めたモバイルメディアステッキの開発を目指します」(渡邊会長)

藩の医者から洋服を先取り、礼服やクルーズ用ウエアを提案、そして介護用品……。

時代に合わせて本業さえ変えていく、その柔軟発想を見習いたい。